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今回は作者が今まですっかり忘れてた士郎の願いのカタチに少し触れる必要があった為、前の話で誓いを立てたのにひつこいなーと思いつつも士郎の心理フェイズ。
前準備はたぶんこれで終わり、やっと聖杯戦争へ。
04 犠牲
「新都、ですか……」
「ああ、まだ聖杯戦争は始まってないんだから今のうちに土地勘を養っておくのも良いと思うんだ。
 それにキャスターはセイバーをジャンヌ・ダルクと勘違いしてるから誘き出す事にもつながるし」
 
 自分ならともかく、セイバーを囮にするなんて思考は打算的過ぎて吐き気がする。
 だが聖杯戦争を終わらせなければ、セイバーは幸せになる権利を放棄するだろう。
 
 理解していても納得は出来ない。だけどその苦味を飲み干さなければ。 

「分かりました。ですが、もし……」

 心配そうにするセイバーに大丈夫だってと手を振って話を終えた。




 十年後にはもう、住宅地なんてなかった。
 
 火事の中心地はほとんど誰も来ない公園になっていて、寂しいというのは何か違った。
 あらゆる物が焼け落ちて、そんなところから急速に街は発達していった。
 数年経って、大きな駅が出来てより発達が進んだ。

 だから今、目にしている光景が衛宮士郎には新鮮に映る。


 
 日差しが気持ち良くて、よかった。

 バスに乗って新都に着いた。
 なんでもない普通の街並み。家があって、人がいて、木や花もある。
 
 しっかりと街の様子を見ながら一通り歩いた後、公園に来た。
 空は既に茜色。11月だからこれからすぐに暗くなっていくだろう。
 
 セイバーと一緒にベンチに腰掛けて、少し目を瞑る。
 
 疲れたわけじゃない。
 体はともかく、心は疲れるかもしれないと思っていたが―――どうやら杞憂だったようだ。
 未だに此処に自分がいるという実感が無いからなのか。できれば違ってほしい。
 
 自分を確かめて、そして目を開けた。

 セイバーは隣で何を眺めるでもなく、ただ前を向いて座っている。
 その姿は空と同じ赤色に染まっているが、儚いようには見えなかった。
 その事に安心して、そして力をもらってあの火事を懐古した。
 
 一面の炎と充満する死の匂い。
 謂れも無く、無意味に死んでいった人達。
 たった一つだけの椅子に皆を押しのけて座るしかなかった自分。

 一つ言いたかった。
 
「正義の味方に倒すべき悪が必要だなんて思わない」
「―――――シロウ?」
「俺は誰も恨んでなんかいない」

 直接の原因となった言峰綺礼。教会の地下で十年間、自分と同じ境遇の人間を苦しめてきた男。
 恨む相手としてこれほど相応しい人間は他にいないだろう。
 だが、恨んでいない。
 まだあの男は何もしていない。
 
 助けを求める人間を無視してあの火事の中から生き残った。
 そんな現実を、誰かが犠牲になる冷たさを壊したくて正義の味方を目指した。
 だから。
 
「もし、全員を救えるのなら救いたい。それが不可能に限りなく近くても」


 自分の戦い。自分に出来ることをセイバーに。

「シロウ、それは無茶だ。そんな事をしようとすれば、まず貴方が死んでしまう。
 その想いが余分だとは思いませんが、リンのような魔術師が稀なのです。目的の為なら手段を選ばない。そのような者達を相手に誰かを守る余裕なんてありません。
 貴方は自分の身だけを全力で――」
「ああ、解ってる。俺の力は矮小でセイバーを守ろうとするコトだけでも大変だ。
 だから全力でセイバーを守る。全員を救いたいなら、絶対におまえを犠牲になんてするもんか」
 
 目を見開いた後、セイバーは言った。

「いいのですか、シロウ。本当にそれで」
「正義の味方を目指すなら絶対に間違いなんかじゃないって断言してやる」

 なぜそこで問いを投げてくるのか。
 そんな不機嫌な気持ちで言葉を返し、その後も何も無く、今日は終わった。


 




 ――――夢を見ている。
     これはあいつが聖杯を求めた時の記憶。


 戦って、戦って、戦い抜いたアルトリアはその結末を許せず、英霊となる事を条件として、再び戦った。
 それこそが英霊として働かされるという事なんじゃないかと思うほど、また、戦った。 
  
 剣を持つ事が似合わないくせに、戦うのが上手かっただけの彼女が十年程の戦いの日々で誇りを見失ったのなら。
 聖杯のある可能性の地で戦い続けたのならば、いつかその心の在り方まで変わったかもしれない。


 そして、聖杯戦争。


 世界の救済を望むマスターに召喚され、その助けを誓うアイリスフィール・フォン・アインツベルンとそれぞれに主従の契りを結ぶ。

 騎士として互いに戦う事を約束したランサー。
 
 分不相応の大望と嗤うアーチャー。
 
 己の欲を語るライダー。


 そして、バーサーカー。
 誰よりも正しく、正しすぎる王。
 それを恨む事ができなかった。だけど、そう在れる王が羨ましく、嫉ましかった。
 
 共感する事は出来ない。俺はまだそんな事が解る人間じゃない。
 だが、自分の目指すものが遠くても手を伸ばす事を諦められないのなら。

 
 俺を救ってくれた人(切嗣)理想(ユメ)を叶えようとしていた。 
     聖杯にかける世界の恒久的平和の願い。
     それが叶う事は無かった。



 みんなに幸せであってほしいという理想を俺は継いだ。
 そうでなければ、あの火事から、一人生き残った自分を生かす事が出来なかった。
 
 ”やりなおしなんか、できない。
  死者は蘇らない。起きた事は戻せない。そんなおかしな望みなんて、持てない”

 人はいつか死ぬし、死はそれだけで悲しい。
 けれど、残るものは痛みだけの筈がない。

 ”その道が。今までの自分が、歩いてきた道が間違ってなかったって信じている”

 だから、衛宮士郎は――――――――


 

  interlude in


 冬木ハイアットホテル。冬木市で現在最も高い建造物。
 その最上階を貸し切った魔術師は婚約者と召喚したサーヴァント・ランサーと共に聖杯戦争に挑む。
 聖杯戦争は7組のマスターとサーヴァントで挑むものだが、彼らは違う。

 基本、マスターの役割はサーヴァントの支援だ。
 令呪によってサーヴァントを律し、強化する。
 サーヴァントに現界に必要な魔力を供給する。
 
 だがその二つをケイネス・エルメロイ・アーチボルト、魔術師の総本山である時計塔において神童と称される彼は分割した。
 許婚であるソラウ・ヌァザレ・ソファアリに魔力供給を任せ、自分は令呪を担う。
 おかげでケイネスはマスターでありながら十全に魔術を使える。

 その魔術の天才が聖杯戦争(コロシアイ)に参加した理由、それは自分に箔を付け加える為だった。
 そしてついに今日、戦争は開幕した。


「ランサー、己が功績を以ってこの私に確たる忠誠を示せ。
 だが、お前は武人だ。智に長ける者ではない。よってその不足を私が補なっ、」

 ケイネスが言い切る前にそれは起こった。 

 パリィィン

 地上三十二階にあるホテルの窓が突如割れる。
「っく!? ランサー、アーチャーだ! いますぐ迎撃しろ!!」
「はッ!」

 ケイネスがアーチャーと断定した理由。
 それは残された矢にあった。
 
 その矢は宝具では無かった。
 故にケイネスがランサーに下した迎撃の命令とは矢を防ぐことではなく、アーチャーを倒せというものだった。

「大丈夫か、ソラウ?」

 襲撃を受けたにもかかわらず、すぐに冷静に戻り未来の伴侶となるべき女性を気遣った。

 この程度の魔力を宿した矢なら魔術工房で防げる。より威力の高い矢なら事前に感知でき、瞬間に令呪でランサーを呼び戻せば良い。
 そも、そんな事が出来るなら、最初からやれば完全な奇襲になっただろう。だが、それをしなかったのはそれが出来ないか、もしくは何か制限を持つサーヴァントなのだろう。いずれにしても脅威にはならない。

 そう考えたケイネスだったが、いつまでたっても第二射は放たれない。
 ただの様子見。だが、それでも彼の怒りを買うには充分だったが……

「使い魔? つまりは今のは挨拶代わりだと?」
 アーチャーの開けた穴から蝙蝠(コウモリ)の使い魔が入る。
 どうやら、メッセージを運んできているようだ。


「よかろう、このケイネス・エルメロイ・アーチボルトの能力を序盤で晒す。
 開幕直後に潰される恥と覆すことの出来ぬ己の矮小さを存分に、認識させてやる」

 送られてきたのは挑戦状。それにケイネスは嗜虐的な笑みを浮かべた。


 ―――戦争は始まっていた。

 
破魔の紅薔薇、必滅の黄薔薇、宝具の原典多数、アサシンの短剣、ライダーのスパタ、■■■■■■が”無限の剣製”に登録されました。



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