トッキーはどうしよっか…… なんて作者の頭の中の筋書きがだんだん変更され、自分で矛盾を見つけたりして、なんか自分を追い込み勢いで書いてみました。これから徐々にこの話みたいな感じになるかも?(悪い意味で)
05 Trase on
「フン、婚約者をあのホテルに置いたままにしてくれるとは都合が良い」
衛宮切嗣は使い魔に付けたカメラ越しに挑発を掛けた相手を観察していた。
魔術師は魔術こそが至高と謳い、科学に頼る事を嫌悪するものは多い。仕掛けた相手―――ケイネス・エルメロイもその例外ではなく、おかげでこうやって視ているのにいっこうに気づくそぶりを見せない。
切嗣がケイネスを第一の標的に定めたのは幾つかの理由があるが、その最も大きい要因はケイネスではなくランサーにある。
――――破魔の紅薔薇。
切嗣はアーチャーの力の本質、投影魔術、いや固有結界『無限の剣製』の能力をアーチャー自身の口から、アーチャー自身の意思で語られていた。
問題なのは魔力を断つその槍の力はアーチャーの能力とすこぶる相性が悪いコト。もはや天敵といって差し支えない程なのだ。
――――では、なぜ戦う前からその宝具の能力を知っている?
答えはアーチャーが未来のから招かれた英雄であるからではない。
武器であれば一目見ただけで解析、複製を可能とする。ランサーの正体を見抜いたのはその解析の能力によるものだ。
アーチャーの解析は武器の創造理念、基本骨子、構成材質、製造技術、憑依経験、蓄積年月を読み取れる。
――――だが、それでも疑問が残る。相対してもいないのにどうやって解析したのか?
切嗣は時計塔にスパイを送り込んでいる。
敵対する可能性のある魔術師の性格、風評、知られている範囲の魔術の得手不得手を調べ上げた。
だがやはり限界は存在し、何を召喚したのかまでは分からなかった。それでも人間には思いがけない失敗をするという欠点がある。それ故に念の入った調査をした。だが無駄にしかならない書類の束が増えるばかり。
それがアーチャーのおかげで実を結んだ。
ケイネス・エルメロイは魔術師として優秀だ。得てしてそういう人より優れた人間は手を抜く部分と手を入れる部分とを見分ける能力が優れている。
彼は気に留めなかった。知られたところで普通は無駄なのだからと。
だから普通ではない人種の代表格といえる英霊を相手にそれは完全な手落ちといえた。運が悪かったでは済まされない戦争、それも情報が活きる戦いなのに。
――――ただ、それだけの話。
かつん、と二人分の靴音が鳴った。
ケイネス・エルメロイと既に実体化していたサーヴァント・ランサーが目的地に着いた。
冬木市の郊外にある廃工場。所どころに劣化による為か穴が開き、仄かな月光で暗闇が緩和されている。
闘争の地に指定された此処で立ち上る埃の匂いを、忌々しく思いながらもケイネスは予定時間よりも早くにそこで待つ。しかし耐え切れなくなり、簡単な気流操作だけで、視界に映る埃全てを拭い去ったその時―――
カキィンッ!
背後より襲った矢をランサーは携えた槍で弾いた。……しかし、ランサーがいなくてもケイネスには防げた攻撃だった。
ケイネスの足元にある金属の塊、『月霊髄液』。
じつは大量の水銀であるソレが―――魔術師の名門アーチボルト家の御曹司たる彼の最強の礼装だった。
それは液体。形を変え、あらゆる魔術攻撃を防ぎ、弾き、切り裂き、突破する。
並みの魔術師、どころか、一流の魔術師でさえこれほどの礼装を扱う事はそうそう出来ないだろう。魔術師として稀有な二重属性を持つ事など、彼の才能は飛び抜けている。
「ランサー、貴様は堪え性のないアーチャーの相手をしてやれ」
ケイネスは弾かれた矢を一瞥する。工房に向けて放たれた物よりも充填された魔力量が少ない。彼の優れた観察眼を以ってして、なにかしらの特殊な能力が封じ込められた物ではないと断言できる。
底が知れる。これならば―――ランサーとて容易とはいかないまでも、窮地に陥ることは、まず決してないだろう。
「御意。ではケイネス様、後ほど」
ランサーは主に言葉少なく、矢の飛んできた方向に向かって駆ける。
主の実力を信じて疑わなかったからか。それとも自分の言葉は不敬に当たるとでも思ったのか。後にランサーはその事を後悔する事となる。
「さて、挑戦状を送ってきた者がわざわざ、こんな出迎え方をするとは。
決闘ではなく、誅罰となるのだがいいのかね?」
ケイネスは相手の素性は知らなかった。
挑戦状の署名に何も書かれてはいなかったし、調べる時間も無かった。今まで一方的に攻撃を受けてきた身ではあるが恐れはない。相手を打ち破れる自信がある。
「そうだな。さっきのが御気に召さなかったのなら、僕自ら君の前に立とう」
そして姿を見せた手入れの足りない黒髪と無精髭の男。工場の両端、ケイネスの魔術よりも速く、男の黒いコートが翻る――――
interlude out
新都の午後。
深山町での戦闘はセイバー曰く、あまり経験しなかったそうだ。
十年前に来て、大変だった一日目を除いた四日間のほとんどは新都を探索していた。
目的は言うまでもなく、聖杯戦争の痕跡を見つけること。最優先でキャスターを探していた。
「セイバー、街の空気が変わった。もう、聖杯戦争は始まっているな?」
「ええ、星の位置や天候も考えると間違いなく。
私の記憶どおり進むのなら、アイリスフィールと昔の私が日本に着いたのも今日でしょう」
そのやり取りの後、セイバーがアイリスフィールさんをエスコートした時と同じ場所で待ち構えた。
しかし、アイリスフィールさんは来ない。何の収穫もなかった。
ここ数日の成果は路地なんかに潜む海魔を何匹か潰せたことだけ。
キャスターは誘き出せず、だが失踪者は増えるばかり。無力感に苛まれつつも、また街を歩く。
「―――――……シロウ。
もしかしたらセイバーとして私が召喚されていないのかもしれません」
「いや、それはおかしいだろ? 英霊になる事を条件に聖杯を得るのが」
その時、魔力の波濤を二箇所から感じた。
一方は硬い城壁。もう一方はそれを抉る弩弓のよう。
その終結を感じ取った瞬間、数十メートル先のホテルの窓が盛大に割れた。
「セイバー……!」
セイバーは俺よりも正確に魔力の流れを捉え、視線は既にホテルの反対方向に向けていた。
精神と体を戦闘用に切り替える。
こんな街中で聖杯戦争なんてさせてはいけない。被害なんて絶対に出してたまるものか!
「おそらくはあのビルの屋上から放たれたものです。
ですが妙です。気をつけてください。ギルガメッシュに狙撃技能なんて―――」
「おい、そこの雑種。我の名をいきなり呼ぶとは何事だ?」
「おまえは……!」
背後を振り返ると其処に英雄王がいた。
金の髪を下ろしている事など記憶にある姿とは違いがあるが見間違いはない。
しかし拙いなんてものじゃない。
こいつが持つ数多の宝具の原典には自分の気配を人間と同じにする物があったに違いない。
そうでなければセイバーも俺もここまでギルガメッシュの接近を許す筈がなかった…………!
セイバーは構えを取る。
既に俺の回路は設計図を描き始めている。
「我の質問を無視するとはいい度胸だが――」
目の前の男は周囲への被害など考えない。
暴君の中の暴君、唯我独尊の塊であるこの男に期待などしてはいけない。
「ふむ。マスターでもサーヴァントでもない、か。
―――フフン。聖杯は我を興じさせるだけの価値を持っているようだ。
よい、許そう。しかし―――」
俺を感情のない赤い目で見ると、
「その贋作をいい加減収めろ、雑種。
我の気が変わってつい、殺してしまうやも知れんぞ?」
此方の内面を見透かし、殺気を全身からにじませた。
設計図を破棄する。危険だが、ギルガメッシュが自分の言ったコトを覆す事はない。
街中で戦う事は避けたい。こいつの強制めいた殺気に体が硬直する事はないが、それは慣れたからだ。みれば中てられたのか気絶している人間が周りにいた。
用は済んだとばかりに英雄王は踵を返し、ふと足を止めて。
「ああ、ついでだから教えておくのがいいか。
街の中心にある川だが其処に魔術師の工房がある。随分と腐臭がして堪えられん。我の庭たるこの世界に相応しくない雑物がいるのでな、間引いておけ」
体の緊張を解く。本当に戦いにならなくてよかった。
脳裏にまず初めに浮かんだのはアイツのせいで血まみれになった時のセイバー。
もしかしたら再現されたかもしれなかったから。
「迂闊でした。宝具の原典を持っているなら、これくらい予想できても良かったのに」
セイバーは苦々しくそう言った。
あらためてギルガメッシュの出鱈目さを思い知らされた。
次もあり得るかもしれない。
今回のように何事もなく済んだら。そんな楽観を初めから抱かずに行動しなければ。
「ああ。だけど、とりあえずはキャスターの居場所が分かったんだ。あいつにあごで使われているようで気が進まないけど、夜になったら攻め込もう」
深山町と新都を隔てる未遠川。
その周りを一周すると一際大きい排水溝に目星をつけた。
近付いてみると、一瞬だけだがセイバーは顔をしかめたようだが……。
「セイバー、足手纏いになるかもしれないけど、俺も一緒に海魔を相手する。万が一がセイバーにあってもいけないし、切り札もあるから一緒に行かせてくれ」
家に残るという選択肢があった。今の衛宮邸には対侵入者の結界はないが聖杯戦争の参加者には英雄王を除き遭遇していないため安全であるがセイバーは承知しなかった。
だが最初から付いていくつもりだった。
「はあ。貴方が頑固なのは知っていますが、もうカリバーンを投影したのですか」
もう、という所を強調してセイバーは言う。
ため息をつくのは、もしかして癖にさせてしまったのだろうか。
「仕方ないだろ。衛宮士郎に戦いの才能なんて無いんだから、セイバーの力を借りるしかない」
「そういう事ではありません、シロウ。
英霊の宝具を投影する、なんて出鱈目は貴方の身を削る行為です。できればそんな事はしてほしくなかった」
眉間にしわを寄せて、心配の言葉をかけてくれるがそうはいかない。
全てを救う正義の味方以前に好きなヤツが戦うのを早く終わらせたいのだから。
「―――では、怪魔が集まりきる前にキャスターの本陣まで進むために、まず道を拓きますのでそこで一気に距離を詰めます。後ろは私が守ります、マスター。貴方は前だけを気にしていて下さい」
―――踏み込む。
濃密な腐臭と血の匂いが混ざり合ったものが奥から漂ってきた。
その先にあるだろう光景を想像し、顔をしかめながらも進む。
キャスターの魔道書より召喚された怪魔が出てきた。
見ただけで異界の存在だと感じ取れる。この世界の理から外れた魔物だ。
その姿、その蠢きようは海の生物に似ているが根本から決定的に違う。
見据えるセイバーは胸の高さまで剣を上げる。
「”風王鉄槌―――!”」
突き出した剣と共に風の鞘が吹き飛んだ。否、解き放たれた。
その神秘の風は用水路という閉ざされた空間を蹂躙する。異形の群れが蹴散らされる。
抉じ開けられたその道を魔力を集めた足で出来る限り進む。
光の届かぬ用水路においても怖気の走る気配は、皮肉と言っていいほどに此方に位置を知らせる。
光は届かない。だが、背後より光が散らされている。
セイバーは剣を隠さずに進んでいた。……直接斬っているのだ。申し訳なさ過ぎて全力で駆けていく。
「っふ――――、はッ!」
目前に迫った怪魔の触手を切り裂く。
こいつらは再生能力を持っているので進路に立ち塞がらない限り無視をしなければいけない。
幸いなことにキャスターは襲撃されている事に気づいていないのだろう。
数は少なく正面からだけなら俺一人でも乗り切れるような攻勢しか怪魔は見せてこない。
「―――ハァっ!」
5メートルを占領する海魔はさすがにセイバーが出てきてぶった切った。
すぐにこいつも元の形に戻ろうとするので、
「――――投影、開始」
魔力の流れをセイバーは感じ取れるので当たる心配はない。
踏み越えてすぐ、振り返りもせず、巨大な斧剣をその上に投影して落とす。
それは第五次のバーサーカーの武器。
いくら担い手がいないとはいえ、神殿の礎であり、聖剣とすら打ち合えるバケモノ。
斬るためではなく押し潰すように寝かせて、怪魔を黙らせる。
そして、広い空間に到着した。おそらくはここが目的地。魔力を目に集めると魔術師の姿が見えた。……そして同時に横たわる子供も。
奇妙なローブを身に纏う男はエクスカリバーの光さえその目に映さず、ただセイバーを見た。そして驚愕を顔に貼り付けて。
「ぁ――――その御姿はジャンヌ!?
そんな……私の願い、貴方の復活だけを祈願し、今一度めぐり合う奇蹟は、」
「貴様の口上を聞く耳は既に無いッ! 倒れろ、キャスター!!」
強烈な閃光が迸る。
全力の魔力放出で一気に距離を詰めるセイバー……!
「な――――私です。ジルド・レェにてございますぞ、聖処女よ!!」
セイバーを以って、あと二歩の踏み込みが必要とされる距離。
だが、目の前の障害は一秒とて彼女を止められまい。
「危ない、旦那ぁあああ!!!?」
突然、剣の間合いからキャスターが消える。
だがそれもすぐにキャスター自身の放つ大音量の声によって位置が判明する。
「おのれ、おのれ、おのれおのれおのれおのれぇっーーー! 我が麗しの乙女に、神は何処まで残酷な仕打ちをッ!!」
「お、落ち着けって旦那。殺されかけたんだから、そんなの無理だろうけど。
ほら、とにかく俺が力になるから機嫌直してくれよ?」
「…………おぉ、そうでした。私としたことがリュウノスケの存在を忘れてしまうなんて。
ありがとう、リュウノスケ。先程のは助かりました」
キャスターが立っている横には、茶髪の青年がいた。
おそらくはキャスターのマスター。
その頬に赤い血の色が見えるのは気のせいだろうか……?
「さっきの? さっきのって、もしかして危ないって叫んだら、いきなり横に旦那が立ってたやつの事?」
「ええ、そうです。さすがリュウノスケ、鋭いですよ。令呪の力を貴方は使いました。その手についている刺青は強い感情に反応して奇蹟を行う力があるのです。
……時間がありません。いますぐ私の力になるような願いを!!」
「願いか……なら簡単だ。旦那が、もっとぉっ! 超COOLになりますようにッーー!!」
青年の令呪が発光する。キャスターから強い突風が吹く。
キャスターが狂相を浮かべると。
すぐさま海魔の宿す魔力が目に見えて増え、増殖していく速さが変わる。
「くっ――――!?」
こちらを完全に認識したキャスターの指揮のもと、一斉に伸ばされる触手。
剣の先見に身を委ね、切り払い続けるがそれも数分どころか一分でさえ持ちえるかどうか。
筋肉が断線していく。魔術回路をハイに叩き込んで動きの鈍った腕と足を無理に動かす。
「さあ、さあ! どうですか、ジャンヌ!?
貴方の身に降りかかった血と狂気。それを拭い去る程の汚泥を被り、神の愛は穢れでしかないコトを自覚するのですッ!!」
セイバーでさえたたらを踏まざるをえなかった。
形勢は不利。聖剣を使えば覆せる戦況も此処が街の地下である用水路ではどうしようもない。
「シロウ、風の鞘で脱出します。口惜しいですが今はそれしか――」
海魔は赤い”なにか”からも出てくる。
それで―――頭が、なによりも心に火が灯ってしまった。
教会の地下、言峰綺礼によって十年間近くを苦しめれた兄弟達を思い出してしまった。
ああ、でもそんなの、当たり前だッ……!!
「……切り札がある。一瞬だけだけでいい、キャスターとの間にいる海魔をセイバーは倒してくれ」
だが思考は逆に醒めてくれる。雑念が良いカンジに吹き飛んでいる。
まだ一角だけだがキャスターのマスターは令呪を持っている。
だがこちらには一つも残っていない。
互いに一枚。どちらがより疾く切れるか。
「――――指示をマスター。この身は貴方の剣ですから」
セイバーは俺を闇の中でも映える聖緑の瞳で見つめて、その直感が”是”と判断した。
ならばいける。キャスターを逃がすわけにはいかない。
「―――――投影、重層」
選定の剣を地面に突き刺す。
自身の内面に潜る。その間、無防備な衛宮士郎をセイバーは守りきる。
いつかのお粗末な和弓ではなく、奴の持っていたそのままの黒塗りの洋弓を。
剣以外の宝具をイメージする。初めてだろうが勝つ為にはそんな事は関係ない。
洋弓は慣れないが弓の憑依経験を利用すれば今から行う荒業だろうが可能。
強度も頼もしいコト、この上、ない。
「――――」
口の中に苦い鉄の味がする。そして魔術の構成が完了し、現れた柄を硬く握る。
余分な思考は伽藍で塗りつぶし、狂いも妥協も許されぬ瞬間にのみ、殺気を向ける。
ギリ、と限界まで引き絞られた弦の悲鳴が耳に伝播する。
番えているのはディルムッド・オディナの赤い長槍。
”――――I am the bone of my sword. (体は剣で出来ている)”
経験が身体を動かしていく。衛宮士郎は武器を使うのではなく、武器に使われている。
知らず口を衝いて出た歌は撃鉄を恐ろしいまでの速度で叩き落とす。
魔術回路を駆け巡る魔力が増え、廻していく。錬鉄するかのように淀みは無い。
二つの贋作が、更にはカリバーンさえもが確かな実像を帯びて、その機能を本物に近付けていく。
「爆ぜろ―――風王結界!」
蒼銀の騎士が、即座に己が傷つくのも構わず風を振るう。
風の王の名に恥じぬ粉砕で穴が穿たれる。
絞り込まれた意識がその空白の先を視る。
狙う、打倒すべき敵を―――ハ、莫迦な。自分だけで倒すだなんて思い上がりも甚だしい。
弓の経験に同調しすぎだ。衛宮士郎にそんなのは高望みのしすぎだ。
寸分の狂いもなく付けるべき狙いは魔道書。そう、俺は一人ではないのだから……!
「――――破魔の紅薔薇」
真名が唱えられると共に魔力を吸い取る魔槍。
”中る”という確信。果たしてソレは本当に弓の経験だったのか。
そして……放った。
直後、開いた空白を再生された海魔達が埋め、キャスターの姿は見えなくなる。
「な――――ぁッ!?」
キャスターの驚愕の声。瞬間、異形は跡形もなくその姿を消す。
つまりは魔力の循環を断つ槍が螺湮城教本を貫いた。
魔術炉心を破壊した事により異界の魔性を呼び出す機能が停止した。
「ここまでだ、魔術師。貴様に掛ける慈悲は無い」
「聖処女――――?」
海魔は消え、令呪を使う時間さえ残されていない。
セイバーは一息に間合いを詰め、キャスターの首が飛んだ。
「はぁっ……はっ」
限界に近い体。残心すらまともに出来ず、ひざから崩れ落ちる。
セイバーの剣と洋弓と槍を投影という無茶をしたのだから当然の結果だった。
そもそも鞘がなければセイバーの剣を振るい続ける事も出来ず、無様に倒れていただろう。
「剣で出来ている、か」
躯の芯が熱い。だが投影魔術のせいではない。
いつの間にか呟いていた呪文のせいなんだと漠然と感じ取る。
確信する。剣と共に生き、剣に生かされてきた自分にこれ以上、相応しいモノはない。
だが、勝利の余韻もここまで。
キャスターのマスターに償いをさせなければいけないのだから。
……生きているのに、呻いているのに助けてあげられない。
「うう……、ぁァああ――」
人間性やその尊厳を奪われた子供達。
俺に出来るのは死んでいるのに生きているという矛盾を正常に戻す事だけ。
まだ、本当に何もされていない子もいた。
が、目の前にいるここまでされた子達は鞘でも癒してあげる事は出来ないと。
硬く冷たい、鋼の目で、セイバーは言った。
”悲しい出来事。悲惨な死。過ぎ去ってしまった不幸。
それを元に戻す事など出来ない。
正義の味方なんてものは、起きた出来事を効率よく片づけるだけの存在だ”
「………………」
俺には正義の味方をただの掃除屋だと吐き捨てた男の言葉を否定するだけの力がない。
どれだけ気高い理想があろうとも。手段を選ばないとしても。
力があっても覆せない現実は確かに存在する。
それを忘れてはいけない。だが、認めていけるほど器用じゃない。
「―――行こう、セイバー」
情けなく体を引き摺って歩く。
剣で出来てるなんて大層なものじゃない。今の自分は頼っているだけだ。
だけど手を伸ばす。
信じつづけていれば、きっと―――――
アーチャーの弓で強引に覚醒作業進みました。
時臣はサーヴァント召喚についてはうっかりしていません。
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