7000文字オーバー。しかも一週間もたなかった……。
はあ、駄目だな。
14 爆撃の夜
―――激しく火花が散る。
刃と刃は加速を認識外の速さで高めていく。
下手をすれば目を焼き焦がしかねない程の技の応酬。
不可視と赤と黄色の武器が重なる瞬間に起こる破壊はまさしく渦を巻く竜巻だ。
迸る度にペナントが、アスファルトが、その姿を無惨なモノに変えていく。
英雄同士の戦いとは、もはや人の域にない。
死を受け入れた魔術師でさえ慄く。ならば普通の人間が居合わせれば、それだけで心臓は止まるだろう。
これが聖杯戦争。
たった七組のマスターとサーヴァントの争いが戦争と呼ばれる由縁。
「は――――!」
見た目通りの少女の膂力ではない。
一合の斬り合いでそう断じたランサーは速度を乗せて対抗する。
それほどまでの剛剣がなされ、セイバーの気迫はそれ以上の圧迫感を感じさせていた。
破砕はより激しく、ただの一動作が地面を余波で抉る。
彼女のスキル『魔力放出』はその名の通り魔力を利用するモノだ。
先の閃光に等しい火花は、つまり視覚できる程の膨大な量を剣に乗せている。
「―――はぁっ!」
両者は共に愚直なまでの前進。
突撃の速度は共に神速。
深く鋭い踏み込みに一切の躊躇いはなく、戦士以外は生きる事を許さぬ剣舞の真空を作り出す。
数合と経たず、その一種の聖域と呼べるの趨勢が明らかとなる。
不可視の剣で瀑布を生み出すセイバーがそれを握っていた。
ランサーは攻め手を欠いたまま、しかし、傷はない。傷はないが―――その槍をいつまで持ち続けられるか。
矮躯を活かした掬い上げるような一撃は朱槍によって防がれ、剣と槍は十字を象った。
いまだセイバーとて無傷。戦いの終幕には甚だ遠い。
だが英霊アルトリアの剣戟はまさに熾烈の体現。
「、――――ぐ」
初撃でさえ必殺。
返す刃はそれを上回り、
続く剣は二撃を防いだ槍ごと叩き伏せんと。
「ちっ――――!」
セイバーの剛剣を逃れ、ペナントの側面を駆け上がるランサー。
窮状を脱する為、跳躍し、空中で身を翻す。
そして追撃するセイバーは地面に足をつけたまま。
槍を二本余す事なく構え、盾となったそれに、セイバーの不可視の剣が一閃。
ランサーは足場がなく、十分な膂力を発揮できずに、セイバーの剣速そのままに跳ね飛ばされた。
だがそれはランサーの後退のための策。
目論見通り突進の距離を稼ぎ、グン、と伸びる麗影は最高速で長槍を突き出す――――!
「――――な、!?」
そして、銀に煌めく弾丸が爆ぜた。
回避するではなく、逆に踏み込んだセイバーは、迫る長槍を雷光の如き魔力を全身より迸しらせ、叩き落とす……!
ランサーが弾き飛ばされる。今度こそ本当に衝撃が貫いた。
軌道を完全に読まれたことを驚愕し、アスファルトの地面を滑り抉ぐって槍を突き立て圧し留まる。
―――セイバーにとってはディルムッド・オディナと戦うのは三度目。
それゆえ、卦体なランサーの業を―――双槍を防ぎ、一枚上をいくのは道理であった。
更に常ならば戦場を俯瞰し、己を上回る相手にさえ思考を廻してみせる鉄の心も、烈火怒涛の攻めと間合いの読めない不可視の得物によって防戦に徹するのみ。
パラメーターがダウンしている衛宮士郎のサーヴァント、セイバーの必勝の策は此処に為されている。
……だが異常であった。あまりにも一方が有利でありすぎる。
「く…………!」
再び鍔迫り合いとなる。上段より奮われた硬き剣撃。
緩急なき鋭さが宿るソレは並の者が行えば途端に隙を生み出し、逆に討ち取られるのが関の山である。
だがもし、そんな剣戟を止むことなく続けられたのなら。
故にこれはまさしく必殺。
常識外れの英雄同士の戦いにおいても、彼女の剣戟は更にそれらを逸していた。
ついに耐えかねたのかランサーの体は沈み―――
「!」
何十合と爆撃まがいの攻撃を続けた不可視の剣が虚空を切った。
セイバーの斜め後方に、その疾風さえ置き去りにする俊足でランサーは逃れたのだ。
無理な体勢からの移動の反動によりランサーは次の行動に移れぬ。だがセイバーは剣を下段に構えなおし、静かに息を吐いた。
これで剣の冴えはあとまた数十合と変わることはない。
間合いは十メートルに離されている。二歩の踏み込みが必要な距離だ。
「―――どうしたランサー、その戦意の無さは」
ぽつりと漏らす。
ここまで一方の攻撃が続くのはおかしい。反撃は少なく、その僅かな反撃を悉く防げた。
そして、ランサーには最低限命を繋ぐコトだけを主眼に置いている節があった。
ならば―――
「いずれ、必ずその首を獲る。それが一秒先であった時、――――貴方には絶対に後悔しか残されていないッ!」
魔力放出は限界以上に。
Aランクの筋力をもつ相手であろうと劣りはしない剣撃を叩き付ける。
「っつ、……流石は、最優のサーヴァントと言ったところか。
だがな、こちらとて――――」
「まだ言うのか、ランサー……!」
苛烈なる剣撃はセイバーの内心を表していた。
衛宮士郎の剣たらんとする彼女の、ランサーに向けた憤り。
「なにがあったかは知りません。
だがその迷いは、その矛先の曇りは貴方が守ると決めた主に対する侮辱ではないのか!」
騎士とは譲れぬ何かを守る者の名称。
自身がそうであると胸を張れるのは決して妥協しない者だけだ。
「―――――――」
ランサーに覇気が戻れば自分の優位が脆くなるかもしれない。それでもその煩悶は許せない。
騎士道を必要とあれば捨てて、主を守ると決めたセイバー。
だがその在り方は正しく騎士だ。故に憤りは止められなかった。
過去に戦ったランサーは高潔な騎士だったから。
セイバーの譲れぬ一線は、ランサーの譲れぬ一線と重なっていた筈なのだから。
「この程度なのか、ランサー!」
銀の甲冑が黄槍を弾く。
引き戻せない。あまりにも遅すぎる。
懐に入られ、朱槍もまた防ぐには遠すぎた。
ランサーの喉元へとセイバーの剣が奔る。
「うッッッ!!」
――――鮮血が不可視であった剣を染めた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
時間は遡りセイバーとランサーが戦いを始めてすぐのこと。
黒い魔力の波濤を感じた。
剣戟に向けていた視線をそちらに向ける。
「バーサーカー……」
のどを通過した声は微か。
闇の中で黒を纏う騎士を見た。
その正体はアーサー王を超える剣の才を持つとされた―――。
「ふん、またも我に牙を向けるか狂犬」
ギルガメッシュの背後の空間が歪む。
その数と圧力は夥しく、肌が粟立った。
……と、そこで。唸りとも、感嘆ともとれる声を、ライダーは上げた後に。
「うむ、あれを臣下に加えた時は、軍資金とするも良し」
「「は?」」
ウェイバーとそろって疑問の声を上げた。
「なんでだよ、どう見たってそのまま使った方が世界征服は簡単じゃないのか?」
俺もまったくもって同感だ。
グングニルとかデュランダルを悪用するヤツがいたらどうするんだ。
「いや、だって、戦闘機とか乗ってみたいじゃろ?」
「そんな事の為に手下に誘うンかい!?」
呆れて俺はものを言えなかった。
しっかりとツッコミを入れていたウェイバーをスゴイと思う。
―――その間にも戦闘は始まっていた。
信じられないわけではない。
だが、我が目を疑いそうになってしまう。
全身を覆う鎧から立ち上る靄。
その漆黒は奪った武器にさえ及び、振るわれる。
それに解析は効かず、魔剣の神秘を異様で感じさせた。
バーサーカーはギルガメッシュの放つ無双の矢をその同胞で防いでいた。
俺がその脅威を何度も見て、幾度と理解した破滅を――――確かに防いでいたのだ。
「まったく学習せんヤツよのう、あの金ぴかは」
狂戦士は三つの丘を一度に落とした剣を正眼に構え、
迫る斧を払い、落ちる凶星を掴み、二刀流となり、折れるとまた宝具を簒奪した。
何度も、何度も。
斬り、砕き、かわし、そして繰り返される破壊。
それはもはや神話の再現であり、神なる裁きでもあった。
「でもきっと、このままじゃバーサーカーは負ける。
決着が付くまで、マスターからの魔力供給が持つ筈がないからな」
「――――え?」
「ん? なんだ知らないのか衛宮?」
「ああ。実は俺、偶然聖杯戦争に巻き込まれたんだ」
「―――へ、なんだそりゃ?
まあ……いいか。バーサーカーはマスターに助言したりする為の能力と引き換えにパラメーターをワンランク上げているんだ。それもマスターから大量の魔力を奪って。
しかも理性がないから言う事を聞けるはずもない。抑え付ける為にそんな事にも魔力を使う。……自分が現界するために召喚者を殺さないようにする程度の思考能力はあるみたいだけど」
「だから長時間の戦闘はマスターが自滅するって事か」
実感がわかない。
第五次のバーサーカーは大英雄ヘラクレスだった。
使役するには俺では及びも付かないほど魔力が要るだろう。
それを十歳くらいのイリヤが無邪気に笑いながら、……凄いなんて物じゃない。
「しかもアイツ、自分の物でもない、いろんな武器を使ってる。
きっと、なにか狂化をしながらでも理性を保つスキルでも持ってるんだろうな」
デタラメだ、と話を結論付ける。
俺の中でギルガメッシュとヘラクレスの次にランク付けされる。
「不思議よのう。あれだけの宝具に対抗できる英霊が全身を隠しているんだから」
ライダーは時々確信を突く。
そんな感慨を抱いて、もう一つの戦場に目を向けようとして。
「しかしそれよりも、あれだけの宝具を湯水の如く使いつぶす男セイバーの豪胆さは流石の余も脱帽よ。
何なのだ、あ奴の真名。あ~もう、まったく分からん」
こっちではまだ気づいていないのか……ならば話そう。
隠す必要はない。それでセイバーが負担が減るかもしれないから。
「―――ライダー、あれは宝具じゃない。その原型だ」
「む。何故分かるのだ、女セイバーのマスターよ?」
「一人、心当たりのある英霊がいるんだ」
「……ほほう。良かったら教えてくれんか? それと出来たら根拠も言ってくれると、ありがたいんだが」
ライダーの目が好奇心で輝く。ウェイバーも耳をそば立てた。
ウェイバーはマスターとして当然として、ライダーの反応は……まぁいいけど。
「じゃあ言うぞ。アイツはセイバーのクラスのくせに武器を持ちすぎる。その守備範囲も広すぎる。
基本として聖杯戦争は宝具の真名なんかで英霊の正体を探るけど、アイツの場合、宝具の多さが正体につながる。――――それで思ったんだ。あれだけ持てるって事はそれだけ霊格が高い。だから神代の英雄。しかもその中でも、かなり古いんじゃないかって」
「なるほど。大昔の英霊には神の血が流れてたり事が多い。
でも、それだけじゃ説明が付かない。なんであんなに宝具を持ってるんだ? ペルセウスとかより遥かに多いぞ、アレ」
「なら、宝具すべてが奴の物としてこっちに持って来られたのではないとしたら?
あらゆる財宝を集めた英雄の王。故にその宝物庫へと続く扉か、もしくは鍵が奴自身の宝具なんだ。
そしてセイバーとして選ばれたのは神でもどうしようもない、巨人の足を切り裂いた剣を持つからで……」
自分にしてはおかしいくらいにソレっぽい事ををスラスラと言う。
やっぱり落とし穴が結構あるだろうが上出来だろう。
何か閃きに近いものを感じてくれたのか、ポンと手をライダーは打つ。
「―――おぉ、なるほど!バビロニアの英雄王か、アイツ! そりゃあ確かにアレだけ宝具を持ってても不思議でないわ。しかもそれだとオリジナルであるから、大抵の宝具よか強い。
うむ。このイスカンダルより態度がデカイのも納得できるわい」
そう言う征服王の声は弾んでいた。
まるでとびきり面白いモノでも見つけたかのように。
いま目の前にその刃が向けられていないからというのは考えにくい。
勝ち進むのなら、いつかはぶつかる事くらい、ライダーは充分理解しているだろう。
虚勢にはまったく見えない。本当にこの男は――――
「ムフフ、滾る! 聖杯を競う相手が英雄殺しとあってはな!」
そう、英雄殺し。
ほぼ全ての宝具の原典を所有するが故に全ての弱点を突ける。
ならば――――俺の投影も同じ事が出来るんじゃないだろうか。
「な―――それが分かってて、楽しんでんのかよ、オマエ……!」
どこかイラついた声で問うウェイバー。
ライダーはそれに対し「当たり前よ」と答えた後、
「余は戦場の華は愛でるし、勝利の後の酒が好きだからな。
恐れて立ち止まれば、いつまでたっても余の許に訪れてはくれんよ」
そんな本当に当たり前で、為し難い事を口にした。
「――――――」
「………………」
そして不思議な感覚を覚える。
ライダーの不遜さからどちらかといえば、セイバーよりもギルガメッシュよりだと考えていた。
だがその認識は覆った。
届きそうにないユメを目指し、何処までも茨が付き纏う道を進んで歩く在り方は英雄王にはない。
しかし、解らない。この感覚は何なのか。
それでも一つだけ言えるコトは衛宮士郎はその強欲さが羨ましかった。
interlude in
冬木市の郊外。……といっても教会の反対側に位置する住宅街から歩き出し、男が廃墟の敷地に踏み込む。
男は聖杯戦争の参加者でマスター。
だが今は剣であり、盾であるサーヴァントを連れていない。
堂々と。はっきり言ってありえない、ありえてはいけない程の暴挙を行っている。
「……どうだ、アイリの様子は?」
無線機で話す内容は知らぬ人からすれば大切な人を労わる物に思えるだろう。
しかし今の彼は魔術師殺しの衛宮切嗣だった。
感情は彼の足枷にならず、冷酷さが居場所であり寄る辺の。
―――体の芯はきっと完全に凍りついている。
アインツベルンの9年間で変わった心。
以前のように非情な行いを躊躇わぬ心。
共存など不可能だから。
そして消えた人としての正しさ。
残ったのは奇蹟を叶えるだけの正常に稼動する機械。
妻の安否を聞いたのではなかった。
確認しただけである。聖杯は、奇蹟は未だ実現可能なのか、と。
『無事です。ランサーは八番目のサーヴァントと交戦中。
戦場に出ているマスターはマダムを抜いて二人。ですがどちらもライダーに守られています』
「どういうことだ。同盟を組んだのか?」
『……いえ。ただの気まぐれかと』
もしライダーと八番目が共闘しランサーを討ちに来られたらその時はランサーの武勇を頼る他はない。
まだ、ここで斃れてもらっては困る。
アイリスフィールは―――聖杯だ。
無機物であるはずの聖杯の器に被された外装が彼女。
前回の聖杯戦争で失敗したアハト翁が必勝の策として用意した物の一つ。
彼女はいわば不完全だ。
ホムンクルスでありながら娘を産む為に用意された試作。
最強のマスターを作り上げ、聖杯の顕現を完璧とする未来を産む母親。
娘のイリヤスフィールは四体まで斃れたサーヴァントの魂を収容出来るように設計された。
対してアイリスフィールが、試作であるならそれは劣るのは当然で、聖剣の鞘の加護を受けても人間としての機能を持ち続けられるとしたら三体まで。
……彼女は壊れていく。参加者の、夫の手によって。
ランサーを生かしているのは、アイリスフィールの傍に危険と隣りあわせで守護させているのは、その人間の機能を奪うのを躊躇ったわけではなく、少しでも長い時間を自分で動ける方が切嗣にとって好都合だから。
サーヴァント・ランサーが忠義者で助かっていた。
彼ら聖杯によって招かれし英霊は自身も叶えたい願いがあるからこそ、劣る人間に、マスターに従っている。
だが主に誓いを立てた彼は現在、人質となったケイネスとその許嫁をちらつかせるだけで言う事を聞く。しかも二人ともを守ろうとしているのだから切嗣からすれば笑いを禁じえない。
令呪は一つ消費し、アインツベルンより預かった霊媒治療に適したホムンクルスで舞弥に移された。
魔力供給は未だソラウ・ヌァザレ・ソフィアリが担っている。
……つくづく切嗣にとって都合が良かった。
久宇舞弥との通信を終え、次に懐より出した物もまた無線機であった。
その電源を入れて話す相手は彼のサーヴァント、アーチャー。
念話では海千山千の魔術師相手だと盗聴の恐れがあった。
「どうだ、そちらは?」
『ああ、視界は良好だ切嗣』
明確でない質問に答えが返された。
ひゅう、と無線機越しに風の音が聞こえる。指示通り高い位置にいるからだろう。
其処からならばランサーの戦いが見える。
鷹の目というクラススキルを持つアーチャーならば趨勢を精確に読み取れる。
「どうだ、弓の調子は?」
「そちらもまったく問題ない」
簡潔な受け答え。切嗣とアーチャーは文字通りマスターとサーヴァントであった。
――コツ、コツ――コツ
風に混じって、規則正しく何か、音が鳴る。
その無線越しに聞こえているのは予め取り決めていた合図。
すなわち――――
『凍結解除、全投影連続層写』
ソラより墜ちる流星のごとき剣の群れ。
音を裂いて第一群が切嗣の周囲を隙間なく囲む。
その僅か十メートル離れた場所に更に囲うように第二群が突き刺さる。
「ガ、ぐ…………!?」
一本が影を地面に磔にしていた。
切嗣の同業者、暗殺者のクラスを与えられたハサン・サッバーハである。
その消滅が終わるよりも先に―――
ガォン!
轟音と共に外の剣群が爆発した。
切嗣にそれは見えない。爆音が聞こえ、彼を守った剣の檻が震えた。
見えるのは剣に守られないソラだけ、ではない。
レイラインを通じた視覚共有の魔術をアーチャーと為して、その視点より俯瞰する。
放った剣の周囲を視る。白い仮面に黒衣をはためかせる影が複数いた。
数体のアサシンに向け致命を狙った矢を放つ。
それが果たされずともまた爆発させる事で黒いサーヴァントを減らしていく。
「―――――貴様ぁあああ!!!!!」
一体が走り出し、それに1拍遅れて他の影も追随した。
剣に守られている切嗣をアサシンは狙う。
自分を、宝具で分かたれた自分であっても殺した相手に復讐の念を抱いたから。
そして、この状況で生き残るには逆にこちらが殺すしかないのだから……!!
「ヅァ――――!」
ソラに舞った暗殺者達は打ち抜かれながら、墜とされながらも唯一の盾の隙を突かんと猛然と進む。
その雄雄しさ、その猛々しさはそのクラスにはあまりにも相応しくなく――――跳躍。
そして暗殺者の短剣が放たれた瞬間。
「Time alter(固有時制御)―――double accel(二倍速)!」
コートを翻し駆ける切嗣。
その直前、溶けるように消えた剣の盾。
まさかサーヴァント相手に自分から身を晒すなどと、いったい誰が考え付こうか。
固有時制御―――大雑把に言ってしまえば時間の加速と遅延を可能とする魔術。
体内の時間調整、今回は二倍の加速として用いた切嗣が疾走する。
体を捻じり、手を伸ばすが届かない。空中に浮遊したまま、
「――――ギ、」
殺す前に殺される。
隙を晒した暗殺者の頭が白い仮面ごと抉り抜かれる。
小さな断末魔を最後に、おそらくは近辺全てのアサシンが駆逐された。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
数分後アーチャーが降り立った。
その顔もまた切嗣と同じく達成感など微塵もない。作戦が成功した歓喜も無い。
分身能力のあるアサシン。完全に倒しきっていないのだから、それも当然なのかもしれないが。
ただ仕事を終え、淡々とした様子である。
今回の仕事―――アサシンの排除はこの日起きた闘争の原因、または引き金を担っていると言って良かった。
背後の心配を、自分とアイリスフィールのそれを減らすためにアサシンを標的にした。
だからランサーに餌に他の参加者を一ヶ所に集めさせたのだ。
彼等、とくに征服王にアサシン討伐を邪魔されては堪ったものではない。
自分とアーチャーの能力を把握させない為。
ついでに八番目のサーヴァントの情報を舞弥に集めさせる為でもある。
それには出来る限りランサーに戦いを長引かせる必要があった。
理解しても防ぐ事のできぬような強力な宝具を持たないので心配は特にしていないが。
「バーサーカーがまたセイバーに仕掛けたようだが、どうにも進展がない」
「……それなりに執着があるようだから令呪を使ってでも勝利を得ようとするだろうな」
だが令呪とて万能ではない。
行動の強化を行おうと、あの英雄王を倒すつもりならば、おそらくは自身の魔力さえ枯渇させる程でなければ不可能だ。
正気が確かならば、あるいは撤退を選択するだろう。
どちらにせよ、魔力の消費は激しいのだから疲弊しているはずだ。
「つまり漁夫の利を他の参加者が狙わないのならば……」
「ああ、僕の手でバーサーカー組を今夜」
―――潰す。
切嗣は断言した。
また、アイリスフィールが壊れていくというのに。
interlude out
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