09 魔術的錬金術と見えてきた終わり
佳く解らない周目。
今回は色々錬金術の造詣を深めるべく、色々な実験を行う周とした。
もう、これがとても面白い。
この世界の錬金術のレベルはそう高いといえるほどの物でもなかったのだが、どうやら俺と相性がよかったらしく、気付けば手合わせ練成とか出来るようになっていた。作品が違う。
先ず、錬金術と言うのは、物質の形を操る、と言う技術ではない。
錬金術と言うのは、無から金を生み出し、不老不死を求めるという事を主題とした技術だ。
で、手合わせ錬金――まぁ、鋼な錬金術師の話。
アレの手合わせ錬金とはつまり、合わせた手と言うものを術円と過程し、その中で循環させた術理を手を当てる事により添付/起動させる、と言うものだ。
世界観が大分違う上、真理なるものに触っても居ない俺にそれが可能かと言うと――少し手間取ったが、なんとかこれを成立させることに成功した。
というのも、先ず手を合わせる、と言う工程。此処に目を付けた。
手を合わせるという事は、円を描くという事。此処に俺は、更に呪術的な意味合いを持たせるべく、何時ぞやアヌスと共同研究していた略式儀式魔術を応用してみたのだ。
手を合わせるという行為に、術理の円環という意味に加え、精神統一を初めとする各種呪術的ブースト作用をはじめとした色々を添付。モーションと結果さえ同じなら、過程に関する術理はべつに如何在ろうと問題あるまい。
そうして組み上げた術理を用いて、物質の素材構成/高質を変質させるという現象に成功したのだ。
まぁ、真理なるものは佳くわからないが、ある意味俺は生と死を何度も体験しているわけで。ある意味での極地の一つを何度も経験している所為か、感覚的には理解できているのだ、ソレも。
そうして錬金術を儀式化し、マニュアル化した辺りで今周の終わりが来た。
何となく最近破壊ロボの活躍頻度が減ってきたなー、と思っていたら、いつの間にか平然とデウスマキナが暴れまわる都市アーカム。そうこうしている内に夢幻心母が浮き上がり、大いなるCことクトゥルーさんの劣化版が召喚された。
いや、ほら。怪物版と直接顔を合わせてると――あの程度ではねぇ。一般人が直視しても、SAN値が若干削られる程度まで劣化したクトゥルーなんぞ見る影もない。
「いえ、普通は劣化版でも直視すれば狂気に捕らわれます」
「えええ、あの程度で?」
「はい。マスターはチートですから」
下手糞な顕現をさせられたクトゥルー御大を眺めていると、何かカリンにチート認定を受けた。
うわぁ、ちょっと嬉しい。
あの、歴史的知識しか持ち合わせていなかった頃。未だ俺がただただ転生を繰り返すただの人間だった頃から考えると、確かに今の俺はチートといって差し支えない。
「駄菓子菓子! コレは覚えておいてくれ。俺のチートは長い時間を掛けて研鑽したもので、決してぽっとでの胡散臭い神様から貰ったチートではない!!」
「若干補正はあるみたいですけど?」
「それはアレだ。ご都合主義の神様ってヤツじゃないの」
ゲーム・マスターに対する免責権。ゲームに携わりながら、ゲームマスターからの直接的干渉の一切を無効化するなんていうチートスキル。
他の世界観の大半では無意味なスキルだが、このデモベ世界ではまさしくこの上ないチートスキルだ。
まぁ、俺が此処までの研鑽を積めたのも、有る意味このスキルのおかげかもしれない。
「第一、此処まで鍛えても、白の王にも黒の王にも届かないってのはねぇ」
「物語のバックアップを受けている存在に、正面から挑んで勝てる筈も無いかと」
直接彼等に挑んだわけではない。ただ、俺の頭の中、カリンの超演算を用いて、彼等との戦闘をシミュレートしてみたのだ。
そうするともう、ねぇ。
黒の王は未だいい。ある程度まともに戦ってくれるから。ただ、時間が長引くとニャルさんに勘付かれて時間を変動させられて戦闘中断、という結果が大半で、黒の王を倒すまでは絶対に行かない。まぁ、それはいい。この世界のシステムに挑んでいるようなものだ。勝てないのは悔しいにしても仕方が無い。諦めはしないが。
ただ、問題は白の王だ。アレは寧ろ積極的に挫折を経験して成長を促す為、ニャルさんは早々簡単に力を貸したりはしない。
だというのに。だというのにだ!! 何で俺の妄想なエミュレートの中出まで、早々ご都合主義ばっかり起こるんだよ!! 意味不明だよ!!
何だよデモンベインを倒したと思ったらみんなの祈りが力となってパワーアップ再生!? 何処のグリッターだよ!! 俺ぁガタノトーアか! 石化スンのかァアン!?
倒しても倒しても無限に復活し続けるデモンベイン(妄想)。当に無限ループなその妄想に、妄想の主である俺が思わず悲鳴を上げてシミュレートを中断したほどだ。
本当、あいつ等二組はマジチートだ。んで、その仕掛け人のニャルさんは鬼だ。
「――マスター」
「ん。ドクターが覇道に亡命したな」
こっそり破壊ロボの一部を駆逐しながら観測していた現状。うんうん、物語はちゃんと進行しているみたいだねぇ。
まぁ、俺の目的の為には、この物語を成立させる必要がある。つまり、ニャルさんと目的は被っているのだ。
今のところ邪魔をする心算も無いし、向うに過干渉する心算も無いのだが。
なんて事を考えながら数日。
いつの間にか死んでいたアル・アジフが復活し、何だかんだで逆十時を叩き潰し、転移するクトゥルーを追って件のポイントへ向けて走り出した。
然し、最近大十字の魔導師としての錬度が上がってきている気がする。
いや、今周に限っての話ではなく、基礎的な部分の霊的強度が、マスターテリオン並みにまで。
未だトラペゾヘドロンこそ使っては居ないが、それでもアンチクロスとの一対一なら、苦戦しつつもなんとか下せる程度にはなってきている。
これは、もしかしたら終わりが近いのかも。
振り返れば、長かったような短かったような。
――いや、長かった。うん。長かった。
一応俺の人生はイベントマップを記載して、場合にもよるが、ルートごとに要救済対象毎の救済プランが設計されている。
この救済プランは主人格が休眠している間に、ルート毎の人格が設計した物だから、後々データを煮詰め直さにゃならんのだけど。まぁ、応用は効くし。
「ま、成るようになるっしょ」
「です」
海面に沸き立つ石柱群。不出来な機械と肉の塊を生贄に捧げる祭壇と、それを対価に現れようとする巨大な外なる神。
その姿を、カリンと二人上空から眺めながら、近付いてきた終わりの予感に言葉を漏らしたのだった。
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