3年前の今ごろ、日本は「政権交代」の熱病に浮かされていた。大部分のメディアもそれを煽った。7月14日、衆院で麻生太郎内閣の不信任決議案が提出され、否決された。ところが、参院では首相問責決議案が可決。同月21日、麻生首相は衆院を解散せざるを得なくなった。
民主党は7月末、今から思えば嘘八百を並べ立てたマニフェスト(政権公約)を発表し、政権交代後の将来を国民に夢想させた。後はまるで、憑き物につかれたかのように「政権交代」への道を突き進んでいった。今思えば、馬鹿馬鹿しい限りだが、わずか3年前の話だ。
このとき掲げられたマニフェストの主要政策は、ほとんど実現していない。政権を奪取するための空手形だったからだ。「政権につけば、予算を組み替え、埋蔵金を発掘して増税しなくても実現できる」と大口をたたいて民主党は選挙に勝った。民主党の候補者全員が例外なくそう述べていた。野田佳彦氏もその1人だった。
その野田氏が、民主党政権の3代目の首相になって、マニフェストに反する消費税増税法案を衆院で可決させた。財政状況を国際金融市場が注視するなか、増税はやむ得ない。しかし、そうであるなら首相はまず「マニフェストは嘘八百でした」と国民にわびて協力を求めるべきだった。
その増税法案に反対して、小沢一郎元代表のグループが民主党に離党届を提出した。新会派の名前は「国民の生活が第一」。あくまでも政権交代時のマニフェストにこだわろうというのだ。
嘘が嘘とばれても認めようとしない野田氏も問題だが、今後も嘘をつき続けようという小沢氏らはもっと問題だ。彼らはマニフェストの政策を実現するための財政的裏付けがあると今も本気で思っているのか。
小沢氏は公私ともに追い込まれている。急に「脱原発」を唱え始めたのも、小沢夫人が周囲への手紙で明らかにしたように原発(放射能)への恐怖からなのだろう。地元・岩手も分裂し、自身の選挙も危ない。
追い込まれた小沢氏は4日、社民党の又市征冶副党首と会談して、「原発、消費税、社民党と同じところはいろいろある。がんばろう、選挙も」と呼び掛けたという。
囲碁好きの小沢氏が、政界での陣地取りの発想で社民党を取り込もうとしたのだろうが、最近の小沢氏らは主張自体が社民党や共産党とうり二つになっている。マニフェストはバラマキ政策のもともと社会主義的なものだった。いっそのこと社民党と合流してはどうか。審判は国民が下すことだろう。
■八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早大法学部卒業。同大学院政治学研究科博士課程中退。国家、教育、歴史などについて保守主義の立場から幅広い言論活動を展開。第2回正論新風賞受賞。現在、高崎経済大学教授、フジテレビジョン番組審議委員、日本教育再生機構理事長。著書に「国民の思想」(産経新聞社)、「日本を愛する者が自覚すべきこと」(PHP研究所)など多数。