社説
東日本大震災 疲弊する職員/先達に学び自治を支えよう
「引き受けたからには、腹をくくってやらせていただく」。わが国を代表する行政学者が張り切っているのだという。御年73歳、西尾勝氏だ。 「自治を志す君たちへ」と題してことし9月、宮城県で自治体学会主催による西尾氏の集中講義が行われる。講義は2日間にわたって計10時間。自治体の若手職員や公務員志望の学生に、自治の神髄を説く。 地方制度調査会会長を務める。「大阪都構想」で火のついた大都市制度改革の展望など、尋ねたいことは山ほどある。だが、被災地開催であればこそ、震災がわが国の自治制度に投げ掛けた課題をどう論評するのか注目される。 とりわけ被災自治体の職員には、この機を逃してほしくない。この1年あまり、震災対応に追いまくられ、ときに被災住民の怒号にさらされてきた。疲弊し、志を失いかけた人もいるのではないか。 顧みると、自治体の現場は災害前から過酷な環境にあった。 国は、数値目標を押しつけて地方自治体の人件費削減を推進。公共事業の減少とも相まって土木職など技術系職員が、真っ先に人減らしのターゲットとなった。被災地では今、技術系職員の不足が復旧・復興の足かせになっている。 人手不足は事務系も同じだ。自治事務が拡大する一方で職員数が減った結果、1人当たりの仕事量は膨らんだ。 加重に耐え切れなくなって、一人また一人と職場からの離脱が相次ぎ、残された職員に一層責任がのしかかるという悪循環が常態化していた。 無理な行革のひずみは、自治体の規模が小さければ小さいほど深刻なのだが、あまつさえ国や県は職員の削減状況を毎年公表することで、市町村をゆがんだ競争へと追い込んでいった。今回の震災は、こうした弱小自治体を直撃したことも特徴の一つに挙げられる。 南相馬市では、震災後の早期退職が既に100人を超えている。多くは定年が間近に迫った50代後半だという。膨大な震災対応に、精も根も尽き果てた末の判断であろうことは想像に難くない。その分、重き荷を背負わなければならないのは、残された若手職員たちだ。 しかし、全国に目を転じれば、被災自治体の職員に連帯を呼び掛ける仲間がいる。今月21、22日には福島市で、自治体職員有志の会がシンポジウムを開く。自治体学会の西尾セミナーでも、全国から駆け付けた職員との交流会を予定している。 西尾氏と並ぶ行政学の泰斗、東大名誉教授の大森彌氏は「地域社会にとって自治体職員は掛け替えのない財産であり、決して消耗品ではない」と語り、「職員からの政策提案によって自治体は、この危機に立ち向かっていける」と被災地の職員にエールを送る。 学会の先達に学び、交流する中から自治体職員のミッションを再確認し、復興に立ち向かうヒントを見つけてほしい。
2012年07月08日日曜日
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