Side イッセー
深夜、自転車を飛ばして訪れたのは一軒家だ。
呼び鈴を押そうとしたところ、玄関のドアが開いていることに気が付いた。
こんな深夜に不用心だな・・・・・・。
得体のしれない不安が俺を襲うが、俺は玄関から中を覗き込み、家の中を見る。
廊下の電気はついておらず、二階への階段もあるがこちらも電気はついていない。一階の一番奥の部屋にだけ淡い光がついていた。
なんだ?人気を感じられない。とてつもなく嫌な感じがする。
「・・・・・・ちわース。グレモリー様の使いの悪魔ですけど・・・・・・。依頼者の方、いらっしゃいますか?」
俺は忍び足で上がり、明かりのついている部屋を覗き込む。返事はない。仕方がないんで部屋に足を踏み入れた。
どこにでもあるリビングの風景―――。
だが、俺はあるものを見て息をつまらせ、視線を釘付けにした。
壁だ。リビングの壁に死体が貼り付けられている。上下逆さまで。
人間の男性。この家の人?てか、なんで?
切り刻まれた体。臓物らしきものが傷口からこぼれて・・・・・・。
「ゴホッ」
俺はその場で腹からこみ上げてきたものを吐き出した。見るに耐えない・・・・・・。
逆十字架の格好で壁に貼り付けられているけど、貼り付けに使われているのはでっかい釘だ。
太くて大きな釘が両手のひら、足、そして胴体の中心に打ち付けられている。
尋常じゃない。ヤバイ、やばすぎる!
ふと見ると、男の打ち付けられた壁に血文字で何か書かれている。
「なんだ、これ」
「『悪いことする人はお仕置きよー』って聖なるお方の言葉を書いたのさ」
俺が血文字を眺めながら呟くと、後ろから若い男の声がした。
振り向くと、白髪の男がいた。若い、外国人だ。十代くらいだと思う。神父らしい格好をしていて、ついでに美少年って奴だ。
その若い神父は俺を見てニンマリと笑った。
「んーんー。これはこれは、悪魔くんではあーりませんかー」
実に嬉しそうだ。
俺の脳裏に部長が言った単語が過ぎる。
―――『悪魔祓い』―――
ヤバイ。神父だよ。教会関係者だよ。
しかも俺のことが悪魔って認知してるし、最悪の状況だ。
「俺は神父♪少年神父~♪デビルな輩をぶった斬り~、ニヒルな俺が嘲笑う~♪お前ら悪魔の首刎ねて~♪俺はオマンマもらうのさ~♪」
突然神父が歌いだす。
歌詞の内容からして敵意、というか殺意がビンビン湧き出ている。
「俺の名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属してる末端でございますですよ。あ、別に俺が名乗ったからって、お前さんは名乗らなくていいよ。俺の脳容量にお前の名前なんざメモリしたくないから、止めてちょ。大丈夫、すぐに死ねるから。俺がそうしてあげる。最初は痛いかもしれないけど、すぐに泣けるほど快感になるから。新たなる扉を開こうZE!」
言動が滅茶苦茶だ。今まで会ったことのないタイプの人種だ。
たしか、頭がイカレた悪魔祓いは堕天使陣営である『はぐれ悪魔祓い』の可能性が高い、ってゼロ兄が言ってたな。と言うことはこいつは夕麻ちゃんのところの駒ってところか・・・・・・。
「おい、お前か?この人を殺したのは?」
「イエスイエス。俺が殺っちゃいました。だってー、悪魔を呼び出す常習犯だったみたいだしぃ、殺すしかないっしょ」
なんだそりゃ!
「あんれ?驚いてるの?逃げないの?おかしいねぇ、変だねぇ。つーかね、悪魔と取引するなんて人間として最低レベル、クズ街道まっしぐらっスよ。その辺ご理解できませんかねぇ?無理?あーそうですか。クズ悪魔ですもんねぇ」
ヤバイヤバイヤバイ!こいつ、話にならねぇ!何とか時間稼ぎしないと!
幸い、こいつはかなりのおしゃべり野郎だ。何とか会話しないと!
「人間が人間を殺すってどうなんだよ!お前らが殺すのは悪魔だけじゃないのか?」
「はぁぁぁ?なにそれ?悪魔の分際で俺に説教?ハハハ、笑える笑える。お笑いの賞取れますですよ、それは。いいか、よく聞けクソ悪魔。悪魔だって、人間の欲を糧に生きてるじゃねぇか。悪魔に頼るってのは人間として終わった証拠なんですよ。エンドですエンド。だから、俺が殺してあげたのさー。俺、悪魔と悪魔に魅入られた人間をぶっ殺して生活してるんで、お仕事ざんすよ」
「あ、悪魔だって、ここまでのことはしない!」
「はぁ~?何、言ってんの?悪魔はクソですよ。クソのような存在なのですよ?常識ですよ?知らないんですか?マジ、胎児からやり直したほうがいいって。って、人間から転生したっぽい悪魔のお前さんに胎児もクソもないか。むしろ、俺がお前を退治!なーんてな!最高じゃね?最高じゃね?」
神父は懐から刀身のない剣の柄と、拳銃を取り出した。
ブィン。
空気を振動させる音。
柄だけの剣が、ビームサーベルみたいに光の刀身を作り出す。
「俺敵にお前があれなんで、斬ってもいいですか?撃ってもいいですか?OKなんですね?了解です。いまからお前の心臓にこの光の刃を突き立てて、このカッコイイ銃でお前のドタマに必殺必中フォーリンラブしちゃいます!」
来た!
神父はその場から俺に向かって駆け出し、光の刀身を横なぎに振るった。
Side ゼロ
クソッ!忘れてた!イッセーの今回の契約相手、フリードの外道神父が出てくるところじゃねえか!
原作通りなら大丈夫なはずだが、無事なのか?
「イッセー無事か!」
「兵藤くん、助けに来たよ」
魔方陣で転移した瞬間、魔力で右腕に氷の両刃剣を纏わせる。
「あらあら。これは大変ですわね」
「・・・・・・神父」
イッセーが感動で涙目になっている?
「ひゃっほう!悪魔の団体さんに一撃目!」
イッセーと相対していた神父が構わず斬り込んできた。
スパンッ。
軽い空気が弾けた音が響く。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は右腕の氷の剣で神父の片腕を斬り落とした。
神父は何が起こったのかわからず、腕のなくなった肩をもう片方の手で押さえた。
「何しやがるこのクソ悪魔がぁぁぁぁ!!」
「俺の愚弟に手を出してくれたようだな。手足の四本なくなっても軽いほうだと思え」
スパパンッ。
俺が右腕を振るうと再度空気の弾けた音がなり、神父の手足が全て胴体から離れていった。さらに接合しても使い物にならないように、肉を軽く凍らせて壊死させておく。
「気絶したか・・・・・・」
俺は神父の目を覗き込んでから呟く。
手早く神父の武器であった刀身のない剣の柄と弾倉の付いていない拳銃を拾い、懐にしまう。
「イッセー、ごめんなさいね。まさか、この依頼主の元に『はぐれ悪魔祓い』のものが訪れるなんて計算外だったの」
俺がイッセーのほうを向いたころには、リアスがイッセーに向かって謝っていた。
「イッセー、ケガをしたの?」
「すみません。そ、その、撃たれちゃって・・・・・・」
イッセーは半笑いで誤魔化そうとしているようだ。
あ~、リアスから放たれる怒気が怖い~。でも俺が手早く始末(?)しちゃったからアタル相手がいない~。
そんなことをやっていると、この場所に近付く気配を感じる。
「リアス、堕天使が複数近付いてきたぞ。殺るか?」
「いえ、帰還しましょう。朱乃、ジャンプの用意を」
「はい」
激情に任せてフリードを物語の舞台から退場させてしまったが、概ね原作通りかな。
いや、三巻辺りがかなり不穏な状況になるな。この先が少し怖い・・・・・・。
「部長!あの子も一緒に!」
イッセーが傍らにいたシスターの少女を指差しながらリアスに言う。
「無理よ。魔方陣を移動できるのは悪魔だけ。しかもこの魔方陣は私の眷属しかジャンプできないわ」
悔しそうに歯噛みするイッセー。
「アーシア!」
「イッセーさん。また、また会いましょう」
朱乃の詠唱が終わり、床の魔方陣が青く光りだす。
「イッセー、その娘から離れろ。転移するぞ」
俺が言うと、イッセーは素直に下がった。次の瞬間、俺たちは部室へと転移した。
最後に、イッセーは暗い顔をしたままだった。
今日、イッセーは学校を休んだ。ちなみに俺もだ。
俺は学校を休んでまで堕天使について調べているということだ。
イッセーはあの外道神父から受けた傷が完治していないから大事を取って、ということになっている。
まああいつ普通に外に出ているけどな。
こう言うときに黒歌が役に立つ。
普段は居候だが、あの首輪に付けられた機能の一つに視覚の共有がある。つまり、黒歌の目に写るものは俺の目にも移すことが出来るということだ。密偵に使えるだろう?
まあ、黒歌を使って何をしているかというと、要するにイッセーの監視だ。
既にアーシア・アルジェントの姿も捕捉している。
はっきり言おう。
「デートじゃねえか」
『デートにゃ』
『デートだねぇ』
俺が呟くと黒歌とストラーダが念話で続く。
ん?いい加減ストラーダが誰か教えろってか?大体予想は付いているだろうが、紹介は今度だ。言ってしまえばドライグやアルビオンに似た存在だ。
しかし、アーシアはラッチューくんみたいなものが好きなのか。可愛い物好きか?
『でしょうね』
『だろうな』
念話で思考の返事が返ってきた。口に出てたかな?
それから数時間かけて二人は遊び倒していた、ゲーセンでだけど。
『楽しそうだからいいんだにゃん♪』
「お巡りさんに見付かったら即補導だぞ」
『学校サボってゲーセンだもんなぁ?』
『ゼロ、今度私とデートするにゃ』
「はいはい」
お?堕天使どもに動きが出た。
「黒歌、万が一の時はイッセーのことを頼むぞ?」
『任せるにゃん♪』
「なるべく介入するのは控えろよ?堕天使にはイッセーの踏み台になってもらわなくちゃならないからな」
『終わったら高くつくからね~♪』
「はいはい、切るからな」
プチンッ、と音を立てて黒歌と共有されていた視覚は元に戻る。と言っても片目だけだったんだけどね。
さて、レイナーレの三人の配下堕天使には情報を吐いてさっさとご退場していただきますか。
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