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東京電力の家庭向け料金値上げをめぐる審査が大詰めを迎えている。原発事故で生じた巨額の費用は一定程度、値上げでまかなわざるを得ないが、理にかなった算定なのか、原価を厳しく[記事全文]
取り調べの様子を録音・録画(可視化)する試みを進めてきた最高検が、およそ1年間の検証結果をまとめた。新しい時代の捜査や公判のあり方を検討している法制審議会に報告する。具体的な制度づくりに向け[記事全文]
東京電力の家庭向け料金値上げをめぐる審査が大詰めを迎えている。
原発事故で生じた巨額の費用は一定程度、値上げでまかなわざるを得ないが、理にかなった算定なのか、原価を厳しく吟味しなければならない。
東電は平均10.28%の値上げを申請している。経済産業省の専門委員会は先週、9%台前半に圧縮すべきだとする「査定方針案」をまとめ、審査は消費者庁との調整に移った。
消費者団体は「もっと圧縮すべきだ」と主張する。では、原価から何を削るか。
わかりやすいのは人件費だ。
消費者庁は、専門委が妥当とした「年収の2割削減」を、過去に公的資金を受けた企業並みの「3割削減」とするよう求めている。電力会社を選べない消費者の不満はよく分かる。
ただ、事故炉の作業や賠償事務、火力発電所の稼働など、以前より人手がかかる。人材を確保する必要もある。公的資金を受けた日本航空やりそな銀行とは違い、東電には代替できる企業がない。人件費の削減にはおのずと限界がある。
むしろ、福島第一原発の5、6号機と福島第二原発の1〜4号機にかかる費用を再考すべきだ。東電は、減価償却費と維持費あわせて900億円を原価に計上している。
福島県は県内の原発すべての廃炉を求めている。政府が脱原発依存の政策を進めるうえで、この6基は廃炉の筆頭候補になるのは明らかだ。
東電自身、利益に相当する「事業報酬」の算定からは、これらの費用を自主的にはずしている。動かない資産を料金原価に含めるのはおかしい。
ただちに全額の除外がむずかしければ、2分の1に削減するなど工夫の余地はある。専門委で、最後まで議論が分かれた項目でもある。
悩ましいのは、原価を削って目先の値上げ幅を抑えたとしても、最終的なツケは結局、国民に回ってくる点だ。
原価算入できない費用は、東電が利益分から捻出せざるをえない。ところが、国が立て替えた賠償資金は利益の中から返済することになっている。料金で回収できない費用が増えれば、そのぶん返済が遅れる。
除染費用なども考えれば、東電にすべてを負担させる今の枠組みは虚構にすぎない。
徹底したリストラを大前提に、必要な費用をどこまで東電の利用者が払い、どこから広く国民で負担するのか。本格的な議論に入るべきだ。
取り調べの様子を録音・録画(可視化)する試みを進めてきた最高検が、およそ1年間の検証結果をまとめた。新しい時代の捜査や公判のあり方を検討している法制審議会に報告する。具体的な制度づくりに向けて、議論の深まりを期待したい。
録音・録画は、裁判員裁判の対象となる重大事件や、特捜部が手がける独自捜査事件など2537件で実施された。うち、取り調べの全過程を記録したのは632件だった。
興味ぶかいのは、録音・録画しなかった理由や捜査への影響を、事件に即してくわしく紹介した部分だ。こうした報告は過去になかったわけではないが、抽象的だったり断片的な経験談にとどまったりしていた。
検証結果からは、検察官の間でも可視化への理解が広がっていることがうかがえる。
取り調べの様子が確認できるようになれば、捜査の行きすぎが抑えられるのはもちろん、検察側にとっても、調べが適切に行われたことを証明する有効な手段になる。今回も、記録を残したことで、容疑者の事後の言い逃れやうそを封じた例がいくつも報告された。
ただし裁判官や裁判員を納得させるには、原則として全過程の可視化が必要だ。検察官の裁量に任せる方法では「都合のいい場面だけ切り取ったのではないか」との疑いは残るし、何より判断を誤る恐れが大きい。
一方で、一律に実施すれば弊害も心配される。
特捜事件では98件のうち19件で、容疑者の側が録音・録画を拒んだ。恥ずかしい、共犯者に知られたくないなど理由は様々だが、そんな場合も可視化を優先すべきだとはいえまい。諸外国でも例外規定を設けるところが少なくない。今後の検討の大きなポイントといえよう。
刑事司法のように見解が鋭く対立するテーマでは、議論のための土台を築くことが大切だ。実態にもとづくデータと問題意識の共有が欠かせない。同じく試行を続ける警察とも連携をとり、信頼できる調査と分析を重ねることが求められる。
課題は可視化だけではない。組織犯罪の上部にせまる捜査手法の導入▽故意や認識など主観にかかわることも、検察側がすべて立証責任を負う制度の見直し――などにも取り組み、供述によりかからない捜査への脱皮を図らねばならない。
摘発すべきを摘発し、無実の人を罰しない。それは、検察、弁護、裁判の立場の違いをこえて、追求すべき課題だ。ねばり強く合意点を探ってほしい。