ドサクサ紛れの“インチキ復興”は問題

2012.07.10


安住淳財務相【拡大】

 安住淳財務相は、2011年度から5年間で国と地方を合わせて総額19兆円程度としている東日本大震災の復興予算枠の拡大を検討する意向を表明した。予算枠を1兆円超上積みし、20兆円超に引き上げる見通しだ。

 景気対策を含む2012年度補正予算編成は既定路線だ。14年4月に消費税率を8%に引き上げることで景気減速効果が予想されているので、これを逆手にとり、増税のための経済環境整備という名目でバラマキを復活させようとしている。まさに古い自民党手法だ。

 1990年代、景気が悪いといって何度も公共投資を繰り返してきたが、債務残高が増加する一方で景気回復はできなかった。金融政策が一定の下で民間から資金を吸い上げて公共投資に回すと、市中の実質金利高になり為替が円高に振れ、輸出減となる。このため、公共投資分の有効需要増はあるが、その一方で輸出減になり、日本経済全体ではGDP(国内総生産)の増加にならない。これが「マンデル=フレミング効果」だ。

 実際、日本のデータを見ても、90年代後半から、公共投資の対GDP比と純輸出の対GDP比を合計すると、ほぼGDP比6〜8%と一定で、公共投資の対GDP比と純輸出の対GDP比は相関係数▲0・92という見事な逆相関になっている。これはマンデル=フレミング効果を裏付けるデータだ。

 もちろん復興にお金を使うことは問題ないのだが、どさくさ紛れでインチキ復興という話になると問題だ。昨年の補正予算では、被災地に直接関係のない円高対策も復興費に計上されていた。復興の定義を明確にしないと、復興予算の名目で復興以外に予算をバンバンつけることもありうる。官僚主導の野田内閣では、官僚のやりたい放題だからだ。

 インチキ復興が横行すると、インチキ景気対策がまかり通ってしまう危険性がある。復興という誰もが反対できないものを突破口として、次々と大きな穴を開けていくのは、官僚の得意技だ。

 今回の復興予算の拡大では、2011年度の決算剰余金が大いに関係してくる。だいたい2兆円程度であるが、このうち0・8兆円を復興財源とするようだ。残り1・2兆円のうち一部を景気対策にあてるという意見もある。

 野田佳彦首相が、消費税増税の理由としていた「財政再建は待ったなし」が虚構であったのが早くもばれてしまった。そんなに「待ったなし」であるならば、復興予算は別としても、景気対策なんて論外だろう。所詮、国民からカネを搾り取ってそれらをばらまきたいだけだ。

 本当に景気のことを考えているなら、増税をせずにバラマキもしない。その代わりに、復興予算であれば、現行の予算でも認められ、今年度も実施される予定の日銀引受を引受枠目いっぱいに行い、財源を捻出するはずだ。そうすれば、復興予算の確保にもなり、同時に円安になって景気回復、財政再建にもなるからだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)