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第三話 ツイン・アタック

「シンジ君、レイ、使徒の能力は未知数よ。まずパレットガンで威嚇射撃をして様子を見て」
「はい、分かりました」
「了解」

ネルフの作戦部長となったミサトは、チルドレンと使徒との戦いを発令所から指揮する事となった。
ミサトの言葉にそう答えたシンジとレイだったが、自分達の作戦はもう決まっていた。
零号機が初号機の前面に出て、使徒を受け止めて侵食させて零号機を自爆させて殲滅させる。
レイは使徒を零号機の中へと引き込み、カヲルは使徒の過度の侵食を防ぎながら自爆の衝撃から自分達の身を守るATフィールドを張る。

「……やっぱり、僕よりシンジ君の方が良かったかい?」

カヲルが尋ねると、レイはカヲルをギロリとにらみつけた。

「ドイツ支部で目を覚まして君達を助けに行こうとしたら、たまたまこのタイミングになってしまったのさ。まさに神のイタズラだね」
「作戦中よ、余計なお喋りは止めて」
「分かったよ」

レイの言葉にカヲルは両手を上げて答えた。

「レイ、緊張しておかしくなっちゃったのかしら?」

カヲルの姿と声はモニターに感知されず、ミサトはレイがエントリープラグの中で独り言を話しているように見えたのだ。

「使徒接近中!」
「2人とも、目の前の敵に集中しなさい!」

細いひもの様な体を円状に回転させながらゆっくりと浮遊して近づいて来る使徒に向かって零号機はパレットライフルを乱射し、使徒の注意を引きつける。
すると使徒は円を解いて身体を伸ばし、零号機の腹を貫いた!

「レイ!」

ミサトの叫び声と同様に、発令所も緊迫した空気に包まれた。

「ATフィールドは?」
「展開されていません!」

リツコの質問にマヤが答えると、さらに発令所の動揺は大きくなった。

「綾波!」

シンジの胸にもあの時と似た痛みが走る。
レイが無事だと頭では解っていても、感情は別だった。
そしてエントリープラグの中のレイが自爆装置に手を伸ばすと、ゲンドウも驚いて椅子から立ち上がる。

「エントリープラグを射出しろ」
「ダメです、信号が届きません!」

マヤが悲痛な声でゲンドウの命令に答えた。

「レイ、止めなさい!」

ミサトの叫び声と同時に零号機は自爆し、発令所のディスプレイは白く染まり、スピーカーからは轟音が鳴り響いた。
あまりのショックにミサトは膝を折って座り込み、マヤは手で顔を覆った。
しかし爆風が止み、焼け残ったエントリープラグの破片の中に居たレイの姿がディスプレイに映し出されると、発令所にどよめきが起こった。

「綾波!」

初号機から降りたシンジが零号機のエントリープラグに駆け寄ると、カヲルに抱えられたレイの姿があった。

「気を失っているだけで、怪我は無いよ」
「よかった……ありがとう、カヲル君!」

シンジは嬉しそうな笑顔でカヲルにお礼を言った。
レイが意識を取り戻し、目を開けて立ち上がるとその姿をディスプレイで見た発令所のスタッフは歓声を上げた。

「奇跡だわ!」

ミサトも手を合わせて涙を流してレイの無事を喜んだ。

「大変です、衛星軌道上に新たな使徒が出現しました!」
「何ですって!?」

マヤが報告すると、発令所は再び緊張に包まれた。

「シンジ君また使徒が来たわ、エヴァに戻って!」

ミサトが初号機の外部スピーカーで呼び掛けると、シンジはあわてた。
まさかこんなに早く次の使徒がやって来るとは思わなかったのだ。

「ど、どうしよう、綾波」
「これは困った事になったね、ロンギヌスの槍はセントラルドグマの中だろう?」
「大丈夫、私に考えがあるわ。……碇君、私達を初号機に乗せて」
「うん、だけど3人も乗って平気なの?」
「なるほど、ATフィールドの力を使うつもりだね」

カヲルはレイの考えを読みとったのか、感心した様子でうなずいた。
3人で初号機のエントリープラグに近づくと、ミサトが驚いた声で問い掛ける。

「ちょっとシンジ君、レイを初号機に乗せてシンクロ出来るの?」
「分かりません、でも使徒が来たなら綾波を守らないと……」

シンジがそう話すと、ミサトはレイをエントリープラグに入れる事を許可した。

「碇君は初号機とシンクロする事だけを考えて」
「綾波はどうするの?」
「私はATフィールドを武器として使う方法を知っているの」

レイがシンジの言葉にそう答えると、初号機の右手にATフィールドが収束し、光の槍が姿を現した。

「凄い、ATフィールドでこんな事も出来るんだね」
「これを衛星軌道上に居る使徒に向かって投げつけるんだ」
「うん、分かったよ」

シンジがカヲルの言葉にうなずいて槍を構えると、使徒の放った光が初号機へと降り注いだ!
そして次の瞬間シンジの目の前に広がったのは、ネルフの実験場の光景だった。

「あれ……?」

シンジは自分の体が4歳の子供に戻っている事に気が付いた。

「私はこの子に人類の未来を見せてあげたいんです」

スピーカーから聞こえて来る女性の声に、シンジは驚いた。

(今のはまさか、母さん……!?)

その直後警報が鳴り響き、ゲンドウが慌てて立ち上がり、強化ガラスに手を押しつけ、食い入るように白衣の研究員が走りまわる実験場を見つめている。

「ねえ父さん、母さんはどうしたの?」

シンジが腕を引っ張って尋ねても、ゲンドウは答えない。
そう、これは4歳のシンジが目撃した光景。
碇ユイが消えてしまった瞬間の記憶だったのだ――。



「母さん、行かないで! 父さん、僕を捨てないでよ!」

頭を抱えてもだえ苦しむシンジの様子を見て、レイは悔しそうな表情になった。
ATフィールドは物理的な攻撃に対しては強いが、精神的な攻撃に対してはまるで役に立たない。
その弱点を突かれてしまったのだ。

「碇君、碇君!」

レイが揺さぶっても、シンジは目を覚まさない。

「大丈夫、僕に考えがあるよ」

カヲルはレイにそう告げると、大きな声で『ハレルヤ』を歌い始めた。
しかしカヲルの歌の音程は外れていて、レイも不快感を覚えて顔をしかめるぐらいだった。

「……止めてくれる」

レイが苛立った表情でカヲルに言ったが、カヲルはさらに歌い続ける。
すると、頭を抱えてうなされていたシンジがうめき声を上げながら目を開く。

「うっ、カヲル君……?」
「やあ気が付いたかい、シンジ君」
「こう言う訳だったのね」
「さあシンジ君、今度は僕と一緒に歌おう」
「えっ、どうして?」
「使徒との戦いに勝つためさ」

カヲルに押し切られたシンジは、たどたどしい口調でハレルヤを歌い始めた。
再び使徒から光が放たれるが、慣れない歌に四苦八苦しているシンジには効果は薄かった。
使徒が精神世界に引き込もうとしても、シンジはそのイメージをはね退ける。
その間にレイは初号機の腕のコントロールをシンジから奪い、ATフィールドの槍を空高く浮かぶ使徒に向かって投げつけた。
すると使徒は消滅し、シンジは使徒の精神攻撃から解放された。

「ありがとう、助かったよ」
「どうして、あんな作戦を思いついたの?」

レイは自分の手でシンジを助けられなかった事に悔しさをにじませながら、カヲルに尋ねた。

「僕は目覚めた後、フィフスチルドレンとしてネルフ本部に派遣されるまでの間、何もする事が無くて退屈で仕方が無かったのさ。退屈しのぎに死んでしまおうかとも思っていた」
「そんな……」

カヲルの言葉を聞いたシンジは少しショックを受けた表情になった。

「でも、僕の気持ちを生きる事に引き戻してくれたのが、ドイツ支部の司令室に流れていた音楽さ」

司令室や会議室など、盗聴の恐れがある場所には音楽を流して盗聴を防ぐ事があるのだとカヲルは説明した。

「僕も歌ってみたいと思った、だけど教えてくれる人間なんて居なかったからね。自分でどうすればいいか考えているうちに我を忘れるほど夢中になったんだ」
「なるほど」

カヲルの話にシンジは感心したようにうなずいた。

「この調子なら、残る使徒も倒せそうじゃないか」
「そうだね、力を合わせれば大丈夫だよ」
「油断してはダメよ」

カヲルとシンジが楽観的な考えを話すと、レイはそう言って注意を促した。
思えばレイはこの時から予見していたのかもしれない。
戦略自衛隊のミサイルを見て、ビームと言う飛び道具を編み出した使徒サキエル。
あの学習能力を長所とする使徒が最後にして最大の壁となる事を……。



<お知らせ>

仮移転先→http://haruhizora.web.fc2.com/

※企画『私の考えた最強サキエル』コンテスト

まだ連載の途中ですが、読者の皆様が参加できる企画を提案したいと思います。
最終話には、私の考えた最強形態のサキエルが出てきます。
詳細は明かせませんが、第三話の時点においてサキエルはシンジ達は自爆攻撃を行うと学習し、その対策を身に付けました。
読者の皆様も私の意見を参考にするしないは別にして、一緒に最強の使徒サキエルを想像して発表しませんか? と言う企画です。
募集は仮移転先に書いた私のサイトの掲示板などを特設し行いたいと思います。
そして他の読者の方からこうやれば倒せるのではないかとツッコミと言う名の意見交換を行うつもりです。

募集開始時期ですが、私が他の読者の方の意見を参考にしてしまったと誤解されるのは残念なので、『逆行のエヴァンゲリオン』の完結後としたいと思います。
また似たような企画がネット上の他の場所で行われても、私は全く見ていないし、無関係だと予防線を張らせて下さい。
同じくメールやメッセージなどで『最強サキエル』の事を話すのはお断りします。
まだ連載完結まで時間はあるので、その間に個性的な最強サキエルの想像を頭の中で膨らませてください。
もし内容が被ってしまっても、それは偶然の一致と考えて下さい。
私も連載以外で最強サキエルについて親しい友人にも漏らすつもりはありません。
にじファン早期終了に伴い、企画の告知が前倒しになってしまった事は残念ですが仕方ありませんね。
(私の個人的予想では、早くても改正著作権法が施工される前日の9月30日と考えていました)
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