Side イッセー
次の日の放課後。
俺たちグレモリー眷属の悪魔たちはゼロ兄を除いて部室に集められていた。黒歌さんとロズヴァイセさんも来ている。
結局ゼロ兄は家に帰ってこなく、知人の家に泊まってきたそうだ。その知人は裏の世界の関係者らしい。電話で言ってた。
ソファに座っているのは、部長と朱乃さん―――そして、例のキリスト教会側の女性二人だ。
部室に彼女たちが入ってきてから肌寒いものを感じてならない。悪魔の本能が彼女たちの危険性を察知しているのだろう。
まあ栗毛のツインテールのほうは幼馴染なんだけどな。
肩までかかった青髪に緑色のメッシュを入れている目付きの悪い女性はきょろきょろと部室を見回している。いったいなぜ?
幼馴染の紫藤イリナもなんだか様子がおかしい。なんだかわからないけれどすごく辛そうにしている。
部長と朱乃さんは真剣な面持ちだと言うのに向こう側の態度がちょっと・・・・・・。
それにしても、一番危なっかしいのは木場だ。彼女たちを怨恨の眼差しで睨んでいる。今この時点でも斬りかかっていきそうな雰囲気だ。
木場の過去を考えれば、はらわた煮えくり返るのもわかるが、今は自重してくれよ?
「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」
この空気の中で口を開いたのはイリナだった。
ゼロ兄から現在のエクスカリバーは大昔の戦争で一度折れて、折れた破片を拾い集めて錬金術によって新しく作り直された、と聞いている。確か七本あるんだったっけ?
二人から手持ちのエクスカリバーが紹介される。
一つ一つのエクスカリバーが特殊な力を有しているらしい。
しかし、この場に伝説のエクスカリバーが二本あるって言うのはすごいことなんじゃないか?
と思っているとき、近くからとてつもないプレッシャーを感じた。
―――木場だ。
いまだかつて見たことがないような鬼の形相でエクスカリバーと彼女たちを睨んでいた。
落ち着け。飛び出してくれるなよ、木場。
「それで、奪われたエクスカリバーがどうしてこんな極東の国にある地方都市に関係あるのかしら?」
部長は相変わらずの態度で話を進める。
しかし、緑のメッシュを入れたゼノヴィアと呼ばれた彼女が顔をしかめた。
「もしかしてあいつに、ゼロに聞いていないのか?」
えぇぇぇぇぇぇぇ!!??
なんでそこでゼロ兄が出てくるんだ!?
「き、聞いていないわ?」
さすがの部長も驚いている。
「では話そう。カトリック教会の本部に残っているのは私のを含めて二本だった。プロテスタントのもとにも二本。正教会にも二本。残るは神、悪魔、堕天使の三つ巴の戦争の折に行方不明。そのうち、各陣営にあるエクスカリバーが一本ずつ奪われた。奪った連中は日本に逃れ、この地に持ち込んだのさ」
聖剣泥棒はこの地方都市がお気に入りですか。
「私の縄張りは出来事が豊富ね。それでエクスカリバーを奪ったのは?」
「奪ったのは『神の子を見張る者』だよ」
その答えに部長は目を見開いた。
「堕天使の組織に聖剣を奪われたの?失態どころではないわね。でも、確かに奪おうとしたら堕天使ぐらいなものかしら。上の悪魔にとって聖剣は興味の薄いものだもの」
「奪った主な連中は把握している。グリゴリの幹部、コカビエルだ」
「コカビエル・・・・・・。古の戦いから生き残る堕天使の幹部・・・・・・。聖書にも記されたものの名前が出されるとはね。それで、なんでうちのゼロが出てくるのかしら?」
そこで聞きますか。でも俺も気になってた。
「実は、昨晩にゼロと会ってな。こちらの事情をある程度把握しているようだった。コカビエルの動向にも気付いているようだ」
ゼロ兄ェ。一人でなにやってんだよ。
ガチャ。
「なんだ。もうやっていたのか」
急に扉が開き、ゼロ兄が部室に入ってきた。
「ゼロ!あなた何をやっていたの?」
部長が顔を引きつらせながら聞く。
ゼロ兄はそんなものはお構いなしと口を開いた。
「朗報だ。話は進んでいるようだから説明は省くが、今回の聖剣強奪はコカビエルの独断、『神の子を見張る者』上層部は一切の関与をしていないとのこと。近く堕天使陣営よりコカビエル討伐の人員が派遣されるそうだ」
本当に何をやっていたんだよ・・・・・・。どう考えても堕天使と接触しないと得られないような情報じゃん。
黒歌さんだけが心当たりがあるらしく、顔を引きつらせている。
「ゼロさん、話の中で気になっていたんですけど。このお二人はお知り合いなんですか?」
ロスヴァイセさんが手を上げてゼロ兄に聞く。
「悪魔になる前の知り合いだ。イッセー、一年ほど前のGWにイタリアに旅行に行っただろう?ゼノヴィアとはそのときに知り合ったんだ」
急にいなくなって何をやっているのかと思ってたら、そんなことをやってたのかよ。
「ところでゼロ、私に何か言うことはないのか?」
ゼノヴィア、でいいのかな?がゼロ兄に目配せをしながら聞く。
「・・・・・・ああ」
ゼロ兄はなんのことを言われたのか気付いたようだ。なんだろう。
「髪を伸ばしたんだな。似合っているぞ」
「ふふふ、お前が髪は長いほうがいいと言っていたからな。そうか、似合うか」
・・・・・・そんなことかよ!危うくこけるところだったよ!
俺と木場、アーシア以外の全員がゼノヴィアを睨んでいるし。イリナまでもが。
「だからなんでこうポンポンと・・・・・・」
「また先を越されるのは嫌ですわ・・・・・・」
「先輩の色狂い・・・・・」
「私の見ていないところで・・・・・・」
「ゼロさんモテモテです・・・・・・」
「私なんか目を合わせてくれすらしないのに・・・・・・」
ゼロ兄・・・・・・なにハーレム築いてるんだよ。羨ましいよ。俺は上級悪魔にならないとハーレムを築けないのか?
今回のことは悪魔側は介入しないでくれと言う話だったんだけど。
「いやはや、なんでこうなったし」
俺たちは球技大会の時に練習に使っていた場所に立っている。
少し離れたところに木場。更に俺たちと退治するかのように紫藤イリナとゼノヴィアがいる。
更に俺たちを丸ごと囲むように赤い魔力の結界が発生していた。
「では始めようか」
イリナとゼノヴィアは白いローブを脱ぎ、黒い戦闘服となっていた。
肌は晒していないが、ボンテージっぽくてエロいな・・・・・・。体の線が浮き彫りになっている。
ゼロ兄に惚れてるっぽいから手は出さないけど、眺める分にはいいよね?
ゼノヴィアは獲物の布を取り払い、エクスカリバーを解き放つ。
イリナのもつ変化するエクスカリバーも日本刀の形になっていた。
なんでこんなことになったか説明しておく。
先ほどこの二人がアーシアのことを『魔女』と呼んだため俺がキレて口論する中、木場が飛び込んできて、一触即発の空気になった。
部長としても立場的に下僕がケンカを売り始めたので、対応に苦慮していた。そこへゼノヴィアが提案を申し込んできたんだ。
「リアス・グレモリーの眷族の力、試してみるのも面白い。―――それに『先輩』とやらの力も気になる」
木場のケンカをゼノヴィアが買った。
しかも教会には一切知らせない私的な決闘だと、付け加えてきた。あちらも多少は察してくれたようで、殺し合いに発展しなければ問題ないとしたんだ。
で、俺も参戦している。
口論の延長戦上がこれか?アーシアのことを悪く言われたからかなりキレてたけどさ、こういう決闘になるとは思っていなかったんだけど。
まあゼロ兄直伝の対聖剣対処法を使うときが来たってことだな。
聖剣で斬られると悪魔は滅せられる。体を消失させられてしまうんだ。
怖い。マジで怖い!斬られたくない!
木場の方は既に神器を発動して、自らの周囲に魔剣を数本出現させている。
「笑っているのか?」
ゼノヴィアが木場に聞く。
木場は不気味なほどの笑みを浮かべている
薄ら寒くなるほどの笑顔だ。
「うん。倒したくて、壊したくて仕方がなかったものが目の前に現れたんだ。嬉しくてさ。ふふふ、悪魔やドラゴンの傍にいれば力が集まるとは聞いていたけど、こんなにも早く巡り合えるなんてね」
ドライグもそんなことを言っていた。ドラゴンの力に惹かれて、いろんなものが集まって来る―――と。
「・・・・・・『魔剣創造』か・神器所有者の頭の中で思い描いた魔剣を作り出すことが可能。魔剣系神器の中でも特異なもの。・・・・・・『聖剣計画』の被験者の処分を免れた者がいるかもしれないと聞いていたが、それはキミか?」
ゼノヴィアの問いに木場は答えない。ただただ、殺気を向けているだけだ。
「兵藤一誠くん・・・・・・」
ゾクッとするぐらい暗い声で俺の前に立つ紫藤イリナが俺を呼んだ。
「私ね、日本を去る前の日にゼロに告白したの。でもその時に上級悪魔に襲われてね?私を人質にしようとしていたらしいの。ゼロは私のことを身を挺して守ってくれたわ、でも私はゼロの差し伸べてくれた手を恐怖から拒んでしまった。・・・・・・ねぇ、私はどうしたらいいの?」
え?なに?この娘?滅茶苦茶怖いんですけど?
「どうしたら、私はゼロと仲直りできるのかな?」
光の無い暗い目で俺にそんなことを聞かないでください!!というか聖剣を向けながら聞くことじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
「自分で考えてくれ!ブーステッド・ギア発動!」
『Boost!』
赤い閃光を放ち、俺の右腕に篭手が現れる。
俺の神器を見てイリナとゼノヴィアがビックリした様子を見せる。
「・・・・・・『神滅具』?」
「それって『赤龍帝の篭手』?まさか従兄弟揃ってドラゴン使いだなんて」
どちらも顔をしかめていた。
「イッセーくんに気を取られていると、怪我だけじゃ済まなくなるよ!」
木場がゼノヴィアに斬りかかる。
「僕の力は無念の中で殺されていった同志たちの恨みが生み出したものである!この力で、エクスカリバーを持つ者を打ち倒し、そのエクスカリバーを叩き折る!」
木場は殺された被験者たちの復讐を誓っているのか。
「こちらもいくよ、イッセーくん」
ヒュッ!
イリナが勢いよく斬りかかってくる。
殺すつもりか!本気で首を取りに来てたぞ!
「まだまだ!」
『Boost!』
俺の体に力が流れ込んでくる。もっとだ!まだ足りない!
ドライグに頼んで作ってもらった新機能を試すか?それともゼロ兄にもらった『星片』を使うか?いや、こっちは奥の手だ!
ちなみにいまさらだがゼロ兄はここに来ていない。
「ゼロ兄の地獄のシゴキに耐えた俺の力!見せてやるぜ!」
『Dangerous Drive!!』
俺は結局新機能を使った。なんか名称がおかしい・・・・・・。
まあいい効果時間は三秒だ。鍛えればもっと延びるかもしれないけど今は三秒だ。
俺はイリナに向かって軽く跳びながら突きを放つ。
ドガァァァァンッ!
「むきゃぁぁぁぁぁ!?」
「なっ、何が起こった!?」
はい、吹き飛びました。いろんな物が。木場やゼノヴィアにまで影響が出ている。
「んきゅぅぅぅぅぅぅん?」
イリナの奴はのびてしまった。まあ仕方ないよね。
『Reset!』
あ、終わった。
今のを含めて二回しか使ったことがないけど、これを使った後は疲労感が半端じゃない。俺も地面に大の字になって寝っ転がる。眠たくなってきた・・・・・・。
「Zzz・・・・・・」
「むにゃ?」
「あ、イッセーさんが起きました!」
目が覚めるとアーシアの顔が見えた。・・・・・・あれ?もしかするともしかしなくてもこれは?
「・・・・・・」
膝枕だぁぁぁぁぁ!!
ちなみに木場は冷静さを欠いて完敗したらしい。
Side ゼロ
最後の最後で俺の出番か。
「グハッ!ちょっ!ハメ技禁止!」
シュババババババッ
「・・・・・・」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!落ちる!残機があともう一つしかない!」
キュピーンッ
「・・・・・・」
「やめろ!お前その技強すぎる!」
ドカァァァァァン
「・・・・・・なあ」
「ぎゃあ!猛攻の中話しかけるなよ!」
ズバラッボンッ
「・・・・・・なんで俺はこんな時にゲームなんてやってるんだ?」
「あ?そんなの俺が呼んだからに決まってんだろ」
「だからってなんでゲームなんだよ」
「いいじゃねえか。『大決闘スマッシュファミリーズ』面白いだろう?」
「・・・・・・もういいよ。ところでアザゼル、コカビエル討伐には誰をよこすつもりだ?」
「うーん、ヴァーリでいいよな?」
「まあ、それでいいか」
『YOU WIN!』
「あれ?いつのまに?」
「すまんなアザゼル。面倒なんで終わらせてもらった」
「もう一回だぁぁぁぁぁぁ!!」
『いつまでそうやってるつもりだい?』
フッ、残念なイケメンとはよく言ったものだ。
『お前はどうなんだよ?』
俺か?そんなことは知らん。
それにしても、しばらくは憂鬱だな。
『別に拒む必要は感じないと思うけどな』
ダメだな。俺自身まだ割り切れていないところがあるし、イリナにもあの日の恐怖が残っている。
『みたいだな』
「乗り越える必要があるかもな」
『どうやって?言っておくが、幼少期のトラウマなんて簡単には拭い去れないぜ?』
「知らん」
『知らんって、言った矢先に無責任だな』
「俺をほったらかしてなんの話だよ」
「なに、くだらないトラウマと後悔だよ」
『確かにくだらねぇな』
そう、くだらないものだ。
『Dangerous Drive』
ゼロの助言で作った赤龍帝の篭手のオリ機能。瞬発的に限界以上にまで力を上乗せする超短期決戦用の機能。
今はまだ短すぎるためほとんど役に立たないと思っていい。現在は使用後の疲労感が半端ではないが伸び代に期待できるように作った機能だ。
取り合えず寿命には影響は無い。けど疲れる、とてつもなく疲れる。
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