尖閣諸島沖の漁船衝突事件をきっかけに日中関係はどこまで悪化するのか。
中国政府関係者の発言通りなら、中国人の怒りは今や頂点。
しかし日中間の人やお金の動きをみていると、意外に冷めた姿が浮かび上がってきます。
中国で反日世論はどこまで盛り上がっているのだろうか。
「(日本の行為は)完全に不法で不当で、国内外の全中国人の怒りを引き起こした」。
温家宝首相は9月21日にニューヨークでこう語りました。
中国外務省の報道官も「中国人民の激しい憤慨」などの発言を繰り返す。
普段通りの交流ができそうには思えません。
実態はどうか。
「上海はビジネスの町なので冷静」。
香港系の不動産コンサルティング会社、ステイジアキャピタルホールディングの
陳霞●(あめかんむりに文)副社長はこう語ります。
尖閣騒動のさなかの9月17〜19日に上海で開かれたイベントで、
日本の高級不動産を紹介するブースを出したところ、
すぐさま21日に1組の夫婦が都内のマンションを見に訪れました。
さらに十数人が近く都内の物件を回る予定です。
日本への投資をためらう人もいますが、
「理由は円高だから。年末まで円相場の動向を見たいという人はいる」(陳副社長)。
だが今回の事件をきっかけに購入をやめた顧客はいないといいます。
「10月下旬に日本に行けるようになった」。
貿易会社の北海道スタイル(小樽市)の石井秀幸社長に9月24日夜、こんな連絡が入りました。
相手は中国のある地方都市の幹部の代理人。
北海道の温泉を視察するため、9月下旬に訪日を予定していました。
同社はその案内をするよう頼まれていましたが、事件を機に中止になっていました。
因果関係は分かりませんが、「やっぱり行く」と伝えてきたのは、
日本が漁船の船長の釈放を発表してから数時間後でした。
一方で訪日ツアーのキャンセルを心配する声もあります。
日本で営業する華人系の旅行会社の社長は
「国慶節休みの旅行はすでに代金を払っているから、予定通り来る人がいる。
だが、その後は予約が間違いなく減る」と話します。
ただ2005年の反日デモのときと比べれば、中国での日本への抗議行動は広がりをみせていません。
一部のネットに過激な書き込みはありますが、投資や旅行に深刻な影響が出るかどうかは
しばらく様子をみる必要がありそうです。
中国政府が強調するほど抗議行動が盛り上がっていないのはなぜか。
対日ビジネスを手がける中国人や中国のジャーナリスト、中国で会社を経営する日本人などに聞くと、
一様に挙げるのが「関心の薄さ」。
不動産価格の高騰や収入の格差といった日常的な問題と比べれば、
今のところ話題に上ることは少ないといいます。
「強気の政府と静かな国内」という二面性が2005年のデモと異なる特徴。
背景には中国政府による報道規制もあります。
中国外務省の報道官が繰り返す激しい日本批判の印象とは違い、
今回の事件について中国のメディアは抑制的。
いったん火がつけば、騒ぎを抑えきれなくなる懸念があるからです。
もちろん国力の増大に伴い、中国の政権内では対外強硬論が台頭しつつあり、
偶発的な事件で日本と緊張が高まる恐れは今後も十分にあります。
今回の事件もまだ収束しておらず、過激な抗議行動がいつ起こらないとも限りません。
そうした事態に備えるためにも、外交的な駆け引きを前提にした中国政府の発言だけでなく、
世論の動向を冷静に見定める必要があります。
--- 2010/10/03 nikkei.comの記事などから
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