グローバル企業がめざましく躍進し、高い経済成長率を誇る韓国。果敢に各国と自由貿易協定を結ぶなど、その経済政策は日本には“脅威”にも映ります。
一方、格差、非正規、雇用、農業保護政策、少子高齢化などの分野においては、韓国はさまざまな課題を抱えています。ただ、これらの問題は日本が直面している問題でもあり、韓国が日本に先んじて行った政策は、われわれにも参考になる部分がありそうです。
著者の高安雄一さんは、頻繁に韓国に足を運び、韓国の経済や農業などについてきめ細かい研究活動を続けています。経済学的な視点を軸に、データ分析と現地での取材を踏まえ、真の韓国経済の姿を描いていきます。
韓国は1997年に通貨危機に直面しましたが、その後は急回復を成し遂げ、直近の10年間の実質成長率の平均は4.4%です。一方で、同じ時期における日本の実質成長率は平均でマイナス0.5%であり、成長率の格差は5%にも達しています(図1)。
韓国といえばサムスン電子やLG電子といったグローバル企業の目覚ましい躍進ぶりが報道されており、携帯電話や半導体などIT分野を中心に日本企業を凌駕している状態です。このため、韓国の経済成長率が日本を大きく上回っていても、韓国企業が有するパワーや勢いから見て、全く不思議ではないと考えている人が多いのではないでしょうか。
しかし日本と韓国の経済成長率に差が生じている理由をきちんと見ると、企業による技術革新というよりは、人口増加率や高齢化率といった人口学的な変数の違いにより、両国の経済成長率に大きな差が生じていることが分かります。
成長率を労働投入、資本投入、技術進歩に分解する
経済成長率の長期的な趨勢は潜在成長率によって決まります。法政大学の小峰隆夫教授によると、潜在成長率とは「インフレを起こさずに現存する資本ストックや労働力をできるだけ活用した時達成できる成長率」であり、「景気循環をならした平均的な成長率は、ほぼ潜在成長率に一致」します。つまり潜在成長率が高くないと、実際の成長率もそれ相応の数値に落ち着くということが言えます。
そしてこの潜在成長率は成長会計の手法で、労働投入、資本投入、技術進歩の大きく3つの生産要素が寄与する部分、すなわち3つの要因に分解できます。潜在成長率の要因分解については、日韓両国の政府あるいは政府系研究機関の研究から直接的あるいは間接的に知ることができます。
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