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ギルガメッシュがセイバーのクラスでも良いかな?
魔力以外は最高ランクである事がセイバーに選ばれる条件なので。

駄目なら、それはそれで考えるけど。ってあれ、そっちの方が作者は楽か?
03 日常――?
 衛宮家の台所ともう呼んでいいのかは置いといて、何不自由なく俺は使っていた。
 目の前にあるのは……二人前をかるく越す量の食器。

 カチャカチャカチャ

 昨日は大判焼きくらいしか食べておらず、おまけにずっと意識を尖らせていたので買い込んだ食材の四分の一、藤ねえとよく食べるときの桜を合わせたのを二倍強にした量くらいは朝食で消費した。  
 
 それでもセイバーはまだ少し入るらしい。
 本当にあの小柄な体のどこに入っているのだろう?
 
 朝のニュースを聞きつつ、食器を洗う。
 今日は199X年の11月X日。聖杯戦争が始まる数日前だろう。

 昨日一日、警戒を続けたが何もなかった。
 だが、それは英霊が召喚されなかった、というだけの話でほんとうに何もなかったというわけじゃない。


 虎と遭遇した。
 現役の――十年後も現役だけど――冬木の虎、藤村大河。この時代の年齢は1X歳。元の世界での関係は家族同然だったが、こちらの虎とはまったくの初対面だ。
 
 衛宮邸の玄関を出てすぐのこと、額にいきなり竹刀がぶち当たった。
 
 妖刀虎竹刀はなぜか来ることが分かっていても避けられない。
 避けてはいけないような気がしたのは気のせいじゃない。最大限の警戒なんざ意味はなさなかった。
 
『ぐっ――はぁー』
『シロウ!?』
『くっ! もう一人いたか、成敗!』

 剣の英霊は伊達ではない。
 虎竹刀を回避し、いつかの道場のようにその手には直前まで虎の手にあった竹刀が握られていた。……思わず、セイバーから後ずさってしまったのは仕方ナカッタンデス。

『ああ! 悪党に得物を奪われるとは藤村大河、一生の不覚!』
『なんでさ?』 
『どうやら何か、勘違いをしているようですね。
 どうでしょう、この竹刀を返す代わりに質問に答えてくれませんか?』

 本当に不思議そうにしていたおかげか、それとも竹刀を返して欲しかったのか。
 丁寧に根気よく、対理不尽な虎マニュアル(あってないようなものだが)と経験を活かして弁明した。
 
 なんとか通じて事情を聞くと、
 曰く、無人の屋敷の屋根の上に人間がいたので泥棒か何かだと思ったらしい。
 
 ……まあ、なぜかこの家の持ち主になっていなかったら本当に犯罪者なのだし、荒れまくってる屋敷から出てきたんじゃ仕方ない―――か?
 
 早とちりして見知らぬ人を殴ってしまったので謝罪もかねて藤村組――要するにヤクザ屋さん――の人を使って屋敷を綺麗にさせてほしいと提案された。
 俺としては自分でやりたかったのだが、贅沢を言えるほど体は空いてないので任させてもらった。
 
 おかげで今では見違えるほど、というか俺のよく知っている衛宮邸の姿になった。
 テレビも腐らせてちゃ勿体無いって、ここにある。
 
 何もかもが完璧。本当にヤクザ屋さんなんだろうか? 
 いや、本物のヤクザ屋さんなんだとは知っているけれども。
 
 俺が叩かれたくらいでこんなに至れり尽くせりだと、お返しをしなければ落ち着かない。聖杯戦争おわってからじゃないと出来ないっていうのは申し訳ない気にさせる。
 藤ねえに巻き込まれた人間だけでなく、藤ねえに対しても申し訳なくなるのは不思議な気分だ。……やっぱり別人に感じているのだろう。



 ――――そうして今、こんな風にゆっくりとしている。


 
「セイバー、道場に行こう。勝手なこだわりだけど、体を動かした後に作戦会議をしたい」
「――わかりました。シロウを聖杯戦争で死なせるつもりはないので、いつも以上に鍛えて差し上げましょう」

 上機嫌のセイバー。やっぱりあのイジメに近い鍛錬を楽しみにしてたな、鬼教官め。




「ぁ――――……」
 むなしく道場に響く声。
 
 だがそれも仕方のないことであった。

 そう、ここには竹刀が一本たりとも存在しなかったのだ。
 虎がセイバーのあの動きで武術に心得のある者と考え竹刀を用意するのを忘れるとは考えにくいのだが、セイバーが外国人であることを考えればむしろ当然なのかもしれない。
 
 ここは強度に少し心配が残るが”アレ”をやるか。

「セイバー、ちょっと竹刀を握っているつもりで構えてくれないか」
「? 分かりました。こうですね?」

 言うまでもないが、まるで本当にそこに在るかのように見えるのは悲しいほど道理に適っている。
 
 セイバーが剣を握っていた時間は普通に生活していた時間よりも長い。
 逆に何も持っていないにもかかわらず、構えているのは彼女自身に違和感を感じさせているはずだが、それでも清廉な雰囲気を醸しだしている。
 
 彼女の宝具、風王結界が剣を隠す物であるから、戦闘時に見慣れたその姿に違和感をまったく感じない。
 ……逆に失敗したかな、これは。
 

 そして、俺も同じように空手のまま構える。

「―――よし。投影(トレース)開始(オン)

 竹刀を解析したのはかなり前のこと。解析してそれっきり。竹刀を強化したり、投影によって複製する事はなかった。
 切嗣が死んで、セイバーの出会う前まではほとんど道場で竹刀を振らず、体を鍛える場所としてしか使っていなかった為、自然、竹刀が不足する事はなかったのだ。
 だから。


 ――――イメージするものはセイバーと鍛錬をしている自分自身。
     
 
 それは解析した時の記憶を引っ張り出す行為ではなく、握った感触、セイバーと打ち合った時の手ごたえ。
 此処が別の場所であり、向き合う相手がセイバー以外ならいざしらず。そして構えまで取っているのだから。
 聖杯から溢れ出す泥の中、鞘を投影したときの感覚を頼りに。


 ―――創造理念、不要

     基本骨子、不要

     構成材質、不要

     製造技術、不要

     憑依経験、他でもない自分自身のモノ

     蓄積年月、この身が織っている

     ならば、容易だ。
     己の(うち)より竹刀を引き摺りだす―――――!



「あ――れ?」
「シロウ、いったいこれは?」
 投影に成功した。
 それは、いい。
 
 中身がカラッポという失敗は起きなかった。
 じゃあ、何が起こったのかというと。

 手に竹刀を握っている。それは俺だけでなく、セイバーも。
 
 つまりは二度、投影をするつもりが一度で済ませてしまった。
 遠距離(セイバーの手の中)であるにもかかわらず、だ。

「!? もしかして」

 イメージするモノは虚空に浮かぶ竹刀。
 非現実的なソレも高められた集中力の前には壁とならず。
 そして。

「―――できた……!」
 まさか、自分の魔術でこんな事ができるとは思わなかった。
 意識すれば飛ばす事だって出来るかもしれない。
 ―――ってあれ。なんだかセイバーが不機嫌に。

「……まったく、ようやくこちらに気づいてくれましたか。
 どうやら、なにか発見があってはしゃいでいたようにも見受けられますが、今は情報を集めるのを優先するべきでしょう。
 だいたい、その浮かんだ竹刀はなんですか。まるでギルガメッシュの宝具のようではありませんか」

 言われてみて、気づく。確かにそう、見える。
 舞い上がっていた気分は一気に底についた。
 確かにそりゃ、あんなヤツの物と似てたら不機嫌にもなるよな。

「せっかく、三日間ぶりにシロウと鍛錬が出来ると思っていたのに、これでは。
 シロウの剣は愚直そのものですが、だからこそ貴方の在り方そのものでもある。鍛えれば必ず光るというのに」

「あーー、ごめん。いや、セイバーの力になれるかもって、思ったから、つい」

 世辞を言うことのないセイバーにそこまで剣を褒められると、沈んでいた気分もだいぶマシになる。

「あっ。いえ、すいません。実用性ではなく、私情を口に出してしまいました。
 ……たしかに不意を突くことが出来るかもしれませんね。相手を倒す事も状況を整えれば可能でしょう。ですが、やはりサーヴァント相手にはそこまで、いえ、私が前に出てシロウが後方に回れば――」

「セイバーだって人間なんだし、自分の気持ちを言ったって良いに決まってるじゃないか。これじゃ、前の繰り返しじゃないか?
 俺も今は稽古をするべきだって分かったし。ビシバシ鍛えてくれ」
「……そうですね。ではいつもどおりに――――!」





 久しぶりだったこともあり、昼を少し過ぎるまで鍛錬をやった。
 そして、これから作戦会議。


「―――となると最優先はキャスターだな」

 まず、サーヴァントのコトについてセイバーは語った。
 ……子供を自分の欲望の犠牲にするキャスターの事は許せない。セイバーはそう、語った。俺もそうだ。
 言峰綺礼と同じ他者の苦痛を悦びとするヤツなんて絶対に許してはいけないし、今だって子供を攫っているのかもしれない。
 だから真っ先に見つけ出して倒す。

「シロウ……くれぐれも単独行動はしないように。
 イリヤスフィールに攫われた時の事、コトミネに嵌められた時の事はくれぐれも忘れないでください」
「わ、解ってる。それはもう、充分なんて言葉が生温いくらいに」

 本気かどうかは抜きにして、人形にされそうになったり、心臓をわざとはずして激痛を味わされ続けた事を忘れ―――ないか? むしろ封印したい記憶だし。
 これで完全犯罪、ベッドでふわふわ……

「ゲイボルクの刺した傷もまた癒えない物でしたが、あれは因果を歪める能力の副次的効果だったのに対し、ディルムッドの短槍は付けた傷が癒えないという一点で完結した槍です。……”鞘(アヴァロン)”でも癒しきれるかどうか。厄介さではディルムッドの方が上回っているので注意してください」

「ああ、わか――って待て、今の話しぶりだとセイバーが鞘を持つんじゃないのか!?」

「解って下さい、シロウ。今度の聖杯戦争では暗殺を得意とする者が主従、問わず多く存在します。その全てからシロウを守りきるには鞘はシロウが持ったほうが確実です」

 くそっ! また、セイバーの足を引っ張っている。だが離れて行動することも、またセイバーだけではなく俺の身を危険にさらす。
 分身能力を持つアサシンが非常に厄介だ。注目を集めることは避けなければ。
 
 だが、それではキャスターや他のサーヴァントを倒すことは出来ない。
 やはり、衛宮士郎は今以上に力を付ける他にない。

「アサシンがいくら数を増やそうと、それは一人ひとりの質を落としてのモノでしかありません。……あまり薦めたくはありませんが危なくなった時はカリバーンを投影してください」
「解った。けど、セイバー。
 ギルガメッシュを相手にする時は絶対に鞘を返すぞ。あいつのあいつだけが持つ”剣”には他にどうしようもないんだから」

 こくりと頷くセイバー。
 それと、と切り出し口を再び開く。

「もしかしたら、アイリスフィールもイリヤスフィールと同じ……」
「イリヤを大人にしたような人だっけ。って、それは、まさか」

 重い声でそうであって欲しくないと言外に語りながら。

「彼女は一人、サーヴァントが脱落した後、体の調子を落としていきました。
 リンの話していたコトと一致しています」
 
――――――――

「シロウ、もう一度契約を結ばせてください。
 ……いえ、貴方をこの時代に来させてしまったので、あの約束を果たせたとは言い難いですが、それでも」

 硬い眼差しをするセイバー。
 なにかが契約を結ぶことで変わるわけではない。
 だが、お互いにそれに意味を感じている。

「でも、セイバー。おまえはもう、サーヴァントじゃ」
「でしたら、聖杯戦争の間だけでも! どうか!」

「っ~~~~!」

 譲る気はないと告げる翠緑の瞳と真っ向からぶつかり合い、そして。

「……分かった。俺はお前の力になると誓う。だから」

 絶対に生き残ろう、と言って右手を差し出す。
 それを握り返した後、セイバーは鉄の言霊を舌に乗せた。


「―――これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。
 ――――ここに契約は完了した」



 それを聞いた俺にはもはや、先ほどの煩悶はない。
 これから抱く煩悶もこいつを守るためなら即座に切り捨てよう。

 切り捨てたモノだっていつかは拾える筈だ。
 だから全力を注げる。
 

 衛宮士郎が信じるモノ、正義の味方にはまだ成れてはいないけれど。
 目に見える範囲。目指すこの輝かしい星は絶対に―――――


  
今回の話は我ながら、かなり強引すぎるなーと思っております故、そう思った方は厳しくご意見、ご感想して構わないですよ。――うーん、違う。

どうしよう、ジルの口調がよく分からない。 ………消すか。


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