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月光校庭のエクスカリバー
New Knight & New Rival.
 Side 祐斗


 ―――ただ、生きたかった。
 研究施設から一人逃げ出し、森の中で血反吐を吐きながら走った僕はそれだけを考えていた。
 森を抜け、とある上級悪魔の少女とであった時、命の灯火は消えかかっていた。

 「あなたは何を望むの?」

 死に行く間際の僕を抱きかかえ、紅髪の少女は問う。
 かすれていく視界の中で僕は一言だけ呟いた。
 ―――助けて。
 僕の命を。僕の仲間を。僕の人生を。僕の願いを。僕の力を。僕の才能を。僕の―――。

 「―――悪魔として生きる。それがわが主の願いであり、僕の願いでもあった。それでいいと想った。けれど―――エクスカリバーへの憎悪と同志の無念だけは忘れられなかった。・・・・・・いや、忘れてもよかった」

 僕には今、最高の仲間がいる。
 イッセーくん、小猫ちゃん。復讐にかられた僕を助けてくれた。
 共に聖剣を探し回っていたとき、思ってしまったんだ。僕を助けてくれる仲間がいる。それだけで十分じゃないか、と。
 だけど、同志たちの魂が復讐を願っているとしたら、僕は憎悪の魔剣を降ろすわけにもいかない。
 だが、その想いも先ほど、解き放たれた。
 同志たちは僕に復讐を願ってはいなかった。願ってはいなかったんだ!

 「でも、全てが終わったわけじゃない」

 そう、終わりではない。

 「バルパー・ガリレイ。あなたを滅ぼさない限り、第二、第三の僕たちが生を無視される」

 「ふん。研究に犠牲はつきものだと昔から言うではないか。ただそれだけのことだぞ?」

 やはりあなたは邪悪すぎる!

 「木場ァァァァァ!フリードの野郎とエクスカリバーをぶっ叩けェェェェェ!」

 イッセーくん。

 「祐斗!やりなさい!自分で決着をつけるの!エクスカリバーを超えなさい!」

 「祐斗くん!信じてますわよ!」

 部長、副部長・・・リアス部長!朱乃さん!

 「・・・祐斗先輩!」

 小猫ちゃん。

 「ファイトです!」

 「やっちゃってください!」

 「君ならいけるにゃ」

 ―――皆。

 「―――僕は剣になる」

 同志たちよ。僕の魂と融合した同志たちよ。
 一緒に肥えようーーー。あの時、達せなかった想いを、願いを、今こそッッッ!

 「部長と仲間たちの剣となる!今こそ僕の想いに答えてくれッ!魔剣創造(ソード・バース)ッッ!」

 神々しい輝きと禍々しいオーラを放ちながら、僕の手元に現れたのは一本の剣―――。

「―――禁手(バランス・ブレイカー)、『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。聖と魔を有する剣の力、その身で受け止めると良い」

 僕はフリード目掛けて走り出した。
 ギィィィン!
 彼のエクスカリバーを覆うオーラが僕の剣によってかき消されていく。

 「ッ!本家本元の聖剣を凌駕すんのかよ!この駄剣が!?」

 驚愕の声を出すフリード。

 「それが真のエクスカリバーだったら勝てなかっただろうね。―――でも、そのエクスカリバーでは、僕と、同志たちの想いは絶てない!」

 「チィ!消えろ!」

 フリードの聖剣の先端がふいに消える。
 透過現象?『透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)』の力だ。
 さらに彼の聖剣が神速で振るわれる。今度は『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラビットリィ)』か。
 しかし、君の殺気はわかりやすい。殺気の来る方向がわかれば、防ぐのも容易なことだよ。

 「なんでさ!なんで当たらねぇぇぇぇぇぇッッ!無敵の聖剣さまなんだろうぉぉ!昔から最強伝説を語り継いできたんじゃねぇのかよぉぉぉぉ!」

 フリードが叫ぶ。その姿には焦りの影が見えた。
 急に聖剣の刀身が姿を現し、今度は多数の分身が現れた。『夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)』だ。
 ギィン!ギン!ギィィィン!
 幻影ではなく本物の攻撃を全ていなしきる。

 「――――ッ」

 フリードは目元を引きつらせる

 「そうだ。そのままにしておけよ」

 横殴りにゼノヴィアが介入してくる。左手に聖剣を持ち、右手を宙に広げた。

 「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 何かの言霊を発し始めている。彼女は何をするつもりだ?
 空間が歪み、そこへゼノヴィアは手を入れた。無造作に探り、そこから引き出したのは、一本の聖なるオーラを放つ剣。

 「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。―――デュランダル!」

 「デュランダルだと!」

 「貴様!エクスカリバーの使い手ではなかったのか!」

 「・・・・・・ジャンヌと同じ、か・・・・・・」

 バルパーばかりか、コカビエルもさすがに驚きを隠しきれていない様子だった。遠山は何かを呟いていたが、静かに現状を見詰めるだけだ。

 「残念。私は元々聖剣デュランダルの使い手だ。エクスカリバーは兼任していたにすぎん」

 ゼノヴィアがデュランダルを構えた。エクスカリバーとデュランダルの二刀流―――。

 「そして、私はイリナたち現存する人工聖剣使いと違って私は数少ない天然ものだ」

 ゼノヴィアの言葉にバルパーは絶句した。

 「そんなんアリですかぁぁぁぁ!!?ここにきてまさかのチョー展開!クソッタレのクソビッチが!そんな設定いらねんだよぉぉぉ!」

 フリードが叫び、殺気をゼノヴィアへ向けた。神速で幻影に隠されながら透明の剣を彼女に向けて振るう。
 ガギィィィィン!
 たった人なぎで、聖剣エクスカリバーが砕かれて姿を現した。

 「マジかよマジかよマジですかよ!伝説のエクスカリバーちゃんが木っ端微塵の四散霧散かよッ!これはひどい!」

 殺気の弱まった彼に僕は一気に詰め寄った。
 彼も対応できていない!チェックメイト!
 バギィィィン。
 儚い金属音が鳴り響く。聖剣エクスカリバーが砕け散る音だ。

 「見ていてくれたかい?僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」

 聖剣を砕いた勢いで、僕はフリードを斬り払った。



















 Side ゼロ


 「そろそろ新兵器の準備をしておくかな」

 「その弓が新兵器とやらか?」

 「まあな」

 俺は一人、新校舎の屋上に降り立つ。
 見れば、バルパーはコカビエルに殺られたのか腹に穴を開けて地面に突っ伏している。
 数分間、誰も動かずにイッセーの倍増を待っている。大方コカビエルから言い出したのだろう。
 十分な時間がたち、イッセーはリアスに譲渡を始めた。
 リアスの手のひらから、巨大な魔力の塊が放たれる。

 ゴォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!

 地の底まで響き渡るような震動を当たりに撒き散らした。
 対するコカビエルは両手を前に突き出して真っ向から光を放つ。

 ドウゥウゥウゥゥゥンッ!

 双方の攻撃がとまった時、コカビエルは身にまとうローブの端々が破れ、両手から血を流している。
 リアスは先ほどの一撃で疲弊したのか、肩を激しく上下させている。
 朱乃がコカビエルに向けて雷を放つ。しかし、朱乃の雷はコカビエルの羽ばたき一つで消失した。
 祐斗とゼノヴィア、イリナも剣を持ってコカビエルに突撃する。
 しかし、三人ともいなされていく。
 祐斗は色々と試行錯誤してコカビエルに立ち向かって行くも、軽くいなされてばかりだ。遠山金次がいるせいでロスヴァイセと黒歌はコカビエルに介入できない。
 コカビエルが笑いながら語り始めた。
 ・・・・・・ゼノヴィアとイリナ、アーシアの表情が辛そうで仕方がない。
 そろそろ介入するか。俺としては、これ以上皆に負担をかけたくない。

 「一発百中。『月に狂った百の矢(ルナティック・アーチェリー)』」

 俺は狙いを定めて『勝利の白透弓(インヴィジブル・ボウ)』と言う弓を引く。



















 Side イッセー


 「アーシア!アーシアしっかりしろ!」

 俺は神の不在を聞いて崩れ落ちたアーシアを抱き上げながら呼びかける。
 今の状況は絶望的だ。せめて、ゼロ兄につなげないと。

 「俺は戦争をはじめる、これを機に!お前たちの首は手土産に!俺だけでもあの時の続きをしてやる!我らだ天使こそが最強だとサーゼクスにも、ミカエルにも見せ付けてやる!」

 ―――俺たちでは勝てない。
 強すぎる。だけど!

 「ふざけんな!お前の勝手な言い分で俺の街を、俺の仲間を、アーシアを消されてたまるかッッ!それに俺はハーレム王になるんだぜ、てめぇに俺の計画を邪魔されちゃ困るんだよ!」

 俺は声を張り上げた。そのとき!

 『一発百中、月に狂った百の矢(ルナティック・アーチェリー)

 どこからともなくゼロ兄の声が響いた。
 その声にコカビエルがいち早く反応した。

 「何者だ?どこにい―――」

 ズシャッ。

 「ッッッ!!??」

 コカビエルの翼が半分消え去り、奴は地に落ちた。
 次の瞬間、四方八方から無数の銀色の光の槍がコカビエルに降り注いだ。

 ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダ―――――

 文字通り雨のような光の槍が止んだとき、コカビエルは手足と翼をなくしていた。

 「うぁ・・・・・・」

 コカビエルは蚊の鳴くような声で呻いている。これは酷過ぎる・・・・・・。
 その姿に俺たちが唖然しているとき、上空から二つの影が舞い降りた。
 片方はゼロ兄、もう片方は白い全身鎧だった。
 あの白い全身鎧。『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』にそっくりだ。

 「圧倒的な威力だったな、ゼロ」

 「人が使える最強の兵器の一つだからな、ヴァーリ」

 声からして若い男だ。

 「おや、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』じゃないか」

 それを口にしたのは今までほとんど傍観していた遠山だった。
 やっぱり。ドライグと対を成す存在だったか。

 「遠山金次、だな?まだ暴れるつもりならこの俺が相手になってやろう」

 「止めておく。だが、大人しく投降するつもりはない。ここは撤退させてもらう、白龍皇さん」

 そう言って遠山は煙幕を使ってどこかに逃げていった。

 「・・・・・・さてフリードも回収しなければならないか。聞き出さないといけないこともある。始末はそのあとか」

 倒れこむフリードのもとに足を運び、ゼロ兄にヴァーリと呼ばれた男はフリードを抱えた。
 そして五体不満足のコカビエルを背中に抱え上げ、空へ飛び立とうとした。

 『無視か、白いの』

 ドライグが呼び止める。

 『起きていたのか、赤いの』

 白い鎧の宝玉が輝き、声が聞こえてくる。

 『せっかく出会ったのにこの状況ではな』

 『いいさ、いずれ戦う運命だ。こういうこともある』

 『しかし、白いの。以前のような敵意が伝わってこないが?』

 『赤いの、そちらも敵意が段違いに低いじゃないか』

 『お互い、戦い以外に興味対照があるということか』

 『そういうことだ。こちらはしばらく独自に楽しませてもらうよ。たまには悪くないだろう?また会おう、ドライグ』

 『それもまた一興か。じゃあな、アルビオン』

 別れを告げる二人、いや二頭だが。

 「ちょっと待ってくれ!まずゼロ兄!この白いのとはどういう関係だ!?」

 「ただの知り合いだ。ちなみに、こいつが堕天使側から来たコカビエル討伐(かいしゅう)の人員だ」

 「しっかり強くなって俺を楽しませてくれよ。いずれ戦う俺の宿敵くん」

 そう言って白龍皇の野郎は飛び去っていった。
 視界の端にバルパーの死体が映る。
 ―――終わったか。
 俺は木場に近付き、頭を軽く叩いた。

 「やったじゃねぇか、色男!へー、それが聖魔剣か。白いのと黒いのが入り混じってて綺麗なもんだなぁ」

 「イッセーくん、僕は―――」

 「ま、今は細かいのは言いっこなしだ。とりあえず、いったん終了ってことでいいだろう?聖剣もさ、お前の仲間のこともさ」

 「うん」

 さて、木場はこれでいいな。
 さて、一番の問題であるゼロ兄は・・・・・・。

 「ゼノヴィア、イリナ、アーシア、大丈夫か?」

 「・・・・・・ふぅ、大丈夫だ。心配ない」

 「私も大丈夫です」

 「私も大丈夫・・・・・・やっと呼んでくれた、私の名前」

 ゼロ兄は頭をかいてイリナに答えた。

 「とある知り合いの研究バカのおかげでくだらないことから吹っ切れたからな」

 「ひっく、えぐっ」

 イリナがゼロ兄と顔を見合わせて急に泣き出した。

 「どうした、急に」

 「だってぇ!ずっと、ずっと嫌われてたと思ってたんだもん!」

 イリナの涙で濡れた顔を見てゼロ兄は嘆息した。

 「別に。ただ引きずってただけだ」

 「うわぁぁぁぁぁぁん!ゴメンなさぁぁぁぁぁぁい!」

 謝りながらゼロ兄の胸に飛びつくイリナ。

 「もうあんなこと言わないから!絶対に言わないから!だから私の傍にいて!」

 ゼロ兄はため息をつきながらもイリナの頭を撫でていた。
 イリナが泣き止むまで誰一人口を開かなかった。でもイリナを見る部長と朱乃さん、小猫ちゃんに黒歌さんとロズヴァイセさんの視線が怖かった。

 「さて、ゼロ。本題に入っていいかしら?」

 「いいぞ」

 「ゼロ、あなたかなり前から空の上で見ていたわね?」

 部長、俺も思ってました。

 「ああ、いい修行になると思ってな。もちろん最悪の事態は避けられるようにヴァーリと共に身構えてはいたがな」

 あっさりと認めちゃったよ。

 「修行って・・・・・・」

 「それに、物語(おはなし)を進めるのに必要な要素もあったからな」

 お話?なんだそれ。

 「必要な要素?」

 「ああ。説明しようか?」

 「ええ、お願いするわ」

 「一つ目は祐斗の聖魔剣だ、あれは重要なファクターの一つだからな。祐斗の思いが成就された証だけのことはある」

 「二つ目は聖書の神の不在を知ること、これが一番重要だ。これからこの物語(おはなし)は大きな流れへと呑み込まれる、その布石だ」

 「最後にヴァーリ、白龍皇だ。イッセーのライバルとなるべき相手の顔見せだな。実力の差を見せてもよかったんだが、今回はお預けだ」

 「こんなところだな」

 「色々聞きたいところがあるけどもういいわ。祐斗の聖魔剣はともかく、私たちと神の不在に何の関係があるの?」

 「いつか必ずわかる。今は必要なことだった、としか言えないな。俺もはっきりとしたことはわかっていないのだから」

 ゼロ兄はそう区切った。
 まあ大変なことにならなくてよかったのかな・・・・・・。
 このあと、木場が勝手なことをした罰として部長にお尻叩き千回をもらっていた。
 あれは・・・・・・爆笑物だった。














遠山金次は大したことをせずに去っていきました
もちろんこの後も登場します


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