俺とハルヒが出会ったのは忘れもしない、小学５年の新学期だった。
いつものように教室で谷口や国木田達とくだらない話をしながら朝のホームルームまでの時間を過ごしていると、担任がこの学校で見た事無い女子を連れて来やがった。

「宮西市からやって来た、涼宮ハルヒです！　みんな、よろしくね！」

まるで某鳥○さんが描いている国民的アニメの主人公の少年がやるような元気なあいさつは、俺を含めてクラスのやつらを驚かせた。
宮西市と言えば、俺達の居るこの春日市よりかなり西の方だ。
テレビの影響を真に受ける子供だった俺はこの時、あっちの方の子供らはみんな明るいものなのかと誤解していた。
転校生とは得てして注目されやすいものだが、とくに話しかけやすい印象を持っていたハルヒはすぐにクラスメイトと打ち解けていた。
谷口もハルヒと話すのに夢中になってしまったやつの１人で、俺と国木田は遠巻きにハルヒを見つめていた。
俺も正直ハルヒが嫌いなわけでは無かったが、積極的に話し掛ける程では無いと自分に言い聞かせていたんだ。

しかし俺に、思ったよりも早くハルヒと直接言葉を交わす機会が訪れた。
谷口達と遊んだ後の帰り道、俺の家の近くの川辺で遊んでいる頭に黄色いリボンを付けた同級生の女子――涼宮ハルヒを見かけたのだ。
ハルヒは俺に気が付いていないようだから、俺はそのまま無視して家に帰ってもよかったんだが……ハルヒに声を掛けてしまった。

「おい、そんな所で何してるんだ？」
「何となくフラフラしてたのよ」

暦の上では４月になったとは言え、日の暮れかけた川の水は冷たい。
だから俺はお節介にもハルヒに忠告してやった。

「もうこんな時間だし、早く帰らないと親に怒られるぞ？」
「別に良いのよ、親父もお袋も夜遅くまで帰って来ないし」

ハルヒの顔に悲しみが差したのを見た俺は、言ってしまった事を後悔した。
そうか、転校初日でそんな親しい友達が出来たわけでもないハルヒは独りで時間を潰していたのか。

「よかったら、俺の家に遊びに来るか？」
「え、いいの？　ありがとう、キョン！」

俺は３重の意味で驚いた。
１つは、俺が女子を家に誘ってしまった事。
もう１つは、ハルヒが笑うと結構可愛い事。
さらにもう１つは、ハルヒが俺の名前を知っていた事だ。

「だって、谷口がそう言っていたからよ」

まあ、今さら名前で呼ばれても変な感じがするからな。
俺はハルヒにキョンと呼ばせる事を許可した。

「こんにちわ、お邪魔します」

玄関に入って顔を合わせるなり礼儀正しくあいさつをするハルヒに、お袋も感心していた。
意外だったな、教室での態度とはまるで違う。
そして俺は階段を登りハルヒを自分の部屋へと案内しようとした。

「こっちの部屋は？」
「妹の部屋だ」

妹の部屋からは話し声が聞こえて来る。
玄関にあった靴は、ミヨキチのものだったか。
ミヨキチと言うのは、妹のもっとも親しい友達で、妹と同学年の小学校低学年だ。
この時間まで家に居るって事は、俺がまた送ってやらなくちゃいけないのか。
邪魔しちゃ悪いと通り過ぎようとした俺達だったが、妹の方からドアを開けて顔を出して来た。

「あっ、キョン君！　そのお姉ちゃん、誰？」
「初めまして妹ちゃん、あたしは今日、キョンの学校に転校して来た涼宮ハルヒよ！」

俺が答える前にハルヒは笑顔になって妹に向かって手を差し出した。
妹もハルヒの手を握り返し、すぐに打ち解けてしまったようだ。
そして妹の部屋でミヨキチを紹介されたハルヒは怪談話で意気投合し、今度近所のお化け屋敷に探検に行く事になってしまった。
いくらなんでも親しくなり過ぎだろう、おい。
俺の家に来てそれほど時間が経たないうちに、俺はミヨキチを送らなくてはいけない事もあり、ハルヒも家に帰る事になった。
妹を含めて４人で行った帰り道、ミヨキチの家の前で、俺はハルヒとも別れた。

「じゃあねキョン、また明日！」
「ハルにゃん、とっても嬉しそうだったね」
「そうだな」

俺は妹の言葉にそう答えた。
別に俺はひねくれものと言うわけではないから、誰かに感謝されるのは悪い気はしない。
ましてや、なかなか可愛い女子となればなおさらだ。
しかしいきなりハルヒとの距離が縮んでしまったのだから、明日からもハルヒに振り回されるのかと思いやられた。
その予想は当たり、ハルヒは教室でも放課後も、俺を引っ張り回すようになった。
ハルヒは他のやつらとも友達になれたんだから、別に俺とつるむ必要は無いと思うんだが。
まあどちらかと言うと、ハルヒは女子と話しているより、男子達に混じってサッカーをしている方が多い活発なやつだった。
だから俺も気兼ねなく付き合えたのかもしれない。
そして不思議な事に、席替えを繰り返しても俺の後ろはハルヒの指定席だった。
だからクラスの女子の朝倉には、俺とハルヒが運命の赤い糸で結ばれているんじゃないかと冷やかされていた。
ハルヒに気がある谷口は、腐れ縁だろうと言っていたが、それはどちらでも構わない事だった。
俺はただハルヒと居るだけで楽しい事は確かだったのだから。



しかし１年ほど経ったある日、親父の転勤の都合で今度は俺が転校する事になってしまった。
ハルヒと会えなくなる事を知ってから初めて、俺はハルヒに恋をしていたんだなと自覚した。

「キョン、離れていても、あたしとあんたはずっと友達だからね！」

そう言葉を交わしても、お互いの体の距離が遠くなれば、心の距離が開いてしまうのはありふれた話だ。
だから転校先でもハルヒに手紙を出したりはしなかった。
俺が辛い思いをするだけだしな。
ハルヒはクラスの人気者なんだから、俺なんかの事なんて忘れちまって、楽しそうな笑顔で毎日過ごしているんだろう。



だが数年後、中学校で再会したハルヒの姿に、俺は驚愕してしまう事になる……。



＜お知らせ＞
急いで予告編のようなものを書いてしまいましたが、中編なので年内には完結させるつもりです。
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