月光校庭のエクスカリバー
燃えろ、オカルト研究部!2
Side ゼロ
「部長ぉぉぉぉ!頑張れぇぇぇぇ!」
テニスコートのフェンスからイッセーがリアスにエールを送っている。
俺はその隣でただ静観している。
「会長様ぁぁぁぁ!キャー!」
リアスの対戦相手は生徒会長だ。
「うふふ、上級悪魔同士の戦いをこんなところで見られるなんて素敵ですわね」
隣で朱乃が上品に、かつ楽しそうに言う。
言われてみればそうだが、内容は人間的な意味で普通だぞ?
「いくわよ、ソーナ!」
「ええっ、よくってよ、リアス!」
二人ともノリノリだな。
「会長ぉぉぉぉぉ!勝ってくださぁぁぁぁい!」
匙ってやつが反対側のフェンスで応援している。『生徒会』と刺繍された旗まで振っている。気合が入っているな・・・・・・。
「おくらいなさい!支取流スピンボール!」
ブッ。
「甘いわ!グレモリー流カウンターをくらいなさい!」
んなもんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
「15-30!」
「やるわね、ソーナ。さすが私のライバルだわ」
「うふふ、リアス。負けたほうが小西屋のトッピング全部つけたうどんを奢る約束、忘れてないわよね?」
「ええ、私ですらまだ試していないそれを先を越されるなんて屈辱だわ。絶対に私が勝たせてもらう!私の魔動球は百八式まであるのよ?」
「受けて立つわ。支取ゾーンに入ったものは全て打ち返します」
く、くだらねぇ・・・・・・。くだらなすぎる。つうかお前ら貴族の令嬢だろうが、なんでそんな庶民的な賭けをしてるんだよ。
「皆!これを巻いてチーム一丸になろうぜ!」
もうすぐ部活対抗戦が始まろうと言う時に、急にイッセーが数枚の長い布を取り出した。
よく見たらハチマキだ。『オカルト研究部』と刺繍が施されている。
「あら、準備がいいのね」
「これ手作りだな?」
「うん、イッセーって以外に器用ね。うまく出来てるわ」
「実はこっそり練習してました」
そう言えばこいつ、布と糸を買ってきてたな。
「予想外の出来映え」
「あらあら、たしかに他の部活動のチームではチーム一丸になるためのアイテムを着用していますわね。帽子だったり、ユニフォームだったり」
「そうです、朱乃さん!そんなわけで俺も作ってみました!」
額に巻く。悪くないな。
「ほら、木場」
「・・・・・・う、うん。ありがとう」
「・・・・・・いまは勝つことに集中しろ」
「・・・・・・勝つか。そうだね・・・・・・。勝つことが大事だ」
イッセー・・・・・・祐斗は違う意味で捉えてるんじゃないか?
『オカルト研究部の皆さんと野球部の皆さんはグラウンドへお集まりください』
アナウンスで呼び出しが掛かる。まあ俺の独断場と化してもいいが、どうするかな。
「狙え!兵藤一誠を狙うんだ!」
「うおおおおおっ!てめぇら、ふざけんなぁぁぁぁ!」
イッセーが必死に飛んでくる剛速球を避けている。
開始された球技大会の部活対抗戦。種目はドッジボールで初戦の相手は野球部。開始早々何故かイッセーだけが狙われていた。
まあ単純な話だ。
リアス―――駒王学園の二大お姉様の一人。大人気の学園アイドル。当てられない。
朱乃―――リアスと同じく二大お姉様の一人。学園のアイドル。当てられない。
アーシア―――二年生ナンバー1の癒し系美少女。しかも金髪。当てられない。
小猫―――学園のマスコット的なロリ美少女。当てたらかわいそう。
祐斗―――全男子の敵だが、当てたら女子に恨まれる。当てられない。
俺こと零―――同じく全男子の敵だが、当てたら女子に恨まれる。当てられない。
イッセー―――アーシアを独り占めしているのはおかしい!当てても問題ないだろう。いや、当てるべきだ!変態エロ三人組の一人出し当てても文句は言われない!死ね!ヘッドショットで行くぜ!ブッ殺してやる!
野球部の心の声が聞こえてくるようだ・・・・・・。
「イッセーを殺せぇぇぇぇ!」
「アーシアちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!ブルマ最高ぉぉぉぉぉぉぉぉ!イッセー、死ねぇぇぇぇ!」
「アーシアさんを正常な世界へ取り戻すんだ!」
「落ちろ!右!いや、正面か!」
「出てこなければやられなかったのに!」
ギャラリーからも死ね死ねコール。全員の目がギラギラとした殺意に満ちている。
「イッセーにボールが集中しているわ!戦術的には『犠牲』ってことかしらね!イッセー、これはチャンスよ!」
リアス、イッセーを見捨てるのか?
「クソォ!恨まれてもいい!イケメンめぇぇぇぇ!」
一人の豪胆な野球少年が祐斗に向かって照準を合わせた。
「何ボーッとしてやがるんだ!」
あ、イッセーが庇った。
「・・・・・・あ、イッセーくん?」
おい、どんだけ上の空だったんだよお前。
祐斗に向かって投げられていたボールは変化球のフォークのように降下して・・・・・・。
ドォォォォォォォンッ!
・・・・・・イッセーはその場に倒れこんだ。
股間に手を添え、内股になってピクピク震えている。
駆け寄っていく部員たち。特にアーシアが一番素早かった。
「あ、アーシア・・・・・・ぶ、部長・・・・・・。た、玉が、俺の・・・・・・」
「ボールならあるわ!よくやってくれたわね、イッセー!さて、私の可愛い下僕をやった輩を退治しましょうか!」
あれ?もしかして理解していない?
「アーシア、物陰に隠れてイッセーのこの辺りにヒーリングを使ってきてくれ」
俺はイッセーの押さえている股間を指差しながら言う。
「は、はい。イッセーさん、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ。男のここには急所があるんだ。取り合えず痛みだけのはずだから大したことはない。小猫、引きずってでも見えないところに運んでいってくれ」
「はい」
不能になったりはしないだろう。たぶん。
「ぶ、部長、お、お役に立てなくて・・・・・・」
「いいのよ、イッセー。あなたはよくやってくれたわ。後は私たちに任せなさい」
むんず。
ずーりずーり。小猫がイッセーの襟首を掴んで引きずっていく。
「イッセーさん!気をしっかり!」
アーシアがイッセーを励ましながら付いていく。
「イッセーの弔い合戦よ!」
死んだことにされてるよ。
「ゼロさん、お疲れ様です」
「コーラ持ってきたよ」
「ありがとう」
全ての試合が終わって、休憩していると黒歌とロスヴァイセが来た。二人ともジャージ姿だ。
黒歌からビンコーラを受け取り、一気に飲み干す。
ちなみに黒歌は学校で一般生徒がいるところではネコ語尾を使わない。
「最近どうしたんですかゼロさん。祐斗さんもそうですけど、ボーッとしていることが多いですよ」
「何か悩み事でもあるの?」
「ちょっとな。近いうちにわかるさ」
そう、近いうちにな。
俺の脳裏に返り血を浴びた俺と恐怖に顔を歪ませた一人の少女の姿が過ぎさる。
Side イッセー
ザーッと、外はすっかり雨模様。大会が終わった後だったのが幸いだ。
パン!
雨音に混じって乾いた音が響く。叩かれたからだ。俺ではない。―――木場だ。
「どう?少しは目が覚めたかしら?」
部長はかなり怒っている。
協議は俺たちオカルト研究部の優勝。途中から俺、アーシア、小猫ちゃんが復帰し、チーム一丸で勝利したんだけど。
一人だけ非協力的な奴がいた。木場のことだ。
何度か貢献してくれたが、終始ボケッとしていた。試合中も部長が怒っていたけど、それでも木場はどうでもよさそうにしていた。
いまここにはいないが、ゼロ兄もボーッとしていることも多かった、が、しっかりと勝利に貢献していたから問題はない。
頬を叩かれても木場は無表情、無言だった。
こいつ、本当に木場か?あまりの変貌振りに別人のように思えてしまう。
と、木場は唐突にいつものニコニコ顔になる。
「もういいですか?球技大会も終わりました。球技の練習もしなくていいでしょうし、夜の時間まで休ませてもらっていいですよね?少し疲れましたので普段の部活は休ませてください。昼間は申し訳ございませんでした。どうにも調子が悪かったみたいです」
「木場、お前マジで最近変だぞ?」
「君には関係ないよ」
俺が問うが、木場は作り笑顔で冷たく返してくる。
「俺だって心配しちまうよ」
俺の言葉に木場は苦笑する。
「心配?誰が誰をだい?基本、利己的なのが悪魔の生き方だと思うけど?まあ、主に従わなかった僕が今回は悪かったと思ってるよ」
うーん、少し言っておいたほうがいいかな。
「チーム一丸でまとまっていこうとしていた矢先でこんな調子じゃ困る。この間の一戦は特訓の成果もあったから勝てたけど、お互い足りない部分を補うようにしなきゃこれからダメなんじゃねぇかな?仲間なんだからさ」
俺の言葉に木場は表情を曇らせる。
「仲間か」
「そう、仲間だ」
「君はいいね。・・・・・・イッセーくん、僕はね、ここのところ、基本的なことを思い出して痛んだよ」
突然、木場が勝手にそう話し出す。
「基本的なこと?」
「ああ、そうさ。僕が何のために戦っているか、を」
「部長のためじゃないのか?」
そうだと思っていた。そうなのだと俺はかたくなに信じていた。一人身勝手なまでに。
それは即否定される。
「違うよ。僕は復讐のために生きている。聖剣エクスカリバー―――。それを破壊するのが僕の戦う意味だ」
木場の決意を秘めた表情。
そのとき、俺は初めてこいつの本当の顔を見た気がした。
「入りますよ」
「ようやく仕事が終わったにゃん」
木場が部室を出て行って一時間ほどたったころ、黒歌さんとロスヴァイセさんが部室に入ってくる。あれ?
「黒歌さん、ゼロ兄は一緒じゃないんですか?」
さっきからゼロ兄の姿が見えなかったから一緒にいるものかと思っていた。
「ゼロなら用事があるってどこかに行ったにゃん」
「帰りはかなり遅くなるから夕食はいらないとも言っていました」
ゼロ兄もさっきの木場と似たような感じのところが最近あったから少し心配だな・・・・・・。
Side ゼロ
土砂降りの雨の中、俺はとある公園に来ていた。
家からは大分離れた場所にある忌々しいことがあった公園だ。雨に打たれながら棒立ちになって空を見上げる。
「懐かしいな二人とも。紫藤の方は何年ぶりになるのかな」
俺は背後に現れた気配に話しかける。
「まさかお前が悪魔になっていたとはな、ゼロ」
「人を遥かに超えた長い寿命に惹かれたんだよ、ゼノヴィア。天使や堕天使になる術は存在しないからな」
「そうか・・・・・・」
俺は振り向かずに空を見上げたままだ。
「・・・・・・」
後ろにいるもう一人のほうは口を開かずに俯いている。
「コカビエルが下僕を連れてなにかやっているようだが、お前たちはその関係でこっちに来たのか?」
「そうだ。聖剣エクスカリバーがコカビエルに強奪された。私たちはそれの奪還のためにこちらに赴いた」
ゼノヴィアとの情報交換が成立する。
「お前たち二人だけでコカビエルに勝てるとでも?」
「思っていない。最悪エクスカリバーの破壊が目的だ」
死ぬ覚悟があるようだな。
「あ、あの!」
俯いていたほうが顔を上げて声を掛けてくる。
「なんだ、紫藤」
「・・・・・・も、もう私のこと、イリナって呼んで、くれない、のかな?」
「・・・・・・知らん」
俺は二人を一瞥し、踵を返して歩き出す。
「俺はもう行く。明日、駒王学園で会おう」
「あっ・・・・・・」
俺は雨の中、とある高級マンションを目指して歩き出した。研究好きの知人に会うために。
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