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短いけど士郎パートを入れたら中途半端な長さになってしまうからしかたない。
09 幕間 認識
 
 
 
   interlude in


 その日、衛宮切嗣はなにか他の陣営に対して行動をするコトはしない。
 他にやるべき事がある。

 今、彼が居るのは隠れ家の一つ。
 新都駅前の安ホテルは、アインツベルンより与えられた本城とは比べれもしない支城よりも安全を保障していた。

「……いったい、何が」

 切嗣は思考に没入していた。
 片手に持った食事は作業の邪魔にならぬハンバーガーだが二口ほどしか食べられていない。持ったまま十数分が経っている。

 彼が見ているのは集められるだけの情報を書き込んだ冬木市全域の地図。
 現在の冬木の状況――聖杯戦争によって協会と教会が神秘の漏えいを防ぐために、地方都市であるにもかかわらずやたらと人員の多くなった警察などの情報まで記録された図表である。
 また、霊脈の変動のような裏の……魔術師らしいことも書き込んである。

 その一角、警察無線から傍受した失踪事件の顛末を()っと、まるで千里眼で何かを見透かす作業のように他の一切を歯牙にもかけず見ている。

「なぜ、キャスターのマスターを殺さなかったのか……?」

 最近、連続して児童が行方不明になり、その家に住む成人した男性と女性が無残な死をさらす事件が多発していた。
 
 数日前からその数は増し、そしてそれは英霊が召喚された日とおおよそ被る。
 その前は犯行現場で子供の死体が見つかってた。その変化からなんらかの魔術儀式の生贄にされているのではないかと考えた。
 そして犯人は一切の痕跡を残さず、引き起こした多くの事件のうち五件の犯行には召喚陣とおぼしき物が発見されていた。
 
 犯人――雨生龍之介がアーチャーとランサーが戦っていた最中に警察に連行された。
 キャスターが近い時間に脱落した事からそのマスターである可能性が高い。
 切嗣が問題としているのはそれを”誰が為したか”だ。


 アーチャーとランサーの戦いに順番にライダー、セイバー、バーサーカーが現れた。
 サーヴァントを打倒できるのは基本、同じサーヴァントだけだ。英霊を倒せる人間は世界で指の数もいない。
 ゆえに残ったクラス、アサシンがキャスターを消滅させた事になる。

 アサシンは聖杯戦争開幕前にセイバーに倒されたが、不自然な点が存在した。
 暗殺者への対応が早すぎた。
 アイリはアサシンは脱落していないと言った。

 アサシンのマスターは言峰綺礼。
 彼は教会の代行者でありながら三年前に遠坂時臣を魔術の師としている。
 父、言峰璃正は遠坂時臣の父親と親友の間柄でその伝手だろう。弟子となったのは聖杯戦争で協力するためだと見当をつけている。

 サーヴァントを失ったマスターは冬木教会に保護を受ける権利がある。
 教会は失った時以外には基本、不可侵でなければいけない。 

 言峰綺礼、いや遠坂陣営はサーヴァントを有しながら安全地帯というアドバンテージを得た事になる。

 そしてだからこそ不可解なのだ。

 アドバンテージを得ておきながらなぜ狂言の真実がばれる危険をこんな序盤で冒す?
 誰にも警戒されず、アサシンの気配遮断のスキルで情報収集をしたいならもっと後にするべきだ。
 なによりも……言峰綺礼はマスターを見逃す甘い男ではないという確信じみたものがある。


 そしてもう一つの懸念。


「アーサー王の鞘が機能している。
 アハト翁が発見させた時にはない、持ち主に治癒の効果をもたらしている事を考えれば宝具として機能させることのできる所有者が現界しているはずだ――――」
 
 騎士王を召喚できなかった時点で、聖剣の鞘は何の価値もない代物に成り下がる筈だった。
 それでも、なんらかの効果を期待して聖杯戦争に持ち寄るはずだった、切嗣が。
 道具の情報を実際に試すのが衛宮切嗣の常道だ。しかし、アーチャーの召喚直後に行った確認では全くの力の発揮しない。
 
 それが昨日、偶然だがその効果を身を以って体験した。
 二度、三度試した。
 事此処にいたって、宝具として機能しだしたとなると、聖杯戦争絡みで召喚されたと考えるのが普通だ。

 アーサー・ペンドラゴンが該当しうるクラスはセイバー、ランサー、ライダー……。
 ライダーがアレクサンダー、ランサーがディルムッドという真名が判明しているので本人も王と自称した黄金のサーヴァントがアーサー王ということにそのままなるだろう。
 英霊の重複を聖杯が嫌ったのなら自分のもとに未来の英霊なる者が現れたのにも納得がいく。

 だが、アーチャーはセイバーの正体を最古の英霊、ギルガメッシュだと言った。
 嘘を吐いているのではないかと疑ったが、そのメリットが思いつかない。
 
 他の可能性は? 
 かつて存在し、未来に復活する王。そんな伝承がアーサー王にある。サーヴァントシステムと関係なしに召喚された可能性。
 だが切嗣は莫迦な――とこの考えを捨てる。カムランの丘で致命傷を負った王はアヴァロンで眠り、それを癒しブリテンの危機に眠りから覚めるという伝承は英霊の座に送られ、抑止の使者としてイギリスの破滅を阻むという事で納得がいくが本当に人間として復活するなどありえない。
 
 世界に五つしかない魔法を使わねば不可能だ。マーリンが死者蘇生を行う事のできる魔法使いというなら覆るが、さすがに強引過ぎる。

 いや、鞘の銘もまた全て遠い理想郷(アヴァロン)
 不死をもたらしさえする効果が本物なら王が眠る地もまた強力な治癒の力を持つのかもしれない。
 
 だが、やはり信じがたい。
 しかし頑なになっても事態は好転することはない。
  

 まるで視えない刃物、ガラスの剣を突きつけられているような悪寒。
 はたして警戒すべきは言峰綺礼だけなのか? 
 侮ることはできるわけがない。


”マスターの祈りは届かなかった。世界はこの時代とほとんど変わらない”

 かならず聖杯によって理想を叶える。
 自分の正義を正しいものとする。
 その為ならあらゆる非道も今の衛宮切嗣には不可能ではない。


 アーチャーの存在は衛宮切嗣の心を、鋼へと。





「聖杯に一つ、令呪が還ったようです」
『ふむ……あの場にいなかったサーヴァント、つまりキャスターが落ちたのか』

 言峰綺礼は保護された教会の地下で蓄音機に良く似た通信機に向かって報告していた。
 相手は遠坂時臣。
 冬木市を管理するセカンドオーナーであり、魔術の師であり、ギルガメッシュのマスターである。

『まさか、綺礼。君がやった……なんて言うまいな?』

「滅相もない。しかし、何者が行ったのかはまったく見当もついておりません」
 
 奇しくも言峰綺礼は衛宮切嗣と同様の疑念を抱いていた。

 冬木でおこなわれた五件の事件現場に残された召喚陣から連続殺人犯がマスターである可能性は高いと判断していたがゆえに警察にもアサシンを配置していた。
 
 そして、
 キャスターのマスターが公衆電話からの通報を受けて逮捕されたことを知った。
 通報を受けた警察は子供の惨殺死体と共に雨生龍之介(はんにん)を発見する。

 発見されたのは未遠川より通じる用水路。
 一般人が立ち入らないそんな場所に犯人は縄で拘束されていた。
 通報者はおらず、疑念を抱きながらも冬木の殺人事件は解決される―――はずだった。

 キャスター討伐を為した者の痕跡を調べるために警察官には暗示をかけ、アサシンに探索させた。
 アサシンの宝具『妄想幻像(サバーニーヤ)』は個の細分化による最大80体にもおよぶ分身を作り出す力がある。
 たとえ敵と出くわそうとも暗闇の中であることが味方をしてくれるので一つ、大手をふるつもりで行われたのだが。

 魔力の残滓は発見できた。
 その他にかなりの質量をもつ剣による切り口のようなものも発見できた。
 サーヴァントによってもたらされたような痕跡しか発見できなかった。
 自然干渉の類の魔術が使用された跡はなく、ゆえに不可解。

『聖杯がまさか八体目のサーヴァントを召喚させたとも思わないが……』

 聖杯が用意できる容器(クラス)は七体が限界だ。
 それ以上を用意するだけの魔力はない。
 定期どおりに聖杯戦争が起きたのだからもう一体分の魔力などないはずだ。

『だが現実としてマスターは生き残り、サーヴァントだけが倒された事を考えるとサーヴァントに匹敵するナニカがいる。
 綺礼、これからは八組目の存在を考慮して行動してくれ』

 報告は終わり、予想外の存在に対策らしきものさえ用意できない。

 しばらくは後手に回るしかないな。
 そう考えながら自室の扉を開けた。
 
 するとやはり、

「さて、綺礼。一つ、耳寄りな情報を教えてやらんでもない」

 言峰綺礼を暴く(みちびく)運命が用意されていた。

 





 強い風が吹く。
 季節は冬。今のは誰だって身震いしてもおかしくはなかった。

 これがもし。
 雨の降る季節であったならば。

 これから先。
 あの雨が降らないとしたら―――




「……いまさら何をしようというのか―――”(オレ)”は」


 為すべきことは定まっている。
 手にとれる数の最高値は決まっているのだから、たかが一人を気に留めるよりもより大勢を救う布石を打つことこそ最善。
 不確定要素に賭ける必要なんてない。

 だが存外に心を覆う鉄にひびが入った事を認めるしかなかった。
 
 機械は正しく機能されなければいけない。 
 前に足を進めなければいけない。


 たとえ踏みにじってきた希望に頭を下げることは許されても。
   幸福への未練を断ち切った自分にとって、もう暖かい光は―――――


 
「おまえを救うことがオレには出来なかった」

 それはその男の三番目の呪文(じこあんじ)
 甘さはこれを最後に捨てられ、
 此処に担い手の存在しない機械(つるぎ)と成す。  


 とっくに別れを告げたはずの感情が戻ってきた。
 だがもう男にはそれを怒ればいいのか、それとも感謝をすればいいのかなんて判らない。



  interlude out

次回、衛宮士郎は目撃するのであろうか。

作者は少しというか、だいぶ投稿した後からでも文章変えたり、加筆したりしてるけど大丈夫なんだろうか?


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