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毎日更新の夢は潰えた……

平日は補習で忙しいんです(言い訳)

原作開始ー。
Life1:後悔
「……あー、疲れた」

 授業中。周りに聞こえない程度に独白する。今日もいつも通り、黒歌さんと白音ちゃんにボコボコにされたため、体力がとっくにレッドゾーンに突入しているのだ。半端じゃなく眠い。

 おかげでなんとか授業を聞いてはいるが、全く内容が頭に入ってこない。……これは酷い。テスト前、また黒歌さんに泣きつくことになるかもしれない。修業延期的な意味で。

 ……ん?

「何だ?」

 ルーズリーフを取り出そうと机の中に手を入れると、覚えのないモノが入っていることに気づく。

 手紙だった。

「何だこりゃ」

 表には丸っこいいかにも女の子な文字で俺の名前が、裏には小綺麗な文字で天野夕麻、と書いてある。

 チラ、と中を覗いてみると、ピンク色の便箋が入っていて、携帯が普及した今の世の中で、古風な人もいるもんだなぁ、と驚く。

 取り合えず、休憩時間にでも読もう。これ以上進まれると本気でヤバイ。定積分、面倒臭いなぁ……。

 手紙を机の中に仕舞い、授業に集中した。



 そして休憩時間。改めて手紙を取り出し、開――

「待てイッセー。それは一体なんだ」

「不幸の手紙か? 不幸の手紙だよなそうに決まってる!」

 ――けようとした所で、松田と元浜に絡まれた。肩に手を置かれているんだが、微妙に力が入ってるのは気のせいか?

 それにしても。ったく、こいつらは失礼なやつだな。

「そんなもの送られる覚えなんて、俺には無いっての」

 少なくとも、学園内では仲がいいやつの方が多いはずだ。男子には、敬遠されることもあるが。

 ……あれは何でなんだろう。地味にショックだったりする。

「が、学園のアイドルの一人、塔城小猫ちゃんと一緒にお弁当を食べるような関係で――」

「その上別人からラヴなレターをもらうようなやつが何を言っている!?」

 マンガとかでお馴染みの、戦慄の顔芸を披露したあと、凄い顔で涙を流しながら凄む二人。

 ちょっと引いた。

 ……白音ちゃんとは家族だし、この手紙に至ってはまだ中身を見てもいないんだが。些細な用事かもしれんだろうに。なぜそれで嫉むんだ。分からん。

「こいつ、本気で分からないって顔をしてるぞ……ッ!」

「鈍感イケメンで誰にでも優しく、中々の運動神経にそれなりの頭ッ! これで想像を絶する変態だったりすればまだいいが、そんなことも無い! 神はなぜこんなやつを作ったんだッ!」

 今度は慟哭する二人。忙しい奴らだ。つーか誰の話だそれ。俺そんな人間じゃないんだけど。

「……なぁ、こいつぶん殴っていいか?」

「……言うな、松田。虚しくなる」

 さっきまでの勢いはどこへやら。地面にへたり込んだ二人は置いといて、手紙に視線を移す。

 そんなホイホイラブレターなんて来るわけが――

『兵藤一誠くんへ。大事なお話があります。放課後、噴水のある公園まで来て下さい。

 天野夕麻』

 ――あるかもしれない。ラブレターっぽいなこれ。さっき心の中で違うんじゃないかと否定した分、こいつらの反応が恐い。

「あー……確かにラブレターだったみたいだ」

「「死ね、イッセー! 全世界の非モテの男達のために!」」

「嫌だ」

 予想通りに飛び掛かってくる。喧嘩……いや、掛かって来るのをただ避ける作業を始める。殴ったら怪我させそうだからな。

 いやー、それにしてもこういう時に役に立つな、仙術の修業の成果。活かす場面がおかしい気がしないでも無いけど。

 そうやって、わーきゃーわーきゃーやってる内に休憩も終わり、教師が入ってくる。

 松田と元浜は、諦めずにちょうど俺に殴り掛かってるシーンを見られたため、廊下につまみ出されていた。

 女子にも運にも見放されてるとは……逆に笑えない。あいつらだって、行動から変えれば周囲も変わりそうだけどな。

 いつも以上に静かな教室で、もう置いていかれないように、真面目に授業を受けた。



「ごめん、ちょっと用事があるから先に帰ってもらってていい?」

 放課後。いつも通りに教室に来た白音ちゃんに、一緒に帰れない旨を伝える。

「いつもより帰宅が遅れるけど、修業はちゃんとやるからって黒歌さんに伝えてほしいんだ」

 ちょっと驚いた表情をする白音ちゃん。今までこんな事なかったから、少し訝しんでる節もあるかもしれない。

「……用事ってなんですか?」

「ちょっとお呼出しを受けて、ね」

 予想通りの質問に、予定通りに返す。女の子から、とは心の中で。

 一緒に帰りたいのは山々だけど、わざわざ手紙を出してまで、俺に話があるなんて言う子を無下にすることは出来ない。

 それに、本当にラブレターなのかな、これ。重要な事は書いてないから判断がつかない。ま、どっちにしろ、修業と団欒で忙しい俺には女の子と遊んでる暇なんてないんだけど。

 行って、話聞いてから考えよう。

 俺がそんな事を考えてると知る由もない白音ちゃんは、得心がいったとばかりにコクっと頷く。

「……補習、頑張って下さい」

 予想外な納得のされ方だった。不本意極まりない。

「ねえ何その生暖かい視線。え、小猫ちゃんの中の俺ってそんなイメージ? バカな感じなの?」

「…………」

「答えてくれない!?」

 いや、確かにそこまで頭よくはないけど。黒歌さんに泣きついたりしてるけども。それは俺の方が納得いかない。

「……冗談です」

 クス、と笑う白音ちゃん。からかわれたようだ。最近、意地悪を覚えてきたようで、たまにこういう事をするようになったんだよな。

 今はまだ軽い方だけど、その内に朝の修業みたく悪化するのでは無いかと懸念している。いつまでも可愛い妹分でいてほしいという兄心爆発中だ。

 こっちも大変な問題ではある。が、今はそれよりあの手紙の対処法について考えるとしよう。

「はぁ……じゃ、少し遅くなるから」

「……はい。でも、出来るだけ早く、帰ってきて下さい」

「うん」

 頭を撫でて、指定の場所に向かう。さて、ラブレターならどうやって断ったものか。



 呼び出された場所は、オーフィスと初めて食べ歩きした時の公園だった。夕方だからか、人っ子一人いやしない。

 それは純粋にありがたい。大勢の前で女の子振る事になんてなったら、目も当てられない。ホッと一息。

 さて、早く帰ることを約束した以上、ラブレターだとしてもそうじゃないとしても、早く用事を済ませてしまいたい。

 待ち人はまだだろうか。

「……あ、あの!」

「ん?」

 後ろから、女の子の声。振り返ると、黒髪の美少女がいた。この子が、そうなのかな?

 名門私立の女子の制服を身につけた、見た感じ純粋そうで、可愛いといえば可愛い子だった。

 ……んだけど、なんか変な感じだ。違和感が拭えないというか、なんというか。

 オーフィスや白音ちゃん達の純粋さと、この子の純粋っぽさ。似ているようで、かなりの隔たりがある気がする。

 気のせいか?

「えっと、天野夕麻さんで合ってる?」

「はい!」

 ぱあ、と笑顔になる天野さん。

 ……やっぱり変だ。作りものの表情って言葉が一番しっくり来る。この子は、誰でもない誰かを演じている、なんて言ったら哲学っぽいか?

「じゃあ、天野さん。俺に何の用かな?」

 用件を促す。

 確かに偽りの自分で接されているのは、あまり気分が良くない。あいつらは自分に正直過ぎるが、松田や元浜の方が好感が持てるくらいだ。

 でも、それとこれとは関係ない。しっかり相手の話を聞こう。

「えっと、あの――」

 両手を胸に持って行って、合わせる天野さん。俺はしっかり相手に集中していた。

 だからだろうか。さっきまで以上に、違和感……いや、危機感を感じられたのは。

「――死んでくれないかな?」

 その物騒な言葉を聞き逃すことはなかった。

 獰猛な笑みを浮かべた天野の手に、突如、光が集う。あっという間にそれは槍の形を形成し、それを俺に投げ付けた。

「な……!?」

 避けられたのは偶然、僥倖だったと言ってもいい。咄嗟の回避。意識を集中して無かったら、まず間違いなく腹を貫通されていただろう。

「あら、外しちゃった」

 言いながら、一対の黒い翼を広げる天野。前見た黒歌さんのものとは違う黒。

 話に聞く堕天使ってやつか。

 冗談みたいな話だが、俺は四人目の人外に遭遇し、今まさに命を狙われているようだ。

 ……いつから俺の日常は、ファンタジー溢れるバトル物になってしまったんだろう。幸せに日常を送れればよかったものを。

「残念。せっかく素敵なトンネルでも開通させてあげようと思ったのに」

「そうか、トンネル掘り専門の建築会社にでも就職したらどう? 天職だと思うけど」

「考えとくわ」

 一通り軽口をたたき合うと、再び、槍が襲い掛かる。今度は余裕をもって回避。修業は伊達じゃない。

 考えてみれば、変だった。名門女子私立の生徒の手紙が、俺の机の中に入ってるわけがない。

 最初から、俺を殺すつもりだったんだろう。何だこりゃ。意味が分からん。でも、戦うしかなさそうだ。

 構える。

 こんなアホみたいな状況にすんなり順応出来るのは、日々アホみたいな事を起こす黒歌さんやオーフィスのおかげだな。今度ケーキでも奢ろう。

 と。突然攻撃がやむ。二回も避けられたことに驚いたとかその辺か。出来ればそのまま回れ右、帰れと言いたいが、さすがにそれは無理な相談だろうな。

「なぜ俺を狙う?」

 この隙に質問。建設会社云々の前に、本来なら聞くべきだった事だ。

 謎すぎる。俺を殺すことでこいつにどんなメリットがあるというんだ。

「あなたは、私たちにとっての危険因子なの。だから、死んで。怨むならその身に神器を宿した神を怨みなさい」

「……セイクリッド、ギア?」

 言ってる事が電波過ぎてよく分からなかった。決して白音ちゃんが言うような、バカみたいな意味ではなく。

 神器ってなんだよ、こちとらそんな物に心当たりなんて無いっての。

 どうやら天野はこれ以上話す気は無いらしく、また槍が来る。体を捻って躱す。天野は今度こそ訝しげに眉根を寄せた。

「あなた、本当にただの人間?」

「失礼な」

 人間以外の何に見えるんだ。ちょっと修業してて世界最強に気に入られてるだけの一般人捕まえて。

「面倒ね、一気に片をつけましょう?」

 槍の数が一気に六本に増える。いや、こちとら片つけられるわけにはいかな――

「――あ?」

 ズブ、と何かが腹を通り抜けて行く。

 見れば、いつの間にか。槍が貫通していた。

 出血、それから出火でもしたかのような熱さが襲ってくる。……何だよこれ。何なんだよ……

 何が起きたのか、一瞬理解出来なかった。天野は何もしていない。じゃあ、一体誰が?

「何を遊んでいる、レイナーレ。こんな人間一人に割く時間なんて私達にはないだろう?」

「ま、そうね。ただ、今日はそういう気分だっただけよ」

 背後から現れる紳士のような人影。天野……レイナーレと仲間であるような会話をしている。十中八九、堕天使側の住人だ。

 ……伏兵、かよ。

 思考がそこまで至った次の瞬間には、俺は地面に倒れ伏していた。

「……」

 気づかなかった。そして、俺はいつの間にか慢心していた。勝てると踏んで、周囲の警戒を怠って。その結果が、致命傷になった。

「さよなら、兵藤一誠くん」

 俺が死ぬと確信し、天野たちは来たときと同じく、悠々と去って行く。

 確かに助からないな、これは。悟る。まだ不意打ちじゃなければどうにかなったかもしれないが、傷が深すぎて血が止まらない。

 俺の人生結局こんなのなのかよ。黒歌さんや白音ちゃんとの約束、果たせそうにない。それだけが、心残りだ。

 家族みんなで、もっと幸せに暮らしたかったなぁ。

 徐々に視界が霞んでくる。もっと幸せになりたいなんて願望。いや、過去仮定になるのか、が浮かぶ。つくづく強欲だな、俺。最後以外は、本当にいい人生だったのに。

 でもさぁ?

「どうせ……なら……最後、まで……」

 みんなで、幸福に生きたかった。

「その願い、叶えてあげるわ。だから――」

 ――私のために、働きなさい。

 意識が途切れる寸前、見えたのは紅色の何かだった。
はい、ということでイッセーは死にました。

微妙にレイナーレがキャラ変わってる気がする……ま、いっか。

戦闘はおまけ。試しに書いてみた感じなんで内面描写ばっかりですね、次はもうちょい頑張ろう。


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