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今回はなんと200kb、大体通常の話の四話分ですw

切り上げ時も解らず、いつの間にか滅茶苦茶堅い話になりましたw

総文字数 24293文字とかw

相変わらずぐだぐだですがそれでもよろしければどうぞ。

今回は、結構過激な表現などもありますので、読まれる時はご注意を。タイトルの通りオカルト色強めですw

読まなくても特に本編ではこまりません。
試験召喚戦争編
一万PV記念 ○○な話inワグナリア 恐怖編
 傷とバイトと召喚獣!?
 ○○な話inワグナリア 恐怖編



 季節は春。
 三月も中盤だというのに冬が長引いているのか、
 種島ぽぷらや、我らが主人公である八雲総司が住んでいる如月市では記録的な大雪が記録されていた。

「八雲さん、店長がもうそのくらいでいいそうです」
「ん、りょーかい。それにしても良く降るなぁ」

 駐車場の雪かきをしていると、店長からの伝言を受けて小鳥遊が呼びに来てくれた。

「ですね。ここまで降るのは十数年ぶりだとか」

 こりゃ、今日は閑古鳥ですね、と雪が降り積もる道路を見やりながら小鳥遊がぼやいた。
 雪かきを入り口の横にある一畳ほどの物置に入れて、コートに付いた雪を払って店内へと入る。

 店内へ入ると暖かい空気と共に、視界が白く染まる。
 外気の温度差によってメガネが結露したからだ。

 このままだとどうにもならないので、メガネを外してコートのポケットに無造作に突っ込んでおく。

「八雲さん、それだとレンズに傷が付きますよ?」
「ん?あぁ、いいんだよ。これ、安物の伊達メガネだから」
「あれ?先輩って伊達だったんですか?」

 自分もメガネを掛けているからか、メガネの扱いに五月蠅いようだ。

「あ、総司君おつかれ。はい、タオル」
「さんきゅー」

 まだ、入って日が経っていない小鳥遊にメガネの事を説明していると、クリーニングからおろしたばかりのタオルをもって種島がやってきた。

 タオルを受けとって雪で濡れた髪をすこし乱雑に拭き上げる。

「うわ、本格的に降ってきたね。外寒くなかったの?」

「……寒くなかったとでも思うのか?」

 赤く霜焼けになった手で種島の両頬を押さえてやる。

「ひゃ!?」
「あ、あんなに手をブンブン振り回して、ちっちゃかわいい」

 頬を押されてタコ口になりながら、手をブンブン振り回して種島が抗議している。
 小鳥遊はその様子をみて、どこか遠い所へとトリップしていた。


 はっきり言おう。

 この一件常識人にみえる小鳥遊という新人は変態である。

 小さいモノを愛でるという性癖をもっており、赤ん坊から小動物、果てはミジンコすら写真入れにいれて飾っているくらいだ。当然小さな子供も好きで、ロリコンかと言われたら父性だと言い返すその様は変態に違いなかった。

『十二歳過ぎたら年増じゃないですか』と言い切るこいつの言動を見て、俺は妹の茜をこいつに近づけるのは止めようと心に決めた。


「もう、酷いよ。折角タオル持ってきてあげたのに」
「人が凍えていたのに、寒くないかのようなことをいうからだ!!身長止まるように上から圧迫してやろうか?」
「わ、私が悪かったからやめてよぉ、折角去年から十センチも伸びたのに、縮んじゃうよ」
「え、先輩って去年は十センチも小さかったんですか?何で身長伸ばしちゃったんですか!!」

「黙れ変態」


 身長を気にしている種島をからかっていると、深刻な顔をして小鳥遊が種島を怒っていた。
 本当にこいつは、仕事もできるし常識人なのに自分の趣味に関する事だと変態すぎて困る。

 種島と一緒にその様子にどん引きしていると、店長が生クリームを吸いながら現れ、暴走する小鳥遊に拳骨を噛ました。デコレーションする為に最初からビニールに詰められているのだが、それをいい大人が直にしゃぶっているのはなんともシュールだ。


 ゴスンっという音がして、小鳥遊は頭を押さえてうずくまっている。

「何するんですか!?」
「面倒くさい奴だな。八雲や種島がどん引きしてるのがわからんのか?」

 店長の言葉に、俺等二人を見返してくる。

「さすがの俺でも、それは引くわ」
 やっ、そんな目で見られてもと手を前に差し出して、否定してみる。
 種島もあはは、と苦笑しながら俺を盾にして隠れていた。

「そ、そんな、八雲さんはどうでも良いとして、先輩に嫌われるだなんて」

 がっくしと床に手をついて倒れる小鳥遊。
 さりげなく失礼な男である。

 そんな変態を無視して、俺等は会話を続けた。

「あ−、今日はもう人も来ないだろうし、休憩してていいぞ?」
「了解っす」
「そ、総司君、手が真っ赤だよ?」

 そりゃそうだ。この大雪の中軍手一枚だけで雪かきしていたのだから。
 手袋を所持していない俺は、店の備品である軍手を使っていたのだ。
 二重にすればそれなりに暖かくはあるが、防水ではない上に、ラスト一組だったので無いよりましって感じだ。

「……駄目だ。俺にはストーブが必要だ」


 種島に言われるまでもなく、早くこの手をなんとかしたい。
 俺は、ストーブのあるスタッフルームへと足早にむかった。



 ◇◇◇

「……なんだ総司か。前髪上げてるから誰かと思ったぞ」

 手を温めて、一息ついているとキッチンから鍋をもった佐藤さんがやってきた。

「雪かきやってたら髪が濡れたんで。濡れると面倒くさいですからね」
「いい加減前髪きったらどうだ?」
「客商売だから隠す必要はあるでしょう?」
「まぁ、前髪でいったら俺の方が長いからなんともいえんが」

 確かに、前髪の長さでいったら佐藤さんの方が俺よりもずっと長い。

「それ、どうしたんですか?」
「いや、開店休業だからな、日にちの近い牛乳つかってココアを作ってたんだが、置いておいた生クリームが見あたらないんだが──」
「おぉ、ココアか。気が利くじゃないか」

 生クリームの所在を探して居る佐藤さんのまえに、今まさに其れを口にくわえている店長。
 心なしか、佐藤さんが震えているきがする。

「あんたまた勝手に食材に手を着けたな?」
「何を言っている。そこのテーブルに置いてあったんだ。消費期限を見れば今日の日付。これはもう私に食えといってるようなもんだろう」

 たしかに、そんな状況であれば店長がそうなるのは目に見えている。

「くそ。居ないからといって安心した俺のミスか」
「この店の食い物は全て私のもんだ!」
「すこしは反省しろよ、あんたはよぉ」

 この二人の漫才は付き合いが長いからか、見ていてとても面白い。

「杏子さんったら、言ってくれれば私がいくらでもパフェをつくるのに?」

 気が付けば、種島と一緒にホールに出ていた八千代さんと新野さんもやってきている。
 八千代さんは、自分を頼らずに佐藤さんの生クリームを店長が食べているのに嫉妬しているのか、どこか寂しげな雰囲気で頬に手をあててそんなことを言っていた。ちなみに伊波さんは雪がふってきたので既に帰宅している。

 今店にいるのは、俺、種島、小鳥遊、新野さん、八千代さん、佐藤さん、相馬さん、店長の七人である。
 店長と八千代さん、新野さんは方向が一緒なので、店長の車で帰るらしく、俺と種島と、相馬さんは佐藤さんの車で送ってもらう予定なので残っている。



「でもでも、なんで佐藤さんはこんな所に置いておいたんですか?」

 新野さんが、普段から店長とバトルを繰り広げている佐藤さんらしくないミスだと、質問していた。
 俺もそう思う。

「それはね、なんだかんだツンデレな佐藤君が、みんなに暖かいモノをつくろうとしてココアを作ったはいいが、人数分のカップを用意しようとしてここに置いていったままだったんだね。ところが帰ってきたらココアに乗せるように用意していた生クリームがなくって怒ってるってわけさ。見た目によらずかわいいところがって、あつい、熱いよ佐藤君」

 まるで出るタイミングを計っていたかのように登場した相馬さんは、ここぞとばかりに説明しているが、暖めたばかりのココアの入った鍋を佐藤さんに押しつけられて騒いでいる。
 もっとも少し触れる程度だから火傷にすらならなそうだが……、なんだかんだ佐藤さんも常識人だからな、そこら辺は加減をしってるんだろう。

 相馬さんも、毎回佐藤さんをからかってはキッチン用具で殴られているのに懲りないひとだ。

「あー、わりー、てがすべったー」
「もの凄い棒読みで謝罪をありがとう」

 先程の話を聞いた後だと、相馬さんにするそういった突っ込みも照れ隠しに見えて微笑ましく見えてしまう、
 どうやらその気持ちはみんな同じのようで、生暖かい目で見守っている。

「な、なんだよ。別にお前らの為とかそんなんじゃねえよ。ただ、食材がもったいなかっただけだ」

 どうみても、ツンデレだった。

「なんだ、そういうことなら、新しいクリーム使って良いぞ?アタシのせいで、ココアにクリームなしなんてのは流石に申し訳無いからな」

「そういうならいいけどよ。いいのかよ、言っとくけど業務でもなんでもねえぞ?」
「問題ない。先程いっただろ、この店の食い物は私のものだ」
「そうかい。それじゃあ作ってくる。相馬も手伝え」
「しょうがないなぁ。あ、八雲君はそのままでいいよ。雪かきやってくれたからね」

 なんだかんだであの二人は仲がよろしいようで、再びキッチンに戻っていった。
 実際コンビネーションも中々のもので、二人でいると作業効率が他の人より倍近く上がるらしい。
 他のスタッフと組むと足し算にしか成らないが、付き合いの長い二人の場合はかけ算になるようだ。

「ふむ。……佐藤×相馬…、ありね」
「あ、あはは、すみれちゃん、最近優子ちゃんの影響うけすぎじゃない?」

 別のかけ算をしている人がここにいた。
 なにやらしきりに頷いている新野さんに、種島がすこし引いていた。




 2



「第一回!!ワグナリア ○○な話〜!!」

 新野さんのハイテンションなコールと共に、あの夜会を模した企画が開催されることとなった。

 佐藤さんが期限切れになる食材を使って軽い軽食や飲み物を作ってきて暫くしたとき、新野さんからある提案がもちかけられた。

 放送委員である彼女は、今度の清涼祭でやる企画のプレゼン映像に付き合って欲しいと言い出したのだ。
 今回、このバイト仲間でやってみた映像を、次の委員会の時に見て貰おうという魂胆らしい。

「ルールは簡単です。サイコロに書かれたお題を、紙に書かれた名前の人がテーマにそって話す。その話がテーマにそっていたかどうかを聞き手が持ち点5点の中から相応しいと思った点数を上げ、その合計が一番高かった人がそのゲームの勝者となります」

 簡単に纏めるとこんな感じだ。

<○○な話 ルール説明>

 ① 話題の書かれた八面サイコロと、参加者全員分の名前を書いたくじを用意する。
 ② 最初はゲームマスター(司会)によってトークテーマと、話者が選別される。
 ③ 話者の話が終わったときに、話者以外の参加者は持ち点5でその話に点数をつける。
 ④ 話し終えた話者は、自分の名前の紙を外した状態で、次のトークテーマと話者を選ぶ。
 ⑤ 一巡したときに、話者の持つ合計ポイントが高い順に順位を決定する。

 尚、話者のくじの中には、ゲーム性を持たせるためにいくつかのスペシャルカードが入っている。


 まるっきり、すべらない話だと思っていたら、新野さん曰く、すべらない話とお昼のサイコロトークショーを足して二で割ってゲーム性をもたせたオリジナルらしい。

 まぁ、高校の文化祭でやるんだから、ある程度観客の知っているような企画のほうがいいんだろうけれど。




「勝者ってことはそれなりに特典があるんだな?」
「もちろんですよ。この新野すみれ、ゲームを提案しておいて景品を忘れるほどふぬけてはいません。それではこちらが景品です!!」

 ババァン!!っと、自分で効果音を居ながら、近くにあった布を引っ張ると六つの箱が現れた。
 大小様々なその箱は、それぞれに1〜7まで番号が振ってあり、中に商品が入っているらしい。特に一位から三位まではそれぞれに金、銀、銅と光沢のある紙が張っておりバラエティ番組のようだ。

「今回は私の企画のモニターになって貰うので、参加賞としてかならず何かは貰えます。ですが、それぞれに差はつけていますので、ご了承ください。当然、順位が高くなるだけ高価で良いモノになってるので皆さんはりきってくださいね!!」

「あれ?七つしかないってことはすみれちゃんは参加しないの?」
「あはは、私は今回は記録と、司会進行を勤めますのでお気になさらず」

 一応まだ営業時間中だがこんな大雪だし、人がくればすぐにわかるのでまぁ、たまにはこんなのもいいのかもしれない。

「それでは最初のトークテーマを選びます」

 因みに今回のトークテーマは以下の通りだ。

 ①怖い話
 ②すべらない話
 ③それっぽい話
 ④フリートーク OR トークテーマセレクト
 ⑤感動する話
 ⑥為になる話
 ⑦恥ずかしい話
 ⑧フリートーク OR トークテーマセレクト

 テレビのように特注のサイコロは作れないので、今回は普通の八面サイコロを振って、その数字に割り振ったテーマを話す。
 因みに四番、八番のフリートークは話者が既存のテーマ以外について話しても良い、セレクトは好きなモノを選んで良いということだ。自分の得意分野で攻められる分有利になるだろう。

 新野さんの手から離れたサイコロは二回ほどバウンドして、1番の目をだした。

「一番……」
「ということは、怖い話だな」

 種島は怖い話が苦手らしく顔をしかめ、佐藤さんは淡々とそれに答えている。
 佐藤さんは何が出てもマイペースに進みそうだな。

「お次に話者を抽選します。じゃららららららーじゃん!!栄えある第一話者は……八千代さんです」

「あ、あら?私が一番?困ったわね」
「ふふふ、それでは八千代さんによる怖い話です。どうぞー」




「あれは、私が17歳の頃、そう、ちょうど今の総司君やぽぷらちゃんの頃ね。別の学校の友達が話してくれた話があったの」

 困惑しながらも八千代さんは怖い話をし始めた。
 なんだかんだ言ってストックはあるようだ。




「その友達は都内にすんでいた高校生だったんだけど、仮にMちゃんとするわね。Mちゃんはあるとき、ネットで知り合った人とオフ会をすることになったの。普段は人一倍人間関係に気を使っていたんだけど、丁度、家庭内でご両親と旨くいって無くって、そんなとき親身になって相談にのってくれたのがそのチャットの人達だったらしいの」

「それって、結構危ない話ですよね」
「そうだねぇ、オフ会自体はまともなモノが多いけど、年齢偽ったり、出会い系みたいに利用する人間もいるからね」

 種島と相馬さんが相づちのように感想を入れる。
 話を脱線させたりしなければ、この程度は許容範囲だ。

「そうね。でも、チャットに参加していた数人と会う予定だったし、彼女は自分を支えてくれた人達を信じたの」

 ここまではオカルトがらみでは全然無いな。
 普通に街に溢れている話だ。展開的にチャットの仲間が下衆だったというものだろうか。
 すこし、気になって種島の様子を見てみるが最初と変わらずに怖がっているばかりだ。
 いつの間にやら服の袖を捕まれており、種島のびびりっぷりが垣間見える。



 ☆



 駅前で待ち合わせしていたのでそこに行ってみると、数人の人達が集まっており、目印の赤い薔薇を胸元に挿している人が管理人をなのり自分のハンドルネームを聞いてきたので彼女は安心してしまった。

 管理人の男は礼儀正しく、一人急遽欠席になってしまったと伝えると、既に集まっていたメンバーを紹介した。その人達の中に女性がいたのもその安心に拍車をかけた。それが彼女にとっての最悪だともしらずに。



 それではいきましょう、と、チャットの管理人は近くのファミレスへと案内するために先だって歩き始める。
 Mちゃんは年の近いこともあって先程しりあったばかりのAと名乗る女性と話していた。
 物静かな割りに結構活発なようで、Aさんは今までにも何回か他のサイトのオフ会に参加したことがあるらしく、その時の経験談を聞いて盛り上がっていた。

 普段ネットの中で文字だけでしか知らない人と実際にあってみると、新鮮な感じがしてついついお喋りに夢中になってしまう。

 15分程あるいたときだったろうか。いつのまにか表通りから数本はなれた雑居ビルの多い通りにでていた。

『あの、予約してあるお店ってどこにあるんですか?』

 流石におかしいと思ったAさんは管理人に問いかける。オフ会経験者であるAさんの反応にMちゃんは言いしれぬ不安を覚えていた。


 ☆



 そこまで話し終えて八千代さんはマグカップに口をつけて喉を潤した。
 ずっとしゃべり通しだったから喉も渇くというものだ。
 そんな彼女の動作を皆は何も言わずに、先を促すかの用に見つめていた。
 コトンっと、マグカップが机に置かれた音がいやに鮮明に聞こえている。

 ☆



 管理人は振り返ると先程と同じように真摯な口調で話し始める。

『えぇ、ここでいいんですよ。だって、そんな店どこにもないんだからな!!』

 豹変したかのように声を荒げる姿に、女の子二人は慌てて逃げようとするけど、他の男の人達も仲間だったらしく、羽交い締めのように取り押さえられてしまう。Aさんは喧嘩は得意そうだったが、Mちゃんを庇いながらでは多勢に無勢だった。

 人の気配はするのに、いくら叫んでも誰も助けに来てくれなかった。彼女は呪った。なんで自分はこんなにも不幸な人生を送らなければいけないのかと。もう、だれでも良いから助けてくれ、彼女の叫びが夜の路地裏に響く。

 すると、どうしたことだろう。こんな人も居ないような路地裏に不釣り合いな、馬の嘶きが聞こえた。
 次の瞬間、管理人の男は吹き飛ばされ、顔にマンガのようなタイヤ痕を着けて失神していた。
 彼女達を救ってくれた救世主は、黒いライダースーツを着たライダーだった。




 ☆



 そこまで話を聞いて、俺は思わずココアを吹き出しそうになってしまった。
 なんだその話は……、一瞬、脳裏に知り合いのバイク乗りが思い浮かぶが、まさかなと無理矢理思い直すことにした。

「馬の嘶きにも似たエンジン音、ライトの付いてない黒いバイクに、黒づくめのライダースーツ、そして闇に浮いているかのように目立つ黄色のヘルメット────、それは彼女達の学校でも噂になった都市伝説」

『首なしライダー……』

 八千代さんの説明に、種島と新野さんがハモるようにしてその名前を呼んだ。

「なんだそれ。相馬、聞いたことあるか?」
「うーん、首なしライダーの話自体は全国で広まってるけど、これほど具体的なのは……」
「うちの高校にそんな噂ありましたっけ?」

 男性陣がもっぱら首をかしげている。

「ふふ、文月学園にもその話があるのね。男の子が知らないのも無理ないわ。だって、この話の首なしライダーは女の子の味方なんだもの」


 はい、確定。確実に知り合いになりました。
 というか、いつの間にそんな都市伝説になるほどの活躍をしていたのだろう。
 というか、女の子限定の噂ってどこのブギーポップさんだよ。上遠野先生におこられるぞ!?
 俺は自分の友人がいつのまにか、日本のオタクカルチャーに染まっていることに戦慄した。
 そういえば、ジャックさんが布教していたっけかなぁ。
 おもわず遠い目をしてしまう。





 ☆



 首なしライダーは、近くにバイクを止めると、どこからともなく巨大な大鎌を取り出して、残りの仲間の首を切りはねていった。

 彼女達は、その後にまっているであろうスプラッタな光景を予期して目を瞑っていたが、いっこうに悲鳴も聞こえてこない。

 目を開けると、男達は白目をむいて気絶しており、目に見えている限りでは傷も見あたらなかった。

 ライダーは近づいてくると、手元の機会になにやら打ち込んでこちらに見せてくる。
 近くにくるとそのメリハリのあるボディラインから女性であることが解った。

 ”大丈夫?”

 そんな文字を見て、彼女達は思い出した。首なしライダーは頭がないので喋れないのだ。

 その反応に頷くと、彼女はなにやらケータイを操作し、暫くするとまた先程の機会に文字を打ち込む。

 ”警察に連絡した。本当の管理人やメンバーは駅のトイレで縛られていたのを保護されている”

 その言葉に、私達は思わず顔を見合わせてしまう。

 なんてことはない。最初っから自分達は騙されており、オフ会を開催した管理人も被害者だったのだ。

 ”この世界は君達が思うほど悪くはないと思う。だから、人を嫌いにならないで。それじゃあね、マゼンダさん、アプリコットさん”

 そう言ってライダーは再び、バイクで道路に向かって走り出す。遠くからサイレンが聞こえる。警察が来たので鉢合わせないようにするのだろうとマゼンダと呼ばれた少女は思った。

 なぜ自分のハンドルネームを首なしライダーが知っているのだろう。

 そこまで考えると一つの事に思い当たる。

 今日のオフ会、突然の不参加を知らされた人、あの人はたしかバイクのりだったはず。
 何も告げずに去っていこうとするライダーに向けてMちゃんは思わず声を掛けた。

『女の人だったんですね。ありがとうございました──さん!!』

 彼女の声にライダーは少しの間だけ動きを止めて、少しだけ手をふると馬の嘶きを響かせ道路を走っていった。
 顔の無い彼女の表情はわからなかったが、Mちゃんには確かにその人が笑っていたことがわかった。


 ☆



「それ以降、そのチャットは管理人を含め、気まずくなってしまい閉鎖されそうになったのだけど、MちゃんとAさんがそれに反対し、管理人を引き継いでいまでも毎日そのチャットに入っているそうよ。それ以来ライダーさんは一回も参加していないそうだけど、それでも、また会えるのではないかという気がして何年かかろうともそこで待ち続けているらしいの──以上で私の話はおしまい」

 八千代さんのおしまい宣言によって、張り詰めていた緊張が解けるように弛緩した。

「貴重な話を聞かせて貰いました八千代さんの怖い話。それでは皆さん特典をどうぞ!!」

 店長:4
 佐藤:2
 相馬:2
 小鳥遊:2
 種島:4
 八雲:3

「合計で十七ポイント。満点が30ということを考えると出だしとしては丁度良い点数ですね。過半数は超えることが出来ましたが、男性票の獲得ができなかったのが辛かったか。杏子さん……は忙しそうなので、ぽぷらちゃんにコメントを貰いましょう」

 店長に話を振ろうとしたが、八千代さんにライダーの事をしきりに確認を取っている。
 意外な事に、幽霊系は苦手なのだろうか。
 以外と可愛い性格をしているものである。

「ね、ネット社会って怖いなって思いました。あと、鎌とか」

 怖い話には違いないが、オカルト的な話ではなくネット社会の闇について恐怖を抱いているようだった。

「おーっと、相変わらずの天然ぶりを発揮してくれました。それでは低い点数になった男性陣にきいてみましょう」

 そういって、新野さんはカメラをパンして、男性陣を映す。

「あー、なんつーか、オカルト話なのは確かなんだが、肝心の首なしライダーが良い奴だったからな。これにつきる」
「そうそう。確かに、首なしライダーっていろいろ曰くは付いているし、男には厳しいのかもしれないけどね。女の子の目線で語ってる以上、ダークヒーローみたいな感じだよね」
「右に同じです」

 佐藤さん、相馬さんが似たようなコメントをしており、小鳥遊も手抜きコメントだがそれに同意していた。
 言いたいことはもっともである。

「そうですね。私としましては、都市伝説の事実を垣間見た気がして興味深かったのですが、怖い話という観点から見ると納得できるコメントです。それではそんな中、男性陣で一人だけ三点をいれた”やっくん”こと八雲総司君に、コメントを御願いします」

 そして、ついに俺にコメントが回ってくる。
 本当のことをいっていいか迷うが、まぁ、いいか。
 聞いたところで自称霊感の強い人だからな。


「まぁ、その都市伝説の真実をしってるからかなぁ」

「ほほう、これはまた興味深い事実ですね。それでその真実とは?」

 報道魂に火が付いたのか新野さんがノリノリで聞いてくる。

「あー、まぁ、この話をプレゼンで流したり、公にするかは自分で判断して。個人的には自粛するのをおすすめするけど」

「げ、お前がそういうってことはこの話マジモンかよ」
「え?え?どういうこと?」

 俺の忠告を受けて、佐藤さんがタバコを灰皿に押しつぶして顔をしかめる。
 種島や八千代さんは困惑し、新野さんは鼻息を荒くしている。

「総司君はねぇ、いわゆる見える人なんだよ。どうにもお婆さんがそういった学者さんで、霊能者でもあったらしくてね。占いなんか本当にあたるんだから」

 相馬さんが、どこから調べてきたのかソンなことをいってくる。
 まぁ、別にバイト先の人間になら構わないからいいんだが……。言われたところで信じる人のほうが少ないしな。

「話を戻すとだな。その事件は実際にあったかどうかはしらないが、その都市伝説は当時の池袋で起きた事を元にしてるんだよ。ほら、丁度三年前にでっかい製薬会社の研究所が爆発して、倒産しかかり、海外の会社に吸収された事件あったでしょ?あれ、表向きは実験の失敗による爆発って成ってるけど、事実はもっと悲惨なんだよね」

 いつも通りになるべく淡々と喋ってみたんだが、どうやらそれが余計に真実味を増したらしく、新野さんが冷や汗をかいて固まっている、

「あぁ、三年前、池袋……、なるほど人間狩りだね?」

 そのいくつかのキーワードを元に、相馬さんが答えを言い当てる。
 なんでそんな情報までもってるのか、本当にそこの見えない人だ。

「そう、人間狩り。当時、廃ビルなどに住み着いていた不法滞在の外国人などを拉致する事件が多々発生していた。被害者はみんな正式な手続きを持っていない為、居なくなっても公にできない。連れ去られた人はどうなったのか誰もしらない。そんな噂がまことしやかに流されていた」

「そして、それの黒幕が、その製薬会社ってことか」

「そう。違法な研究の人体実験。基本的には不法滞在者だったが、若い女性は被献体は大体が日本人なので被献体が少なく、高値で取引されていたそうだよ。当時はカラーギャングの残党がお小遣い稼ぎに裏で暴れていたらしいからね」

 店長の推測に、相馬さんが捕捉をつける。

「そういった夜の池袋の治安の悪さと、その当時に実際にあった人間狩り、そういったモノが混ざり合って出来たのが先程の話ってわけ。あの爆破事件じたいも、その人間狩りに反発した人間の仕業なんだよね」

「で、でもでも、どうしてそれと首なしライダーが結びつくの?」
「それはあれだろ、実際に女性が襲われた事件があったからで」
「そうかな?女性が襲われる事件なんてのは何処の国の首都でも、いつの時代も発生してるよ?残念なことだけどね」

 種島の疑問に、佐藤さんが答え、相馬さんがそれに異を唱える。


「相馬さんの言うとおりです。なぜ、その話に首なしライダーの話がくっついたのか。答えは単純なんです」

「え?どういうこと?」

 八千代さんが困惑したように聞き返す。

「……三年前、池袋に首なしライダーがいたんですよ、実際に」

 首なしライダーが真実の存在であるという衝撃の事実に、場は一瞬にして凍り付き、その後、女性陣による絶叫があがった。




 ◇◇◇




「ちょ、ちょっとどういうことなの?やっくん?」

 最早、カメラを持っていることさえ忘れて俺の胸ぐらをつかみ前後に揺さぶる新野さん。

「どういうことも何も、そういうことですよ」
「さっき俺が行っただろ?こいつが言うってことはマジモンだって」

 佐藤さんは、既に予期していたのか、新しくタバコを出して、吸い始める。

「な、なんで佐藤さんはそんなに冷静なんですか!?こんなの発表できるわけないじゃないですか」
「つってもなぁ、実際に一回体験すると以外と落ち着いていられるもんだ」
「あれはぁ、結構まじだったからねぇ」

 新野さんの質問に、経験者は語り、相馬さんも思い出しながら顔を少し引きつらせていた。

「な、なんですかそれは…」
「や、やめようよ、すみれちゃん、絶対怖い話だよ?」
「い、いえ。これでも私は次期放送委員を背負う女です。そこに真実があれば聞きましょう」

 種島の必死の制止にもかかわらず、妙な使命感に突き動かされて後に引けなくなっている。

「まぁまぁ、それが聞きたければ、サイコロで指名しなきゃフェアじゃないよ?」

 相馬さんの言い分ももっともだ。
 ここで話を消化させられてしまえばそれだけストックが消費されてしまう。

「むむ、そうですね。では八千代さんくじとサイコロをふってください」

 そういって八千代さんにくじを引かせる。

「これは……ふふふ、次の話者は佐藤さんです!!」

 なるほど、確かに先程の話の当事者である佐藤さんなら、旨いこと話せるだろう。

「そしてトークテーマは──」

 新野さんの声に促されるように、八千代さんがサイコロをふる。

 ころころと転がっていき、五番で止まった。
 これでは感動する話なので、先程の話はできない。


 ──かにおもえたが、その時ガンっと、店長が机を蹴ってサイコロを再び跳ねさせた。

「お、おい今のありかよ?」
「偶然足があたってしまったのではしかたありません」

 見ればサイコロの目は八、フリートークに決まっていた。


「ったく、まぁ、こんな空気じゃしょうがねえか。面白くなくても文句いうなよ?」
「はいはい、保険かけてないで早くしてくださいね☆」
「チッ、まぁ、いいか。あれはそう、去年の十月頃のことだったか──」


 ☆


 去年はほら、猛暑だったろ?
 当然十月にはいっても熱くてやってられない位だった。

 大学の夏休みも開けて、新学期の新しい授業スケジュールにもなれたころ俺の友人がこんな話をしてきたんだ。

「あ?飲み会?」
「そうそう、なんだかんだで夏休み殆どあわなかっただろ?だからよお、明日飲みに行こうぜ?」
「メンバーは?」
「俺と河野と、佐藤と佐藤の友達」
「あー?二十歳同盟か?」

 バンド仲間の足立がみょうなことを思いついたのか、翌日は丸一日授業も入っていないこともあって飲み会をすることにした。

 二十歳同盟ってのはワグナリアで働く二十歳のスタッフを纏めて河野が呼んでいる呼び名だ。
 河野と足立は隣町のワグナリアで働いている。

 さらに、俺の友達もということで、相馬もよんで飲み会に行くことにしたんだ。


 ☆


「あれ?それだったらやっくん関係なくない?まだお酒も飲めないし」
「あぁ、それはその飲み会の帰りに俺がたまたま佐藤さん達の車を見つけたんだよ」
「……続きはなすぞ?」
「あ、ごめんなさい。続けて続けて」

 新野さんの突っ込みで一時中断されてしまった。
 佐藤さんはすこし不機嫌そうに話をし始める。


 ☆


 まぁ、今行ったみたいに、飲み会自体は特に重大なことも無く終わった。
 ただ、夏休みの間のバイトの話とか、休み明けで出てきた友達の変化だったりとか、今度コピーするバンドのライブの話だとか、そう、なんてことのない話で盛り上がった。

 その店は、ここから隣町にあってな?
 足立が半額券を知り合いから貰ったらしく、俺達はそこに行くことになった。
 当然の如く、足立に車を出せと言われて、そこまで酒が好きじゃない俺は、俺の分の金を出させることでそれを了承することにした。


 さて、酒も飲んで、腹も一杯になり、相馬と足立、河野は酔っぱらい、俺は明日の車内が酒臭いことになるんだろうなとげんなりしながらその店を後にした。
 ん?相馬は酔っぱらっても多少顔がかくなるだけだったな。河野のバカは酷く酔っぱらって寒いギャグを連発していたが。

 そして、そのバカがこの後の問題を引き起こす。

「なぁ、佐藤。ここの近くに心霊スポットがあるの知ってるか?」
「あ?心霊スポット?」
「そうそう。そこいってみね?まだ残暑も厳しいざんしょ?なんつってなー」

 水が飲みたいと騒ぐバカの為に、国道沿いのコンビニに入って軽い飲み物を買った時のこと。

 車内で河野がそんな提案を持ちかけてきた。
 そのバカの頭を殴りつつ、心霊スポットについてどうするか相馬に聞いてみる。

「あぁ、そういえば、あったね。こんな機会じゃないと行かないだろうし、いってみようか?」

 珍しく、相馬が素直に賛同を示したこともあり、それも一理あるかと俺も行くことに了承した。
 この時の相馬は、表情にはでなかったがやはり人並みに酔っていたらしく少々ノリで行動していたんだと思う。
 誰か一人でもここでストッパーが居れば、この先の展開は違ってきたのかもしれない。


 俺達が向かったのは、その店から四十分ほどかかる展望山だった。
 ほら、お前等も聞いたことくらいならあるだろ?車で行ける夜景のスポット。
 そう、あの不自然に丸い山だ。

 あの山の近くに、もう一つ、車道で上がっていける道がある。たしか”四半峠”だったか?
 名前からも解るように、一時間も掛からずに上っていける位の緩い峠だ。

 こちらの山には、展望山とはちがって古びた祠があるだけなんだが、目的地はその祠の前にある池だった。
 鎮池しずめいけというその池は、恐らく祠と関係している謂われのあるものなのだろう。

 だが、この鎮池に関する噂はもっと、近代の頃のものだった。

 今から十数年ほど前、一人の女性がその池に身投げをしたという。
 バブル絶頂期のうかれたようなバカ騒ぎで、成金みたいな人間もいたらしくてな?
 羽振りもよくなれば、バカみたいな男も出てくる。
 そのバカみたいな男に不運にも引っかかってしまったのがその女性だった。
 女性は真剣に男性と交際をし、男性も女性を愛してくれていた。
 ゆくゆくは結婚を。
 資産家の家に生まれた彼女は、箱入り娘で純粋に彼と自分が描く幸せな未来を望んでいた。
 そんな時、彼女の妊娠が発覚した。
 彼女は婚前交渉を渋ったが、結婚をする相手だし、自分の親もよく冗談まじりではあるが孫をみせろといっていたこともあり、彼を受け入れた。
 当然、妊娠の報告を彼女は彼氏に告げる。きっと自分のように喜んでくれる筈だと。
 だが、事実は違った。
 彼は自分以外にも別に女性を愛していたのだ。
 男は女性を騙しており、身体と実家の財産目当ての男だったのだ。

 当然のように彼女は問い詰めるが、男は全く取り合わず、終いには質の悪い連中を呼んで彼女に暴行するよう指示してしまう。
 その結果、彼女は流産してしまい、子供の埋めない身体へと成ってしまった。
 身も心も弄ばれ、さらには女性としての幸せまで奪われてしまい、彼女は十日の慟哭の後、自分を暴行した人間を包丁で刺して回った。
 当然の如く自分をすてた彼氏も探すが、彼は既に地元を離れており、警察に負われるなか彼女は自分の胸を突いて池に身を投げたのだという。
 その一年後、逃げたはずの彼氏は胸に包丁がささった状態で同じく池に浮いている所を発見されたそうだ。
 警察は捜査を行ったが不審なところはあらず、男の自殺ということで事件は幕を閉じる。

 それ以来、そこを訪れるとどこからとも無くすすり泣くような声が聞こえ、男は心臓、女は胎をねだられるという。


 ☆



「う、ううううう、なんでこんなに寒いのに、怖い話なんかしてるんだろう」

 種島が、ガクブルしながら俺の腕に抱きついていた。
 見ればみんな顔色が悪い。

「それにしても悲惨な事件ね。全てその男が元凶だけど」
 新野さんの言うとおり、男の下衆加減に吐き気がする話だ。
 でも、実際に、バブルの時はそう言った事も多かったらしいからなぁ。
 好景気に日本中が浮かれて狂っていたんだろう。

「……そうだな」

 佐藤さんは短くなったタバコを押しつけ、次のタバコを取り出そうとするが既に切れていたらしく、ぐしゃりとソフトケースを潰して、ゴミ箱へ放った。


 ☆


 鎮池は確かにあった。
 四半峠を道なりに行くと、途中で祠のある方へ道は続いており更に上っていこうとすると、祠への参拝ようなのか、車二台分の駐車場があった。

 上っていく先には、赤く錆びた鉄のゲートが作られており、鍵が壊れて風に揺れていた。
 峠だけあって風が強く吹き抜けているようだ。

「で、どうするんだ?車はここまでしかいけないぞ?」

 シガーライターでタバコに火を点けながら二人に聞いてみる。
「うーん、想像以上にものものしいね」
 普段飄々としている相馬も、最初は乗り気だった足立も、大分酒が抜けてきたらしくその場の雰囲気に若干怖じ気づいている。
 そんな様子を俺は特に茶化すこともなく、ただハンドルを握っていた。
 俺自身、あまりの雰囲気に少し気後れしていたのもある。
 だが、未だに空気を読めないバカが一人いた。

「おいおい、ここまで来て何を言っているんだいチキンボーイズ。行くだろう、男だったら」

 先程自分だけコンビニで酒を買っていたらしく、ワンカップ片手にでかい口を叩いていた。

「じゃあ、お前一人でいけよ」
 あまりのうざさに苛つきながら、そういう。

「なんだよ、佐藤。怖いのか?」
「あぁ、正直言って嫌な予感しかしない。俺は自分の感を信じる」

 挑発するようにこちらを見てくるが、俺はそんな安い挑発にはのらない。

 相馬も足立も青い顔をしながら、帰ろうと行ってくる。

「なんだよなんだよ。折角ここまできたっつーのによ」
「そんなに不満ならいってこいって行ってるだろ?ここで待っててやるからよ」
「それは嫌だ。一人だと怖いじゃないか」

 何処までも自己中なバカに苛つきながらも、エンジンを掛ける為にキーを回した。

「そんじゃま、帰りますかね」

 そう言って駐車場から車を出そうとしたときだった。


 ガッシャーン。

 静かな山に、けたたましい金属音が響く。
 先程のゲートが風に揺れたようだった。

「あ、割りい。今のにビビって酒の瓶落としちまった」
「おい、勘弁してくれよ」
「もう中身ないから大丈夫だって、ちょっとライトつけるな」

 そういって助手席の河野が室内灯を点ける。

「あぁ、あったあった」

 そう言って、酒の瓶を広い上げてこちらに見せる。

「それじゃあ、今度こそ降りようぜ」
 そう河野が先を促した時、バチンっと電源をさわりもしていないのに室内灯が消えた。

「お、おい今の……」
「も、もう降りようぜ。お、俺、腹痛くなってきてさ。下にあったコンビニに行きたいんだが」
「あ、ああ。何とか我慢してくれよ?」

 河野の疑問も最もだったが、足立が切羽詰まって腹を押さえて膝に顔を埋めるようにしているのを見て、俺は慌てて、道路を下っていった。


 ◇◇◇



 麓まで降りると、コンビニは二十四時間営業でなかったらしく既に電気が消えていた。

 慌てて国道を戻って如月市まで走らせる。

「お、おい、足立、本当に大丈夫か?」
「──っ!!大丈夫だって。さ、佐藤君はとにかく安全運転で、コンビニまで飛ばして。足立君は僕が診てるから」
「お、おう。それじゃあ、ちょっとばかし飛ばすわ」

 流石に気になって信号待ちの間に、気になって振り返ろうとするが、佐藤に凄い剣幕でまくし立てられて運転席に座り直す。




「あと、絶対にバックミラーみちゃだめだよ?」




 その一言が、相馬の必死さを裏付けていた。
 相馬、お前は一体何を見たんだ?
 足立、お前はもしかして、あの腹が痛いっていったときからなにか解っていたのか?

 どうしようも無く気になりながらも、相馬の絶対にミラーをみるなという言葉を守って前だけを見ている。

 それにしても嫌に静かだ。

 あのバカはどうしたんだ?
 ミラーを見るなという言葉を聞いたら、あのバカなら真っ先に見て絶叫しそうなもんだが。

「お、おい相馬。河野の奴どうしたんだ?」

「大丈夫。失神してるみたい。きっと緊張の糸が切れたんだね」

 俺の言葉に、相馬は助手席を見やって河野の状態を見ると状況を伝えてきた。

 掌に嫌な汗を搔きながら、俺はもう何度も通ったことのあるはずの国道を如月駅前方面へ飛ばした。


 数分後、深夜と言うこともあり国道を飛ばしてきた俺達はようやく如月駅前まで到着した。
 駅前通りに入る直前のコンビニには入って駐車場に車を停車しサイドブレーキを上げる。
 国道沿いだけあってコンビニの駐車場は異様に広い。
 もともと、車の展示場だったらしく、そのスペースに今は自分の車が一台だけだと余計にその閑散とした感じがきわだっていた。


 ふぅ、っと思わず体中の息を吐き出して座席に身を預ける。

「おい、ついたぜ」
「うん、足立君大丈夫?」
「あ、ああ」

 足立は青い顔をしながらも笑顔を見せながら相馬に連れられて降りていった。
 河野を起こそうとおも思ったが、呼びかけても反応はなく、耳障りなイビキが聞こえて来た。
 あまりの暢気さに呆れてしまったが、寝ているなら無理に起こさなくてもいいかと思いキーを抜いて、シートベルトを外した。

 ドアを開ける直前、相馬の先程の言葉を思い出してバックミラーを見るが、何も移っておらず、やはりあれは混乱したまま後ろに意識をむけるなという相馬なりの気遣いだったのだろう。

 おれは自分にそう言い聞かせて、財布をもって店内へとはいっていった。






 コンビニの前にたって、缶コーヒーを片手に一服していると相馬と足立がやってきた。

 見れば飲み物の他に、大量に買い込んでいる。
 これからまた騒ぐつもりだろうか?


「あ、一服してたの?」

 相馬が俺の格好をみて聞いてくる。見れば解ることだったが今はそんないつものやりとりが何よりも必要な気がした。

「まーな。お前等こそそんなに買い込んでどうしたんだ?」

 俺は、タバコを持った手で、コンビニの袋を、誰にも渡すモノかと言わんばかりに抱きかかえている足立を指していった。

「こ、これ。どれがいいかわかんなくなって、それで全部買ってきた」

 そういって俺に見せてきたのは、大量の塩と日本酒だった。
 味塩から、精製塩、クレイジーソルト、粗塩にコショウまである。
 この節操の無さこそが、足立に余裕がないのを物語っていた。

「ほら、清めの塩っていうでしょ?やっぱり必要だとおもって」
「な、もうここまで戻ってきたんだから大袈裟じゃないか?」
「──違うよ」
「あ?どういうことだ?」
「だから、まだ終わってないよ。さっき行ったでしょ?バックミラーを見るなって!!」

 いつも読めない笑顔を見せている相馬が、目を見開いてソンなことをいう。
 あまりのショックに、口にくわえたばかりのタバコを落としてしまった。まだ、火を点けたばかりなのに。


「あれは、俺を落ち着かせる為のことだったんじゃ?」
「違うよ。僕達にはずっと見えてたんだ。あのゲートが閉まったときからずっと後ろから何かが追いかけてきてるのが。後部座席から正面を向けば嫌でもミラーが見えるからね」

 そうだったのか。だから、足立は俺をコンビニへ忙し、相馬は運転に集中させたのか。

「……とりあえず、車に戻るか?河野を起こさなきゃいかんし」
「そうだね。塩の件はそこで話そうか」

 俺達は、車へと戻って再び席についた。
 いつでも発進できるようにキーを指したまま、アイドリング状態でこれからの事を話し合った。
 とりあえず室内灯を点けてみると、なんの問題も無くついた。先程灯りが消えたのは故障じゃなかったらしい。
 気が紛れるようにと、FMに入れてラジオをつける。

 だみ声のDJが、下ネタを発しながら笑う声が聞こえてきた。

 俺の後につづいて、すこしおっかなびっくりしながら、相馬と足立も車内へと入ってくる。
 サスペンションがぐわんぐわんぐわんと三回ほど揺れた。
 足立は抱えていたビニールをおろすと、早速塩をとりだそうとしている。




 ──待て、三回だと?

 俺は先に入り、相馬と足立は後から入ってきたが、河野はずっと寝ていたはずだ。
 じゃあ、一体誰が車内に入ってきたというのだろう。

 思わず振り返って、後部座席の二人を振り返ると、足立は震えながら味塩を振りまき、相馬はずっとこちらを見たまま固まっている。


 その表情だけで俺は動けなくなってしまった。




 何が、何が見えているんだ相馬。
 今、俺の後ろには一体何がいる!?

「いやだ、いやだ、もういやだあああ」

 車内には足立の叫び声だけが響いている。
 苦し紛れのFMもナンラカの原因で電波が入らなくなってのか人の声がぶつ切れでききとれず、誰かがラジオのチューナーをいたずらに回しているかのようなノイズが響き、音量が波のように増減している、




 わめくな、俺だって叫びたい気持ちで一杯だ。
 だが、そんな俺の思いを無視して自体は進んでいく。






バタン、バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタタバタバタバタバタ



 今度は何かが車のボディや窓ガラスを叩いているかのような騒音が聞こえて来た。
 そして、振り向けずに居る俺に、相馬は涙目になりながら、アイコンタクトで何かを伝えようとしていた。唇が震え、もはや解読不能だが、振り向くなという事だけは理解できる。

 そして、ついに相馬の後ろ、リアガラスにも異変が起き始めた。

 つーっと、水がしたたるようにリアガラスに垂れてくる。
 雨など降っていないのに、不思議なものだ。

 これでは

 これではまるで


 ──ビシャっ

 リアガラスに濡れた布のようなモノが叩き付けられる










 まるで、屋根の上に濡れた何かがいるみたいじゃないか。










 だめだ、だめだ、だめだ。

 何も考えられない。

 ここからどうやったって、脱出する手段が思いつかない。

 最早、絶対絶命かと心がおられそうになった時、ハスキーな声のロックミュージックが流れ始めた。
 一瞬何が起こったか解らなかったが、それが自分のジャケットからなって居る事に気が付き、誰かから電話が来たのだと理解した。

 視線を外さずに、ケータイを取り出し表示を確認する。


 ”電話着信 八雲総司”


 それはバイト先の後輩だった。
 この状態を打破するものだとはとうてい思えなかったがそれでも、自分にとって心強いことには代わりなかった。

 相馬を見ると、俺にゆっくりと頷き、塩をばらまいて居た足立も着うたに正気を取り戻し俺の動向をうかがっている。

 そっと、着信ボタンを押して、相馬達にも聞こえるようにハンズフリーモードにする。

『あ、佐藤さん。こんばんわ』

 こちらの緊迫した状況とは裏腹に、八雲のバイト先と変わらない声が聞こえた。

「あ、ああ」

『いやー、駅前まで買い物にきたら佐藤さんの車っぽいの見つけたんですけど、後部座席の人となんか見つめ合ってるから、声を掛けて良い物かどうか迷ってまして──』

 なんという幸運だろう。
 この電話がほんとうなら八雲はすぐ近くにいることになる。
 八雲が何か出来るということは無いだろうが、少なからず今よりは好転するだろう。

「八雲。助けて欲しい」

『──どうしたんですか?なんかトラブルなら力貸しますけど。こう見えて腕っ節は良い方ですよ?』

「よく分からんが、どうやらやばい状態に今あるらしい。車まで来てくれないか」

『?いいですけど。いま、行きま──!?ってええええ、なんてもの連れてきてんですかあんた達は!?』

 近づいてきて漸く今の状態に気づいたらしく、珍しく声を荒げて居る。
 どうやら八雲には車の外にいるナニカが見えているらしい。
 息を切らしている所から恐らく駆けつけてくれているのだろう。

「今、一人は失神していて、三人ほど身動き出来ない状態なんだ。その、なんだ。ドア、開けられるか」

『いま、開けたら車内まで入っていきますよ。佐藤さん、タバコ、タバコの煙を焚いて下さい。そのままだとどうにもできないので、コンビニで使えそうなもの買ってきます』

「ちょ、ちょっと待ってよ」

『相馬さんですか?このままだとどうにも出来ないです。よしんばそのまま朝まで持っても夜になれば同じ状態になります。だから、応急処置でもいいからやらなきゃいけない。そしてそれには準備が必要なんです。そんだけやばいモノに狙われてるんですよ、皆さんは。だから、時間稼ぎにタバコを大量に焚いてさい。その煙を嫌いますから』


 それだけ言うと、八雲は電源を切った。

「と、とにかく八雲の言うとおりにしようぜ」
「そ、そうだね。八雲君霊感あるって行ってたし、何もやらないよりは良いと思う」
「くそ、くそ、全然ライターがつかない」

 ポケットからタバコを取り出すと、足立が震える指で何とかライターを点けようとする。
 焦れば焦る程、失敗するらしく、俺は後ろ手でシガーライターを引っ張り、其れで火を点ける。
 一本、二本と、あるだけドンドン火をつけて、車内は瞬く間に白い煙で満たされた。
 視界が悪くなり少しだけ気持ちが落ち着いてくる。

 暫くそのままで待っていると、八雲が走ってきた。

 コンビニの袋をその場に置くと、日本酒をもって車の回りを走っている。

 暫くそうしていたかと思うと、何かを呟きながら、砂のようなモノを車に向かってぶつけていた。
 リアガラスに回ったときに見えたのは、あれは塩だろうか?

 車のボディにまんべんなく塩を撒いたあと、八雲は真っ赤な手帳を取り出すと、ペンダントトップを引きちぎり何かを呟く。

 瞬間、耳鳴りのような、テレビから発せられるような高い音が響き渡り、ガラスが割れるような音と共に八雲の手元から光りが駆け抜けた。


 その光に思わず目を瞑り、目を開けるとリアガラスにしたたっていた水は存在しておらず、ガチャッという音と共に運転席のドアが開けられたのである。


 ◇◇◇




「ここがその神社なのか?」

 車を降りると、一足先に降りて様子をうかがっていた八雲に尋ねた。

「えぇ、ここまで来ればとりあえずは安心です」

 あの後、八雲にこっぴどく叱られた後、知り合いの神社に電話して門を開けて貰い、そこでお祓いをすることになった。

「総司君、いらっしゃい」
「あ、このたびは突然すみません」
「いえ、いいんですよ。お友達の命が関わっているんですから」

 メガネを掛けて、何処か頼りなさげな雰囲気を持つ男性が八雲に話しかけてきた。
 どうやらこの神社の神主らしく、来ているものが袴でなくスーツなら典型的なサラリーマンのようにも見えただろう。

「それではこちらへ」

 そういって案内されたのは、窓も何もない真っ暗な部屋だった。

 そこには、行燈のようなライトが四隅にいてあり、他には寝具がおいてあるだけ。
 もしここに来たのが昼間であっても、扉を閉めてしまえば光すら届かないだろう。

「それではこれからお祓いをさせて頂きます」

 そう呟くようにいうと、うなるような独特の声で神主が祝詞をあげた。


 ◇◇◇


 時間にして十五分くらいがたったころだろうか。
 神主はおもむろにハサミを取り出すと、俺等の襟足を切り始める。

「ちょ、何するんですか」
「いいから、大人しくしていて下さい。死にたいんですか?」

 失神から目覚めた河野が突然の事に抗議をするが、凄い剣幕で怒る八雲の声に大人しくなる。
 髪型だとか、そんなことは助かるのであればどうでも良かった。
 河野は失神していたから本当の恐ろしさを知らない。だからこそ文句もでるのだろう。

「言っときますけど、一番やばいのは河野さんなんですからね?」
「え?なんで俺が」
「あなた、心霊スポットでお酒を飲んでいたそうですね?お酒というのは霊と自分を近づけます。ましてあれほどの曰くつきの場所でそんなことするのは憑いてくれいってるようなもんです」

 こいつが失神していたのも、実際に霊が身体に入り込んでいたかららしい。
 強力なものではなかったらしく、八雲が何かするとすぐに目が冷めたが、それを考えるとすでに車内には霊がいたということになる。

 八雲の言葉に、河野はあらためて自分がどういう立場にいるのかをしって青ざめていた。

「それじゃあ、今着ている服からこちらに着替えて下さい」
 そういって神主がさしだしてきたのは、まるで死装束のような白い浴衣だった。

「こちらの服は、処分させて貰いますが構いませんね?」
 流石にあれほど脅されていれば、何も言えるはずもなく、皆は一様に頷いた。

「それでは皆さんにはこれから三日三晩、ここで過ごして貰います。トイレは備え付けてありますし、食事はその受け渡しようの扉をつかいます。かならず鈴がなってから開けて下さい。少しでも外の空気を入れてはなりません」


 こうして俺達は、三日三晩暗闇のなかで過ごし、晴れて事件は解決を迎えたのだった。



 ☆



「──とまぁ、これが俺達の経験した出来事な訳だ」

 その佐藤さんの結びの言葉に、八千代さんの時以上の重苦しさがその場を支配する。

 カチカチと時を刻む時計の音と、ファンヒーターのモーター音だけがBGMである。

 話が終わったというのに誰も、言葉を発さない。


 そんな時、かすかな物音が屋根の方から聞こえると、ガッシャーンっと、その沈黙を破るように甲高い音がどこからとも無く響いた。

 どうやら屋根につもった雪が自重に耐えきれずに落ちてきたらしい。
 金属音からするに、物置にでも直撃したのだろう。



 そしてそれはいろんな意味できっかけを作るには充分すぎて──

『きゃああああああああああああああああ』

 女性陣は一斉に悲鳴をあげたのだった。

 種島と新野さんはいつの間にか俺の両腕に、八千代さんは佐藤さんに抱きつき震えている。

「……えっと、来ます?」
「いくか馬鹿」

 あぶれた相馬さんが、店長に両手を差し出すと、拒絶の言葉と共にグーパンが飛んでいった。

「あぁ、だから急にあの時、佐藤君と相馬君は髪型をかえたのね?」
 八千代さんは納得がいったとばかりに手を叩いている。

「そういえば、なんで襟足を切ったんだ?」
「後ろ髪を引かれるって言葉があるでしょ?あれは未練とかそういうものを表すものだけど、転じて、そのモノとの縁を意味してるんだ。それを断つ事で縁を絶ち、その髪を着ていた服を切りとって作った人型に、酒に浸した米といっしょに詰めて、身代わりを作る。そしてあの怨霊と縁を持たせた身代わりに呪いを受けさせることで、怨霊は目的を果たし、もとの場所へ帰っていくってわけです」

「へぇ、僕達が籠もっている間はそんなことをしていたんだ」

「因みに、身代わりがどうなったか聞きますか?」

「一応、参考までに」

「心臓の部分を中心に黒く腐敗していました」

 俺の言葉に、下手したら自分の心臓が腐っていたのかもしれないと想像して青くなる相馬さんと佐藤さん。

「なぜ、完璧にお祓いせずに、元の場所へ戻したのかしら?」

 八千代さんが、俺の言葉に意外そうな声を上げる。


「あのですね、俺は霊感もある方ですし、大体の対処の仕方は知っていますがあんなやばいモノを払えるだけの装備を持ってなかったんですよ」
「そんなにやばかったのか?」

 パフェスプーンを加えながら店長が尋ねてくる。
 ていうかいつの間にパフェを……。

「えぇ。話に出てきた十数年なんていうもんじゃないですよあれは」
「どういうことだ?」
「あの後、家にあった資料をしらべたら解ったんですけどね、まず佐藤さん達がいった場所がかなりの曰くつきなんですよ」
「四半峠と鎮池がか?」
「正確には展望山もです」

 俺の発言に更にその場の空気が重くなる。まぁ、ここまで話したんだからここにいる人達だけにでも釘を刺しておこう。


「展望山、あれって不自然に丸いですよね?オマケに駅前通りから一直線に道が続いている。まるでそこに人が通りやすいように作られてますよね?」
「あぁ、確かに、銀座通りからすぐにあるよね。まるで城下街みたいに」
「新野さん正解。あれって実は古墳なんだよね。つまり昔の偉い人のお墓」
「げ、マジかよ。それじゃああそこのカップル達は墓の上で盛ってるのか?」

 佐藤さんの言うとおり、夜景の見える展望台は駐車場も広く、車の中でカップルがそういう行為に走りやすい場所である。

「つまり、昔の権力者の墓だから、地元民も足を運びやすいようになっていたわけ。そして四半峠はその権力者の妻が祀られている祠の場所。夫の無念を分け合う、死を半分にする峠。死半峠というわけです。そして鎮池。こちらも同様に沈める乙女の池と書いて沈女池しずめいけ。祀られている妻の亡骸を沈め、二人をこの地の守り神とするかわりに、十年ごとに沈女やら静女と呼ばれる村の乙女を生け贄に沈めた池だそうです」


「そんな場所が自分達の街の隣にあったなんて」
「生け贄云々は昔の日本では良くあることでした。その生け贄に選ばれる女性も基本的には自主的なモノで、嘆きながらも最終的には進んで身を捧げていったそうです」

「でも、それならなんでそこまで強烈な存在になったんだ?」

 佐藤さんが尤もな意見をいう。実際に体験したからこそ、気になるところだろう。

「途中からそこは女性達の死体を隠す場所に使われてしまったんですよ。自分の都合の悪い女性を殺し、沈めるにはそこは都合が良かったんです。女性の遺体があっても不思議ではなく、滅多に人も近寄らない山奥の池。十年前のその女性のように、男達に無念を抱き死んでいった女性は多かった。つもりつもった怨念は最早呪いそのものでした」

「もともとは神様だったはずなのに」

新野さんは少し悲しそうに目を伏せた。


「死後、人を祀り上げて神にするのも人間なら、その神の碇に触れて荒御霊、怒れる神にして祟りを受けるのも人間なんですよ。近代では忘れられてきた祠でしたが、その十年前の女性の事件で一気に注目を浴びてしまい心霊スポットになっていきました。後で調べてみればその峠は毎年いろんな形で人が死んでいるんですよ。佐藤さん達のように車で見に行ってそのまま崖下に落ちるケースもありました」

 本当に危ない所でしたね、と佐藤さん達にもう一度釘を刺す。
 相馬さんも、佐藤さんも気まずそうに目をそらし首もとからお守りをとりだした。
 あの一件以来すっかり信仰深くなったふたりは肌身離さずお守りを首から提げている。
 格好悪さとかは、経験者には関係ないのだ。




「まぁ、それだけ危険だということです。元来、ほこらに神として祀られていたので完璧に払う事もできない。なのですることと言えばその荒ぶる魂を鎮めることだけ。あの場所も本来であれば数年前に封鎖されていたはずなのに、かならずと行って良いほど鍵などが破られてしまうそうです。まるで、鎮池が次の得物を呼び込んでいるかのようにね」


「も、もうやめてよぉ。本当にこわいんだからね?」


 がたがたと震えながら種島が俺の腕を振ってくる。

「ん?そうだな。じゃあ最後にみんなに忠告を。心霊スポットに軽はずみにいかないこと。今回の場合は女性が居なかったからこそみんな無事だったわけですから」

「やっくん、やっくん。女性だとなんでいけないの?」

「ほら、女性は男性と違って子供を産むでしょ?それは身体の中に命、すなわち魂を宿しやすいって事なんだ。古来より霊的なモノは女性のほうが強いといわれているし、今回は霊が子供を亡くした女性と、水子の霊だったからね。とりつかれたら本当にやばかったと思う。男よりとりつかれやすいってことだから、女の子は特に注意してね?」

 あの峠の祠は水子供養にも使われており、沈女の呪いに引き寄せられて大量についてきたというわけだ。


「わ、わかった。近づかないようにするし、なんかあったらやっくん頼るからその時はよろしくね?」

 ホントは俺がでるようなものはない方がいいんだけど、まぁ、それでも緊急時の連絡が取れる場所があると無いとではちがうものなぁ。

「そ、それじゃあ、採点といきましょう」

 新野さんが思い出したかのように採点を申し出る。

「そのことなんだが、俺は点数はいい」
「え?いいんですか?正直、優勝も狙えますが?」
「いや、この話は当事者が三人もいるからフェアじゃねえよ」
「うーん、それじゃあどうしましょうか?」
「もう優勝は轟か総司でいいんじゃないか?」
「え、えっと私は、今の話に比べるとそんなでもないし、どちらかって言うと八雲君の補足の方が怖かったって言うか…」

 佐藤さんは、部屋に掛けてある時計をみて、ソンなことをいった。
 八千代さんも今みたいなガチの話をされて萎縮してしまっている。
 見れば閉店時間15分前である。

「もう、こんな時間ですか……、それじゃあ両方の補足説明をしてくれたMVPってことで総司君を優勝、話をしてくれた佐藤さんと八千代さんは優先的に商品を受けとる権利をあげましょう。これにて第一回○○な話を終了します。モニター協力ありがとうございました」

 そういって新野さんはしめくくり、カメラの録画を止めた。


 因みに、優勝商品はホテル如月優待券、佐藤さんはシルバーアクセサリーのカタログギフト、八千代さんは温泉のペアチケットを貰い両親にあげるそうだ。

 他はこんな感じである。

 相馬さん→たわし
 店長→商店街の商品券5000円分
 小鳥遊→絶対防御!!アタッチメントアーム付きマジックハンド「メガロドンZ」
 種島→おもちゃの缶詰

「た、たわし……」
「ふむ、これならあの肉屋のコロッケが大量にくえるな」
「メ、メガロドン?」
「おもちゃの缶詰って」


 四人それぞれにリアクションが違っていて面白い。

「あ、先輩、交換しませんか?」
「え?あ、うんいいよ。かたなし君は可愛いの好きだもんね」

 そう言って二人は商品を交換した。

「じゃあ、種島は俺と商品を交換な」

 そういってメガロドンZを取り上げ、代わりに如月ホテル優待券を渡す。

「いいの?」
「茜を見て貰ってるから。俺がもらっても茜といくわけでもないし、それだったらおじさん達に使って貰った方がいい」
「そっか。じゃあ交換だね。ありがとうね!!」


 こうしていきなり始まった○○な話は、まさかの怪談話二連ちゃんで幕を閉じたのだった。



 余談であるが、この時の映像を加工したものが放送委員会にながれ、そこから俺にオカルト系の相談や、占いなどの以来が舞い込んでくるのはもう少し後のことである。

 さらにさらに余談であるが、あの話で完璧にびびったバイト先のメンバーは俺からタリスマンや護符といったものを大量に購入していき、思わぬ収入を得ることになるのだった。






主人公の住んでいるばしょを勝手に如月市としました。如月グループが幅をきかせているそんな場所です。現実世界では車大手のT田市みたいなもんだとおもってください。あと、地名とかいろいろねつ造してます。

また、オカルト系の知識についてもある程度は調査してますが、ねつ造で補っている部分も多々ありますので、これを鵜呑みになさらないように御願いします。
正直、奥が深すぎて正確に追い切れないッス。



そういえば、今朝郵便受けをみたら、マイコミから新生活応援キッドってのがおくられてきていて、中に新品のひげ剃りが入っていた。

これもカミソリレターになるんだろうか…


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