2007年1月12日 (金)

sad story

島村さんに判決が言い渡された.「有罪.懲役3年.執行猶予4年」.ほぼ予想通りの結果だろう.罪については,原告側の主張が100%認められたことになる.「島村さんに地震計を売る権限はない.海底地震計は島村さんではなく北大に帰属する.ベルゲン大学に対する悪質な詐欺である」.島村さんの弁明はすべて否定された.証拠も証人もなかったのだから仕方ない.

さて裁判.傍聴人は約60人と,これまででもっとも多かった.開始前,通常なら裁判官よりも先に入場する被告が入らず,裁判所の方がマスコミ用の写真撮影が行われると告げる.そして先に裁判官が席に着き,約2分間,無言のビデオタイム.カメラが退いてから被告が入廷し,裁判が始まった.なるほど,よくテレビで見る,裁判官はいるが被告は映っていない映像はこういう手順で撮られるのかと納得.

今回の裁判は判決の言い渡しなので,被告が正面に立って,裁判官がまず判決を述べた.これを待っていた,いやこれだけを待っていたマスコミは一斉に退席.いつものことだが,マスコミは身勝手で非礼な連中だ.島村さんには見向きもせずに音を立てて出て行った.こういう人たちにとっては,人の運命を左右する場もスーパーの売り場も公衆トイレも同じなのだろう.

主文の後,島村さんは着席し,裁判官がさらに約30分の説明.原告側の証人がすべて信用おけること,被告の弁明は認められないこと,悪質な詐欺事件だが執行猶予をつけることなどを話した.よく考えると,裁判中,声を発したのは裁判官だけで,副裁判官も被告も弁護人も検察官も無言.質疑もなにもない.

終わってから,何気なく傍聴席にいたら,被告の親族か友人らしき一団が,「今までやってきたことは何だったんだろう」と話しているのが聞こえた.判決に不服なのかもしれないが,私には弁護士団の能力不足に対する不満に思えた.いままでちやほやしてくれていたマスコミに見放され,実はすべて予測していた弁護士にはいいようにお金だけ取られたのだとしたら,まさに哀れである.それでもまだ一人で,そして口だけで戦うのだろうか.

裁判の後,ノルウェーのミエルデ氏にメールを送り,判決の結果を報告した.私は最後に sad story と書いたところ,彼からはすぐに, yes, very sad story と返ってきた.

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2006年11月 9日 (木)

結審ー海底地震計詐欺事件

7日,被告・弁護側の意見陳述があり,裁判は判決を待つだけとなった.弁護側の主張は,予想通り「無罪」.口先だけで裁判所がどこまでだませるか,見ものである.

今回の裁判,被告側からは最後まで,具体的に何かを証明するもの(証拠や証人)が出てこなかった.証人ゼロ,まともな証拠物件もない(自分の著書がなんの証拠になるのだろう?).「**だと思った」「**に**と言われたと記憶している」「**したはずだ」「仲間と一緒に研究を続けるつもりだった」...いくら主張しても何も立証されない.領収書の1枚でも出てくれば,少なくともその分は研究に使われたことがわかる.業者から供与された部品が実際にあれば,試供品の存在が証明される.そんな物も,またそれを「行ったと証言する」証人も,結局はいない.これでは,嘘だと思われても仕方ない.弁護士さんたちは裁判ってこんなもの,裁判官は口だけで動く,と思っているのだろうか.

弁護士は「市民感覚からして無罪」とも主張した.でも,上の事実(証拠がない主張)からして,市民感覚からはほど遠い.さらに,事実は(これは本人も認めているが),8000万円ものお金を自分が発行した請求書で受け取り,自分の口座に入れ,いまだに貯め込んでいることだ.市民感覚でこそ,許される話ではない.大学の備品や消耗品を加工して売ることは正当な行為,とも弁護士さんは言う.これも市民感覚と合致すると言い張る?

詐欺とは,問題を複雑にし,人を「よくわからない状況」に追い込み,金品を供出させることだろう.架空の土地を売る原野商法,振り込め詐欺,不要な改築を繰り返す悪徳建築業者..これらも,騙す相手は法律に疎く,騙されたとわかるまで時間がかかる,いわゆる弱者(多くは善人)が多い.要するに,つけ込まれたわけだ.今回のケースもまさに同じ.状況はやや複雑だが,複雑なこと自体が「詐欺行為」だと認識すべきだろう.

「ノルウェー側が騙されたと認識していない」ことが詐欺に当たらない理由だそうだ.でも,これには前提があることは忘れてはいけない.もしも今,海底地震計をすべて北大所有だから返せと言えば,先方が「詐欺だ」と訴えることは目に見えている.すなわち,ノルウェー側の所有だと認めれば詐欺ではない.でも,売買ではない(島村さん主張)のだからノルウェーの所有にならず,よって前提がくずれ,詐欺が成立する.

以上,市民感覚からみた詐欺の構図は明らか.口先だけで大金が入るわけがないのも明らか.この裁判は,市民の目にはいたって単純なはずである.判決は1月.

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2006年10月24日 (火)

海底地震計詐欺事件

標記の刑事裁判を傍聴した.島村さんへの求刑は懲役4年.検察側の説明はすべて理にかなっており,証拠も十分,本人はまったく反省していないのだから,きっと,その通りになるのだろう.説明の中で重要と感じたのは,被告人が自身の置かれた立場(教授+責任者)を悪用したという点.被告人や弁護人は再三,被告人が海底地震観測の第一人者でノルウェーとの共同研究のパイオニアであることを強調してきた.周囲もその点には異議がない.でも,第一人者でパイオニアだからこそ,罪は重くなる.責任ある立場の人間ほど,その責任にバランスする義務は大きい.わかりやすく,また皮肉な裁判だ.

本人が本当に「第一人者」なら,罪を認め,不法搾取したお金を返し,その上でさらに活躍の道を探せばいい.北大を辞した際,どうして誰も名誉教授に推薦しなかったか.本人は考えたのだろうか.名誉職に値するのは業績+人間性である.

島村さんと初めてノルウェーの観測に出たのは1998年.いま思えば,まさに海底地震計事件の最中だ.この年の夏,友人でもあった秋野豊さんがタジキスタンで亡くなった.このニュースは,船上で,ラジオの国際ニュースを聞いていた島村さんから教えられた.秋野さんの課題は戦争や紛争を無くすこと.私は自然災害の軽減.人間と自然では「どちらが怖いのか」...船の上でずっと考えたが結論はでなかった.

後で聞いたことだが,秋野さんは銃を向けられた者に歩み寄って撃たれたらしい.銃を向けられた瞬間にも,秋野さんは「人間は怖くない」と思ったのだろうか.最後まで人間を信じた秋野さんと,共同研究者の熱意を悪用した島村さん...私の中で彼らは対極に位置している...秋野さんは死して語らず,島村さんは被告人席で雄弁だった...これも皮肉...

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