“十一日目”
　今日のハンティングの成果は、獲物がナナイロコウモリ一種類だけなのだが、その数何と三十体と大量だ。
　いや、今日は散策中に他の洞窟を発見したので何かあるかなーと思い突入すると、薄暗く大きく開けた空間の天井に彼奴等がびっしりと……。
　うん、ナイトバイパーを喰って得た【気配察知】と【蛇の魔眼（イーヴィル・アイ）】の両アビリティがあって本当に助かった。
　【気配察知】によってナナイロコウモリの群れの動きを先読みしなければ、【蛇の魔眼（イーヴィル・アイ）】で格下のナナイロコウモリの機動力を制限していなければ、俺は兎も角としてゴブ吉くんかゴブ美ちゃんのどちらかは指示が間に合わなくてまず間違いなく死んでいただろう。
　いやほんと、格下相手でも十倍以上の戦力差は死を覚悟したね。戦争は、やっぱり物量だよなと再認識。
　ま、だけど、俺達三ゴブは四肢欠損などの大きな怪我をする事も無く生き残った。
　切り傷などといった軽傷は数え切れない程あるが、俺とゴブ美ちゃんは新しい防具を、ゴブ吉くんは堅牢な盾を持っていたから生き残る事ができた。
　いやいや、やっぱり武具の更新は大切だなぁ、と思ったねホント。
　ま、そんな苦労話は置いといて、大半は逃げられたものの、俺は殺した三十体のナナイロコウモリの翼と牙を解体することで確保し、余った肉を喰らった。
　うん、口に入れたら蕩ける様なこの肉は、やっぱり美味いなぁ。
　ボリボリバリバリとナナイロコウモリを一ゴブにつき十匹と、量が量だけに腹は膨れました。

　【能力名（アビリティ）【反響定位（エコーロケーション）】のラーニング完了】
　【能力名（アビリティ）【血流操作（パンプ・アップ）】のラーニング完了】
　【能力名（アビリティ）【吸血搾取（ヴァンパイアフィリア）】のラーニング完了】

　その結果、三つのアビリティを得られた。そりゃ、これだけ喰えば手に入るってなもんです。
　あと、ナナイロコウモリから獲得できるアビリティはこれで打ち止めみたいだから、これ以上は身体の強化とアビリティ強化、あとは腹の足しにしかならない模様。
　ナナイロコウモリが弱いからか上昇率は悪いので、今後は必要に駆られて喰う事はないと思われる。まあ、美味いから喰いたくなったら喰うだろうけど。
　それにしても、この段階で巣を発見できたのはよかったよかった。どのアビリティも役立ちそうだしね。
　視覚外の周囲の地形や動体物の把握に適した【反響定位（エコーロケーション）】とか、不意打ち対策に良さげだし。
　生存競争の激しい自然界じゃ、大いに助けになる事だろうと期待してる。


　“十二日目”
　普段通り喰い物を得るべく、ハンティングに赴く。
　今日もホーンラビットにナイトバイパー、ヨロイタヌキの狩猟に成功し、日が暮れたので今まで通り洞窟に帰還する。
　人間と違ってゴブリンにはデフォルトで【暗視（ダークアイ）】が備わっていて、闇は決して敵ではない。
　だから夜間でも多少見難くなるだけで狩猟活動を続けようと思えば続けられるんだけど、夜はゴブリンよりも凶暴で強靭な種族が多く活動する時間帯なので、危ないんだよね。
　ほら、ゴブリンって基本弱者だから。
　赤毛のヒグマみたいな“レッドベアー（仮称）”を筆頭に、額に縦に並んだ三本の角を生やして茶色い鱗で全身を包んだ馬みたいな“トリプルホーンホース（仮称）”とか、六十センチくらいのサイズで鋼鉄以上に硬いだろう黒い甲殻に刻まれた黄色いラインが特徴的な“オニグモ（仮称）”とか、ゴブリンと同じく雑魚キャラみたいだけど何気に【物理攻撃無効】っぽいアビリティ持ってそうな“グリーンスライム（仮称）”とか、まだ勝てねーからね、うん。
　全然勝てる気しねーから。俺でも普通に殺される可能性の方が高いから。
　多分今程度の毒レベルだと短時間で無効化されるに違いない。そんな感じのヤバい奴等が夜になると動きだす訳で。
　まあ、だから夜は出歩かずに帰るんだけどね。
　んで、洞窟――ココはそれなりに安全な場所にあるっぽい――に戻った俺は、疲れたから明日に備えて寝てたんだ。


　そして寝込みを襲われた。
　常時発動している【気配察知】のお陰で寝込みを襲われてもギリギリで回避する事ができたから俺に怪我はなかったのだが、相手がちょっと問題だった。
　主犯が俺と同じ年代のゴブリンだったからだ。
　数は六、最近俺達の真似をして木の棒を装備しだした、ちょっと知恵のあるゴブリン共だ。

　俺は不意打ちが失敗した事に驚いていた奴等の隙を逃す事無く――いや、木の棒装備で寝込み襲われたら同族でも容赦しちゃいけないよ自然界――、寝る時何時も傍に置いている愛用の角を一本手にし、反撃に出た。

　結果を言えば、当然返り討ちにしました。
　その過程で角の先端から【蛇毒投与（ヴェノム）】の効果で滴る毒液の配合調整をミスって一ゴブ殺しちゃったけど、仕方ない。あっちに原因があるのだから、これは不可抗力である。
　他は配合調節が成功した筋弛緩系の毒で動きだけ奪って、何時ぞやのゴブ吉くんのように死なない程度にあいつ等の木の棒で全身を打ち据えてから、そこら辺に転がしておく。
　襲ってきた事情は明日聞けばいいし、注入した毒も致死性のモノではないのでほっとけば明日までに治る。
　ゴブリンも一応、野生だから自己治癒能力はそれなりに高いみたいだしさ。
　一ゴブは既に手遅れだけど、これは繰り返すが仕方が無い。

　ただそんな騒ぎがあっては、グースカと寝ていたゴブリン達も起きだし、洞窟全体がざわつきだしたのも当然だ。

　何か言われるかとも思ったけど、ゴブ爺を筆頭としたゴブリン（年上連中）はそれも弱肉強食だと思っているからか、特に何も言わなかった。微かに哀れみの視線を死体となったそれに向けるだけだ。

　同族殺しの俺は処罰が科せられるかとも思ってたから、お咎め無しはありがたいが。

　だけどゴブ美ちゃんがそれに納得してくれなかったし、何より怖かった。
　いやいや、ゴブリンの骨格構造的に腕はそんな方向に曲がらないからね、折れちゃうよ。首はそれ以上回らないからね、千切れちゃうよ。とゴブ美ちゃんの身体を後ろから拘束しながら宥めつつ、襲ってきたゴブリン達を助ける事が今宵最も労力を費やした事だってのが笑えない。

　ああ、ちなみにゴブ吉くんはグースカ寝たままだったり。いや、寝る子は育つって言うし、事実体格は同年代で一番デカイ。俺より十センチは背丈があるだろうか。
　前衛として頼りにできるから、今回の騒ぎがあっても起きなかったのは図太い神経をしているからだと思っておこう。俺としても、暴走する奴がもう一ゴブ増えるのは歓迎できないしな。

　そんなこんなで興奮するゴブ美ちゃんを落ち着かせ。
　配合調節を施した睡眠性の弱毒を爪先から出し、それでゴブ美ちゃんの意識を飛ばしてから寝所に運んだ。
　その後は自分の寝所近くに血に濡れた同族の死体を放置するのも気分が悪いので、と言うか臭くなるので、俺はそれを外に持って行く。
　昨日ナナイロコウモリから獲得した【血流操作（パンプ・アップ）】によって強化された筋力は今のレベルでも普段の二倍くらいの力が捻りだせるので、同じくらいの体格がある死体の運搬も案外楽勝で片付いた。
　ゴブ爺が言うにはちょっと離れた所に置いてくれば他のモンスターとかが喰うらしいので、置いたら速攻で逃げろとのこと。
　しかし俺はある程度の所まで運ぶと、隠れて喰ってみた。興味があったからだ。
　感想は、うん、美味くはないが、不味くも無いって感じかな。
　この体になって初めて美味いって思わなかった。それにちょっと小首を傾げつつ。腕一本でもういいかと思ったので、予定通り放置。
　ま、そんなわけで、今日は疲れたから寝た。


　“十三日目”
　今日は森をちょっと奥に進んだ場所にある山を散策中、ピッケルを担いで山を歩いていた豚面の亜人種を発見。肌の色は茶色くて、下っ腹が出ているが、筋肉の形がうっすらと分かる程度には鍛えられた体躯。それにゴブリンよりも着ている服はほんの少しだけ上等で、上下揃っていた。
　それにちょっとだけムカつく。ゴブリンの初期装備はボロい腰布だけだって言うのに。
　つか股にぶら下がっている逸物が大き過ぎて、服から微かにはみ出して見えているのはどうにかして貰いたい。
　切り落としたくなるんだよね、うん。

　恐らくだが、発見したのはゴブリン同様有名なモンスター【性欲豚（オーク）】だろう。
　体格は小学生低学年レベルなゴブリンと違い、身長が百七十かもしくはそれ以上あるだろうか。いや、今の身体で見たらオークデカイよマジで。
　下手したら四・五十センチ近く差があるだろうし。

　しばらく観察した結果、発見したオークは俺なら一対一で真正面からぶつかっても高確率で勝てる程度の存在だと思われる。だけど、問題は数だ。
　オークは種族的にゴブリンよりも強いようだし、体格が段違いだ。今程度の俺では一対一はともかくとして、数の暴力に曝されるとゴブ吉くんやゴブ美ちゃんは守れないだろう。
　それに数が違い過ぎると、流石の俺もどうなるか分からない。逃げ切れない可能性も捨てきれない。

　とは言え、発見した時は一体だけだったからハグレオークみたいだけど。

　でも念のため、って事で周囲を【赤外線感知（サーモグラフィー）】で見回し――昼間は太陽見たら目がつぶれるから要注意だ。太陽がある時間帯は使い勝手が微妙過ぎて困る――、それに加えて【反響定位（エコーロケーション）】で入念に索敵する。
　結果として、やっぱり他の個体はいないな、って事で強襲する事が決定した。
　手始めに茂み（ブッシュ）に隠れながら距離をつめ、毒液で全体を濡らした小石をゴブ美ちゃんがスタッフ・スリングでオークの眼球を狙って投擲、最近才能でも開花したのか小石は狙い違わず着弾し、眼球を潰した上に毒が体内に侵入する事に成功。
　即死するような猛毒を石に塗ると取り扱いに困るし、そもそもアビリティレベル的にまだ精製できないのでコレではい終わりってな訳にはいかないが、生物が突然視覚を潰されたのと同時に激痛を加えられて冷静に居られる筈が無く。
　その後はタイミングを合わせて突っ込ませたゴブ吉くんの極太棍棒がオークの膝を真正面から思いっきり叩きつけ、鈍い音を響かせながら本来なら曲がるはずの無い角度に変える。
　オークは醜い豚面を更に醜くさせながら、悲鳴を上げながら地面を転げまわった。

　ココで、ハンティングし始めてから知恵とか頭脳方面はガン無視で、攻撃力と防御力重視のスタイルにさせているせいか今のゴブ吉くんはオーク程度の肉を潰し、骨を砕く事が可能だと言う事が判明した。
　ゴブ吉くん。お前って奴は、期待以上の結果を出してくれるぜ。
　莫迦だけど（褒め言葉）さ。

　んで、転げまわるオークの背中を【血流操作（パンプ・アップ）】で筋力強化された俺の足が踏みつけて暴れるのを押さえつけ、背部から人間で言えば腎臓付近だろう場所を狙って双角でズブリ、と突き刺した。

　オークは息を吸い込み、声を上げる準備を整え。

　しかしオークの絶叫が発せられる前にゴブ吉くんが棍棒を頭部に振り下ろし、頭蓋を砕くまではいかずとも嫌な音を響かせた。その後もガンガンと何度も何度も振り下ろされる棍棒には、オークの鮮血が染み込んでいく。
　オークは叫ぶ事も許されなかった。
　俺は俺で、突き刺した角の先端から筋弛緩系の猛毒を分泌させるのと同時に角でグチャグチャと内臓を掻き混ぜてから、角を引き抜き、オークが死ぬまで角を刺し続けた。

　と言う流れで、俺達はオークの初狩猟に成功。
　その後は当然喰いました。
　ゴブ美ちゃんが両腕と左足、ゴブ吉くんが腰椎から下全部、俺が残りってな具合で。
　味としては、やっぱり豚っぽかった。特上豚？　かな。
　取りあえず、オークウマー。豚ウマー。

　【能力名（アビリティ）【精力絶倫（リビドー）】のラーニング完了】
　【能力名（アビリティ）【異種族言語（オーク・ランゲージ）】のラーニング完了】
　【能力名（アビリティ）【物品鑑定（ディテクト・アナライズ）】のラーニング完了】

　んで手に入れたのがこれら。
　しかしまあ、時と相手を選ぶけど使う時は大活躍しそうな【精力絶倫（リビドー）】は取りあえず放置しておくとして、【異種族言語（オーク・ランゲージ）】と【物品鑑定（ディテクト・アナライズ）】をラーニングできたのは幸運だった。
　【異種族言語（オーク・ランゲージ）】は今後オークと会話できるようになるらしいし、こんなアビリティがあるって事は、人間の言語とかもコレ系統のアビリティを獲得できれば扱える様になるって事だからな。
　【物品鑑定（ディテクト・アナライズ）】に至っては、レベルにもよるけど見たモノ（物品限定）の性能を知る事ができるそうな。そこらに在った木の実で使ってみたけど、毒の有無とかまで表示されていてかなり驚いた。
　うん、かなり便利なモノを手に入れる事ができたって事で。

　いやいや、ココでオークを喰えたのは運が良かったねホント。何で【物品鑑定（ディテクト・アナライズ）】って便利アビリティ持っていたかは謎だけども。
　あ、そうそう。オークが持っていたピッケルは勿論回収しました。何かに使えるかもしれないしね。

　その後はヨロイタヌキやナイトバイパー、ホーンラビット等々を何時もよりも多めに狩り、日が沈みだしてきたので洞窟に戻る。
　慣れ過ぎて目を瞑っていてでも解体できるようになっていた俺はそれほど時間をかける事無く下準備を済ませ、今日の成果をゴブ吉くんとゴブ美ちゃんの三ゴブのみで分けるのではなく、洞窟内でここ数日腹が減り過ぎて活発に動けていない奴等にも喰わせてやった。

　いやさ、昨日襲われた原因は同年代ゴブリンの食糧事情によるモノが大きいらしいんだ。

　実行犯は兎も角として、力も知恵も無い同年代のゴブリン――比率的に雄雌だと雌が多い――には餌を求めて動き回るも成果が上げられず、何日もマトモなモノを喰えていないのがいて、実行犯のゴブリン共はそれらを助けたかったんだとさ。
　だけど自分達じゃ自分達の飯を取る事がギリギリで、他のヤツまではサポートできない。

　だから一番充実した食を堪能している俺を痛めつけて、屈服させて、飯を獲ってこさせようとか目論んでたらしい。数が揃っていたし、これなら行けると思ったんだろう。単純だね、ホント。
　は、と嗤って無視する事もできたんだけど、今後もまたそんな事があると面倒なので、とりあえず恩は売っておいて損はないかなぁー、って事で喰わせてみた次第である。
　いや、自分で飯も獲れない様な奴らなんて知らんとですって言いたいんだけど――あとでゴブ爺に聞いた所によると、何時の世代もこんな要領の悪い奴等が居たそうな。大半は死んだそうだけど――さ、流石に同族として情けなさすぎるので。
　最初にして最後の慈悲です。

　んで、なんか感謝された。泣きながらありがとうって言われた。
　そんなん要らんから、喰った分の獲物は獲って返せと言っておいた。
　取りあえずホーンラビットを狩る時のコツをその情けない奴等にレクチャーしてやる。
　何人かで徒党組んで、木の棒に角をあえて突き刺して封じてから、全体重を踵に乗せて背骨でも踏み砕けって助言をしておく。簡単だけどもこれで十分だろうと判断。
　とりあえず明日はそれを実戦で試して、獲物を得られたら今日食べた分を、何時でもいいから俺の所に持って来いと言っておく。

　多分産まれて初めてになる肉の飯をやった。
　狩りの方法も基礎って言えなくもない程度の事だが教えてやった。

　ここまでして恩を仇で返すなら、その時は躊躇なく捨て駒にしてやろう。具体的には被害ゼロでは勝てない様な格上を罠におびき出す囮として。ってつもりなんだからそんなに期待はしていないで待っておく所存である。
　あと、実行犯五名は既に下僕です。俺の命令には絶対服従ってのは勿論だけど、毎日の義務も課している。
　今日の献上品（ノルマ）であるホーンラビット五頭は、飢えていたゴブリンに分配して消えました。

　弱肉強食って言葉は、勝ってる間はホントありがたいよね。

　飯を配給し終えたら眠くなったので、ナナイロコウモリの翼で多少はマシになった寝所に転がって瞼を閉ざす。
　睡魔は即座にやってきた。

　【レベルが規定値を突破しました。
　特殊条件≪蹂躙躍動≫≪特異行動≫をクリアしているため、【中鬼（ホブ・ゴブリン）・亜種（バリアント）】に【存在進化（ランクアップ）】が可能です。
　【存在進化（ランクアップ）】しますか？
　≪ＹＥＳ≫　≪ＮＯ≫】
　
　そんな表示が脳内でされた気がしたけど、かなり眠かったんで、とりあえず≪ＹＥＳ≫を選択して寝ました。

　【ゴブ朗は≪終焉と根源≫を司る大神の【加護】を得た】


　“十四日目”
　目が覚めると、寝る前とは比べ物にならない程に身体が大きくなっていて、肌も緑色では無く黒く変色していた。
　起きたら大幅に変わっていた自分の身体に驚愕しつつ、俺は昨日寝る前に表示された内容を懸命に思いだして、なる程コレが【存在進化（ランクアップ）】ですかと世界の神秘に慄いた。
　いやいや、実際に体験してみて分かったけど、この法則は本当に凄い、を通り越して恐い。
　いや、一晩で身長が小学生低学年レベルから昨日殺して喰ったオーク並みになっているし、筋力や視力に聴力とかの基礎能力が飛躍的に上昇していたり、昨日までに得ていたアビリティもちょっと強力なモノになっていたり、とかね。
　これは、恐いわ。馬鹿みたいに身体がデカクなったのに、違和感さえ無いとか。ここまで一気に変わると距離感とかが狂いそうなものなのに、そう言ったモノが一切ないのとかも。
　こんなに成長したと言うのに筋肉痛とかも一切感じないし、何よりヤバいのは今までよりも遥かに強い力が全身に漲る事で感じる、仮初めの万能感ってやつだ。
　恐いねーマジで。
　今俺の身体は普通の奴なら浮かれて馬鹿な行動を採りそうな程の充実感が満ちているんだけど、でも実際にはそこまで強くないってトラップがある。
　だから、俺はこの世界の神秘が恐いと感じている。

　まあ、そんなのは置いといて。
　俺は俺と同じように、大きくなった身体に首を傾げているゴブ吉くんのとある部分がとても気になっていた。
　どうやらゴブ吉くんも昨日のオーク戦を経験したことでレベルが一〇〇に達し、【存在進化（ランクアップ）】できたようなのだが、その肌の色に変化は見られない。
　俺のように黒くなっているなどと言う事はない。緑色のままだった。

　まあ、それも置いといて。
　俺が気になるのは、その顔だ。
　今までのように醜悪だったゴブリンのそれではなく、素朴ながらもどこか愛嬌のある人間の少年風な顔付。耳は相変わらず尖っているし、鼻も鷲鼻っぽいものではある。がしかし、それでも十分人間のそれのように見れた。
　緑色の肌は人外のそれであるが、明らかに、人間に近づいていた。
　じゃあ、俺は？　って事になる訳で。黒曜石（っぽい鉱石）で造ったナイフ（モドキ）の刀身に映る自分を見る。
　そこにあるのは、黒の肌を持つ、転生前の俺の顔を幼くした感じのそれ。

　……うん、流石に数秒位はボケっとしちゃったね。
　
　一先ず寝所近くの土壁からポコリと出てきた芋虫のような謎虫を掴み、ボリボリと頭から喰う。
　うん、落ちついた。って事でゴブ吉くんと共にゴブ爺の所に向かう。
　こんな時こそゴブ爺を利用しないと、ゴブ爺が居る意味が無いからさ。
　一応、ヤバい臭いのする【ゴブ朗は≪終焉と根源≫を司る大神の【加護】を得た】ってフレーズについては触れずに喋りました。

　そこで聞いた話を纏めると。

　１．ホブ・ゴブリンになると人間に近づいた体つきと容姿になる。何故かは知らない。世界の神秘である。ただその容姿から、人間の街で住む個体や氏族も居るんだとか。ただし奴隷として暮らしていた過去があるか、現役の奴隷であるのが殆どらしい。容姿がいい奴は、マニアによって性奴にされているとか。
　２．俺とゴブ吉くんの肌の色の違いは、通常（ノーマル）か亜種（バリアント）かの違いだとか。亜種は総じて通常よりも優れた能力を持つらしいけど、特殊条件をクリアしなければならないので滅多にいない。結構レアっぽいです。
　３．しかも俺の肌の色は黒。黒は≪終焉と根源≫を司る世界最古の大神の象徴色でうんちゃらかんちゃらで、亜種の中でも一際珍しくかつ強力無比な属性持ちの特徴であるらしく、勉強すれば【終焉】系の強力無比な魔術だか魔法だかを使用できるとかなんとか。
　あと≪終焉と根源≫の大神と、それに従う神を奉るとある宗教にとって俺は現人神の如く崇拝する対象か、もしくは自己を大神に近づける材料として考えられるかに分かれるだろうから、街とかに行く時は夜道に気をつけろとの事。宗教狂いはどの世界でも恐いと言う事か。
　４．つか、生後一ヶ月も経たずにホブ・ゴブリンになるとかがそもそも異常らしい。未だゴブリンであるゴブ爺が言うのだから、そうなのだろう。ちなみに出稼ぎに行っているゴブリン達（数は四十ピッタリらしい）でさえ、ホブ・ゴブリンになっているのはたったの三ゴブだけしかいないらしい。
　５．そして俺とゴブ吉くんは外に行く前にホブ・ゴブリンになったので、洞窟の奥の人間の女性を自由に扱う事も許されたし、道具置き場の雑多な品を使う権利を貰えた。
　６．へー。ソウナノカー。

　……うん、ちょっとソウナノカーって感じで聞き流しそうになってた。
　特に３辺りとか、理由はあえて言うまい。
　宗教って何処の世界でも恐いねとか、あえて言うまでも無い。と言うかね、俺が≪終焉と根源≫の大神の【加護】持ちって知られると、結構ヤバい事になりそうだ。
　コレはできるだけ隠そうと思った。

　この日は流石にハンティングに出かけようとは思わず、起きてからかなり変化していた身体に意識を慣らす為、同じくホブ・ゴブリンに昇格したゴブ吉くんと組み手をしてみた。
　ゴブ吉くんも力を持て余していたのか、かなり好戦的だった。
　流石に仕事上、様々な格闘技を嗜んでいた俺が負ける事は無かったが、素の状態ではゴブ吉くんの方が膂力がやや強いと言う事が判明。
　やはり能力構成（ビルド）が前衛よりに特化しているらしい。
　知能や敏捷性等はそこまで高くないが、高い攻撃力と高い防御力を持つゴブ吉くんはそのまま長所を伸ばせばさぞ強力な壁役（タンク）兼攻撃役（ダメージディーラー）という複合役（ハイブリッド）になってくれるだろう。
　
　組み手は午前中で切り上げ、午後は小さくなってしまった武具の新調などを行った。

　身体が大きくなった関係上、今まで俺の主武器だった角が小さなナイフ程度になってしまっているのだが、今はコレで我慢しておく事とする。俺には毒があるので十分凶器として使えるし。
　だから今回は、溜め込んでたヨロイタヌキやナイトバイパーなどの素材が沢山あるので、一気に重装備に換えてしまおうと目論んでみたり。
　今まで溜めていたヨロイタヌキの皮付き甲殻を重ねて、ナイトバイパーの蛇皮も使用して、その結果軽いながらもかなり丈夫なモノができました。
　言ってしまえば、レザー系の防具だ。マントとかはないが、茶色い革製の長袖長ズボンを思い浮かべて貰えばいいのだろうか。
　金属板などの代わりにヨロイタヌキの甲殻を要所に配置する事によって、防御力を上昇させている。一応動きやすさも考えて造っていて、着てみるとなかなかどうして、いい感じであった。動きを阻害される感覚は、大きくない。
　あと、素材不足で完成できていなかったゴブ美ちゃんの胴鎧も完全版に。ナナイロコウモリの翼が主要素材だから、ちょっと派手ですが。どこぞの民族衣装っぽいね。

　ちなみに飯はゴブリン（下僕）達から献上されたホーンラビットでした。
　量が足りなかったけど、無いよりマシだった。美味いから許す！


　“十五日目”
　ホブ・ゴブリンにランクアップしての初めてのハンティング。
　そこで発揮された身体の性能に、ちょっとビビった。
　この日初めて出会った獲物は犬のような頭部に茶色い体毛を全身から生やし、人間を殺して得たのか知らないが錆びた胴鎧と錆びた長剣（ロングソード）を装備した、“コボルド（仮称）”と俺が呼ぶモンスターだった。
　コボルドは観察した限りでは、ゴブリンよりも上のオークと同レベルの種族だと思われる。装備も含めて考えると、俺達が喰らったオークよりもさらに格上だろう。
　膂力ではオークに分があるだろうが、速度や敏捷力ではコボルドが上に思われる。

　それがニ体一緒に現れた。

　今までなら即時撤退か、もしくは俺のアビリティによって出逢わないように避けていた事だろう。
　しかしながら俺達は出逢い、そしてゴブ美ちゃんの的確な毒（に濡れた）石の援護があったとはいえ、俺とゴブ吉くんはコボルドを真正面から捻り潰してしまった。
　亜種に進化してしまった俺は兎も角として、ゴブ吉くんの戦闘方面に伸びた能力構成（ビルド）は無論、甲殻製の盾と甲殻を巻いて強化した棍棒、それにコボルドの錆びた胴鎧よりも少しだけ頑丈な甲殻製の胴鎧などの装備が助けになり、ゴブ吉くんはコボルドを真正面から叩き殺した。

　いやいや、ホントランクアップ恐いね。
　昨日までの弱者が、今日の強者だもの。

　多少の傷が目立つゴブ吉くんをゴブ美ちゃんに介抱――ゴブ爺から教えてもらった薬草のストックがあるのだ――させている間に、俺はコボルドの身ぐるみを剥いだ。
　腰に下げていた三個の“火精石”――【物品鑑定（ディテクト・アナライズ）】で鑑定した結果判明した。どうやら意思の無い低レベルの火の精霊が宿っているそうな――入りの小袋はありがたく回収し、鎧を剥ぎ、ちょっと錆びたロングソードはニ本とも俺の腰に。
　死体は、俺は二頭の頭部と心臓と右腕、ゴブ吉くんとゴブ美ちゃんは残った部分を山分けした。
　感想としては、なんだろう、不思議な食感だった。
　味は、美味い、様な気がするって微妙なレベルだったが。

　【能力名（アビリティ）【異種族言語（コボルド・ランゲージ）】のラーニング完了】
　【能力名（アビリティ）【見切り】のラーニング完了】

　んで、その結果得たのがこれら。
　やはりコボルドは普通のホブ・ゴブリンよりも強めらしい。ゴブ吉くんが勝てたのは装備の差が大きかったしね。俺はアビリティの豊富さと経験の差です。
　あと火の精霊が宿っているらしい火精石もついでに食べたら、

　【能力名（アビリティ）【発火能力（パイロキネシス）】のラーニング完了】

　発火能力も手に入れてしまった。自然界で火の能力を持っているのかいないのか、その差は大きく覆し難く。
　これでようやく焼肉にできると思うと……。

　その後はホーンラビットとかを狩って帰りました。
　今日の献上品はホーンラビットに混じってヨロイタヌキがあって驚いた。こいつ等、成長してやがる、と一人芝居。
　後日ヨロイタヌキを取ってきたゴブリンには甲殻を使用した盾でも送ってやろうと思う。
　晩飯は他の奴らの肉も焼いて、焼肉パーティーと洒落こんだ。


　“十六日目”
　殺しの手管を教えて下さい、的な事を言われながら同年代のゴブリン達全員から土下座された。
　洞窟内でズラリと並んで土下座するゴブリン。かなりシュールな光景だった。

　いやね、俺が飯をやったゴブリン達もそれ以外の細々と生き残ってた奴らも、最近はホーンラビットを殺せるようになったらしいんだけど、それでもやっぱりナイトバイパーとかが相手では手も足も出ないらしくてさ。
　だから、それ等を殺して喰ってきた俺達に、と言うか主に俺に生きる術を教えてもらいたいらしい。
　俺達の利益（メリット）は？　って聞いたら、獲物を献上すると言いだした。どうやらゴブリン（下僕）達の様子を見て、そんな考えが浮かんだようで。

　まあ、それなら損はないかな、って事で太陽が真上に昇る前まではゴブ吉くんとゴブ美ちゃんも混ぜて生き残った殆どのゴブリンと合同訓練を行う事となった。
　訓練は、俺にもゴブ吉くんにもゴブ美ちゃんにも、生きるためにはやっておいて損はないからね。

　弱肉強食な世界だから、最初の訓練で徹底的に俺が上なんだと身体に教え込んでおく。雄雌問わずに徹底的に。反逆とかされたら面倒だから、本能に刷り込むように執拗に繰り返す。
　身体と心が壊れてしまわないように、しかし元気が有り余るなんて事はないギリギリのレベルを心掛けてみました。

　その結果、今日はゴブ吉くんとゴブ美ちゃんを含めた全員の足腰が立たなくなりましたとさ。

　汗をダラダラと流し、息も絶え絶えに転がっているゴブリン達に、俺は献上品によってはその素材から何か造ってやる、とも言っておいた。
　それでなんかやる気になったようだが、一応無茶はするなと釘を刺しておく。死んだら終わりだからさ。

　……ゴブ美ちゃんがプルプルと震える身体で同年代のメスに、心底自慢げに防具と首飾りを見せていたが、何も見なかった事にしておこう。

　午後になり、転生して初めて独りでハンティングに出かけた。
　最初ならいざ知らず、既に庭のようになった森を動き回って動けない奴等の分も多少は確保し、今日のハンティングは終了。これくらいのサービスはあって良いだろう。
　疲労で思う様に動けないゴブリン達に飯を配給する。


　その夜、俺は洞窟の奥に赴いた。
　何処ぞから連れてこられた人間の女性が入れられている場所だ。
　ホブ・ゴブリンになってちょっと人間に近づいた姿なら、会話くらいできるかもしれないと思っての事である。
　
　で、結果を言えば会話はできませんでした。
　完璧に壊れてます。目が完全に死んでます。涎ダラダラです。微かに死臭すら漂ってる様な気がします。
　前見つけた時よりも症状が進行してました。仕方がないと言えば仕方がない環境だが。
　あと美醜で言えば一番若くて美な子がこの短期間で孕まされてました。これも仕方が無いとはいえ、かなり不憫である。
　この子くらい可愛ければ嫁ぎ先など幾らでもあっただろうに、彼女の結末はこんな場所で犯され続けるだけなのか、と思わざるを得ない。
　だから、俺は聞いてみた。

　『死にたいか』と。

　以前の俺なら合掌してハイ終わりだったが、ホブ・ゴブリンにランクアップした今だからこそ、聞ける問。

　今の俺ならば、例えバレたとしても自分の安全は確保できる今の俺ならば、何の躊躇いも無く彼女たちを“殺して／助けて”やれる。
　
　ただその問いの返答は、無かった。
　しかし、動きはあった。小さく弱く唇だけが動き、ふと思い出したように流れ落ちる涙で、彼女たちの意思を理解した俺は、コボルドを狩って得た小袋に入れていた小瓶（液体入り）を置いて寝所に戻った。
　振り返りは、しなかった。


　“十七日目”
　朝起きて奥に向かうと、捕われていた女性全員が死んでいた。皆、眠るように息を引き取っていた。
　その様子から、彼女達は眠りながら死んでいくような毒を飲んだらしい。何処でそんな毒を手に入れたのか、不思議である。本当に、不思議な事もあったもんだ。
　第一発見者である俺は近くに転がっていた小瓶をその証拠として回収し、腰に提げている小袋に入れてから、ゴブ爺に報告した。
　急いでやってきたゴブ爺は美の女性の腹から流れたふにゃふにゃのゴブリンモドキを前に、情けない位涙を流しながら嘆いていたけど、俺は知らん。

　彼女達の死体は、俺が責任を持って処分した。
　骸を動物達に滅茶苦茶に喰い散らかされるのも不憫だったので、心臓と胃、それと片方の乳房と子宮を手間賃として貰い、俺は火葬を行った。
　先日得た【発火能力（パイロキネシス）】だけでは火力が足りなかったので、普段から何かに使えないかと思って集めていた、火をつけるとよく燃える【油草（ユサ）】と枯れ枝を組んで火力を確保。
　【発火能力】で着火し、煌々と燃え上がる火柱を見ながら、合掌し、彼女達の冥福を祈る。

　南無阿弥陀仏。

　そしてどうやら、彼女達の中には冒険者的な職業をしていた子も居たらしい。
　それも結構な数が。出稼ぎ組は、案外強いのかもしれない。……捕まっていた子達が、弱かっただけなのかもしれないが。
　
　【能力名（アビリティ）【異種族言語（ヒューマン・ランゲージ）】のラーニング完了】
　【能力名（アビリティ）【大陸文字解読】のラーニング完了】
　【能力名（アビリティ）【脳内地図製作技能（マッピング）】のラーニング完了】
　【能力名（アビリティ）【職業（ジョブ）・魔術師】のラーニング完了】
　【能力名（アビリティ）【職業（ジョブ）・軽剣士】のラーニング完了】
　【能力名（アビリティ）【職業（ジョブ）・森司祭（ドルイド）】のラーニング完了】
　【能力名（アビリティ）【職業（ジョブ）・細工師（クラフトマン）】のラーニング完了】

　俺としては珍しいことだが、得たアビリティの詳細について検証する気も起きず、午前の訓練を行った後、ハンティングするやる気が起きなかったのでゴブ吉くんとゴブ美ちゃんをバディーとして送り出した後、今日は溜まっていた素材を使って盾や、甲殻製の剣などの実験製作に勤しむ。
　最近何かを造る事が趣味になってきた気がするな……。
　あ、さっそく【職業（ジョブ）・細工師（クラフトマン）】が役に立ったっぽい。以前よりも高品質な品ができたのである。恐らく、アビリティ名通り職業（ジョブ）補正が加わったのだろう。
　結果を言えば盾や鎧は製作に成功するも、甲殻製の剣は失敗に終わりました。

　飯は、昨日よりも増えた献上品とゴブ吉くんとゴブ美ちゃんが持ってくれた分で賄った。

　あ、今更だけどゴブ美ちゃんもホブ・ゴブリンに今日起きたらなってました。
　ちょっと可愛くなっていてビビった。ゴブリンの時との差が著しいです。
　装備も、小さくなったので俺の予備を貸している。
　嬉しい様な、不満なような、ちょっと微妙な表情をしていたので後で新しいのをプレゼントしようと思う。
　本当は今日作ってあげれば良かったんだが、時間が足りなかったのだ。


　“十八日目”
　午前の訓練を終え、普段通り三ゴブで行動中、再びコボルドを発見。
　今度は三体で、二匹は以前のと同じく胴鎧にロングソードという装備だったのだが、残りの一匹は短弓（ショートボウ）と矢筒を装備していた。
　これは二日連続のゴブ美ちゃん強化フラグか、って事で、周囲を索敵して他に潜んでいないか確認。
　居なかったので、強襲を選択。
　遠距離攻撃が可能な弓装備のコボルドが他のよりも脅威レベルが上なので、ゴブ美ちゃんがスタッフ・スリングを使った毒石投擲による奇襲を敢行。
　筋弛緩系の毒に濡れた石は見事眼球に着弾し、弓装備の個体の正常な判断と視覚を奪う。
　残りのコボルド達が慌てふためいたその隙を逃さず、以前のよりもちょっとだけマシそうなロングソードを装備したニ体を、俺とゴブ吉くんが叩き伏せた。

　ボロとは言え鉄製のロングソードは今の身体に丁度良く、以前よりも身体を穿ち、首を切り落とすのが楽だった。角って、今やナイフみたいなもんだから尚更そう感じたのかもしれんが。
　ゴブ吉くんが相手にしたコボルドは、全身至る所の骨が乱暴に砕かれてます。ちょっとグロい。

　短弓装備だったコボルドは、ゴブ美ちゃんにプレゼントした黒曜石（のような鉱石製）のナイフ（モドキ）によって頸部を切断され、止めを刺された。
　どうやらゴブ美ちゃんの能力構成（ビルド）は知能と速度重視よりらしい。
　武器の巧みな扱いは知能が必要だしね。

　その後はバリバリと死体を解体。鎧を回収し、短弓と矢筒はゴブ美ちゃんに持たせ、ロングソードは俺の新しい武器にした。ゴブ吉くんに適した装備は無かったので、また今度である。
　残念ながら火精石は持っていなかったが、小袋を三つも増やせたのはありがたい。一つは自分用にして、残りに薬草を入れてニゴブに持たせておく。これで何かあっても、多少の役には立つに違いない。
　んで、一ゴブ一体計算でバリバリと喰いました。
　新しいアビリティはラーニングできなかったけど、もう少しで何かを手に入りそうな感じだったし、既に手に入れていた【見切り】を強化できたのでよし。
　【見切り】は視覚内の敵が繰り出す攻撃軌道が赤い線として見えるので、戦闘時には大変重宝するのだ。
　後は適当にハンティングを繰り返して、洞窟に帰って寝た。


　“十九日目”
　午前の訓練を終え、俺はそのままハンティングに赴かずに、洞窟奥の道具置き場に向かった。
　捕われていた女性達に冒険者的なアビリティ持ちが混じっていたのだから、何かそれ関係のアイテムが無いかなー、と思い立ったからだ。
　ただ見ただけでは流石の俺も道具の良し悪しを大まかにしか理解できないのだが、アビリティ【物品鑑定（ディテクト・アナライズ）】をオークから入手しているので詳細を見る事が可能だ。
　それに、【物品鑑定（ディテクト・アナライズ）】の経験値稼ぎも兼ねているので、不発に終わっても決しては無駄では無い。

　そんな気楽な気分でいたのだが、俺は掘り出し物を発見したようである。
　それも大量に。

　【ゴブ朗は“[武器・杖]魔術師の杖・入門版”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[武器・杖]祝福された宿り木の杖”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[武器・剣]鉄製のエストック×３”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[武器・短剣]鉄製のボウィー・ナイフ×４”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[武器・斧]鉄製のバトルアックス×２”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[武器・遠隔]クロスボウ×２”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[武器・消耗品]鉄製鏃の矢×５０”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[防具・盾]鉄製のラウンドシールド×２”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[防具・鎧]傷だらけのブレストプレート”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[防具・手甲]堅牢なる錬鉄製のガントレット”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[薬品]古くなった体力回復薬（ライフポーション）×６”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[薬品]古くなった魔力回復薬（マナポーション）×８”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[薬品]エンリケ教の祝福された聖水入り瓶×３”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[収納品]孔の開いた背嚢（バックパック）×２”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[収納品]孔の開いた雑嚢（フィールドバック）×３”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[書籍]世界放浪記・王都から秘境まで　上巻”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[書籍]魔術師入門・基礎魔術一覧　中巻”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[書籍]自然の祈りは神の施しなり”を手に入れた!!】
　【ゴブ朗は“[書籍]エリエッタ大陸文字学習のススメ”を手に入れた!!】

　出るわ出るわ、今の俺からすればお宝の数々が。
　以前チラッと見た限りではボロばかりだったが、発掘して見るとその下には十分使えるモノが眠っていたのである。

　うん、ここは本当に宝物庫であったらしい。

　んで、発掘できたエストックは今持っているロングソードと性能面では大差ないが、状態が良かったので交換しておく。
　ついでに今まで使っていた黒曜石のナイフと今回獲得したボウィー・ナイフ――刀身は長く、刃先は鋭い。刃は片刃であり、先端のみ両刃になった擬似刃を備えている狩猟用ナイフの一種――を交換しておく。四本と数が多いが、ナイフ専用のポケットは既に製作済みなので装備するのに問題はなかった。
　ボウィー・ナイフにはコレから解体の際に活躍してくれる事を期待しておく。
　あと、エストックと交換したロングソードニ本と、残り一本のエストックをバリバリと喰ってみた。

　【能力名（アビリティ）【斬撃力強化】のラーニング完了】
　【能力名（アビリティ）【貫通力強化】のラーニング完了】

　ロングソードを喰って【斬撃力強化】を、エストックを喰って【貫通力強化】をラーニングする事に成功。

　コレから分かる様に俺の【吸喰能力】は生物でなくてもアビリティをラーニングできるのだが、一定レベル以上の品――能力の強弱は勿論、質や使用されてきた歴史に俺の思い入れなどが関係している模様――でないと意味が無いので、今まで喰う事は無かったが、これなら行けるかなと思ったので実行してみたのである。
　失敗しても取り返しがつく、というのも実行する勇気にはなっていたが。
　結果は上々で、気分がいい。

　そんな事を独りでしていたら、ゴブ吉くんとゴブ美ちゃんがやって来た。
　どうやら俺の姿が見えない事を不思議に思い、探しに来てくれたらしい。
　丁度良かったので、ポーションなどの細々とした品は腰に下げるタイプのフィールドバックに、他のモノはバックパックに詰め込んで、それでも入りきらないのを二ゴブに頼んで運ぶのを手伝って貰う。

　んで、ゴブ吉くんは今まで使っていた甲殻補強済み棍棒から無骨なバトルアックスに、木の枠に甲殻を縫い付けただけの盾から鉄製のラウンドシールド――金属が縁にしかないので、真中は甲殻で補強した――に装備を変更。
　あと、今まで着ていた甲殻付きレザー系の胴鎧の上からブレストプレートを着用した。頭部には二日前に製作した甲殻製の兜を装備しており、現在ゴブ吉くんの防御力は三ゴブ中最強である。
　見た目はまるっきり重戦士だ。
　ちなみに背中には予備装備として今まで使っていた棍棒の姿が。

　ゴブ美ちゃんにはクロスボウ二丁と、矢を五十本。そして俺が今まで使っていた黒曜石のナイフが二つと、保険として渡したボウィー・ナイフが一つ追加されただけだが、重量的に見てここら辺が限界だろう。
　俺達の中で最大の遠距離攻撃力を持っているし、素早さのあるゴブ美ちゃんが操るボウィー・ナイフの攻撃力も侮れない。
　見た目的には、やっぱり猟師か弓兵って感じです。

　最後に俺。ニ本のロングソードから二本のエストックに変更し、小振りな盾であるラウンドシールド――甲殻による補強済み――をゴブ吉くんと同じように装備。これは右前腕部に固定できるように工夫し、手首が問題なく動かせるように調整した。
　そして空いた左手の方に堅牢なる錬鉄製のガントレットを装備した。ガントレットはラウンドシールド程防御力は高くないが、丸みで攻撃を逸らす程度は可能だと思う。
　防御力もそこそこに、素早さも損なわない仕様だ。
　【職業（ジョブ）・軽剣士】の補正も加わり、かなり全体的な能力が向上したように感じる。

　杖とかも気にかかるが、今日の飯も獲りに行かなくてはならないので、俺の寝床に発掘した品々を一旦置いて外に出た。
　盗まれないのかって？　盗んだらどうなるか、じっくりお話し済みなので問題ないのさ。

　そして今日は今までにない程大量に捕れたので、献上品はそのまま獲ってきたゴブリン達に返してやる。
　いや、喰いきれないんだよね、多過ぎて。


　“二十日目”
　午前は訓練。最初と比べ、他のゴブリン達も顔付が変わりだした。
　うん、ゴブリンは成長が早いだけに、本気で訓練を施せば短期間でも化ける様である。
　それか、そうじゃないと生き残れないから、かもしれない。

　午後は飯を求めてハンティングをし、成果はナイトバイパー十体、ヨロイタヌキ十四体、コボルドが五体と大量だった。
　これは装備が飛躍的に向上した事が大きいだろう。
　と言うか、遠距離からゴブ美ちゃんの正確な狙撃――クロスボウの強力な一撃と毒を鏃に塗った弓矢の速射によるコンビネーションは鬼畜だ。俺とゴブ吉くんが盾になるから、尚更酷いね。近づけないんだから――と、重戦士なゴブ吉くんの高い防御力にバトルアックスが繰り出す重斬撃。
　それに加えて俺の持つアビリティの豊富さからくるトリッキーな攻撃の数々と二ゴブを動かす指示は、コボルド程度の敵を問題にしなくなっていた。
　恐らくだが、今の状態ならコボルドが俺たちの倍の数できてもなんとかなりそうである。

　ただ俺的にはオークを喰ってアビリティ強化がしたいのだが、あれ以降一体も見ていない。
　早く見つけたいモノだと思いながら、今日は洞窟に早めに帰って見つけた書物を読みあさる。
　いやさ、アビリティ【職業（ジョブ）・魔術師】があるのは良いんだけど、それに伴って亜種になってから備わっていた魔力値が大幅に上昇したのは良い事なんだけど、魔術ってヤツがどのようなものなのかを知らないから俺には、魔術的な何かが扱えないのだ。
　だから、こうやって“魔術師入門・基礎魔術一覧”を読みあさっているのである。

　まあ、意外と面倒なので難航してるけど。
　というか、本を読むだけでは限界がある。しかも途中からだし。

　せめて……せめて手本を一度でも見る事ができればッ。


　そんな俺の叫びなど聞いてくれる筈も無く、時間は止まることなく流れていくのであった。