WEB特集
大飯原発 フル稼働も課題山積
7月9日 20時55分
およそ1年3か月ぶりに原子炉が起動し発電を開始した、関西電力・大飯原子力発電所3号機。
9日未明、原子炉の出力が100%になる「フル稼働」に達しました。
国内で長期間止まった原子炉が「フル稼働」に達したのは、去年3月の東京電力福島第一原発の事故のあと、初めてです。
科学文化部の沓掛愼也記者が解説します。
大飯原発フル稼働に
9日午前、国や関西電力が地元自治体に原発の状況について報告を行い、牧野経済産業副大臣は、「大きなトラブルはなく、フル稼働させることができた。皆さんの協力のおかげで特別な監視体制も機能したと思う」と述べました。
これに対しておおい町の時岡忍町長は、「もし異変があれば情報を共有し、トラブルを未然に防いでもらいたい。続く4号機も同様にスムーズなフル稼働をお願いしたい」と要望しました。
福井県おおい町にある大飯原発3号機では、およそ1年3か月ぶりに原子炉が起動したあと、7日、発電機の出力が、100%に当たる118万キロワットに達しました。
8日午後には大量のクラゲが発生し、冷却用の海水を十分に取り込むことができず、関西電力は、一時、発電機の出力を下げましたが、その後クラゲが減ったため、作業を予定通り進めました。
そして9日午前1時、中央制御室で牧野経済産業副大臣やおおい町の時岡町長が立ち会うなか、原子炉の出力が100%になる「フル稼働」に達したことが確認されました。
国内で長期間止まった原子炉が「フル稼働」に達したのは、去年3月の福島第一原発の事故のあと初めてで、関西電力は4号機についても、今月25日に「フル稼働」を目指しています。
関西電力管内では、夏の節電が今月2日から始まっていますが、3号機が「フル稼働」に達したことを受けて、政府は10日から、猛暑だったおととしと比べて15%以上という節電の目標を10%以上に緩和する方針です。
2か月ぶりの原発の発電
国内の原発は、ことし5月5日に北海道電力の泊原発3号機が定期検査に入り、50基すべてが停止したことで原発による発電はゼロになりました。
国内の原発がすべて停止したのは、原発のれい明期だった昭和45年に、2基が同時に停止して以来、42年ぶりでした。
電力各社は、発電の主力を火力発電所に移し電力供給を続けていますが、大飯原発3号機がフル稼働し、国内ではおよそ2か月ぶりに、原子力発電による電力の供給が行われていました。
意外な敵、クラゲ
国内の原発では、蒸気を使ってタービンを回し電気を作り、残った蒸気は、「復水器」と呼ばれる設備で海水が流れる配管に触れて冷やされます。
ところが、クラゲなどが取水口に押し寄せると、冷却用の海水が十分に取り込めなくなり、電力会社は熱の発生を抑えるために原発の出力を下げる対応をとります。
各地の原発では、取水口に網目状の設備やクラゲなどを除去する装置を設けて対策をとっていますが、クラゲなどが一度に大量に発生すると設備をすり抜けるなどし、出力を下げざるをえなくなります。
去年6月には、島根県にある島根原発2号機で大量のクラゲが押し寄せ、海水中の不純物を取り除く機器がクラゲの重みで停止し、中国電力は原子炉の出力を下げました。
また平成19年5月には、福井県にある敦賀原発2号機で、取水口に大量のプランクトンが入り込んでフィルターが詰まり、日本原子力発電は出力を40%にまで下げています。
さらに先月には、大阪市にある南港火力発電所でも大量のクラゲが集まり、クラゲを除去する装置の能力を上回ったため関西電力は、出力を低下させました。
関西電力によりますと、ことし4月から先月までに火力発電所17基でクラゲの被害による出力の低下を行っていて、過去5年間で最も多いということです。
残された課題は山積
大飯原発では大津波に備える対策が取られましたが、メルトダウンのような深刻な事故が起きたあとを想定した、長期間かかる安全対策については道半ばです。
例えば、福島第一原発の事故で対策の拠点となった施設「免震事務棟」や、放射性物質が放出する深刻な事故に備えて、フィルターのついたベントの設備は、およそ3年後までに設置される予定です。
また、メルトダウンが起きたあとの原発の安全対策を評価する「ストレステスト」の「2次評価」について、電力会社は、去年12月の期限を過ぎても結果を提出していません。
こうしたなかで、全国のほかの原発48基の運転の再開は、見通しが全く立っていません。
政府は、停止中の原発について安全性を確認してから運転を再開させたい考えですが、再開の判断の前提となるストレステストについて、国の原子力安全・保安院が審査を終えたのは、四国電力の伊方原発3号機だけです。
また国の原子力の安全規制を一元的に担う新たな組織、「原子力規制委員会」が発足すれば、運転再開を判断する「国の暫定的な基準」も見直されることになっていて、ほかの原発の再開は不透明な状況です。