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はろはー。セイさんです。D×D大好きなんで投稿しました。よろしくお願いします。
イッセーと黒歌
 俺こと兵藤一誠が、その黒猫を見つけたのは本当に偶然だった。



 学校からの帰り道、いつも通る裏道の端っこ。その電柱と塀の間なんていう、普段なら間違いなく見落としてただろう小さな隙間にそいつはいた。

 そこらではお目にかかれそうにない、深く黒い毛並み。俺を見上げる怪しげな瞳は、ふとした瞬間に飲み込まれそうなほど深く、奥が見えない。……どことなく寒気を覚える魅力を放っていた。

 一瞬で心を奪われた。俺は犬よりも猫派で、特に黒いのと白いのが好きなんだ。つまりこいつは好みのど真ん中である。しかも不思議な魅力もあるときた。

 是非とも撫でたい。ただその一心で近寄る。だが、予想外に大人しい。

 野性なら威嚇でもしそうなもんだが、警戒されもしない。ただ何かを言いたげな顔で俺を見上げる猫。首輪とか無いし、飼われてるわけじゃないみたいだけど。やっぱり可愛いな。……ん?

「おいおい、お前怪我してんのか」

 よく見てみれば、美しい毛並みには所々赤黒い部分がある。コンクリートにも少々。血が結構流れてるみたいだな。なるほど、だから逃げなかったのか。

 出血場所が数ヶ所あるが、そこまで傷は深くなさそうだ。……うん、これぐらいなら俺でもなんとかなる。

 一日一善、情けは人の為ならず、だ。手当てしよう。所詮自己満足の域を出ないが、誰も損をしないんだ、構わんだろ。もちろんこれは善意からの行動であって、決してもふもふしたいからではない。……嘘じゃないぞ。

「お前を手当するために家に連れていく。異論は認めない」

 抱き抱える。猫はにゃあ、とだけ答えた。暴れてないし、了承の意味だったんだろう。と勝手に納得する。

 えっと、猫に人間用の医療機器を使っても大丈夫なんだろうか。……まぁいいや、説明書読もう。自己完結し、傷に響いたりしないようにゆっくりと家に帰った。



「にゃん♪」

 ……その結果、俺は猫耳の着物姿をした美人のお姉さんに押し倒されていた。念のために言っておくが、別に頭はおかしくないはずだ。

 ……は? 展開が急というか、アレ過ぎて全く意味が分からない。つか何だこれ。俺の頭はどうかしてしまったのか?

「あの、えっと……これどんな状況ですか?」

「私、黒歌。さっき君が助けてくれた猫なんだけど、実は猫又だったの。助けてくれてありがとにゃー」

「……はぁ。あ、俺は兵藤一誠です」

 馬乗りのまま名乗られた。疑問に答えてはくれなかったが。礼儀で一応名乗り返しておく。……って、猫又? 猫又って言ったよな? 猫又って妖怪だし、ってことは……。

「あれ、俺もしかして命の危機の真っ只中だったりします?」

 食物連鎖的な意味で。

 一瞬キョトンとして、クスクスと笑う黒歌さん。割と本気な質問だったんだけど。そんなにおかしいかね?

「心配しなくても、猫又は基本的に食べるものは人と同じよ。普通、人を食べたりはしないわ。それにイッセーは一応恩人だから、それこそ食べたりはしないにゃ♪」

 少し不安だったが、返答に安心する。そんな俺に軽くウインクする猫又のお姉さんはとても魅力的で、妖艶で。それでいて素直に可愛かった。魔性の美しさだよ、それこそ悪魔のように。

 さて、美味しくいただかれる心配がなくなったし、取り合えず下りてもらおう。少し体勢辛いし。

「黒歌さん、すみませんけどどいてもらえますか?」
「ダ、メ。今から君を食べるもの」

 ……え?

「一分前のあなたの言葉は!?」

「大丈夫、性的な意味だからにゃ」

「いやいや、どっちにしろダメだからね!?」

「そう。残念」

 全力でツッコむ俺、それを見てニヤニヤと笑う黒歌さん。ようやく冗談だと気づく。

 か、からかわれた……実に飄々とした、掴み所のない人だよ本当。あ、妖怪だっけ。



 大分打ち解けた(のか?)所で、とりあえず俺の上からは下りてもらい、向かい合って座る。

 さて。話が一段落したところだし、本題に入ろうか。

「で、何があったんですか? 大怪我、とまではいわないかもしれませんけど、相当な出血でしたよね?」

 そう、黒歌さんの怪我だ。妖怪ってものの認識が何処まで正しいかは別としても、人間より強靭なのは間違いないだろう。そんな黒歌さんが怪我を負っていた。どういう事だ?

「……それは、ね。主には逆らえないからよ」

 先程までとは打って変わって歯切れが悪くなった黒歌さん。ふざけた雰囲気はなりを潜め、自嘲の笑みと憎悪が浮かぶ。その顔には暗い影が差している。

 これは……えっと、主には逆らえない。つまり、この怪我はその主にやられたか、それに類するものだと。とにかく、原因は黒歌さんの主。

 ああ、なるほど。主っていうぐらいだし、黒歌さんより偉いそいつが、立場を利用して好き放題やっているって事か。絵に描いたようなクソヤローだな……。

「聞く限り、凄まじくクソヤローですね」

「見てみても、凄まじくクソヤローよ」

「……黒歌さん」

「心配しなくても、大丈夫」

 まるでもうすぐ終わるから、とでもいいたげな微笑。いや、冷笑を浮かべる。

 ……っ。あの笑顔は俺に向けられたものじゃない。頭では理解している。それでも、見ただけで背筋が凍る程の、ぞっとするような美しい笑みだった。

「さて、私はもう戻るわ。手当てしてくれて、ありがとねん」

 どうしたものか考えていると、立ち上がる黒歌さん。その双眸からは並々ならぬ覚悟を感じる。

 ……重い。それを雰囲気で悟る。譲れない何かを守りに行く、そんな印象を受ける。これは、少なくとも見知らぬ他人が出る幕じゃないのは確かだろう。

「じゃあね、イッセー」

 外へ向かう黒歌さん。俺は……手を延ばすことも出来なかった。

 係わり合いにはならない方がいいのかもしれない。黒歌さんのプライベートな部分だ、他人が土足で踏み込んでいいような領域じゃないだろう。

 正論と気持ちが頭の中をぐるぐる回る。……俺は、一体どうするべきなんだろうか。何をするのが正しいのか。



 ――んなもん、決まってる。



「待ってください」

 呼び止めていた。結局、勝ったのは感情だった。あんな話を聞いて、放っておけるわけが無い。そんな事するもんか!

 黒歌さんのことが、気になる。少し言葉を交わしただけだけど、この人が悪い妖怪じゃないのはよくわかった。のっぴきならない事情があるだろう事も理解した。

 その上で、厄介な事情なんて全部吹っ飛ばして、この人には笑顔でいてもらいたいと思う。

 ……よし。そうと決まれば――

「何?」

「――黒歌さん、そいつ社会的に殺しちゃいましょう。それで万事解決です」

 俺が出来ることをするまでだ。

 取り合えず、思い付いた策を提案してみる。まぁ殺すといっても、あくまでも社会的に、だ。ここ重要。

 さっきまでの雰囲気だと、本気でその主人とやらを殺す気だったのかもしれない。でも、それでは黒歌さんが捕まり、不幸になる。それじゃあダメだ。

 なら、相手を罰して地位を消し飛ばす形で自由になればいい。要は黒歌さんを束縛するだけの地位が無くなればいい話だ。

「無理ね。奴らにとって、下僕は単なる駒。自分の価値をひけらかすための道具だもの。道具をどう扱おうが、持ち主の勝手よ」

 これは風潮だから、と黒歌さん。だから私はあいつを……ってもう言外に言っちゃってるけど、それはダメだってば。

「いいえ。例外はあるはずです。人に下僕を見せびらかすような顕示欲を持った奴らが沢山いるって事は、社交界とかも当然あるでしょう。広い社会です、その中に一人くらいは地位もあり、かつ下僕を本当の意味で可愛がる人もいるのでは? その人に訴えてみたらどうですか?」

 多分、これで何とかなると思う。妖怪の社会像は黒歌さんの発言からすると、中世のヨーロッパみたいな感じだろう。妖怪にもコミュニティーがあり、その中でも一部の階級の者が下僕を持てるってとこか。

 それなら、俺が今言った例外くらいいるはずだ。というより、いないわけがない。下僕が主人の道具という意味しか持っていないなら、誰も下僕にならないからだ。

 正しくは奉公人みたいな扱いであるはず。そこを突く。

 それに、今の世界に貴族制度があまり残っていないのは、やっぱり上手くいかなかったから。どうしても現れるバカが保身と搾取に走るから、虐げられた民衆が蜂起する。今回もそれに似たような事を起こせばいい。

 その人にそこまで力がなくても、民衆の力があれば、話は別だ。

 事実、黒歌さんは思案顔ではなく、真剣な顔で俺に続きを促す。

「どうやって?」

「がさいれしてもらうんですよ。官か、それに類する人に。いくら風潮でもあなたへの暴力は行き過ぎでしょうし。まずは非人道的な扱いの証拠を握り、マスコミ……が無理なら、比較的力になってくれそうな社会的地位のある人や一般人に流して下さい。後は勝手にいい方向へ進みますよ」

 俺が使うのは、個人の力なんて不確かなものじゃない。社会全体の意志、世論だ。

 世論ってのは怖いものがある。時には公的権力すら越える力を発揮することもあるぐらいだ。とあるアメリカの新聞記者がいい例だろう。

 禿鷹がまさに少女を狙わんとした瞬間を撮影した記者は、意気揚々とそれを記事に載せた。その写真は途上国の実態を伝える素晴らしいものだったが、民衆が非人道的だとこれを非難。

 撮影後、少女は元気に走り去ったという彼の弁明は受け入れられず、結局一人の人間を自殺に追い込んだ。

 社会を味方につけてしまえば、個人相手には無敵に等しい。これを利用する他ない。
「そんな簡単な事で大丈夫なのかにゃ?」

 信じられない、といった表情の黒歌さん。まぁ、確かに絶対成功するわけじゃないけど、成功の事例はかなりある。

「ええ、前例もありますし。それに……やらないよりは、やってみた方がいいでしょう?」

 ニヒルを意識して笑みを浮かべる。と、黒歌さんも頷いた。

「そうね。その通りだわ。……ありがとね、イッセー」

 フッと笑う黒歌さんは、最初のような恐ろしい雰囲気を纏っていない。凄く穏やかな笑みを浮かべている。

 ……ちょっとだけ、ドキッとした。

「今度こそ戻るわ。……白音が心配だしね」

 何かを呟いて、また玄関に向かう黒歌さん。その足どりは、少しだけ軽そうだ。

 よかった、多少は力になれたっぽい。

 ドアを開けたところで、振り返る。

「またお世話になる事があるかもしれないわ。だから……またね、イッセー」

 それだけ告げると、黒歌さんは出ていった。

 バタン、と閉まったドア。それをしばらく見つめる。俺らしくはないが、どうかご無事でいてください、と。信じてないけど、神様とやらにも祈っとく。

 突然の出会いだったけど、笑っていてほしいと思った人への祝福を。あ、妖怪だっけ。



「にゃん♪」

「……にゃ、にゃあ……」

 増えた。どういう事やねん。



 黒歌さんと出会って、ちょうど一週間後。朝起きると、二人の美少女に馬乗りされていた。一応言っておくが、別に頭はおかしくない。もう一つ言えば、妄想癖もないはずだ。

「……えっと、今度は何か?」

「言ったでしょ、お世話になるかもって。だから来ちゃったにゃん♪」

 頭が痛くなった。



 結局、俺の提案は上手くいったらしい。というか、民衆云々の必要さえなかったようだ。

 下僕を大事にすることで有名な家系、グレモリー家は大層な名門で、今妖怪の世界を切り盛りしている四名の方々の一柱もそのグレモリーの人らしい。

 その人の妹に仕打ちを告白した結果、クソヤローは家宅捜索にあい、呆気なく証拠を発見され、捕縛となった、と。

 ……いやはや、出来すぎな気もするが、とにかく良かった。

「で、こちらは?」

「妹の白音よ。ここに住もうと思って連れて来たの」

「ハハハハハ。面白い冗談ですね、黒歌さん。……え、マジ?」

「……マジ、らしいです」

 呆然。白音ちゃんも疲れたように言う。いやいやいや。クソヤローが捕まった所まではいいけど、結論がおかしい。

「何で?」

「住む家なくなっちゃったし、ちょうどいいかと思ってにゃ」

「絶対他にも選択肢あったよね!?」

「イッセーと一緒に居たくて……」

「笑いながら言わないで! 傷つくから!」

 割と本気で言い合いをしてると、くす、と白音ちゃんが笑い、それが少しずつ伝染。結局みんなで笑い合う。それが、ようやく終わりを感じさせた。

 良かった、誰も不幸にならなくて……ん? 誰か不幸なクソヤローがいる気がするけど……ま、いいか。

「で、いつ向こうに帰るんですか?」

「? 戻ったりなんてしないわよ? 言ったでしょ、ここに住むって」

「あれ本気だったの!?」

 目をぱちくりとする黒歌さん。驚いたのは俺の方だって! あれ冗談じゃなかったのか……ああ、言わなくていいよもう。顔見ればわかるから……。

 はぁ、とため息をついて。二人を見る。

「じゃあ、改めて自己紹介しようか。俺は兵藤一誠。イッセーでいいよ」

 半ば投げやり気味に言う。もう疲れました。いや本当に。

「私は黒歌。よろしくにゃん♪」

「……白音です。よろしくお願いします、お兄ちゃん」

 ニコニコと、黒歌さん。テレテレと、白音ちゃん。

 ……は? お兄ちゃん!? え、それってどういう事――

 と、白音ちゃんに詰め寄った時。

 ガチャ、とまるで俺の部屋の扉が開けられたかのような音がした。

「こら一誠! いつまで寝てる……の……?」

 突然の介入者にびっくりする俺。それはお袋だった! 階段登る音とか聞こえなかったんですけど!?

 いきなり侵入して来たお袋は、顔を徐々に俺以上の驚愕の色に変えていく。見知らぬ少女二人が、息子とベッドの上。しかも馬乗り。俺自身びっくりするほど誤解される要素しかなかった!

 違う、違うんですよ、これはマジで違うからね?

「ハヤク、シタク、シナサイネ」

 ああ、思い通じず。ギシギシと油の切れた機械みたいな動きで扉を閉めるお袋。言い訳なんて何も思い付かない。俺は見送るしかなかった。

 ――ドタドタと階段を転げ落ちるような音。数瞬後。

「いいい一誠がああああああああああああ! しょしょしょ小学生でえええええええええ! 猫耳姉妹にいいいいいいいいいいい!」

「か、母さん!? どうしたんだ、ちょっと落ち着……母さん!? 母さあああああああああああああああああん!?」

 あはははは……はぁ。ご近所に迷惑だなーなどと現実逃避……しきれなかった。終わった。何か知らないけど、何かが終わったのはわかった。

 元凶の方を見てみれば、満面の笑みを浮かべる黒歌さんと、未だ恥ずかしそうな白音ちゃん。彼女達も悪気があったわけじゃないだろう。……約一名疑わしいが、そうだと信じたい。

 それよりも、優先するべきは、だ。来たる親からの追求を果たしてどう躱すかだろう。……凄く頭が痛くなる問題だが、思考しないわけにはいかない。

 取り合えず、苦笑いをするしかなかった。ウチ、ペット禁止なんだよね。あ、妖怪だっけ。
白音可愛いよ白音。黒歌もすっげータイプなんです。

ということで、ぬこ姉妹救出。いきなり原作ブレイクですが、気にしないで下さい。黒歌は白音の身柄を盾に眷属入りさせられていたという設定で。

白音もその事を説明されてるので、イッセーに対して最初から好意的です。フラグはいつ建てよっかなー。画策中。

さて、次回はあの人の予定です。黒髪ゴスロリ超純粋でクール(?)なあの人。強さは規格外、見た目も規格外に可愛い無限龍さんに会います。

原作開始はもうちょい先かなー。


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