日本語が分からなくても免許試験に合格 カンニングに打つ手は…
産経新聞 7月7日(土)20時32分配信
【衝撃事件の核心】
日本語が不自由な中国人が、日本語の運転免許試験に合格した−。カンニングで中国人に普通自動車の運転免許証を取得させたとして、道交法違反(免許証不正取得)の容疑で中国籍の職業不詳、張展彪容疑者(37)=栃木県足利市田中町=らが警視庁組織犯罪対策1課に逮捕された事件。携帯電話や無線イヤホンで外部から解答を教えてもらえば、問題文の意味すら理解できなくても、免許証が取得できることが明らかになった。大学受験でも問題化した携帯電話を使ったカンニング。打つ手はないのか。(西尾美穂子)
■暑い日に上下スーツで受験する男
6月20日は東京都心で今年初めて30度以上を記録する真夏日だった。この日、品川区東大井の鮫洲運転免許試験場には、試験監督に混じって、捜査員がひそかに張り込んでいた。「カンニングが横行している」。こんな情報があり、目を光らせていたのだ。
捜査員の目は、ある1人の男に注がれていた。半袖姿の受験者が目立つ中、男は上下スーツを着て汗を流しながら受験していた。
「こんなに暑い日に、上着も脱がずに受験するなんて怪しい」
捜査員は、本人に悟られないように背後に回り、回答する様子をそっと観察し始めた。
問題を読む間もなく、次から次に回答を書き込む男。「早すぎる」。不審に思った捜査員は、試験後に男に声をかけた。
焦りの表情を浮かべる男。中国語で「実力で受けていた」と説明したが、調べた結果、男は両耳の鼓膜には直径数ミリの無線イヤホンを貼り付け、首には小型マイクを取り付けたストラップをぶら下げていた。電源が入ったままの携帯電話も、上着の内ポケットに入れて持ち込んでおり、小型マイクと配線でつながれていた。上下長袖の厚着をしていたのは、ストラップや携帯電話とつながる線などを隠すためだったのだ。
カンニングを強く疑わせる道具の数々。捜査員は建造物侵入の現行犯で、男を逮捕した。
■中国人のカンニングビジネス?
警視庁によると、男は中国籍の調理師、李海涛容疑者(41)。逮捕後の調べに「不正に受験していたことは間違いない」などと不正を認めた。この李容疑者の供述などから、携帯電話で解答を教えていたとみられる張容疑者らも逮捕された。
また、季容疑者と同じように不正受験していたとして、別の中国人の男(34)も道交法違反容疑で逮捕。この男も日本語の読み書きが不自由だったが、100点満点中97点の高得点で合格していた。
警視庁によると、張容疑者の自宅のパソコンからは過去の試験問題や正誤表データ、無線イヤホンなどのカンニング道具8組なども見つかった。張容疑者が、中国人のカンニングを助ける“ビジネス”を展開していたことをうかがわせる証拠の数々だった。
免許試験の問題文パターンは少なくとも10種類以上あり、出題される問題は毎回変わるが、張容疑者は事前に複数パターンの問題を入手していたのだ。
■残る謎 なぜ試験問題が外部に…
捜査関係者によると、カンニングの手口はこうだ。
受験する中国人は、携帯電話を張容疑者との間で通話状態にしたまま試験に臨む。張容疑者は試験会場から約80キロ離れた栃木県足利市にあるマンションにいて、事前に入手した問題の冒頭部分を次々と中国語で読み上げる。受験する側は、その声を耳に仕込んだ無線イヤホンで聞き、該当する問題があると、せき払いをする。その音は小型マイクを通じて張容疑者に伝わり、後は張容疑者が次々と、解答を伝えるというわけだ。
試験問題の多くは二択式。問題パターンさえ分かれば、解答を伝えるのは簡単だった。警視庁によると、張容疑者は報酬として1人につき十数万円を得ていたとみられるが、調べに対しては「何も言いたくない」と黙秘しているという。
しかし、捜査関係者によると、一部の中国人の間では、張容疑者の名前は「日本語ができなくても運転免許の学科試験を合格させてくれる男」として知れ渡っていたという。警視庁は、ほかにも不正に運転免許を取得した中国人がいるとみて調べている。
ここに1つ大きな謎が残る。張容疑者は、どうやって過去の試験問題を入手していたのか。問題は、試験終了後も持ち帰りが禁止されているのだ。警視庁は、試験場内部の何者かが試験問題を流出させた可能性は低いとみているが、ボールペン型の小型カメラなどを使って問題を盗撮された可能性もある。
鮫洲試験場など都内3カ所の運転免許試験場では、今回の事件を受け盗撮防止のために筆記用具を貸し出し制にし、私物の使用を禁じた。
■カンニング対策もいまやハイテクの時代に
鮫洲試験場では、以前から受験者には携帯電話の電源を切るように口頭で注意していたほか、机上に筆記用具だけしか置けないなどの制限も設けていた。ひそかに持ち込んだ教本でカンニングしていた日本人の受験者が退席させられたケースもあるが、今回のように携帯電話や小型機器を使ったケースが明らかになったのは初めてだ。
小型カンニング道具一式は市販でも2500円程度で購入できるため、以前から行われていても不思議ではない。外から見て発見するのは難しく、別の試験場で試験官をした経験のある男性は「私が監視していたときに同じようにカンニングされていても不思議ではない」と話す。
携帯電話を使ったカンニングでは昨年2月、京都大学などを受験した予備校生が、ネット掲示板に問題を送信。第3者に掲示板に解答を書き込ませ、試験会場で見ながら解答していたとして、偽計業務妨害容疑で逮捕された。
警視庁では、試験問題も見直し、一部の他県のように、中国語の問題の配布も検討しているが、捜査関係者は「注意喚起や監視では防止策として限界がある。コストはかかるが、携帯の電波を遮断するのが一番いいのではないか」と話す。警察庁も電波遮断の導入を検討しており、カンニング対策もいまや“ハイテク”を必要とする時代になっている。
最終更新:7月7日(土)21時36分
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