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02 五流魔導師旅をする
「力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ!!」

三度呪文を繰り返し、右手に生み出すのはバルザイの偃月刀。
但し俺のソレはデフォルトの物に比べると若干シャープなデザインに変化し、何処か日本刀を彷彿とさせるものになっている。

生み出した刃を用いて、こちらに向かって飛び寄る腐乱死体を叩き斬る。

全く以って度し難い。
此処は元々某魔術結社の秘密の祭壇であった場所であり、霊的にも中々優れた立地条件に建設された意志の神殿だ。
が、現在のこの土地は、黒い瘴気に完全に汚染され、まともな人間ならば立ち入った瞬間に魔物に変貌するという凄まじいまでの呪術的汚染地域と化していた。

「うーっぷす」

そうして、今回の俺の仕事は、この汚染地域の浄化と、中々に俺に似合わない仕事であった。








46周目。

俺って才能無いのだろうな。いまだに機神召喚が扱えないとか。
現在俺がメインに扱うのは、ネクロノミコンラテン語版。嘗てコレを発見して以降、コレを使って修練を開始した俺は、それなりに魔術師としての階位を上げ、魔導師としての錬度をも徐々に高めていた。
だというのに、未だに旧支配者の一体すら制御できない。

えっと、一回のループが20年と考えて、魔導師としてまともに修練できるのが10年弱。
確かループ回数が43だった筈だから、単純に考えて430年は修練している事に成る筈。
……いやまて。一周毎に鍛錬した肉体はリセットされるわけだから、マイナス補正を――あー、×0.6くらいかな。と、258……。

二世紀半かけても一向に機神召喚が扱えず、それどころか旧支配者一柱の制御が一杯一杯の俺……。
思わずガックリ膝を突きそうになる。が、まぁある程度は戦えるようになってきた。

此処暫くのループ、日本の外、主にユーラシア寄りを旅するように成ったのだが、どうにもアジア系の怪異というのは恐ろしいね。
物理的な怪物として姿を現すのではなく、なぞの現象として姿を現す怪異。
精神的に攻撃してくるものが多く、おかげで現在の俺は内界に関しては並み居る魔導師のそれを圧倒している自信がある。
といっても内界の制御は基礎の基礎。自慢できるような事でもないのが情け無い。
まぁ、おかげでそこらの魔導書に精神がやられるような、駆け出しの魔導師レベルは卒業できたと思うのだが。

現在戦うゾンビっぽいもの。
この汚染された聖地がもつ力そのものが具象化した存在。つまりコイツラは、土地そのもののオブジェクトなのだ。
この黒い聖地が破壊されでもしない限り、無限に沸き続ける、と。

一番正しい対処は、この場所を封鎖して、然る準備を終えた後に核で吹き飛ばす、と言うものだ。
が、残念ながらそんなことこんな場所で行うと、色々な生態系が酷い事になる。
山のうえの方にあるこの場所だ。下手すると気候にすら干渉しかねない。

そこで、俺ないし流れの魔導師の出番と成る。
まぁ、実際山の山頂でゾンビが量産されつつある。何とかする一番簡単な手段は、無差別爆撃だし。
村人が此方に依頼してくるのも、それはそれで当然かなー、と。

適当にゾンビを蹴散らしつつ、漸く祭壇らしき場所にたどり着く。
祭壇というのは神殿の中心部。最も力の集まるパワースポットだ。
見れば――成程成程。山から噴出する霊的エネルギーを、瘴気が全て喰らい、自らの力にしているのだろう。
魔導師は瘴気――邪悪すら自ら従えてナンボらしいが、あそこまで邪悪でしかないものに俺は興味を持てない。

とりあえず、地形破壊は出来ればやりたくないので瘴気に向けてクトゥグアの炎を放つ。
うーん、一応焼き跳ばす事はできるのだが、どうも根が深いらしい。
やはりある程度――この神殿くらいは吹き飛ばさねばならんか。

「ヴーアの無敵の印において――」

精神(ココロ)はクールに、(ソウル)はヒートに。
魂を滾らせ生み出す魔力――励起。
ネクロノミコンラテン語版――喚起。
術式選択――超攻性防御結界。

空中に鍛造される無数のバルザイの偃月刀。

「霊験あらたかなる刃よ」

飛び出したバルザイの偃月刀は、ガリガリと音と火花を立てながら、無垢な神殿の白床に文様を刻み込んでいく。
例えばコレが、デモンベインなる人造の鬼械神のもつ必滅呪法、レムリアインパクトとかならば、最初から効果範囲を指定する術式が存在する。
しかし、今現在俺の最も攻撃力のある術といえば、間違いなくクトゥグアの炎の使役。
クトゥグアの使役は威力こそ高いが、そもそも其処には選択的排除なんていうものは最初から考慮されていない。
そこで、予めクトゥグアの炎の効果範囲を指定する術式を床に刻み込み、余計な破壊を防ごう、と言うのだ。

コレ、実践の中で編み出した必殺技。
初見の相手で、相手が攻撃的だった場合、割合高確率ではめ込む事が出来る炎熱昇華呪法だ。
まぁ、トラップ系のコンボ技であるため、使える場面は限定されてしまうのだが。
対象がこういったオブジェクト系ならば、この術はこの上なく効果的となる。

――ヴ――ヴヴヴ……
「良し良し」

術式が刻めた事を確認して、とっととその場から撤退する事にする。
この時代、まだモーターバイクっていう物が生まれてないんだよなぁ。いや、確か西博士が独自にバイクっぽいものを開発していたはずだけど――まぁ、今此処にあるかと言われれば、無い。

ある程度距離を離れたところで、ついに最後の術式。クトゥグア召喚を行う。
但しこの召喚は遠隔召喚となる。今回の範囲指定結界には、ある程度までの距離からの遠隔召喚を補助するターゲットとしての機能が組み込まれている。
何処までも精密な魔術を。これこそ日本系魔術師として目指す場所ではないだろうか。

「フォマルハウトより来たれ、イア、クトゥグア!!」

途端、地上に出現した小さな太陽。いや、それは太陽すらも焼き尽す狂暴な穿光。
と、そのクトゥグアの炎は、一瞬の輝きの後、急速に一点に向かって収束し、即座に空間から消滅する。
――うむ、上手く行ったようだ。

クトゥグアが瘴気を焼き尽したその瞬間、あの術式は起動する。
即座にクトゥグアの炎を拘束し、それ以上の暴虐を許すことなく、炎を丸ごと圧縮/虚無へと放逐したのだ。
まぁ、要するに魔術的にデモンベインのレムリアインパクトを再現しただけなのだが。

あぁ、エネルギー的な問題は、場所が解決してくれた。何せ地脈を纏め上げる為の聖域で祭殿だ。エネルギーラインは御誂え向けに用意されていたのだから、コレで失敗していては魔導師としての信用問題に関わる。
この程度こなせずして、魔導師は名乗れないだろう。

「ふぃー、なんとかなったか」

山頂を丸く刳り貫いたようなクレーターを眺めて、思わず安堵の吐息を漏らす。

まぁ、下手をすれば山が丸ごと焼滅、なんて事態もありえたのだ。それに比べれば、山頂がちょびっと無くなったくらい、如何という事は無いだろう。
この世の中には、人間にとって邪悪な種族というだけで、島丸ごと核で吹っ飛ばすような人だって居るんだし。

「ふむ、見事な魔術だ」

ビクゥッ! と、思い切りビビッた。
何事かと背後を振り返れば、其処には逞しい髭と、傍に幼女をはべらせたグラサン老人が一人。
――って、えええええええええ!!??

「キミは、アレか。何処かの結社の魔導師かね」
「い、いえ。ただのモグリですけど?」

言いつつ、自然な動作で臨戦態勢にはいる。
何せ相手は高名なホラーハンター。一応俺も邪神の悪意に敵対する側として立ってはいるが、それでも完全に無邪気かといえばそうでもない。
長く生きれば生きるほど、俺は人としての罪を重ねる。命としての業なんて、その数十倍は重ねているのだ。

「ふむ、成程。――なぁキミ」
「は、はい?」
「もしキミがよければ、だが、正式に魔術を学んで見る気はないかね?」

と、そのグラ髭の老人はそんなことをのたまった。
彼こそ、後に長く恩師と仰ぐ事になる、ミスカトニック最強の一角たる魔導師。
ラバン・シュリュズベリー氏だった。



と言うわけで、何故かラバン・シュリュズベリー博士の紹介を受け、50周目手前にして漸くミスカトニック大学陰秘学科への伝手を手に入れることが出来ました。
とりあえず今回の俺は、コレ幸いとミスカトニックに入学し、主に座学を中心に学ぶ事にしました。
というのも、今現在の俺の魔導というのが、完全に自己流というのが大きな問題となっていたのだ。
いや、魔導というのは結局術者の魂こそが全てと言うものなのだが、だからといって独覚(仏教用語で、簡単に言うと独りよがりの賢人)になってしまっては意味が無い。
と言うわけで、今回は基礎から学びなおしたのだ。
――然し、シュリュズベリー先生の実体験を元とした対CCD談が一番面白かったのは――はて。

さて、今回の周での成果は、他にもある。
改めてアーカムに住む事となったおかげで、一見では解らないアーカムの文明レベルと言うものが佳く理解できた。
いわば此処は、地方の田舎都市、といったところか。
唯一大きなミスカトニック大学以外は、覇道財閥を除くとこれといって大きな建物は無い。
コレが何を意味するのか、というと、此処がループのかなり序盤なのではないか、という事だ。
今本編に関わって、邪神に気取られるわけにも行かないのでかなり遠巻きな観察になってしまったのだが、多分この予想は間違っていない筈。

というのも、このアーカムと言うところは本来ドがつく田舎の港町なのだ。
それがこの世界では、覇道財閥の拠点となることで大都市へとループごとに少しずつ成長していく。
これは、嘗ての大十字九郎が覇道鋼造として、かすかに記憶に残る覇道の偉業を真似、さらに大きな事業を起こすことで少しずつアーカムを何時かのアーカムへと成長させていく、という事象からきている。
つまり、ループが進めば進むほどこの都市は大きくなる。では都市が幼いという事は、ループが若い、という事に成る。


今回、アーカムに住んでいたおかげか、夢幻心母の姿を見ることが出来た。
いままではその余波(量産型破壊ロボとダゴンとか)だけで死んでたからなぁ。
まぁ、いいさ。

で、今回はアーカムへの被害を抑えることを第一目標として、地味に粛々と活動していました。
具体的に言うと、簡単な魔術制御用の術式を刻み込んだ対物ライフル、M82を使い、クトゥグアの大玉を破壊ロボに叩き込んだり、崩落したデブリを砕いたり。

――いや、まぁ待て。俺だっておかしいというのは別っている。
未だに部分的には蒸気式がメインなこの時代、よりにもよってバレットかよ、という突っ込みは俺にだって十二分に別ってる。
ただな、佳く考えて欲しい。有るんだぞ? 原子力空母だとか核弾頭だとか。それに此処はニ■ルさんの介入している世界だ。彼女の介入によってプロメテウスの炎は既に人の手の中。文明レベルも偏って進歩しているらしく、コレも軍部のテストタイプの中から一品を頂戴したものなのだとか。

――うーん、少し調子に乗りすぎたかな。
なんだか周囲を覆う破壊ロボの数が増えてきているような。

残弾は――うぁ、これは詰んだかも、なんて覚悟を決めて、最後っ屁をかます準備を始めようとしたところ。

――――――斬っ!!

不意に近付く破壊ロボが細切れになった。
何事かと首をめぐらせると、其処には白いセイギノミカタの姿があって。

『ミスカトニックの魔術師か。此処はもういい、早くシェルターに!!』
「あ、アイサー!!」

折角得たチャンスなのだ。コレを最大現に利用せずに何が魔導師かと、大慌てで地下のシェルターに。
そうして第一次攻撃は何とか凌げたのだが、次、第二次攻撃。
アイオーンを失った大十字九郎が、未完成のデモンベインとアイオーンを二個一で召喚したデモンベイン・アイオーンを使い、カリグラを撃破。
続いて仇討ちに攻撃してきた糞ガキもといクラウディウス。アンチクロスとの正面衝突なんてとんでもないと、何処か安全な場所は無いものかと覇道の地下通路を彷徨っていると、何故か正面に見えたその人物。
上半身全裸で、四本腕を生やしたブシドー。

「あ、アンチクロスゥ!?」
「む――御主、ミスカトニックの魔導師か」

げっ、と思わず声を漏らす。アンチクロスの襲撃から逃げていた筈なのに、なんでアンチクロスと正面衝突するのか。
しかもクラウディウスの襲撃から逃げていたら、ティトゥスとご対面!?
後々考えると、この時上半身全裸ということは、既にウィンフィールド氏を斬った後、と言うことだったのだろう。
という事は、このときのティトゥス、大分消耗していた筈なのだ。

「く、あそこの連中は全て時計等に引篭もっていると聞いたが――成程、少しは骨の有りそうな輩も居た、と言うことか」

言いつつ、四本の刀を構えるティトゥス。
ソレに対して、俺は思わずM82を投げ捨て、バルザイの偃月刀を鍛造していた。
近接戦闘特化型のアンチクロスに、近接戦闘を挑む。そのなんと愚かな事か、後から考えると首をつりたくなる。

「――ふ、では抗って見せろ魔術師。今の私は手加減が利かん」
「――舐めるなよ逆十字。人を捨てたその身に、人の強さを思い出させてやる」

そうして斬り込んだ対ティトゥス戦。結果は――案の定。
何とか一太刀入れることには成功したのだが、刀4本を叩き込まれれば流石の俺も生き延びる事は出来ず。

「――く、為らばそれも良し。地獄まで同道願う」
「ぬ、これは固定結界!? 貴様真逆初めからこれを――!?」

範囲指定結界の内側で召喚したクトゥグア。流石に意識が朦朧としている所為で、ティトゥスの固定は今一つだったが、何とか範囲結界とクトゥグア召喚は成立させた。焼滅は無理でも、手傷を与えられたとは思うのだが――。







59周目。

シュリュズベリー先生の実体験談というのは、実際に過去に行った討伐の話だ。
という事は、逆に考えるとシュリュズベリー先生は高確率でその場所を訪れる。であれば、予めその場に先回りしていれば、シュリュズベリー先生に出会うことも不可能ではない、と言うことだ。

まぁ、まいかい同じ場所を繰り返すのも芸が無いので、フアハ=ハチ族だったり邪神の落とし子だったり、場所は毎回変更しているのだが。

で、ミスカトニックに通うようになってからどれ程の年月がたったか。
基礎の習得はほぼ完璧。むしろ応用こそに力を入れる時期が来ている。
そう感じて、そろそろミスカトニックから一時離脱するべきかな、などと考えるようになっていた。

あーあ、大十字九郎との直接面識、結局ミスカトニックに数十年も通って結局出来なかったし。
いや、偶にシュリュズベリー先生の講義で顔を合わせることもあったんだけどさ。
所詮、実習で顔を見る学徒、と言う関係だし。
さて、次は如何しようか。


クラウディウスに辛勝。
大十字九郎の旅立ちの後、得たセラエノ断章を読み込むも、クラウディウス戦の傷が祟り30代にて死亡。


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