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退治
 その昔、桃太郎という勇ましくもたくましい少年がいた。
 彼については、知らない者はいないだろう。それくらいの有名人である。
 ある日、桃太郎は鬼退治へと出かけた。その道中のことである。
「もしもし。あなたはもしや、桃太郎さんかな」
「むっ、誰だ」
 突然、草むらから、未来の武装をした小柄な男が姿を現した。
「私は、あなたのお供となるために未来からやってきました」
「馬鹿らしい。俺は鬼を退治しに行くんだ。邪魔しないでくれ」
「これから、犬、猿、雉をお供にするつもりで」
「何故それを知っているんだ」
「私が何百年も向こうの世界からやってきたからですよ」
 男は不敵な笑みを浮かべた。
「うむ……。どうやら、未来からやってきたというのは本当らしいな。なら一緒に来てもらおう」
 かくして、桃太郎は男をお供にし、鬼ヶ島へと向かうことにした。
 舟に乗っている最中、男は、武器について説明した。
「桃太郎さん、これはレーザー銃といって、相手を一瞬で蒸発させてしまう威力があります」
「ほお、それは凄い。ではそれをお借りしようかな」
「どうぞどうぞ。私めは後ろで写真撮影をしていますので、適当に倒してしまってください」
 鬼ヶ島に到着すると、男は子供のように興奮し、写真を撮りに撮った。
「いやあ、いいですねえ鬼ヶ島。この鬼の顔をしたようなフォルム、たまりませんなあ」
「それは良かった」
 そう答えると、桃太郎は男に銃を突きつけた。
「桃太郎さん、これはどういうご冗談で……」
「ご冗談ではない。これは刑罰である」
 桃太郎は、堂々とした口調で言い放った。
「貴様ら未来人が、この時代に来るという情報をキャッチするたびに、この年代を担当している私がこうして赴かなければならない。おかげで、私はこの旅路を何度歩いたことか」
 これを聞いて、男の顔は一気に青ざめた。
「ひいっ、タイムパトロール隊だったのか! ごめんなさい。どうかお許しを」
「許さん。貴様は犯罪を犯したのだ。過去を変えようとした罪は重いぞ。それと銃刀法違反の罪もある。しばらくは、この鬼ヶ島に見立てた監獄からは出られないと思え」
「そんなあ……。では、本当の桃太郎はどこにいるのですか」
「そのような人物は存在しない。時間犯罪者摘発のため、桃太郎の話は我々が捏造したものなのだ。おかげで、この話に引っ掛かったまぬけな時間犯罪者を何十人も捕まえることができた。即ち、鬼退治の鬼とは、貴様ら犯罪者のことを指すのだ。さあ、覚悟しろ」
 男は泣く泣く、お縄を頂戴された。そして、そのまま鬼ヶ島内の独房に入れられ、強制労働を強いられることとなった。
 やがて、年月が過ぎ去る。どれほど悔しい思いをしたことだろうか。男は、ついに監獄から出ることを許された。つやのあった顔はしわだらけになり、体力もすっかり衰えてしまった。だが、男には長年温めていた計画があった。
 未来に帰るなり、男は、タイムパトロール隊の警備に引っかからないよう違法改造されたタイムマシンに乗り込む。
「さて、過去の自分の過ちを止めにいくか……。そうすれば、若かりし頃の私は捕まることもないだろう。それと念のため、私を退治してくれた桃太郎も退治しておくか。生まれてこなかったことにするのだ。そのために、母親を流産でもさせてやるかな」
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