滋賀県大津市で昨年に10月に公立中2年の男子生徒がイジメによって飛び降り自殺したとされる事件が、ネット上でも物議を醸している。陰湿なイジメの実態はもちろん、当初は学校や教育委員会が「いじめと自殺の因果関係は認められない」と主張し、生徒への口止めなどの隠ぺい工作を図っていたことなどが明らかになり、多くのネットユーザーが憤慨した。
イジメに憤りを感じるのは当然であるが、これが過度な正義感へと結び付き、一部ユーザーの暴走を招いている。
巨大掲示板「2ちゃんねる」の既婚女性板(通称・鬼女板)などを中心にイジメの加害者グループの特定が開始され、情報番組「とくダネ!」(フジテレビ系)で黒く塗りつぶした加害者の実名が透けるというアクシデントがあったことで特定作業が加速。リーダー格とされる少年Aの父親がFacebookに子育て日記を掲載していたため、そこから少年の顔写真や家族の情報などが特定された。3人いるとされる加害者グループの情報が次々と発掘され、2ちゃんねるは祭り状態となり、Twitterでもトレンドワードに加害者の実名が入るほどの話題となった。これらの情報のまとめwikiも作られ、事件に対するネットの熱は収まる気配がない。
だが、少年事件というデリケートな問題であるにもかかわらず、無関係の個人が加害者を吊し上げることを疑問視する声も上がっている。さらに、加害者や関係者として実名を晒された人物が「人違い」だったという問題も発生。少年Aの母親が地元女性団体の会長であると特定されたが、これは全く無関係の別人だった。加害少年Bの祖父が元警察官で病院に天下りし、その病院に被害者が搬送されたという情報もあったが、これもデマだったようだ。同病院には抗議の電話やメールが殺到し、公式ホームページで「当院および当院の職員は、一切関係がございません。 電話等をたくさん頂戴しますが、救急病院である当院の正常な診療に支障をきたしますので、良識ある言動をお願いします」と院長が呼び掛ける事態となっている。
また、イジメを黙認したとされる担任教師の顔写真が晒されたが、これも同姓同名の別人であった。2ちゃんねるには、間違えられた人物の知人を名乗るユーザーが登場し、「まとめサイト等で、まだその方の写真が貼られています。これは由々しき問題です。今後どのような対処をすれば、無関係のその方の写真がネットから削除されますか?」と書き込んでおり、いわれなき中傷で実害が出ている可能性もありそうだ。
さらに、これらの情報を基にタレントのデヴィ夫人が、自身のブログに加害者グループの実名や顔写真を掲載。現在は削除されているが、間違った情報もそのまま載っていたため、デマを加速させる原因になっている。
鬼女をはじめとする2ちゃんねらーは炎上事件で驚異の捜査力を見せることがあるが、十分に検証せずに根拠の乏しい情報を真実かのように流してしまう場合も多い。単に間違いでしたで済むならば問題ないが、ネットに一度書きこまれた情報は無限に拡散して永遠に残る。電話突撃や中傷メールなどによって、個人の生活や企業の業務に支障が出ることもある。イジメが許せないことであるのは間違いないが、だからといって正義感の暴走によって無関係の人物の名誉を傷つけたり、法を逸脱して加害者をリンチしていいわけではない。
こういった問題は、かねてから週刊誌などのメディアの体質として批判されてきたものと同質だ。にもかかわらず、「マスゴミ」と既存メディアを揶揄していたユーザーが、同じように不確定情報を基に特定の人物をリンチしていることも珍しくない。悪と定めた対象を糾弾する行為は“快感”があるため、いつしかモラルや正確な情報であることなどはそっちのけになってしまう。
ネットは優れた情報収集ツールであると同時に、個人発信であっても立派な「メディア」となる。お笑い芸人・スマイリーキクチが殺人犯の一味だと事実無根の中傷を受けた騒動では、ネットユーザーが書類送検される事件にまで発展した。メディアの影響力が恐ろしいことは過去の数々の事件で証明されてきただけに、ネットが既存メディアと同じ轍を踏まないことを祈りたい。(佐藤勇馬)