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亡き娘の真実知りたい

2012年07月08日

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 尊い命が二度と失われないように、真実が知りたい――。北本市立北本中1年の中井佑美さん(当時12)は2005年、自ら命を絶った。両親が「自殺の原因は学校でのいじめだった」などとして、国と市を相手取った訴訟は9日、判決を迎える。
 佑美さんは05年10月11日朝、いつものように家を出た。だが学校には向かわず、自宅から約1・5キロ離れた鴻巣市のマンションから飛び降りた。
 机には「お母さんへ」と題した遺書があった。気持ちをつづった中に、「クラスの一部に」という言葉があった。父親の紳二さん(62)と母親の節子さんはいじめを受けていたのではないかと考え、学校に調査を求めた。
 2カ月後、学校側が報告に訪れた。「いじめがあったという情報はない」
 しかし、同級生たちの証言は違った。何度も靴を隠され、所属していた美術部では「タメ(同級生)にも丁寧な言葉を使ってウザイ」と言われていた。いじめはあった、というのだ。
 両親は再三、調査を求めたが、学校からの回答は変わらなかった。
 両親は、学校の調査に疑問を抱いていた。アンケートでは「学校に来るのが楽しいか」「心配なことはあるか」など生徒自身のことだけをたずね、佑美さんへの「いじめの有無」は聞いていない。両親の目には、学校が真相を解明しようとしていないように見えた。
 「本当は裁判なんてしたくなかった。真実を知りたい。ただ、それだけでした」。両親は07年2月、北本市教育委員会と文部科学省を相手取って提訴した。
 法廷でも、市や学校の対応に誠実さは感じられなかったという。遺書は「母親への手紙」だとして「遺書なし」と県に報告していたことが明らかになった。担任教師は指導要録に「(本来は複数で担当する)清掃では、1人でも黙々と取り組む姿がある」と書いていたが、法廷で「いじめはない」と証言した。
 紳二さんは「いじめ自殺って、心を殺された殺人なんです」と憤る。「調べてほしいと要請すると、市教委は『警察じゃないですからね』と言って逃げる。生徒を預かる教育者として、調査する権利も義務もあるでしょう」
 「学校や教師は、処分を恐れて隠蔽(いん・ぺい)しているのではないか。そもそも真実を解明するシステムができていないのではないか」と考えた2人は、教育を根本から問いただすため、文部科学省も訴えたという。
 提訴から5年半を経た訴訟が、ようやく節目を迎える。節子さんは「判決まで長かった。でも、真実は何も分からなかった」。
 居間には笑顔の佑美さんの写真が飾られている。今年、20歳を迎えるはずだった。

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