◎鎮痛剤:
月経の度に鎮痛剤を飲む治療法は最悪の治療法で、内膜症や子宮腺筋症はどんどん進行悪化します。
◎月經を停止する子宮内膜症治療薬:
最近よく使われる市販の子宮内膜症治療薬は点鼻薬も注射薬も内服薬もほとんどは卵巣からのホルモン分泌を低下または停止させる薬です。卵巣ホルモン欠乏のため更年期障害様症状と骨粗鬆症という全身的副作用が出る他、投与された薬が血管に入り全身を循環するためにいろいろな全身的副作用もでます。これらの副作用を最小限にするために薬剤投与は6ヶ月で中止します。中止後 卵巣からのホルモン分泌が再開され、その刺激で子宮内膜症が元気を取り戻し約90%は再発してきます。そのうえこれら市販の子宮内膜症治療薬は内膜症自体を根本的に治癒させる効果を持っていません。結局 投与中だけ一時的に内膜症の進行を抑える薬なのです。
◎ピル(ルナベル):
ピルすなわち経口避妊薬を子宮内膜症の治療に使用する方法もあります。服用中だけ月経痛が軽くなり、月経の出血量が減少しますが、投与を止めると内膜症は治療前の病態に戻ります。これも内膜症自体を治す薬ではありません。
黄体ホルモン剤(デイナゲスト):
黄体ホルモン剤 特に最近内膜症治療薬として承認されたデイナゲスト錠内服により無月經となり、痛みもなくなります。45歳以上の方ですと閉経になるまで連続内服できます。但し内服中に大量出血がおこることがあり、また妊娠希望の若い女性の治療には不適当です。
局所的薬剤療法:
そこで内膜症自体に作用して根本的に治癒させる作用を持ち、しかも全身的副作用がなく再発しない理想的薬剤療法の開発が世界中で切望されています。私は過去20年以上前からこのような3条件を大体満足できる理想的な新しい治療法について研究してきました。それが薬を内膜症組織に直接注射する治療で、治療中排卵も月經も抑制されません。将来妊娠希望のある女性の内膜症治療に適しています。
4) 子宮内膜症の最善の治療法・治療のコツ
子宮内膜症は(だんだん悪化する)進行性の病気ですので、年々病気が拡大悪化して最期は治療しても治りにくくなります。従つて治療にあたって一番大切なこと、治療のコツは早期受診、早期診断、早期局所治療、さらに付け加えると、早期妊娠の4つになります。
(ア)早期受診
早期受診とは25歳過ぎの女性で月経痛(生理痛)が次第に強くなつてきたら、自分で購入した鎮痛剤で痛みをごまかすのを止めて、産婦人科の専門医の診察を受けることです。なぜ早期受診が必要かというと、受診しないで月経時 鎮痛剤だけを服用しているうちに内膜症がじわりじわりと進行、悪化するからです。
(イ)早期診断
早期診断が大切なのは「子宮内膜症、子宮腺筋症は進行性の病気なので早期に診断しないと病気が進行して治療しても治りにくくなり、治療後も再発しやすくなる」からです。月經痛(生理痛)、月經過多(月經中の出血量が多い)、そのための貧血、月經中の排便痛、性交痛のどれか一つでもある25歳以上の女性は早期に産婦人科医も診察を受けましょう。診断には内診と超音波断層診(エコー)により大体可能ですが、さらにMRIと腹腔鏡検査を行えば充分です。ただし腹腔鏡検査は腹部の内視鏡検査で、入院して全身麻酔下に行いますので、簡単にできない検査であり、また深部浸潤性内膜症という病気の進行したものは腹腔鏡検査でも見えにくい部位にあるため、診断しにくいという欠点もあります。また、血液検査により、血中CA125、CA602の検査で異常高値の場合、内膜症か子宮腺筋症の可能性が高くなります。ただしこの値が正常値だからといって内膜症と子宮腺筋症を否定できません。
子宮内膜症という診断がついたときには、超音波断層写真などから内膜症ができた場所がどこ(卵巣か子宮内か、子宮の後ろかなど)かがわかるはずですので、場所を確認しておいた方がいいでしょう。卵巣でしたらチョコレート嚢腫、子宮内でしたら子宮腺筋症、子宮の後ろでしたらダグラス内膜症か深部(浸潤性)内膜症のことが多くなります。月経過多(出血量が多い)のときは子宮腺筋症か子宮筋腫のことが多いのですが、そのどちらかは超音波検査でわかります。月経中に排便痛のある時は深部浸潤性内膜症の可能性があります。性交痛がひどい時は子宮旁結合織炎(子宮のまわりの炎症による病気。子宮内膜症とは別の病気だが、内膜症と誤診されることが多いので要注意)か、ダグラス内膜症や、深部内膜症があることが多いのです。
(ウ)早期治療
最善の治療は病巣自体を治療する局所治療で、これには手術療法と局所薬剤療法があります。これに対し、通常行われる注射や、点鼻や、内服する治療は全身的治療法です。局所治療としては、まず出来れば手術、ことに内視鏡手術を行うべきです。しかし、時には、病院側理由(例えば手術の予約が数ヶ月も先になる等)とか患者さん自身が手術を希望しない場合、(さらには手術後再発した場合なども)局所薬剤療法を行うべきです。局所薬剤療法は全身的薬剤療法に比べ、より有効なだけでなく、全身的副作用がないので、安心して治療できます。
(エ)早期妊娠
子宮内膜症や子宮腺筋症に罹ると不妊症になることが多くなります。その一方、妊娠するとホルモンの関係から内膜症は改善ないし治癒します。また、治療が長期に続くほど妊娠は困難になります。さらに、この病気は再発しやすく治りにくい病気ですので、「子供はまだ早い」などと言う理由だけで妊娠を先延ばしにすると、将来の妊娠の可能性を大きく下げてしまい、いざ欲しいと思ったときには内膜症性の重症不妊症ということになりかねません。妊娠は最高の内膜症治療の一つです。将来子供がほしいと思っているのであれば、結婚したらすぐ、または治療が一段落したら、再発する前に、早めに妊娠を目指されるほうが賢明です。
新しい治療法:局所的薬剤療法とは
子宮内膜症に内服で有効なダナゾール(商品名ボンゾール)という薬があります。以前は、内膜症に対して、最初に使われる内服薬でしたが、様々な副作用のため、最近ではあまり使われません。局所的薬剤療法とは、これを内服しないで局所に投与する治療法です。ボンゾールの内服の時に頻発した全身的副作用は局所に投与するとゼロになり、しかも内服では効果を期待出来ない子宮腺筋症や深部浸潤性内膜症にも効果があります。ダナゾールの他に3エチールピリジン(3EP)の局所投与も有効です。
一口に子宮内膜症といつても内膜症が発生した場所により、次ぎに述べるように4つの病型があり、病型毎に痛みの強さも異なり、局所投与の方法も異なります。
(A) 卵巣チョコレート嚢腫(古い血液が卵巣の中に溜まってしまった状態)の治療: これは卵巣にできた内膜症で、月經時に出血した血がチョコレート色になつて卵巣内に溜まり嚢腫を作るので卵巣チコレートという名前もあります。卵巣内膜症ができても無痛のことが多いのですが、周囲と癒着すると痛みがでます。診断は内診と超音波エコー、MRIで可能 |
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1)ダグラス窩(子宮の裏側、おなかの中で一番低い場所)に癒着(くっついている状態)している時 | |
下の方から超音波エコーで視ながら、膣の壁を通して嚢腫の内容を吸い出してから、3EPまたはダナゾール液を4週毎に注入します。または3EPかダナゾール含有膣リング(ドーナツ型)を膣内に3ヶ月間挿入し、3ヶ月後に新しいリングと交換します。治療中妊娠したら注射を止め、膣リングを取り出します. | |
2)ダグラス窩に癒着していない時 |
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内視鏡(腹腔鏡)で見ながら嚢腫内容を吸い出してから代わりに3EP液かダナゾール液を注入します。 |
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(B) 深部(浸潤性)内膜症(子宮のうしろで、膣と直腸の間に深く染み込んだ内膜症)の治療: |
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子宮の後ろ、ダグラス窩にできた内膜症が進行して膣と直腸との間に深く入りこんだ内膜症で、激しい月經痛を起こす、内膜症のなかで最重症の内膜症で、性交痛、月經時の排便痛の原因になります。 診断は難しく、普通の内診では見逃され易い。注意深い内診、性能の良い超音波エコー、MRI検査が必要。治療は子宮の後ろの膣壁を通して内膜症組織に3EPかダナゾールを注射するか、3EPまたはダナゾール含有膣リングを挿入し3ヶ月毎に交換します。治療中は基礎体温を測定し高温相が3週間続いたら妊娠ですので治療を中止してリングを抜去します。 | |
(C) 腹膜内膜症(腹腔鏡検査で確認できるお腹の中の壁表面の内膜症)の治療: |
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腹腔鏡検査をしないと発見できない初期の軽症内膜症で、月經痛を起こさないことが多い。腹腔鏡で視ながら3EPかダナゾール液を直接注射する。 | |
(D) 子宮腺筋症(子宮の壁の中の内膜症。子宮が大きくなるので子宮筋腫と似ているが異なるもの)の治療: |
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子宮の内部 筋層の中にできる内膜症。子宮が大きくなるので子宮筋腫と誤診されることが多い。激しい月經痛と過多月經(月經時の多量出血)を起こし、貧血を来す。不妊の原因になり、治療も内膜症中一番困難。内診の他、超音波エコーで診断可能だが、MRI検査により詳細に検査できる。治療は3EPまたはダナゾール溶液を膣内から子宮に直接注射する。 |
5) 子宮内膜症・子宮腺筋症で、不妊の方が妊娠に成功するコツ
子宮内膜症・子宮腺筋症の方が妊娠を希望したとき,不妊症の方が診察の結果 子宮内膜症や子宮腺筋症による不妊だと判明したとき、どうしたら早く妊娠できるでしょうか?
妊娠に成功するための治療法は4つあります。
第1は現在保険で認められている子宮内膜症治療薬(内服・点鼻・注射)を産婦人科医から勧められるかもしれません。これらの薬剤治療で痛みは無くなるか軽くなりますが、治療中排卵が無くなるので、妊娠できません。しかも子宮内膜症や子宮腺筋症は治療中少し小さくなるだけで、治りません。6ヶ月以上続けると骨粗鬆症になり、骨折しやすくなるので、6ヶ月で薬を止めると、子宮内膜症・子宮腺筋症は再発してきます。従つて不妊症の人にとつてこれらの薬は妊娠という目的には役に立ちません。
第2に体外受精か、手術を受けるよう勧められることが多いとおもいます。ただ体外受精には費用がかかるし、手術には仕事を1−2週間休んで入院する必要があり、費用もかかります。その上 手術後100%妊娠できるとは限らないのです。体外受精や手術をしないで妊娠できる方法はないのでしょうか? そんな夢のような治療法は最近までありませんでした。しかし今やそういう理想的治療法が受けられるようになりました。
卵巣チョコレート嚢腫の治療が手術でなく、日帰りで治療できます。膣内から超音波で監視しながら嚢腫の中味チョコレート様のものを吸引し、danazolか3-ethylpyridine(3EP)という内膜症の特効薬を注射するという1回の簡単な治療で卵巣チョコレート嚢腫は治り、其の後妊娠可能になります。
子宮腺筋症と診断された方は、danazolか3EPを含有するIUD(子宮内治療器具)を子宮内に6ヶ月入れた後、抜去すれば、妊娠可能になります。また同じ薬を月に1―2回子宮に注射することにより、妊娠可能になります。
深部内膜症は痛みが強く、排便痛もあり、手術が難しく,手術後再発しやすい治療が困難な病気ですが、danazol か3EPを含有する膣リングを3−6ヶ月膣内に挿入するだけで、治療中に妊娠可能になります。この治療が無効の重症例には、超音波で診ながらdanazolと3EPを膣から注射することにより妊娠可能になります。
以上の画期的新治療が日本中どこの病院でも可能になるのは、残念ながら将来の夢で、現在のところ下記横田マタニテイホスピタルで火曜、木曜の午後のみ可能です。
第3に上記第2の治療を3−6ヶ月続けても妊娠に成功しなかつた時、体外受精を受けるといいでしょう。
第4に体外受精でも妊娠できなかつた時、最後の手段として手術療法を受けるとよいでしょう。
上記新しい治療法が受けられる病院 横田マタニティホスピタル
担当医;五十嵐正雄 (群馬大学産婦人科名誉教授)
火曜.木曜:予約必要:初診受付;午後1時30分
群馬県前橋市下小出町 1−16−5 電話 027-234-4135
JR 前橋駅下車 タクシーかバス(渋川行か群大病院行き)群大入り口下車 徒 歩3分