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新型の着床前診断で16人出産…学会指針に違反
体外受精による受精卵を子宮に戻す前にすべての染色体を調べ、異常を見つけることができる新型の着床前診断が、神戸市の産婦人科医院で不妊患者を対象に行われ、これまでに16人が出産したことがわかった。
着床前診断は、異常の見つかった受精卵を除くため、命の選別につながるとの指摘もある。日本産科婦人科学会は会告(指針)で、重い遺伝病の患者などを除いて認めておらず、今後、議論を呼びそうだ。
この医院は、不妊治療を専門に行う「大谷レディスクリニック」(大谷徹郎院長)。
従来の着床前診断では、23対(46本)ある染色体の一部しか調べられなかったが、新型の「比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)法」だと、すべての染色体を調べられる。精度も従来より高く、ほぼ確実に異常を見つけられる。
大谷院長によると、2011年2月から12年5月にかけ、97組の夫婦に「新型」を1回ずつ実施した。女性の年齢は28~45歳(平均39・1歳)。いずれも受精卵の染色体異常で着床しなかったり、流産を繰り返したりした経験があり、中には過去に6回流産した女性もいた。
97組の中で、受精卵が順調に育ち、子宮に移植できたのは53組。そのうち39人が妊娠し、16人が出産。3人は流産したものの、20人が妊娠中だ。
受精卵を子宮に移植できた人の妊娠率は74%で、通常の体外受精の妊娠率(39歳の平均で25%)と比べると、3倍近く高かった。
日本産科婦人科学会は会告で、着床前診断を重い遺伝病の患者などに限定し、一般の不妊患者には認めていない。染色体に異常のある受精卵は除外するため、ダウン症などで生まれる可能性のある命をも消してしまうことになり、「命の選別や障害者の存在否定につながる」との批判があるからだ。
しかし同クリニックは、すでに02年から従来の方法で着床前診断を実施してきた。
大谷院長は「染色体異常のある受精卵は着床しにくく、着床しても流産に終わるのが現実。染色体異常の増える高齢の方にとっては画期的な技術だ。命の選別という批判もあるが、命を作るための技術であり、除外するためのものではない」と話している。
着床前診断 夫婦の精子と卵子を取り出し、培養液の中で体外受精させる。受精卵を5日間培養し、「胚盤胞」と呼ばれるものに成長した時点で、一部の細胞を取り出し、染色体の異常の有無を検査する。異常がないと判定された受精卵だけを子宮に戻す。着床前診断による最初の赤ちゃんは1990年に英国で生まれ、すでに世界で3万人以上が誕生したという。
(2012年7月11日 読売新聞)
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