香山リカのココロの万華鏡:調査の「ゴール」が違う /東京
毎日新聞 2012年07月10日 地方版
こういった調査では、そもそものゴールが間違っている。因果関係を特定するのが目的なら、それは「判断できない」という答えにたどり着くのは目に見えているのだ。それを証明できる唯一の人である本人が、もうこの世にいないからだ。
「原因はこれです」と言える人がいなければ、条件が厳密に整えられた科学の実験でもない限り、ひとつの原因とひとつの結果との関係を証明するのはきわめてむずかしい。就職試験に失敗した人が、「面接で声が小さかったからかな」と想像しても、ほかにも話の内容や態度など考えられる原因はいくつもある。そうなると、決め手は採用者に「私を落としたのは、声の大きさに問題があったからですか」と尋ねるほかなく、それができないならいくら考えても「因果関係は明らかではない」という答えしかなくなる。
今回の問題でも、やらなければならなかったのは自殺の原因探し、犯人探しや因果関係の証明ではなかったはずだ。まずは「深刻ないじめがあった」という事実を認め、なぜ起きたか、なぜ防げなかったか、今後の対策は、といった具体的な検討を行うべきだ。