【萬物相】「身分ロンダリング」

 キム・チクク(キムチスープと同音)、チ・ギミ、チョ・ジナ、ク・テノム(ノムは「やつ」という意)、ハ・サンヨン、キム・パング(パングは「おなら」の意)…。大法院(最高裁に相当)がおととし出した本「歴史の中の司法部」に掲載された実際の名前だ。このような名前の人たちは、からかわれることに耐えられず、裁判所に改名許可を申請した。「パク・シアル」「シン・ジェチェ」「チョン・サンジョム」のように呼びにくい名前を変えるケースもあれば、「ノ・ビョンサムラン」「チョン・チョンデジャ」「パク・コンチャラン」「キム・ダニエル」「ハン・ソフィアアラム」のような外国式の名前などを韓国式の名前に変えたいというケースもある。

 大法院は改名申請の事由を13種に分類した。出生届けの際に名前を誤って書いたケース、実際に使われている名前と一致させるケース、族譜(家系の記録)の上下関係を示す漢字に名前を合わせるケース(伝統的に代ごとに決められた漢字を使うことになっている)、ハングル(韓国語の文字)でしか表記できない名前を漢字表記可能な名前に変えるケース、「姓名学」に従って改名するケースなどだ。2009年に女性7人を拉致(らち)、殺害したカン・ホスンが逮捕された際には、カン・ホスンと同姓同名や似た名前の人たちが改名申請に殺到した。

 かつて裁判所は、改名に厳しかった。名前をむやみに変えると社会の混乱や弊害が生じる可能性があるという理由からだ。しかし、05年に大法院の判決が下されてからは改名が容易になった。「犯罪を隠す意図や、法的制裁を避けようという意図がなければ、原則として改名を許可すべき」という判決だった。04年に約5万件だった改名申請は、06年には10万件、09年には17万件と急増した。改名を許可する割合も05年以前は80%台だったが、06年以降は90%まで上昇した。

 このような中、犯罪者たちが警察の追跡を逃れるために改名し、身分を「ロンダリング(浄化)」する事例が相次いでいる。例えば「キム○○」が罪を犯し、後に「キム××」に改名するといった具合だ。改名を申請し、許可が出るまで2カ月程度しかかからない点も、犯罪者たちには有利となっている。そのため、容疑者が名乗る名前と住民登録の名前が異なり、警察は混乱することになる。犯人を捕らえるのも難しく、逮捕したとしても名前を確認するのに忙しい。

 改名申請をするには、家族関係証明書、住民登録謄本、族譜、改名申請書だけ提出すればよい。犯罪経歴証明書の提出義務はない。前科と信用情報照会は、裁判所が必要と判断した場合に限り行われる。つまり、前科者や指名手配者ではないか確認する手続きがずさんなのだ。名前はその人を呼ぶ社会的な約束だ。一人の人間の名前は「その人のもの」でもあるが「皆のもの」でもある。名前を一個人だけのものとして捉え、あまりに簡単に改名を申請し、すぐに許可を下す世の中となったことで「身分ロンダリング」というおかしな副作用が起きている。

金琅基(キム・ナンギ)論説委員
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