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第四話 気付かなかった危険
使徒を撃退した後、シンジ達はミサトやリツコ達に色々な事を根掘り葉掘り聞かれたが、全て知らぬ存ぜぬで突き通した。
しかしゲンドウの鶴の一声で、追及の手は収まった。
不満をあらわにするリツコだったが、上司であるゲンドウの意向に逆らう事は出来なかった。
取り調べから解放されたシンジ達は家へと帰れる事になった。

「カヲル君はどうするの?」
「そうだね、僕は見つかってはいけない人間だ、どこかに隠れているよ」

カヲルはシンジ達の所へやって来る前、ドイツ支部で目を覚ました直後に自ら入水して命を絶った振りをして使徒消滅とネルフをだましたのだと話した。
そしてそれからレイから受け取った力を使って、カメラやレーダーに感知されないようにしていたらしい。

「それなら僕の部屋へ来てよ、前に泊めてもらった時のお礼もしたいし」

シンジが提案すると、レイが鋭い眼でカヲルをにらみつけた。

「仕方ないだろう? 僕だって野宿は嫌さ」
「だけど碇君に迷惑が掛かるわ」
「平気だよ、上手くミサトさんをごまかすから」

シンジは葛城家の余っている部屋を整理してカヲルの寝る場所を確保すると説明した。

「でもセカンドチルドレンが来たら、部屋が足りなくなるわ」
「そうなのかい、シンジ君?」

レイに指摘されたシンジは困った顔になった。
やはりシンジもまだ大人になりきれない少年、自分の願望は抑えきれないようだ。
話し合いの結果、レイがコンフォート17への住居の変更を申請し、新しくできた空き部屋にカヲルを住まわせる事にした。
コンフォート17は葛城家以外の世帯は入居しておらず、レイの引っ越しはすぐに承認された。

「レイってば、シンジ君が気に入ったなら、同居しちゃえばいいのに」

ミサトはニヤケ笑いを浮かべながらレイに声を掛けた。
その言葉通りに、レイもシンジと同居をしてみたい気持ちはあった。
しかしそれではシンジがアスカと葛城家で同居するシナリオが崩れる。
レイはシンジの悲しそうな顔を見たくはなかったのだ。



そしてその日の夕方、レイの引っ越し祝いが葛城家で行われた。
レイの部屋で待たせているカヲルに対して気が引けたが、シンジ達は楽しい時を過ごした。
打ち解けたようなシンジとレイの姿をミサトは微笑ましく見守ったが、少し困った表情になって話を切り出す。

「あのね、零号機が無くなったから、明日ドイツ支部から弐号機と来る事になったのよ」

レイは初号機の予備パイロット兼、アメリカ支部から引き取った四号機のパイロット候補になったとミサトは説明を付け加えた。

「本当ですか!?」

ミサトの言葉を聞いて、シンジは嬉しそうになり、レイは少し悲しそうにうつむいた。

「それでそのパイロットはね、あなた達と同じ年齢の女の子なのよ。だから、仲良くしてあげてね」
「はい」
「了解」

シンジとレイの返事をする様子を見て、ミサトは違和感を覚えた。
それが何かは分からなかったが、シンジとレイには秘密があるように思える。
しかしゲンドウの命令もあるので、ミサトは詮索しない事にした。

「やあ、待ちきれないから勝手に食べているよ」

レイが部屋に戻ると、カヲルがパンを焼いて食べていた。

「誰も居ないはずの部屋で電気を使って怪しまれたら困るのよ」
「それはすまなかったね」

部屋に焦げ臭いにおいが漂っているのに気が付いて、レイは顔をしかめる。
調べると、レンジの中にパッケージのまま溶けてしまった冷凍食品が入っていた。

「……どうしたの、これ?」
「このままレンジでOK! と書いてあったから入れてみたらこの様さ」
「外袋から出して、中身をレンジに入れるのよ。……裏面ぐらい読みなさい」
人間(リリン)の世界は奥が深いね」
「適当な事を言ってごまかさないで」

レイは鋭い眼でカヲルをにらみつけた。



零号機の離脱により弐号機の配属が早まったのはシンジ達の計画通りだった。
四号機とのシンクロテストがあるためレイは本部に残り、シンジはミサトと共に弐号機を輸送中のオーバー・ザ・レインボーへと行く許可が下りた。
アスカとの対面を目前にしたシンジは、嬉しさを外に見せないように抑えるのに必死だった。
ミサトはそんなシンジの様子を何となく感じ取っていた。
そしてシンジはアスカと甲板で再会を果たしたのだが、アスカがフリルやリボンの付いたドレスを着ていた事に驚いた。

「アスカってば、ずいぶんおめかししてるじゃない」
「憧れのサードチルドレンに会えるからって、張り切っていたぞ」
「ふん、こんな冴えないやつのために無駄な事したわ」

ミサトと加持が冷やかすと、アスカは口をとがらせてそう言い放った。
しかしシンジはそれがアスカの照れ隠しだと気が付いている。

「サードチルドレン、こっちに来なさい!」
「うわっ、何だよもう!」

アスカはシンジを引っ張る形で物影へと連れて行った。

「あらあら、ごゆっくりー」
「ははは、もう仲が良くなったようだな」

ミサトと加持は笑顔でアスカとシンジを見送った後、2人の姿が見えなくなると打って変わって真剣な表情になる。

「ねえ、あの2人の様子はおかしくない?」
「ああ、まるで以前からお互いを知っていたかのようだな」

情報交換をしてもアスカとシンジが接触した記録らしいものは見当たらない。
さらにミサトはシンジの性格も出会う前に聞いていたプロフィールと違う事を話すと、加持もアスカの性格がしばらく前に変わってしまった様だと話した。

「いったいどうしたのかしら……」
「さあな、だが2人の性格が良い方向に変化したのなら、喜ばしい事じゃないか」
「でも別の問題が浮上したのよね」
「何だ?」

ためいきをついたミサトに加持が尋ねようとした時、海面から大きな水柱が上がり、船が大きく揺れた。

「うわっ!」

バランスを崩した加持がミサトを押し倒した。

「ちょっと加持君、いきなり何をするのよ!」

仰向けになったままのミサトのパンチが加持のあごを直撃したのだった。



その頃、弐号機の格納庫で話していたアスカとシンジも使徒が襲撃して来た事に気が付いた。
シンジの推測によれば、今度出現するのは一撃でネルフの特殊装甲を18層も突き破るほど強力な攻撃をする使徒だった。
アスカは自分独りでも倒せると息巻いたが、シンジは2人で協力して倒す事を提案した。
もし弐号機がダメージを受けた場合に、アスカの痛みを軽減したいと考えていたからだ。
それでも2人乗りを拒否するアスカにシンジがレイと2人で初号機に乗った事を明かすと、アスカは顔色を変えて弐号機にシンジと一緒に乗る事を受け入れた。

「アスカはATフィールドを武器の形にして使えるって知ってた?」
「エヴァ量産機と戦う時に思い付いたわ」
「さすがアスカは天才だね」

ドイツ支部をATフィールドで覆って守ったのもアスカが独りで考えたと聞いていたシンジは、感心してつぶやいた。
空高くゆっくりと浮遊しながら近づいて来た使徒ゼルエルが、弐号機に気が付きビームを放つと、その衝撃で海面が再び大きく揺れた。
このビームが直撃してしまったら、どんなに大きな戦艦でも沈んでしまうだろう。
アスカは急いでオーバー・ザ・レインボーから離れた。

「このままじゃ、日本近海に新しい海溝が何個も出来ちゃいそうね」
「そうなる前に早く使徒を倒そうよ」

シンジはアスカに前の使徒と同じようにATフィールドを槍の形にして投げて倒す事を提案したが、アスカは海中では水の抵抗により投げる動作が難しいのではないかと指摘した。

「そっか、じゃあどうしよう」
「槍よりも命中精度の高い武器を使えば良いのよ」

アスカはそう言って、弐号機の腕を伸ばし両手を組み、人差し指を使徒に向けた。
いわゆる“指鉄砲”と言うやつだ。

「照準合わせはシンジに任せるわ。アンタは射撃だけは上手いからね、射撃だけは」
「もう、アスカってば」

射撃だけと強調するアスカにシンジは少しむくれた表情で答えたが、それはアスカはシンジの射撃の腕を認めていると言う事であり、シンジにとって嬉しい事でもあった。
使徒ゼルエルは上回る力を持ったシンジとアスカにとっては苦戦する事のない相手だった。

「ほら、使徒を真ん中に捉えて……発射(ファイア)!」

アスカの号令に従って、シンジはエヴァの操縦レバーのスイッチを押した。
弐号機の人差し指からオレンジ色の光が伸び、空中に浮遊する使徒のATフィールドごとコアを貫いた。
コアを破壊された使徒は空中で爆発して吹き飛んだのだった。

「やったじゃない」
「うん、使徒の動きが遅かったから、狙いやすかったよ」
「自分の防御力を過信し過ぎた結果ね、いい気味だわ」

シンジとアスカは笑顔で勝利の喜びを分かち合った。

「まあ、次の使徒も楽勝ね」
「えっと、順番が逆だとすると……次に出て来る使徒は……あっ!」

二人同時に気が付いたのか、シンジとアスカは顔を見合わせて驚きの声を上げた。
次に出て来るのは以前の世界でエヴァ参号機に寄生していた使徒バルディエル。
今、ネルフ本部ではエヴァ四号機の起動実験をレイが行っている。
シンジ達が使徒ゼルエルを倒してしまった事で、次の使徒バルディエルを目覚めさせてしまうとしたら……!

「綾波が危ない!」

勝利の美酒に酔いしれるひまも無く、シンジ達は一刻も早く弐号機が日本に到着する事を願うのだった。
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