早くも序盤戦が終わろうとしている。その序盤戦で特に力をこめて書いたことがある。
それはほかでもない、二人の日本人大関への祈りだったのだが、五日目現在、それが通じたのかということになると、どうもなかなか思い通りにはことが運んでくれないというところのようだ。
熱戦が続いた先場所の土俵に比べ、今場所も負けない内容の土俵を期している以上、一番注意を払ってほしいことは、迂闊(うかつ)な敗北を土俵上に見せないことに尽きると書いたのだ。
これには理由がある。両力士に共通していたことは、うっかり負け、失敗負けが多いことなのだ。それらの黒星を成績から排除することが出来れば、格段に良い成績が自分のものになる。
もともと二人の実力がぬきんでていたことは誰もが認めていた。
そういった趣旨の文章も書いたのだが、そうした素人の意見などが目的の場所に届くものかどうか、私も、もともと期待はしていない。
この意見への反応になにかがあっても良いと思うし、二人の相撲っぷりになにかの変化がもたらされても良いと思うのだが、一向にその気配も見えない。
それどころか、名古屋場所が始まってまだ序盤戦が終わったばかりだというのに、絵に描いたような失敗を演じてしまっている。
先場所の盛り上がりからすれば、今場所の更なる感動は、ほとんど計算の中に盛り込むことも出来ただろう。ところがそれに備えた緊張感はまだ観客に伝わって来なかった。それは見ていて腹立たしいほどのものだった。
特に許し難いと思ったのは、当面の敵には断固負けないという強い意志が、勝負の上で見えないことだろう。迂遠な方法だと思うかもしれないが、実は勝負に勝つべき最高の方法だと思うのだが。 (作家)
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