“四十一日目”
太陽が昇ったばかりの早朝、今まで喰った事の無い獲物を求め、単身で行った事のなかった場所――俺が未踏破区画と呼ぶ事にした脳内地図の空白地帯を散策中である。
午前訓練は既に俺がいなくともゴブ吉くん達だけで回せる段階にまでなったので、直接訓練を担当する機会が非常に少なくなってしまった。
つまりだ、朝は暇になってしまったのである。
組み手が無くなった、てのが特に大きい。
今まではそれでも何かあったら大変だろう、特に怪我したりした場合には。って事で自分の基礎訓練を終えた後は服や防具、それに寝袋などを作る事でその暇を潰していたのだが、全員に寝袋や甲殻製の胴鎧が着替え分も含めて配給出来てしまったので、取りあえず急いでやっといた方がいい案件が無くなってしまった。
だからどうせなら、新しいアビリティを得た方が有意義だ、と言う事で現在に至る。
本日の最初の獲物は、黄金色の艶やかな甲殻が特徴的なニメートル級の“コガネグモ(仮称)”だった。
カサカサと蜘蛛だけに動きは機敏、噴出する糸はやたらと頑丈な上に量が多く、黄金色の甲殻はオニグモのそれと比較できない程に高硬度。と三拍子揃って殺すのにそこそこ手古摺ったが、コチラも糸で応戦したり火で焙ったりして、最終的には銀腕でコガネグモの甲殻をぶち抜いて仕留める事に成功。
殺した後はその使えそうでかつ高額で売買できそうな甲殻を剥いで、残りはボリボリと。
合計八匹見つけて喰いました。
【能力名【黄金糸生成】のラーニング完了】
【能力名【金剛蜘蛛の堅殻】のラーニング完了】
結果、糸の強度と防御力が上昇するアビリティをラーニングできました。
今回のアビリティで凄く綺麗な糸――というかアビリティ名そのままな黄金色で、天然の金糸か? かなり派手だ――が生成できる様になったので、これでゴブ美ちゃんとか赤髪ショートとかにプレゼントでも造ろうかと思う。
流石にこの糸で編んだ黄金の服ってのはセンスを疑うので、以前ゴブ美ちゃんにあげた民族品的アクセサリー辺りが妥当だろうな。
次の獲物は薄いピンク色をした紅水晶で出来ているかのような双角と、四つの瞳に四つの耳が特徴的な“アカシカ(仮称)”だった。
どうやらアカシカは気性が荒いようで。真正面からその鋭利かつ綺麗な角を突き出し、邪魔な木々をまるでドリルのように削りながら突っ込んできたが、そこはその程度では傷一つつかない銀腕で頭を押さえて爪先から毒を注入。
毒を注入してから四秒程でアカシカは泡を吹きながら死んだ。
綺麗で高く売れそうな角は当然として、目立った損傷がなく毛並みの良い毛皮もあれば役に立つだろうと一応剥いで角と一緒に俺のアイテムボックスに放り込み、その後は肉を喰らう。残念な事だがアビリティは確保できなかったが、あと二、三頭も喰えば何かをラーニングできそうな手応えがあるし、身体の強化ができたのでよしとしとこう。
その次は樹木に宿る美女“ドライアド(仮称)”だった。ほぼ裸体でプロポーション抜群なギリシア系美女という見た目で俺の前に現れた彼女を俺は殺してはいないんだけど、うん、喰ったと言えば喰ったので数に換算しておく。
取りあえず色々あって、ようやく【精力絶倫】が大活躍したとだけは言っておこう。使わなくても今の俺なら問題なかったかもしれないが、ドライアドさんはどうやら種族的特徴として吸性能力があるらしいので、衰え知らずな【精力絶倫】を使って対策してみたのだ。
すごく甘い一時でした。
それに密着した状態と耳元で甘い声でまた来てねとか囁かれた事に加えて、非常に色っぽく惚けた表情を向けられたらもうね。
【ゴブ朗は“宿り木の祝愛”を手に入れた!!】
まあ、つまりそんな感じだった。
ドライアドさんと別れて再び散策していると、それなりの規模の川を発見。特に理由は無いがその川の上流に向けて歩いていたら今度は大きな滝を発見し、その下の小さな湖で行為をした事で流れた汗と独特な匂いを放つ身体を洗う事にした。
服を脱いでそれなりの大きさがある湖で泳いでいると、水中から近づいてきていた緑色の鱗を生やした蜥蜴人に取り囲まれてしまった。俺が油断し過ぎていた事もあるが、どうも今のレベルの【気配察知】では、水中の敵に対してはやや反応が鈍いようだ。
今の段階で気が付けたのは、僥倖と言う他ない。この事実について、真正面からでは対処できないような強敵に遭遇した時にようやく自覚する事になったりしたらと思うと、背中に寒気が走るのを禁じ得ない。
まあ、とりあえず、過ぎた事は置いといて、即座に思考を切り替える。見た目からして、目の前のリザードマン達は“グリーンリザード(仮称)”と呼ぶ事にしよう。
グリーンリザート達の武装はしっかりと手入れされたファルシオン――刃が緩やかな弧を描き、棟が真っ直ぐな刀剣――が一本。それと少々損傷が目立つが問題なく使えそうなラウンドシールドの一種である円盾が一つ。
肉体にはオークやコボルドのように革鎧や金属鎧などの防具は一切無く、精々局部を隠す厚い布で出来た服程度と軽装だった。
グリーンリザードに防具は無い。しかし全身をビッシリと覆う緑色の鱗が鎧と同じか、もしかしたらそれ以上の効果を発揮するのは目に見えているし、長く太い尻尾による死角からの攻撃も決して侮れるモノではないだろう。
尻尾は第三の腕であると考えるべきだ。しかもその尻尾が今は水中にあるので、目視し難くなっている今はその危険度を増している。
そんなグリーンリザードの数は八とそれなりに多く、群れでの狩りが慣れているのだろう。アイコンタクトなどで細々とした連携も取れている。
それにアチラさんは無駄に長い舌やファルシオンをチラつかせて『ヒャチャヘッチィゾォー』『ゴォーギャクッテェロウィキャー』『ジャンベッテンバチュルアー』と意味不明な奇声を上げているが、やる気満々であるのは雰囲気で読み取れる。明らかに俺を殺す気だ。
今日のハンティングは銀腕の慣らしや性能の確認を兼ねてずっと無手で探索していたし、独りで行動をしていたから仲間の助けはない。そして下半身は抵抗の強い水の中、ってな具合に地の利はアチラにあるってのもあり、例えオーガ――そう言えば、今更ながら、ゴブ爺によると【希少種】って存在は聞いた事すら無いそうだ。いつか機会があれば調べてみよう――でも殺せるとでも思ったのかもしれないが、うん、問題はありませんでした。
アビリティを重複起動させ、行動に移す。
未だに下半身は水の中だが、【水流操作能力】を使用すれば水を推進力として扱う事は容易く、そもそもアビリティの重複発動によって強化された脚力は重い水の抵抗を受けつつも素早く動く事を可能にする。
水流操作による激流の補助と突進力強化によって爆発的な速度を得た俺は一瞬で敵の懐深くに踏み込み、普段以上の勢いを乗せた銀腕と生身の腕で構築された拳をグリーンリザードに喰らわせる。
グリーンリザードの反応は良く、初撃となった銀腕の拳をギリギリの所でバックラーを間に挟んでガードしようとしたが、しかしバックラーは一瞬で爆散してその意味を成さず、一体の命はそこで潰えた。
銀腕の一撃はグリーンリザードの片腕をバックラーもろとも千切り飛ばし、それで勢いが衰えることなく胴体に突き刺さったのだ。胴体も結果は腕と大差無く、鱗は砕け散り、肉は引き裂かれ、骨は砕けて、とそのまま軌道上の一切合切を銀腕の拳は貫通してしまったのだ。
ちなみに、生身の拳は鱗を砕いて肉を潰し骨を折るだけに止まっている。それでも驚異的な一撃には変わりないが、威力は銀腕とは比べるまでもなく低い。
まあ、仕方ない話だけどな。
殴っては殴る、時に蹴る、を繰り返していたらグリーンリザード達を殺すのに三十秒も必要としなかった。逃げ出そうとしたのは糸と雷で真っ先に捕まえたので、取りこぼしは無しだ。
殺した後はグリーンリザードの武装をアイテムボックスに回収し、解体は面倒になったのでそのまま喰いました。
【能力名【水棲】のラーニング完了】
【能力名【異種族言語】のラーニング完了】
グリーンリザードの肉や骨は独特な味と歯応えで、なかなか美味い。
もうちょっと量を喰いたくなって、近くに他のヤツが居ないかなーと探してみたがそれ以上いなかったので一旦諦める事に。
アビリティ【脳内地図製作技能】により自動的に作成されている脳内地図で黒く塗り潰されて表示されない未踏破区画を目指して歩いて行く。
しばらく歩いていると森を抜けてしまい、そこに広がる草原を確認。
転生して初めて森と川と山以外を見ました。吹き抜ける風が心地よい。
軽く物想いに耽っていたらコチラに突っ込んでくる牛を発見した。鋭い二本の角に、人面牛と言う事で“バイコーン(仮称)”と呼ぶ事に。
只管に真っ直ぐ突っ込んでくるバイコーンに対して踏みこんでのジョルトカウンター!! とか思いながら銀腕で真正面から殴ったら、銀腕が肘まで喰い込んでバイコーンはスプラッタ死体に。
うん、今日一日で銀腕の使い勝手の良さを確認するのには十分過ぎた。銀腕をくれたベルベットには幾度感謝しても足りない。
南無。再度祈りを捧げる。
バイコーンは一匹だけだったのでまるまる喰ってもアビリティは得られなかったが、肉体強化ができた上に独り焼肉できて満足である。しかもバイコーンの肉は全身全てが美味しかった。
皆できた時は、殺してバイコーンの焼肉パーティーをすると今決めた。
その後は時間も丁度良かったので、ナイトバイパーなどをお土産として狩り、帰って喰って寝た。
“四十ニ日目”
奴隷兼部下な五ゴブのホブ・ゴブリンの内二ゴブにメイジ適正がある事が判明した。
さっそく俺直属からホブ星さんの部隊≪マジシアン≫に所属を変更し、魔術の勉強を開始させる。
俺も興味あったんでついて行ったら、ホブ星さんの寝所には幾つか魔術などに関する書物が数十冊ある事が判明。聞いた所によるとどれもこれも今までの略奪品で、コツコツ溜めたそうだ。
話を聞いて行くと、ホブ星さんも最初から今の様に三系統の魔術を扱えたわけでは無いそうだ。
メイジ適正のある個体は俺がそうだったように、自分に一番相性のいい系統の基礎魔術――俺が【終焉】だったように、ホブ星さんは【炎熱】らしい――の呪文が脳内に何時の間にか記録されていて、レベルが上がる事に新しい呪文が追加されていくのだが、そのままでは最初の魔術の上位版が扱えるようになっていくだけで、他の系統の魔術は扱えない。
鍵となる呪文を知らないのだから、当然である。
しかしこの集められた書物を教材にして勉強した結果、ホブ星さんは今の様に使える魔術の幅を広げたそうな。努力家である。
んで、ホブ星さんは初めてできた弟子が嬉しいらしく、魔術などに関する基本的な教育を二ゴブにみっちりと教える気満々なので、俺は邪魔にならないように横で書物を読みあさる。
ふむふむ、おお、なるほどな~。って事で今まで使っていた破壊力抜群な投げ槍などの【終焉】系魔術以外にも、【炎熱】系やら【水氷】系など他の系統魔術の扱い方をそれとなく学習できた。
いや、どうやら俺の持つ生体属性【根源】はなんでも即座に扱えるようになる便利属性らしいのだ。相性が悪くて威力が半減したりそもそも発動自体しないなど、他の奴らじゃ必ず苦労する(らしい)事も、問題なくスラスラとできたり。記憶力も強化されてるっぽいし、うん、楽だな。
まあ、そこら辺の細かい事は置いといて、使えるようになったのだから文句は言わせん。つっても【発火能力】とか【発電能力】が既にある上に、魔術と違って予兆無しで行使できるという利点があるから、覚えても無意味かもしれないが。
まあ、使える幅が広がるのは悪い事ではないので問題無い。
そして三時間ほどの時が過ぎた頃、ホブ星さんのコレクションの中の新たな一冊を手に取り読んだ結果、俺はようやく【職業・付加術師】の使い方を見出した。
いやさ、【職業・司祭】はちょっと違うが【職業・森司祭】と似ている部分が多々あったのですぐに使える様になったんだけど、【職業・付加術師】は【職業・魔術師】とかと比較しても扱いが違って、上手く発動させる事ができなかった。
だから半ば放置してたんだ、今までは。
ええと、そうだな。
【魔術師】は基本的に外に解き放つ技術であり、【付加術師】は物質に干渉する技術なんだそうだ。
そうだな、魔術師は素材の強化とか付加術師と似たような事はできるんだけど、補助という一点に置いて、効果上昇率の度合いは付加術師に遠く及ばない。まあ、その代償として戦闘はからっきしだけどな、付加術師は。
うん、取りあえず魔術とは扱いが違うとだけ思っておけばいいだろう。
難しい事は一先ず置いといて、一応【付加術師】が使えるようになった。その経験値稼ぎを兼ねて鍛冶師さん達の所に。
俺の顔を見た瞬間ちょっと不機嫌そうになった鍛冶師さんに小首を傾げつつ、出来上がっていた品々を練習に使わせてもらった。
精製された精霊石製のナイフとか、鉄鉱石から造った錬鉄製のナイフとかに属性付加を施してみたり。
その結果、火精石製ナイフならもっと強力な火が噴き出す様になったし、水精石製ナイフならもっと大量の水を噴出するようになり、錬鉄製のナイフは強度と切れ味が飛躍的に上昇した。
うん、【付加術師】の使い勝手の良さには驚かされるね。強力な武器が、比較的簡単に造れる様になったし。
まあ、その陰で属性付加失敗で砕け散った試作品の数々があるのだが……。
慣れない内は、成功確率が低いとです。
そんなこんなで時間が流れて、ハンティングに行って喰って寝た。
“四十三日目”
最近ゴブ美ちゃんが不機嫌だ。正確に言えば二日前、俺が一日独りでハンティングして帰ってきた辺りから。
何故だろうか? と小首を傾げながらゴブ吉くんに相談したら分からないと言われ、ゴブ江ちゃんに相談したら胸に手を当てて聞いてみろと言われ、ホブ星さんやホブ里さんに相談したら若いっていいわねぇ~とか言われたが、結局は明言を避けられた。
本気で分からなかったので赤髪ショートの所に行ったら可愛らしく頬を膨らまして顔を背けられ、次いで鍛冶師さんの所に行ったら私もちょっと不機嫌なんですけど、と言われた。それは昨日から思っていたけど、なんで? と聞いたら呆れられてちょっと怒った様な顔をして何処かに行ってしまった。
悩みながら姉妹さん達の所に行ってみたら有無を言わさずに試作品ですどうぞ、とちょっと毒物混じりなモノが差し出されたけど、喰ってみたら結構美味しかった――繰り返すが、毒物は俺には効かんのだ――ので、また造ってと言ったら驚かれた。
何故だ。
ほとほと困って、最後の頼みだと思いながら錬金術師さんの所に赴くと、ちょっと呆れられつつも原因を教えられてくれた。
うん、原因は嫉妬だったそうです。いや、ドライアドさんとの一件で首筋に幾つかキスマークをつけられてたそうで、それを見つけて怒っていたそうだ。今は持ち前の回復能力で残っていないけど、どうやらドライアドさんが一日は消えないように何らかの細工していたみたいである。
無害だから別にいいけどな。
そうなのかー、と謎が解けて頷いていたら錬金術師さんに不意に抱きつかれて、そのまま貪る様なディープキスをされた。
情熱的に舌と舌を絡ませ、唾液を交換しながらあれぇー? と思いながら続けていると、しばらくして解放される。
そしてコレは命を助けてくれたお礼と私の気持ちだってさ。そうなのかって事で頷いて、ちょっと見つめ合って、潤んだ瞳と唇にクラッときて、錬金術師さんのバランスのとれた身体を触ってみたらコッチも触られたりして、気分が乗ってエスカレートしていった。
壊さない様に気を付けながら身体を抱き寄せて隠れてイチャイチャしてたら、そこにゴブ美ちゃん乱入。
俺が浮気を発見された夫みたいに慌てふためいていたら、抱きつかれました。
んで、何と、私にもしろとの事。
ゴブリンの時と比べ、ホブ・ゴブリンになった辺りから可愛くなっていたので俺の心境的にも何ら問題はなく、そうこうあれこれしていたら次々と乱入者が!!
うん、その後は正確には語らないけど、本当の所はできないんだけど、乱入してきた赤髪ショートとか鍛冶師さんとか姉妹さんとかも交えての一夜を過ごす事となりました。
【形態変化】と【自己体液性質操作】の二つが大活躍だった。うねうねと自分が触手的な事をするとは、転生してから夢にも思ってませんでした。
そしてこんなに大人数でやるとも思ってませんでした。
あと、【自己体液性質操作】でまさか体液が天然の興奮剤になるとも思いませんでした。
ちなみに糸で他のゴブリン達が覗かない様に簡易密室を造ったし、【大気操作能力】で声も外に洩らさないように極力努力してある。
感想。
うん、凄く気持ちよくて爛れた一夜だった。
ただ、俺の体力値が半端じゃないので何回出しても全く衰える事が無く、その上アレが大き過ぎて、【形態変化】を使わないと皆を確実に壊してしまったに違いない。
一応、それでも非常にキツかったけどねとだけは言っておこう。
大切な人達が、俺が守るべき存在が、できてしまいました。
うーん、こんな予定は全く無かったんだが、な。
まあ、仕方ない。幸せであるのは、間違いないのだし。
“四十四日目”
【気配察知】に感あり。
最近ではアビリティレベルも上昇し、一度見た事のある種族ならば種族名――俺が仮称としたモノだが――が表示され、名前を知っていればその名前が表示されるようになっていたりする。しかも敵味方識別機能つきだ。便利すぎる。
それによるとどうやら近づいてくるのはゴブ吉くんとその部下のニゴブらしく、何かあったのかと思って起きあがろうとして、俺の身体にピッタリと寄り添う様にして寝る存在達に気がついた。
昨日の激しい行為の疲れからスヤスヤと眠っている彼女達を起こすのは忍びないので、【形態変化】を使って起こさない様にすり抜ける。
そして糸で造った部屋から出てゴブ吉くんと会話。話によるとどうやら耳の長い美形な亜人種が三名、洞窟の入口にやってきてふんぞり返っているそうだ。
そいつ等を襲って殺すにしても、洞窟内部に招き入れるにしても、トップである俺の判断は重要だろうって事で呼びにきたんだと。今は判断できないので、外で待たせているそうだ。
間違った考えでは無いので、これも教育の賜物かもしれん。以前なら問答無用で襲いかかっていただろうし。
一先ずアイテムボックスから大瓶(先日の湖の水入り)を取り出し、中に入っている水で素早く身体を洗って最低限の身だしなみを整えてから向かうと、そこに居たのは男一名にその従者兼護衛だろう武装した女性二名の“エルフ(仮称)”だった。
三名ともかなりの美形で、男の礼服や女性二名が着ている軽金属鎧などはどれもそこそこ上等なシロモノだ。センス云々は兎も角として、相応の身分なのだろうと予測するのは容易い。
後ろに控える女性二名の腰にある刺突細剣は鑑定して見た所【希少】級のマジックアイテムで、その他にもある指輪タイプのマジックアイテムや腕輪型のマジックアイテムも全て【希少】級である。
これは相応の身分じゃないと、揃えられる筈のない装備の質だ。
ちなみに、以前の冒険者の方が良い装備よかったよな? と思うかもしれんが、冒険者の大半は高品質の装備はダンジョンから発掘した品を装備するので、高レベルの冒険者の装備の質は必然的に良いモノとなる。
しかしダンジョンに潜らないモノがそれ相応の品を揃えるには、どうしたって財力が必要になる訳で、つまりはそう言う事だ。
あと、かなり高圧的な態度も要因の一つか。まあ、これは種族的特徴かもしれんが。
アポなしでやってきたくせに偉そうな口調してんじゃねーぞ腕むしって喰ってやろうか、と乱暴な言葉を内心で吐き出す事で諸々を我慢しながら訪問した理由を聞いてみると、どうやら我らが傘下にうんぬんかんぬん。
全てを話すと長話になるので纏めていくと、俺とその配下を自分の部下――というよりは奴隷に近いと思われる、言い方的に――にしたいってのが主な要件だそうだ。
なんでも『下等なるヒューマン共がエルフの秘宝を狙って争いを近々仕掛けてきそうな雰囲気とそれを裏付ける情報があり、それに備えて少しでも強そうな手駒が欲しい』んだと。
そうなると、エルフの狩人達でも狩る所か逆に狩られていた元山の主“レッドベアー”を殺した俺――最近森で噂になっているらしい。まあ、レッドベアーの毛皮で造った防具装備の黒いオーガは目立つよな、うん――はまさに最適だったわけだ。
雇う報酬として配下のゴブリン達の分まで含んだ大量の食糧はデフォとして、【固有】級のマジックアイテムを一品か、もしくはエルフの美女二名を俺にくれるそうだ。
これは、オーガに対する報酬とするにはあまりにも桁外れである(らしい。何時もの様にゴブ爺談)。
【固有】級のマジックアイテムは買おうと思えば最低でも一千万ゴルド以上の金額になるそうだし。それと当然だが、能力などによって値段は大きく変わる。それこそ三千万ゴルド以上になるモノもあるのだそうだ。
流石に報酬は【神迷遺産】ではないだろうが、それでも高額なのは違いない。
そしてエルフは目の前の女性二名を見れば分かるが、非常に美人だ。こう言っては悪いが、赤髪ショート達よりも美人なのは確実だ。個人の好み云々は兎も角としても、一般的な美醜の観点では間違いなく美なのだ。
提示された報酬についてはちょいと驚いたが、しかしそれを報酬とする程に結構切羽詰まっているんだろうか、と思わなくもない。表面上は余裕を見せているが、多分戦力的に大きく負けているんだろうなァーと。実に定番と言えば定番な展開である。
この後エルフの王族が奴隷になって、とかだと王道過ぎて笑えないな。
数はそれだけで暴力なのだ。圧倒的な力を誇る個も、やがては集団に押し潰される時が来るってのは、前例が多過ぎる話であるからにして。
数日前ならこの話に乗っても良かったんだが、もっと上質で強力なマジックアイテムが既にベルベットの遺産として相続されているので、俺の心は動かなかった。
エルフの女性二名は惜しいと言えば惜しいが、まあ、ここは内通者は要らんと言っておく。
容姿は勿論大切だが、長い付き合いになとなると、やはり内面が重要だと思うし。
最終的に、エルフの勧誘はキッパリと断りました。
理由は、建前を抜かして言ってしまうと、そっちの事情何ぞ知るか、って事で完結する。
下等なるヒューマンうんぬんは俺にとってどうでもいいし、利害や思想などの違いから発生した争いも勝手にすればいい。戦争はその良し悪しは兎も角、大量のアビリティ確保のいい機会であるので俺にとって好都合なのは確かだし、提示された報酬も悪くは無い。
優れた品が手元に多く在って、悪い事は少ないのだ。
けど、ココまで分かり易く見下された状態で一方的に命令のような話し方をされれば、誰だって嫌だろう。命をかけるような仕事なら尚更だ。誠意を見せろと声高々に言いたい。
せめて下手に出ろと内心で忠告する。意味は無いが。
断って数秒、エルフ(男)は間抜け面で固まった。どうやら断られるとは思っていなかったらしい。
暗喩で俺達を馬鹿にしていたのを、俺が気がつかないとでも思っていたのか――一般的なオーガは脳筋らしいから、気がつかれないと思っていたのだろう。多分――、と視線で見下すのも忘れない。
やがて再起動――戦場だとあまりにも致命的な時間が過ぎた後に――を果たし、俺の言った事と視線に込められた意味を理解し、エルフ(男)が真っ赤になって怒りを顕にしようとして、何かを言う前に俺が睨み付けて沈黙を選択させる。
【蛇の魔眼】と【威圧する眼光】、それと次いでに【強者の威圧】も重複発動させただけだが、それで十分過ぎたようだ。
うん、まさか呼吸までできなくなるとは予想外である。ってなわけで【強者の威圧】は解除。
それでやっと呼吸できるようになり、恐怖からか顔面蒼白になるその様には思わず笑みがこぼれ、それが余計恐がらせる結果になった模様。
オーガの顔は恐いからねー。と他人事のように。
ココまでビビらせたので一応は満足し、銀腕でエルフ(男)の首を素早く掴んでグイッと引き寄せる。咄嗟に動こうとした護衛な女性二名を視線だけで制し、捕まえたエルフの耳元で外に隠れている護衛達に弓を下ろすように命令。するのと同時に一本の矢が顔面に向かって飛来したが、それは口で銜えて止めた。
ボリボリと矢を喰いながら、コレ以上何かリアクションがあればお前の首が千切れるぞと視線だけで語ってみる。まあ、ニコリと微笑んだだけだが。
なんか小声で言われたが、はいはいそうですかと聞き流し、さっさとしろと指に力を込める事で伝えてみる。慌てながら大声で命令を下したエルフ(男)に再び笑みを向け、【視野拡張】と【見切り】の重複発動で隠れて矢で俺を狙っていた護衛達が命令通りにしたのを確認してから、解放する事無く耳元でゆっくりと言い聞かせる。
今回の其方の御願いは俺の気分が乗らないので却下するが、まあ、人間達が住処を荒らすというのなら協力するのは吝かではない。同じ森の住人なのだから、それ相応の対処には付き合ってやる。それくらいの分別はある。
が、もし仮に今回の事で報復とかを考え、俺の部下や大切な人達を傷つけるのならば、俺はお前達を喰らいに行く、と。お前の味方は全員を喰い殺してやる、と再び【強者の威圧】を発動させながら教え込む。
そしてそれだけの暴力が俺にはあるのだとハッキリと理解させる為にアイテムボックスから【餓え渇く早贄の千棘】を取り出し、地面に突き刺して朱槍に内包されたアビリティ【血塗られた朱槍の軍勢】を発動。
それにより、今日やってきたエルフ全員の眼前に朱槍が突如出現した。隠れていた筈の者も一人残らず、である。
色々あった末に血相変えて逃げ帰っていくエルフ達を見送りながら、手中にある朱槍を見下ろす。
原理は分からないが、このカズィクル・ベイは半径百メートルの範囲内であるのならば、突き刺した対象やそれに触れている物体までならば際限なく朱槍を出現させる事ができる。今回で使用したのは二回目なのだが、地面や木から朱槍が出現するのは中々シュールだ。
まあ、切れ味といい長さといい、オーガな俺にとっては非常に使い勝手が良く、“突き刺し縫い付ける”という事に特化しているので俺の戦術的にも最適な武器であるので不満は無いが。
しかし、これと同等かそれ以上の事ができるマジックアイテムが幾つもあるというのだから、この世界は本当に理解し難い。
赤髪ショートとかと話した内容などからちょっと進歩した部分がチラホラと見受けられるファンタジー世界だと思っていれば、こんな明らかにオーバーテクノロジーと理不尽な塊が存在するのだから、この世界は酷く歪だ。
【神迷遺産】は神の遺物などと言われる事もあるそうだが、それにしたって文明と不釣り合い過ぎる様な気がする。
そこら辺は一先ず置いといて、これくらいやれば、報復とかは考えないと思われる。それでも突っ込んでくる可能性は否定できないが、何事も零パーセントにするのは難しいのだ。
何かあった時は、その時に考えよう。
あ、そうそう。
補足だが、俺が脅した男のエルフは次期氏族長候補の一人で、相応に偉いそうです。
それとエルフの里的な場所はまだ行っていない未踏破区画のちょっと奥深くにあるっぽい。今度行ってみるのも面白いかもしれん。
それと【異種族言語】などの効果のほどもある程度推察ができた。
グリーンリザードのように俺達と大きく発音の仕方が変わる種族とかには非常に便利だけど、オークやゴブリンや人間など多少は似通った言語を解するヒト型の種族だと、無くても何となくではあるが会話する事は可能なようだ。
これはエルフと話して分かった事だ。俺まだエルフ喰って無かったからアビリティ持ってなかったけど、話は通じたし。でも一応あった方が楽なのは確かで、そうだな、こんな系統のアビリティがあれば独特な言い回し――つまりは方言の意味が理解できると言えばいいのか。
例を出せば『えらい』→『疲れた』とか『こわい』→『疲れた』とか。
ま、そんな感じだ。
エルフを追い返した後、ハンティングしたりと普段通り過ごして、今日もガッツリと熱い夜を。
“四十五日目”
早朝、今日も独りで森の中を放浪中。
脳内地図の黒く塗り潰された未踏破区画を歩いていると、グリーンスライムの上位種っぽい“グレースライム(仮称)”を発見した。仮称となった切っ掛けである体色は灰色で、グリーンスライムとはまず二倍くらい大きさが違い、うねうねと動く触手や全体の速さが違い、撒き散らす体液の消化力が違っていた。
それに狩って分かった事だが、グリーンスライムと比較して遥かにタフである。というか、なんか変だった。
せっかく覚えたのだからという事で【炎熱】系魔術で攻撃してみたら今一つ効きが悪くてなかなか殺す事ができず、じゃあ【発火能力】の炎はどうだと思って試してみたら、結構簡単に殺せたのである。
この事から、どうやらグレースライムには【炎熱】系魔術に対する耐性持ちなようだと推察した。
転がった灰色の核を拾い、アイテムボックスに収納して次のグレースライムを捜索。どういった特性があるのかの調査が必要だ。
狩ったグレースライムの数は一時間で二十体ばかり。
それから判明した事だが、グレースライムは俺が扱える【終焉】系を除いた全ての魔術の効きが非常に悪かった。
その事からグレースライムは【炎熱】系魔術だけではなく、魔術そのものに対する耐性があり、一定レベル以下の魔術は全て中和してしまう模様。あと、それに加えて物理攻撃軽減能力も優れているようだ。
スライムの基本的な能力である【物理攻撃軽減】によって一定レベル以下の直接攻撃はダメージ激減かもしくは無効化され、スライム種にとって致命的な魔術には少々強めの耐性がある。それに動きはそこそこ速いし消化能力も高いとくれば、普通に相手をすると相当な強敵になると思われる。
ただ不思議な事なのだが、【発火能力】の炎や【発電能力】の雷を使えばあっさりと殺せたのは一体どういう事だろうか。
魔術じゃないからだろうか? そこの所は分からないが、“必要な事/殺し方”は理解できたので別にどうでもいいか。
ニ十体分の灰色の核をアイテムボックスから取り出し、一気に頬張る。直径五センチ程の核は飴玉に近いだろうか。味は無いが、コロコロと口内で転がす感覚は飴玉そのままだ。
【能力名【物理攻撃耐性】のラーニング完了】
【能力名【自己分体生成】のラーニング完了】
【能力名【補液復元】のラーニング完了】
どうやらグレースライムは【物理攻撃軽減】ではなく、それのちょっと上位版アビリティ【物理攻撃耐性】だった模様。そら強いよなぁ、と納得した。
所で、スライムが増殖するのはある程度体積が増えると二つに分かれるかららしい。いや、【自己分体生成】をラーニングして理解できたんだよね、これ。
指先を噛み切って血を流してみると、その血がウネウネと蠢き、真っ赤で小さな俺を造れたのだ。しかも【自己分体生成】ってアビリティ名だからか小さな俺とオリジナルな俺との間にはある程度の繋がりがあるらしく、思考共有や視覚共有ができたりと。
視覚共有を行うと俺の視界では小さな俺が見え、小さな俺の視界ではオリジナルな俺が見えている、という奇怪な状況に。
流石に皮膚感覚などは無理なようだが、それでもこの能力は凄く使い勝手がいい。というか、自分の事ながらこれは酷い反則だと思った。
即座に能力を発揮する類のアビリティではないが、時間をかければかけるほどその有用性は発揮されるだろう。諜報とか、戦力確保とか、凄く簡単にできそうだ。
材料にした血液も、吸血によって他者から簡単に補充できるのだし。
その後は気分良くコガネグモとかオニグモとかトリプルホーンホースなどを狩って喰った。
“四十六日目”
今日はハンティングには行かず、ゴブ美ちゃんに赤髪ショートに鍛冶師さんに姉妹さんに錬金術師さんの為にプレゼントを製作中。
防具ではなく、遠出用の可愛らしい衣服が良いかなと思い、取りあえずサイズを測らせてもらう。彼女達の身体で見てない場所は既に無いが、大まかなサイズは兎も角、正確なサイズは知らないのだ。
服は街などに行った時に派手過ぎて悪目立ちする事が無い様に、それでいて地味にならないようなデザインを考える。それに何かあった時でも安全を確保できるように、という事で綺麗な布(かつての略奪品)と普通の糸で編んでいく。
そしてそれに加えて何かあった時の為にって事で裏側に俺の血で造った分体を密かに染み込ませ、緊急事態を俺に教えられる様に工夫を施す。いざとなれば足止め程度には働いてくれるだろう。
俺の糸と分体などによって製作された下手な防具よりも遥かに防御力の高い衣服を渡し、それだけだとちょっと寂しいかな、とも思ったのでアカシカの紅水晶のような角やコガネグモの甲殻を材料に、豪奢になり過ぎず、それでいて綺麗なブレスレットなどのアクセサリーも追加でプレゼントした。
大層喜んでくれて、頑張ったかいがあったというモノだ。
その夜は皆、ちょっと激しかったです。
あとなゴブ美ちゃんと赤髪ショート、その衣服は普段の狩りや訓練に着るのは止めといた方が良いと思うぞ。破けるかもしれないからさ。
まあ、大丈夫だとは思うんだが。
“四十七日目”
普段通り目が覚め、その時から【直感】が活発に働いていた。
今日はひっそりと身を隠して洞窟から動かない方が良いと、動けば後悔すると囁くのだ。
という事で【隠れ身】補正などが高くなる【職業・暗殺者】を発動し、一応【気配遮断】も重複発動して洞窟の奥の方にある鍛冶師さんや姉妹さんや錬金術師さん達の所で寛ぐ事にした。
俺は寛ぐが、最近趣味になってきた脳内地図の穴埋めはしたい、って事で昨日の内に俺の血や肉片やらで造った俺の腰ほど程しか無いサイズの分体――総合能力も半分程度、行動は一定の法則によって決められていて、自由意思も多少はある――を外に出す。
この分体、グレースライムから確保できたアビリティ【補液復元】が、四肢欠損したり腹に穴が開く様な攻撃を受けても取りあえず水分さえ必要量吸収する事ができれば肉体をある程度まで復元できるってな能力だったので、造ってみたのだ。
現在の戦闘能力は俺よりも格段に低いが、それでもそこそこ程度には強いので殺されたりはしないだろう。逃げ足も速いし。
【形態変化】を使い、まるで巨大な狼のような姿となって外へ疾走していく分体を見送ってから、当初の予定通り俺は奥に引っ込んだ。
鍛冶師さん一人では何かと不便そうだったので、後方支援部隊≪パトリ≫に配属した同年代ゴブリンを補助に回したり、姉妹さんの所で新しい料理を考えて実際に作ってみたり、錬金術師さんの所でベルベットの遺産として確保した、何故か経年劣化していない大昔の秘薬などを解析したりしていたら時は過ぎ去り。
それは起きた。
基本的にゴブ吉くん達が訓練をしているのは洞窟の入り口に直結している、大ホールと呼んでいる場所だ。住処の中で最も大きな空間であるそこは、木剣を片手にゴブ吉くんやゴブ美ちゃんに赤髪ショート達が訓練に勤しんでいる真っ最中だった。
そんな時に俺の【気配察知】がその入り口に接近する敵性対象を感知。表示された種族はなんと“エルフ”だった。しかもその中に、以前追い払ったエルフ(男)の名前も混じっている。まさか早々にやってくるとは流石の俺にも予想外だ。
急いで洞窟内のゴブリンを招集し、準備を整える。幸い訓練中だったので装備は既に装着済みで、僅かな時間で事は済んだ。
装備を簡単に点検した後は大ホール付近に予め作っていた塹壕などに身を隠し、それでいて侵入した敵に対して奇襲し易い場所で待ち構えるだけだからだ。一応ゴブ江ちゃんには採掘を続行してもらい、採掘音を響かせてちょっとした偽装を施す。
しばらくすると、武装したエルフの集団が洞窟に入ってきた。静かな上に迅速に、それでいて得物を手にして殺気を放っていた二十五名のエルフはゴブ吉くんなどのホブ・ゴブリンならばともかく、今のゴブリン達では三体一でも勝てるかどうか、難しいレベルの敵のようだ。
雰囲気だけで既に敵対する気満々なのは分かるが、それでも一応は捕まえて話を聞くべきだろう。
単身、物陰から飛び出すのと同時に【威嚇咆哮】と【鱗馬の嘶き】を重複発動した大声で怯ませ、その上更に【威圧する眼光】と【蛇の魔眼】で咄嗟に動けなくしてからその隙に糸で捕縛する。
その後は縛ったエルフ達を並べさせ、次期氏族長うんぬんなエルフ(男)の頬を朱槍でペチペチと叩きながら少々お話しした。
うん、どうやら俺が自尊心を傷つけ過ぎたようだ。
二日間を挟んだ事によって恐怖が若干薄らいで、ちょっとだけ冷静に考えられるようになって、何故高貴なエルフである私がうんぬんかんぬん、オーガ如きに恐怖せねばあれやそれや、って事があって自分を見下す奴は殺すしかないと決意し、配下の中でもレベルの高い精鋭エルフを引き連れて、感情の勢いに任せて強襲した結果、返り討ちにあって現在に至ると。
こんな上司の下で働くようになったエルフが不憫である。以前護衛していた女エルフ二名もうな垂れた状態で目の前に居るし。少々気になって話してみると、聞く耳持たずだったそうだ。
上司が無能だったためにその下が被る被害は身に染みているので、このまま殺すのは流石にちょっとだけ気分が乗らなくて、多少の情けをかける事に。
1.この次期氏族長的なエルフは死んだモノとして諦めろ。
2.俺以外のホブ・ゴブリンにゴブリンと模擬戦をし、相手を殺さずに気絶などで無力化すれば勝ち。
3.模擬戦で勝てば殺さない、負ければ殺して喰らいます。
簡単に言えばこんなものだ。
説明し終え、次期氏族長的なエルフ(男)以外の糸を解いてやる。
すると忠誠心が高いエルフが一名俺に斬りかかってきたが、顎にフックを決めて顎を砕くと共に脳震盪を引き起こし、フラフラと動けなくなったエルフの頭部と肩を掴んで、捻って頸椎を砕いて殺した。
赤髪ショートや鍛冶師さん達には俺が戻るまで奥に居るように言っているので、心置きなく新鮮な死体をボリボリと。
【能力名【異種族言語】のラーニング完了】
エルフさん達の震えが止まりません。
身体が竦んで動けないそうなので、戦う気が起こる様にヒューマンとの抗争が近いのにこんなところで無様に死んでいいのかと、生きたくはないのかと語ってみる。
自分で言うのも何だが、非常に白々しい。
しかしそれでも一応の効果は有ったのか、皆さんやる気になった。
そして、模擬戦は始まった。
結果的に述べると、模擬戦に参加した二十三名の内、生き残ったのは十七名だ。
ゴブ吉くんやゴブ美ちゃん、ホブ星さんなどに当たった人はご愁傷様と言うしかない。普通のエルフとホブ・ゴブリンなら十中八九エルフの勝ちで終わるのだろうが、訓練し続けているゴブ吉くん達の強さは既にホブ・ゴブリンを超越しているのだ。
命乞いする負けた方達には残念だが、俺達を殺しにきたのにそんな都合が良い事はありません、と言ってから殺しました。
残念だけど、これが戦争なんだよね。しかも最初に引き金を引いたのは向こうだ。同情する必要は無い。
負けてしまった六名――全員男だ。いや、美女・美少女をあえて無駄に殺す事は嫌だったので対戦を調整したらそうなりました――は、美味しく頂きました。
【能力名【深緑の住人】のラーニング完了】
【能力名【精霊使い】のラーニング完了】
【能力名【弓術の心得】のラーニング完了】
【能力名【追跡術】のラーニング完了】
【能力名【隠れ身】のラーニング完了】
敗者を喰い終わり、その様子をボンヤリと見つめていた勝ち組エルフさん達に振り返り、装備しているマジックアイテムを全て一ヶ所に置かせてから、再び糸で捕縛する。
解放されない事に悲鳴が上がったが、俺は別に“解放する”とは言っていないのだとここに宣言しとこう。
あくまでも殺さないというだけで、それを解放すると勘違いしたのかもしれん。俺は赤髪ショート達などのように一方的に虐げられる方には偽善で助けたりする事はあるが、襲ってきた“敵”にまでは多少の情けしかかけるつもりはない。
今回の情けは“殺さない”事だ。
そうだな……内訳は十名が男で七名が女だから、数を増やす事に協力してもらおうか。ああ、前にも俺は無理やりは嫌いだと言ったが、無理やりは絶対にしない。それは本当だ。
ただ自分の体液を調整して造った興奮剤を全員に投与して、自分から求めるまでは手出し無用と厳命してから牢屋に放り込むだけである。
同室に入れるとお互いで発散するかもしれないので、全員個室だ。
男のエルフは子を産めないが、まあ、性欲発散には貢献してくれるだろう。外見はいいしな。
いやーしかし、正直タイミング的にはありがたい。同年代のゴブリンは兎も角、年上ゴブリン組はそろそろ雌ゴブリンの身体では満足できなくなっていて、ストレスが溜まってきていたのだ。今までは過酷な訓練で体力を奪い、気を逸らしていたが、訓練にも慣れてきたようで、そろそろ限界が近づいていた。
だから、ありがたいのだ。
……俺が外道だって? いやいや、勘違いしてもらっては困る。そもそも最初に仕掛けてきたのは向こうだ。
アチラはコチラを殺そうとした結果負けたのに、襲われた俺達がアチラの捕虜を無事に解放しろとでもいうのだろうか? それはあり得ないだろう。理不尽に殴られたのに、殴り返したらコッチが悪役にされるくらいに在りえないだろう。
そもそも、捕虜に対する条例なんて俺達の間には無いんだし、これくらいしても問題ない。在ったとするのなら、それは感情からくる個人の問題でしかないとだけ。
あと、自分で言うのも何だが先に言っておこう。まだ比較的良心的なルールを造るつもりだぞ、俺は。
そんな光景に首謀者なエルフが何か言ってきたが、無視した。
十七名のエルフが牢屋に連れて行かれた後は、一人取り残されたエルフを材料に色々と。新しい拷問の仕方や、ヒト型の急所的な場所についてのレクチャーをしたりしました。
最後は当然腹の中に。
【能力名【売値三十%増加】のラーニング完了】
【能力名【買値三十%減少】のラーニング完了】
喰った数もそこそこで、個人の能力も高かった上に重複した技能を持っていたので役には立つアビリティを多く確保できたりと、うん、合掌するくらいにはありがたい存在だったな。
“四十八日目”
ハンティングに出かけ、コボルドやオニグモ、ハインドベアーにコガネグモなどなどを探して殺して喰いまくった。
久しぶりの平和で平凡な一日だ。
夜は勿論……。
“四十九日目”
起きたらゴブ吉くんが大鬼に【存在進化】していた。
ここ最近はハインドベアーも単身で殺せるようになっていたので、そろそろかなーと思っていたら案の定。
ちなみに【通常】ではなく【亜種】だ。肌の色は“赤銅色”。体色が赤いという事はレッドベアーと同じく、赤い肌ってのは大抵の場合、【炎の亜神の加護】持ちである証明らしい。
試しに火を吹いてくれ、と言ったら実際に火炎放射器の様なブレスが吹けたので、間違いないようだ。
どうも亜種になったのは、火精石を埋め込んだ燃えるクレセントアックスを使い、その次もベルベットの遺産の一つだったマジックアイテム【魔焼の断頭斧】って名称の身の丈ほどもある巨大な両刃の戦斧を愛用するなど、炎熱系の能力を有する主武装を愛用していたからかもしれん。
あと皮膚は鉄のような光沢があり、これはどうも【炎の亜神の加護】に加えて【戦乱の亜神の加護】まで所持しているようだとは、ゴブ爺談。腕を軽く叩いてみたら、ガツンガツンと金属のような手応えが。
ニ柱の加護持ちって凄いの? とゴブ爺に聞いたら珍しいと言えば珍しいが、お前さん程じゃないって言われました。
ああ、さいですか。
それとゴブ吉くんが組み手しようぜ、とオーガだけど何処か愛嬌のある笑みを浮かべて言ってきたのでやりました。
結果を述べると、ゴブ吉くん強くなり過ぎです。
身長は約二メートル八十センチと俺より三十センチほど大きく、赤銅の皮膚と筋骨隆々な肉体は、アビリティ無しの素のスペックでは膂力や耐久力などは俺を軽く越えていた。
俺も【吸喰能力】で肉体の能力も向上してる上に希少種だから、オーガ亜種なゴブ吉くんには負けてないと思ったんだが、うん、能力構成の振り分けで負けたようだ。
俺は筋力やら体力やら耐久やら知能やらの能力にポイントを全部均等に振り分けているオールラウンダータイプだとすると、ゴブ吉くんは戦闘に関係する項目に集中して振り分けている特攻タイプである、と思えば分かり易いだろうか。
見た目からして、筋肉量が明らかに違うしなー。
とは言え、まだまだ体術などの格闘技術は俺が勝っていたので勝ちはした。かなりギリギリな勝負だったが、ゴブ吉くんは好敵手であるのは間違いなく。
組み手を終え、ガッチリと握手を交わし、目と目で語り合う。
最初は捨て駒として仲間に引きずり込んだゴブ吉くんがココまで成長するとは、ハッキリ言って予想外だ。
今では俺の右腕ポジを独占してるし、既に心友として、居なくてはならない存在である。
ランクアップしたお祝いとして、ゴブ吉くんの装備も整えていく。
主武装は変わらず巨大な戦斧型のマジックアイテム【魔焼の断頭斧】なのだが、ホブ・ゴブリンの時には両手で持たねば重過ぎて扱いきれなかったのに対し、しかしゴブ吉くんはオーガに成ったことで数十キロは在る【魔焼の断頭斧】を片手で操れるようなので、再び盾を装備する事に。
贈った盾は【黒鬼の俎板】って名称の、無骨で分厚い黒星鉄製の城壁のようなタワーシールドだ。戦斧と同じくベルベットの遺産であるマジックアイテムの一つで、ランクは斧と同じく【遺物】級。
その能力は【重量軽減】と【突破困難】に【衝撃反射】という非常に手堅い仕様だ。ゴブ吉くんがコレを装備すると、俺でも突破するのにかなり苦労するだろう。
防具は俺の糸やらゴブ吉くんが狩ってきたハインドベアー等々の素材と、コレまたベルベットの遺産の一つである【固有】級の金属鎧の一部を流用し、ゴブ吉くんに合わせてカスタマイズしたモノだ。
うん、凄い迫力である。というか、凄まじい迫力である。
巨大な両刃の両手持ち戦斧を片手で木の枝のように軽々と、それでいて熟練した戦士のように巧みに扱うその姿。巨大な身体の四分の三ほどを隠す黒く巨大でかつ強固なタワーシールドは敵の攻撃の悉くを阻むのを想像するのは容易く、幾つか補助として持っているマジックアイテムに、レッドベアーとまではいかないモノの相応に丈夫なハインドベアーの毛皮とマジックアイテムの鎧を複合して製造されたロングコート装備の、大鬼とか、うん、俺が人間だったとすると、あまり戦いたくない、遭遇したくはない存在になってしまった。
フル装備なゴブ吉くんの迫力は、オーガになったばかりの俺よりも間違いなく上だろう。装備云々があるとはいえ、凄まじいモノがある。まあ、自分の事なので比べ難いってのもあるが。
しかしそれにしても、どこの重機兵だ、と小一時間ほど問い詰めたくなるな、うん。
眼前にすると今の俺でも見上げるのだから、普通の人間からすればどう見えるのか。想像するのは簡単だろうよ。
この日は内部の雑用をやって過ごしました。
エルフさん達は、まだ欲望に屈することなく牢屋の中だ。プライドが生物としての欲望を抑えているのか、もしくは欲望自体が種族的に薄いから対抗できているのか、もしくはその両方なのだろう。
だからなゴブ爺、いちいち来るなと小一時間……。
“五十日目”
夢を見た。
それもかなり不思議な夢だったような気がする。
何だかどっかで見た事のある老人に、『すま――謝――』『――を頼む』『これはせ――プレゼ――』って、何かを言われたような気がするのだ。
目が覚めてから時間が経つとその時の事の詳細は忘れてしまったのだが、コレは凄く重要な事であると思えてならない。俗に言う、フラグ的な何かではないだろうか?
何だったんだろうかと詳細を思いだすべく小首を傾げるが、やはり思いだせない。薄い靄のようなものがかかっている様な感じがする。
まあ良いかと気分を切り替え、今日は午前中はゴブ吉くんと組み手をしたり、午後は二時間ほどゴブ美ちゃんとバディーを組んでハンティングに出かけ、外でちょいとイチャついてみたりした。
その後は鍛冶とか料理とかを学ばせている後方支援部隊≪パトリ≫所属なゴブリンの様子を見学したりと。
その日も皆で楽しんでぐっすり寝ました。
【ゴブ朗は【■■■の眷属】を手に入れた!!】
あれ? 眠る直前に、何か、表示された様な……。
俺の意識は眠りの闇に埋没した。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。