イッセーとオーフィス
「にゃん♪」
朝起きると、黒歌さんが馬乗りになっていた。もうそれはええっちゅーに。
あれからさらに一週間ほど。あの後俺は、迫り来る親の猛攻(追求)を、開き直って「え、この子達妖怪ですけど何か?」と突き返し。
何やかんや親と論争したが、彼女達の事情を説明するという荒業で、辛くも勝利した。家の親はなんだかんだで涙脆いいい人だよ。
その際、話が纏まりかけた所で黒歌さんが「私、今は悪魔よ?」と悪魔宣言をしたので、余計に家族会議が荒れはしたものの。黒歌さんと白音ちゃんは、正式に兵藤家の一員となった。
いわく、
「俺も初耳だったんですけど。ってか妖怪じゃなかったの?」
「そうよ。元猫又で、現悪魔なの。驚いたかにゃ?」
「そりゃそうだよ!」
と。バラす期を伺っていたらしい。まんまとやられた俺としては、ため息をつくしかなかった。
お袋は当初反対してたのが嘘のように、喜び勇んで二人……特に白音ちゃんを着せ替え人形にしている。俺の部屋で。そう、俺の部屋で。
クローゼットの中には、眩暈がするほど沢山の女物の服が入っていたのだ。お袋が言うには、女の子が欲しかったらしい。
だからって何で服買ってんだよ。しかもこれ明らかに中学生以上対象だよね? 気が早過ぎだろう……。
色々とおかしいが、もう諦めた。
コホン。具体的に言えば、ワンピースとかを着せてみているようだ。ワンピースについては、清純なイメージが白音ちゃんに確かに合っていたし、
「……あまり、じろじろ見ないで下さい」
なんて恥ずかしそうに言う白音ちゃんは凄く可愛かった。
ふと思ったのは、あの大量の服をどうする気だったのかということ。俺は男だ、さすがにあんなモノは着れないし、着せてもダメだろ。
その事で、お袋を問い詰めてみたらみたで、
「もし白音ちゃん達が来なかったら? そうねぇ……」
おいお袋、俺をじろじろ見るな、頼むよ本当。冗談になってないから。目が本気だから。
俺は戦慄を隠せなかった。良かった、白音ちゃん来てくれて本当に良かった……!
親父? 知らん。
と。そんなこんなで激動の一週間だったわけだが、兵藤家も大分落ち着いてきた。二人とも今では普通に家族として歓談をすることも珍しくない。良かった……。
あ、あと余談ではあるが、白音ちゃんと一緒に黒歌さんから仙術を習いはじめた。二人いわく、猫又は仙術が得意らしい。
最初はへー、そうなんだ、って感じだった。人間の俺には必要性が全く感じられなかったし。
ただ黒歌さんに、備えあれば憂いなし、と強く推された揚げ句、黒歌さんだけじゃなく、白音ちゃんからも習得を勧められた。
そこまで言うなら、とやっているわけだが。
「え、えっと。くっつくことに意味でもあるの?」
前に白音ちゃん、後ろに黒歌さんがそれぞれピッタリと寄り添ってくる。冷静に対処したつもりだが、内心かなりドキドキだ。
「まずは自分の気を感じないとダメなの。だから、にゃん」
「……私達の気を感じて、自分の中で同じモノを探してください」
との事。確かにポカポカと、彼女達から体温以外の温かさが伝わってくる。なるほど、これが気ってやつなのか。それは何となくわかった。
だけど。正直、自分の気は全く見つかる気配がないです、はい。そりゃそんなに簡単に身につく訳無いよなー。漫画や小説だといきなり使えたりするけど、現実的にあんな事ある訳無いし。地道な努力が必要なのは何も変わらないようだ。
だから座禅とかで気を増やしたり集中させたりという訓練をやっている。まだ数日しか取り組んでないけど、少しずつ気は増えているらしい。ちょっと嬉しい。
いつドラグソボールの主人公のようにドラゴン波が打てるようになるのか、楽しみだ。必要性は感じなくとも、打ってはみたいのである。
さて、そうやって騒動には慣れてきた俺だったが――
「我、あれ所望する。けーき?」
小首を傾げて俺を見上げるゴシックロリータ(って言うのか?)を着た不思議少女に絡まれて、絶賛お困り中だった。
いや、暇だからいいんだけどね? 今もお袋は白音ちゃんをドレスアップ(?)してるから自分の部屋にいられないし。……俺の部屋なのになぁ。
でも、何で俺? という意味を込めて袖を引っ張っている手を見つめてみる。が、少女はじーっと見本のケーキから目を反らさない。
そんなにケーキが食べたいのか……店員さんも苦笑している。
「えっと、君。お金持ってないの?」
「我、けーき、所望する」
「いや話を聞いてよ頼むから」
尋ねてはみたものの、ぐいぐい、と袖を引っ張り続ける少女。どう見ても聞く気ゼロだ。
……ま、まぁ? 持ってたらわざわざこんな事しないよな。つまり、買ってくれと。そういうことなんだな?
……はぁ。最近こんなのばっかりだなぁ……。黒歌さん達のは好きでやった事だし、後悔もしていないけど、ちょっと前の平穏が懐かしい……。
ま、いっか少しくらい。この子を放っておく方が危険な気がするし。今ならケーキだけでホイホイ不審者についていきそうだ。
うん、しょうがない、な。小遣いは無駄遣いしてないから結構残ってるし、たかがケーキの一個や二個じゃ動じない程度にはある。買うか。
「どれが欲しいの?」
「全部」
「全部!?」
即答。物凄い物欲だった。え、ちょ……ぜ、全部? 流石にそれは俺の経済事情がちょっと、だって財布の中には一葉さん一人しかいないし、かなり無理だと――
「駄目?」
頼むからキラキラした目をこっちに向けないでくれ! ものすごく断りづらい!
で、でもね? やっぱりダメだと――
――ダメ、だと……。
……。
「俺は、無力だ……」
場所は変わって、近場の公園。噴水前にあるベンチに腰掛けている。隣にはもぐもぐと口を動かし続ける少女。結局俺は、女の子の無垢な期待には勝てなかった。
驚くべきか、悲しむべきか。彼女は既に7ピース目に突入している。しかも衰える気配を微塵も見せない。デザートは別腹なんていうけど、限度はあるだろうに。なんて子だ……。
結局、一葉さんどころか野口さんも姿を消し、残ったのはわずか二百円。漫画どころか、雑誌を買うことすら出来ない金額だった。すっからかんもいいところだ。
ハハハハハ……。善意って、金がかかるんだな……一つ学べたよ。
悲嘆にくれる俺。そんな事は全く気にしない少女。一ダースもあったケーキを早くも食べ尽くそうとしている。
凄いな。妖怪の白音ちゃんや悪魔の黒歌さん達より良く食べるんじゃないか? まるで龍の胃袋だ。
「ん。ごちそうさま」
ペロリと完食。よく出来ました。と思わず言いそうになった。
「満足した?」
「ん。我、満足」
「そいつは結構」
無表情ながら、少しだけ口元が上がっている。良かった、これで不審者についていく云々は心配なさそう――
「次、くれえぷ、所望する」
「ごめんなさい許して!」
全然満足してなかった。本当に龍の胃袋だよこの子……。
「残念」
少し悲しそうな顔をする。少しの罪悪感にとらわれるけど、ごめんね、もう金が無いんだ……諦めてくれ。
「また今度、お前、奢る」
「諦める気ゼロ!?」
まぁ……悪気は無いんだろうけど。もうちょっと遠慮って言葉の意味を知って欲しい。
少女とお喋りしたりして、会った頃からは大分時間が経った。さて。そろそろ帰るか。財布も軽くなっちゃったし、外にいても出来ることなんてないし。いかに言っても、もうドレスアップは終わった頃だろう。
立ち上がると、少女が聞いてくる。
「お前、帰る?」
「ああ、そうだね」
少女は、我、楽しかった、と少し笑みを浮かべる。夕日に照らされたその顔は神秘的で……可愛かった。
「名前、聞く。我、オーフィス。お前、何?」
っと、いけないいけない。
「俺はイッセー。兵藤一誠だよ。またね、オーフィス」
「また、イッセー」
と言いつつ、オーフィスが俺の頬を触る。……? 何だ、おまじないでもしてくれたのかな?
俺をもう一度見た後、満足した様子でトコトコ歩いていくオーフィス。不思議な子だったな、と思いを馳せつつ、俺も動き出す。気づかなかったけど、もう夕方近いな。さっさと家に帰るか。
「……気を把握出来るようになってるにゃん」
「……凄く大きい魔力も感じます」
夕飯後、いつも通りに座禅をしていると、二人が絶句していた。あれ? 何かやったっけ、俺。
やっぱりオーフィスも可愛い。
イッセーがかなり強化されましたねー。でも、蛇を入れられたわけじゃありません。黒歌や白音がやったのと同じ方法で、でも桁違いに上手く、才能を開花させただけです。
ぶっちゃけ鍛えないと弱いのはまんまだったり。
そしてここで、前回、黒歌が属している場所を妖怪のコミュニティーだと勘違いしていたイッセーが悪魔業界だと知りました。リアスの名前はまだ知りませんが。
キングクリムゾン!
黒歌を助け、オーフィスに気に入られ、と。種は蒔いたので、次回から原作に飛びます。多分。
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