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08 マテリアル Ⅰ
……朱の点が弾かれた。サーヴァントの槍、だ。
男にとって予想外だった事態。まさかとは思っていたが、ありえないと切り捨てていた可能性が現実となったのだ。
返す刃で驚愕が醒めない内に土蔵から弾き飛ばす。
―――呆然と少年は見る。
殺される筈だった窮地に現れた少女は見下ろす―――
まさしく、火花のような出会いだった。
強い風に青い衣がなびいた。
その瞬間、
その光景が彼女にとっても鮮明なのは計り知れない想いと決意を抱いていたから。
―――問おう。貴方が、私のマスターか。
月の光を背に、誓いの言葉を口にした。
それが何を決意させたのか。
見上げる者のまなざしは眩しいモノを見るようだった。
……これが彼女にとって二度目となる、
七組のマスターとサーヴァントが命を天秤にのせて戦う魔術儀式、聖杯戦争の始まりだった。
召喚の直後に戦ったのはランサー。
その正体は因果を歪める魔槍を携える光の御子。
体が重かった。
だが負けるわけには行かない。
祖国を救うアルトリアはこんな初めで斃される事を良しとしてはいけないのだから。
「……じゃあな。その心臓、貰い受ける――――!」
ありえない軌道。
避けることは不可能。
放たれる前に防ぐしか命を繋ぐ方法はない。
それを―――回避した。
一閃。
相手サーヴァントは挙動が遅い。
塀を飛び降り振るった一撃は赤い騎士の白と黒の双刀の守りを崩し、その首を刎ねんと奔る。
「―――アーチャー、消えて……!」
令呪による空間転移が起きた。
アーチャーのマスターはそれによって盾を失うがこれは生存競争だ。だから情けなんてかけない。そして聖杯に近づくために迅速に敵を討つのは定石であった。
遠坂は諦めず宝石を触媒としたAランクの魔術が放つ。
並みのサーヴァントであれば傷を負うのは当然というソレを対魔力で無効化し、そうして剣を突きつけ―――
衛宮士郎によって止められた。
――――そう、これはたった二週間程度の夢。
セイバーの記憶だ。
「―――シロウ、下がって……!」
霊体化できないために鎧の上から着ていたレインコートを外し、2メートルを越す鉛色の巨人から、主を守る盾となる。
セイバーの体よりでかい剣をバーサーカーは振り回す。
それでいてなお、セイバーよりも速い。出鱈目そのものだ。
この戦いで三戦目にしてランサーの因果を歪める槍による傷がある。
そのまま戦えば敗れると判っていながら彼女は踏みとどまる。
「■■■■■■――――!!!」
その姿に異形が吼えた。
体が吹き飛ばされる。剣を支えに立ち上がり、そして爆撃じみたバーサーカーの一撃が再度、振り下ろされる。
意識が途切れつつ、それでも剣を握り続ける。
―――まだ終わらない。
「こ――――のぉおお…………!」
赤い。
近くで鮮血が舞う。
体を真っ二つにした衛宮士郎がいた。
柳洞寺に至る階段。門を背に立つ……異様に長い刀を持つ侍。
セイバーの剛の剣を――――柔の剣で受け流す。
並みの英霊の芸当じゃない。
アサシンのクラスを被ったこのイレギュラーはさらに『風王結界』で不可視になったエクスカリバーを見切った。
「秘剣――――――」
信じられない。
長刀がセイバーの剣を上回る速度で振るわれる必殺……。
「――――――燕返し」
まごうことなき、神域の業。
並行世界から呼び寄せた同一の剣。
一本しか持ち得ない筈の侍が放つ、同時間軸場に存在させた二刀。
かろうじて避けた。
これはゲイボルクと同じ。出させてはいけない宝具。
ならば、
セイバーは秘剣で以って打ち倒すのみ――――
「――――来てくれ」
声が聞こえる。それはまさに祈るようで、
「いや―――来い、セイバァァァアアア!!!!」
そして此処にいないマスターの号令がかかる。
令呪によって空間を跳び、赤く異界に染まった学校に現れる。
「説明している暇は無い。状況は判るなセイバー」
「待ってくださいシロウ。
それは判りますが、その前に貴方の体を―――」
「ライダーを頼む。アイツは、おまえでしか倒せない」
「いけません、シロウの治療が先です。このままでは貴方が死ぬ」
「―――それは違う。先にやるべき事があるだろう」
記憶はしだいに密度を増していく。
黒い装束に身を包んだライダーは蜘蛛のように、廊下の天井さえ足場にしてセイバーと剣戟をする。
トリッキーな動きだがセイバーの直感を超える事は出来ない。
慎二の命令でブラットフォートを止めるライダー。
そして結界維持に使っていた魔力を開放し、自身の短剣によって裂かれた首から噴き出す血で魔法陣を空中に描く。禍々しいそれはやおら眼を開き、轟音と閃光を撒き散らす光の矢の砲台となって離脱するために使われた。
意識がゆっくりと浮上していく。
まだ、もう少しかかる。だがそんなの待っていられない。何でもいい今すぐ起きなければ。
そうは思うが――
ビルの壁を蹴る反動だけで翔っていく。ライダーと空中でぶつかり合いながら高みを目指す。
……その先、屋上で待つ展開を知るからこそ、目を離せない。
セイバーはライダーにとっての切り札があると気づきながら引き返すことをしない。
ライダーの必殺の手段―――幻想種の頂点たる竜種にその力を近づかせつつある天馬。
風王結界で壁を作り、その突進を防ぐ。反撃の機会、ライダーがその手綱を誤る時を待つ。
―――だが、そこに衛宮士郎が来てしまった。
「――――騎英の手綱!!!」
ビルを倒壊させ、騎兵のマスターさえも巻き込みかねない稲妻が落ちてくる。勿論そんなものを食らって衛宮士郎は生き残ることはできない。
故にソレを防ぐには稲妻さえ斬り伏せる月の光を放つしかない。
「――――約束された」
掲げられた剣。黄金の輝きこそは星の光。
彼女の持つ、最強を謳われた其の聖剣の名は――
「勝利の剣―――――!!!」
振り下ろされた極光。
光の線は一瞬で通り過ぎた。
ライダーをとうに消滅させ、人の目ではとうてい捉えきれない斬撃。
しかしその眩さはただ人を護りたかったから――――
ガバッと体を起こす。そしておもわず、
「はあ…………」
ため息が出た。
理由は本当にシンプルだ。
「セイバーから、いや他の人間から見るとあんな風に映るのか……」
夢の中の俺、数日前の俺はとにかく無茶苦茶だった。
無謀すぎた。自分自身の事ながら、もっと上手くやる方法はないのかと考えてしまうほどに。
有り体に言えば恥ずかしかったのだ。
自分の無茶さ加減は解っているつもりだったがこれではセイバーの事を偉そうにいえない。
「でも、結局は同じことなんだよな」
セイバーを心配させたくないなら聖杯戦争を一刻も早く終わらせることに変わりはない。……こっちに来てから何度も抱いた煩悶。
……それはそうと。
セイバーに切り伏せられる前に一瞬だけ見えたアーチャーの剣。
あれがアイツの宝具なのだろうか。
ほとんど読み取れなかったが、その銘は干将・莫耶だということは分かった。
遠坂はセイバーに縁のある英霊だったから記憶喪失のふりをして自分が誰かを隠したんじゃないかと言っていたが、アーサー王に中国刀を持つ騎士が仕えたなんてどう考えてもおかしい。
そうだ。
アーチャーはセイバーに縁なんて無い。
第一、そうならあの野郎は守りきれなかったって―――
右袈裟切りが来る――。
「―――ふっ、っつああ!」
竹刀がなんとか絡まり、まだ勢いを失っていない内からさらにセイバーがどこから打ち込んでくるかを予想する。
次は頭を――
「っっで」
はずれた。だがそれでもいつもより長く打ち合えた。
セイバーは手加減をしている。
この分ならそのうち、セイバーから一本――って、何て小さい目標なんだ、もっと上を目指せ衛宮士郎。
休憩時間となる。昼になったのでご飯だ。
いつもならお腹がなってその事に気づく。だがその前にセイバーは、
「シロウ、お腹が空きました」
凛と顔を引き締め、背筋を伸ばし、少し胸を張りながらそう言った。
ほほえましく、つい笑ってしまった。町を巡回していた時もお腹がなるときまって顔を赤くしていたのでなんとかしようと思ったのだろう。
「わ、笑うことはないではないですかっ」
そして俺が笑ってしまったのでまた耳まで真っ赤にしている。
茹でたタコもかくやといった感じだ。……キャスターの海魔を思い出すのでこの表現はないな。
そう、遠坂やアーチャーの服なみに赤い。
「セイバー、どうしたんだ? 俺はただ、危なかった竹刀を上手く捌けたのがうれしかっただけなんだけど?」
「そ、そうですね。シロウはまた腕を上げました」
うまく嘘をつけず棒読みになってしまった。半眼で唇をとがらせて自制をするセイバーは可愛い。が、視線を逸らさなければ。
この話題をこれ以上つつけば何があるか分かったものではないからセイバーも鍛錬の話にもっていく。――かなり助かった。
「カリバーンを投影した時にセイバーの経験も再現してるからなんとなく考えている事が分かったんだ。だから他のサーヴァントに通じるかっていうとそうでもないし、なにより借り物だしな」
「いいえ、シロウ。それでもいつかは貴方のモノとなるでしょう。だからそんな謙遜はいりませんし、現にシロウは戦えているではありませんか」
お師匠様からそんな褒め言葉がもらえてうれしい。
だから思った事が口から漏れてしまった。
「でも、セイバーみたいに動けなし、剣を振り回せるわけでもないからいまいちカリバーンは使いづらいんだよな……」
ギギンッ
あ。
地雷踏んだ。それも特大サイズ。
セイバーの竹刀が視えなくなる。『風王結界』まで持ち出すなんて大人気ないぞセイバー。
竹刀の設計図は今はあるから形も大きさも解っている。だがそこにセイバーの剣技が加わってしまえばどうなるかなんて……。
「と、投影終了!」
竹刀を消す。投影品で良かったと、そう安心して。
「待ちなさい、シロウッ!!」
STOP。走りだした足を急停止。
セイバーが進路に先回りをした。衛宮士郎の身体能力ではやはり逃げる事もままならない。
仕方ない。これだけは使いたくなかったが―――
「セイバー、和風と洋風どっちがいいかな?」
「シロウの作る料理はどれもおいしい。ですからどちらでも」
くっ! 刑を軽くすることはできない。
過去の記憶に想いを馳せているのか、セイバーは目を閉じ、手を胸の前で組んでいる。
―――だが、隙がない。
ご飯抜きだとかそんな考えは論外だ。
可哀想だし、後が怖い。
”だが、待てよ……!”
「セイバー。ここでもし俺が気絶したら―――どうなる?」
「…………っつ!?」
そう、お昼ごはんが作れないのだ。
最近は巡回の為に弁当ばかりだったから今回は普通に料理を作るのである。
「強くなりましたね……シロウ。いや、貴方は最初から強かった」
「……それじゃあ行ってくるよ、セイバー―――って、あれ? なんでさ」
夜の十二時を過ぎた。
今日はキャスターを倒すために無茶をした体を癒すから巡回はしない。
全て遠い理想郷は傷を治すのはすぐなのだが、内側のものである魔術回路はなかなか直してくれない。
セイバーだって令呪をつかって数が増えた海魔を一瞬だけでもすべて倒すために魔力をだいぶ消費した。
どちらの問題も一気に解決する方法はあるにはあるが、恥ずかしすぎる。
そんな事を言っている場合ではないのはわかっているがそう簡単に済ませれる問題でもないし。
「涼しいな……」
眠れないから庭に出て夜風にあたる。
それでも駄目だった。なにか気が紛れる物はないかとあたりを見まわした。
土蔵でも無理なようだ。
……どうしてもあの剣の事が頭から離れない。
創造理念と呼べるほどのモノはない。しいていうなら”作りたいから作った”。
わずかに読み取れた干将莫耶の情報をひたすら頭の中で反芻する。
形に出来るなら我慢できた。昼間はセイバーが一緒にいたから我慢できた。
―――俺はお預けをくらった子供か、と苦笑する。
ああ、そうだ星でも眺めてみようと空を仰ぐ――――
「―――――!」
夜空から光が降ってくる。
躊躇いなく体を折ってそれを避けた。
光の正体はなにか鋭利なものだ。振り返れば地面に刺さった筈のそれを確かめられるが狙われている状況でそんな余裕なんてない。
ヒュッ―――
視線と真正面で交差した銀光は肥大化していく点にしか見えず、僅かに平べったい事しか判らない。
紙一重でかわす。
”急げ――”
魔術回路を起動させる。次弾が来る前の間隙を使って、塀に向かって体をぶつける勢いで近づき盾にする。
方向は解る。一気に塀をよじ登り下手人を探す。
およそ数百メートル。いや、一キロ先。通常なら視えない距離にいるはずの狙撃者が視えた。
赤い外套を纏うソイツは――――
ガバッと体を起こす。そしておもわず。
「まさか、朝昼晩すべておかずを記憶しているだなんて……」
「ふ、ふふふ。見たのですね、シロウ」
ふざけるな、こんなところで俺は―――
それは、本当に、魔法のように現れた~~タイガー道場未定
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