身に着けるだけで幸運になるブレスレット
持ってるだけで幸せになるパワーストーン
これを買ってから、パチンコで大勝ち、大金持ちに!さらに異性にモテモテ。笑いが止まりません。(30代男性)
両脇に水着の美女をはべらせて、一万円札の風呂に浸かった笑顔の男性の写真。
よく、雑誌の裏表紙なんかにそんな広告が載ってる。
いったい誰が買うんだろう?
俺はいつもそう思っていた。
だいたい、本当に持ってるだけで金持ちになれる、そんなすごい物なら他人に売ったりしないだろう。矛盾している。
でも、ある日そんな胡散臭い広告の中で、ちょっとユニークな物を見つけたんだ。
「妖精の入った小瓶」
写真に写っているのはただのガラスの小瓶、コルクの栓がしてある。中には何も入っていない。ただの空き瓶にしか見えない。
※ 妖精は人間には見えません。
そんな注意書きが書いてある。
ドイツの妖精の森で捕獲した幸運の妖精が中に入っています。持っているだけで、あらゆる幸福があなたの元に訪れます。
あなたもこれで、異性にモテモテ!大金持ちに!さぁ、夢を叶えましょう。
ただし、詮を開けると妖精が逃げてしまいますので、絶対に開けないでください。
定価 9,800円のところを、期間限定で、今ならなんと 5,000円!
有限会社フェアリー商事
斬新だ!しかもメルヘンチックで夢がある。
俺はかなり笑った。ちょっとツボに入った感じだ。
だから、買ってみる事にしたんだ。
もちろん本当に妖精がいるとも幸福になれるとも信じちゃいない。
ただ、友人に見せて笑いのネタにしようと。ちょっと高い買い物だが。
俺は、そこそこの家庭に生まれて、そこそこの学校に行って、そこそこの会社に就職した。
見た目も、頭のよさも、そこそこな23歳の男だ。
独身で、そこそこのアパートに住んでいる。
日曜日の午後2時頃、そのアパートの俺の部屋に例の物は届いた。代金引換の小包で。
俺はわくわくしながら、小包をほどく。
出てきたのは、何の飾りもない白い箱。
中を開けると、衝撃吸収用のプチプチで梱包されたガラスの瓶。
元は何の瓶だろうか、形はちょっと違うが、ブランデーとかウィスキーの瓶くらいの大きさだ。
透明で、何の飾りもない。コルクで詮がしてある。
もちろん予想通り、中には何も入ってない。
箱には瓶の他に、1枚の紙が入っていた。説明書のようだ。
これでお値段 5,000円か。予想通りだが、ちょっと後悔した。
最初に広告を見たときの笑える感じも実物を見ると湧いてこないもんだ。
とりあえず説明書らしきものを見てみる。それは、いかにも安物のプリンタで打ち出したって感じの1枚の紙きれだ。
その時、声が聞こえた。
若い、女の人の声。
俺は、一人暮らしだ、同居人なんかいない。
でも、その声は確かに聞こえた。
そう、例の妖精が入った小瓶の中から。
「お願いです。ここから出してください。」
幻聴か・・・、それとも夢か。でも瓶の中から確かに声は聞こえた。
「お願いです。この瓶から出してください。」
やっぱり聞こえる。ひょっとして何かのドッキリ?テレビ番組か?
辺りを見回す、今日届いた荷物以外は何も変わってない。いつもの部屋だ。
瓶を手に持ってみる。
ただのガラスの瓶だ。
スピーカーらしき物はついていない、じゃぁコルクの中か・・・
「そうです。その詮を抜いて下さい。」
いや違う、コルクじゃない。瓶の中からその声は聞こえてくる。
ひょっとして、・・・本物か。
俺は、急に怖くなった。でも勇気を持って声を出した。
「ひょっとして、妖精さんですか?」
瓶の中から返事は返ってきた、嬉しそうな女の人の声。
「そうです。私は妖精です。お願いです、ここから出してください。」
どうやら本物のようだ、俺は悪寒を感じた。
23年間生きてきて、幽霊も宇宙人も見た事はない。だが、妖精と名乗るものがこの瓶の中にいるようだ。
心臓の鼓動が早くなるる・・・、これが未知との遭遇ってやつか。
一回、深呼吸して冷静さを取り戻す。
そして、俺は妖精との会話を試みた。
「すみません妖精さん。この瓶は私が買った物で、持っているだけで幸福になれるので、決して詮は開けてはならないと書いてあるんですが。」
瓶の中から、悲しそうな声で返事が返ってくる。
「それは嘘ですわ。この魔法の瓶は、妖精の力を封じているものです。持っているだけではただ瓶と変わりません。でも、ここから出してくれたら、お礼に私の力であなたに本当の幸福を授けましょう。」
これは想定外だ。持っているだけでは効果はないというのか。
どうしよう。
ただ、安易に詮を開けるのは危険な気がする。
そうだ。
俺は、購入先の有限会社フェアリー商事に問い合わせる事を思いついた。
購入したときは葉書で申し込んだが、広告には電話番号が載っていた。
携帯から電話する。
「この電話番号は現在使用されていません、もういちどご確認のうえ・・・」
俺は電話を切った。番号は間違えていない。
動揺する俺に瓶の中から声がかかる。
「お金なんかどうですか?ここから出してくれたら、お礼に大金持ちしてあげますよ。」
誘惑するような甘い声だ。
「金か・・・。確かに欲しいな。」
つい返事をしてしまった。でも、ここで俺は昔聞いたある話を思い出した。
「猿の手」っていう話だ。
3つの願いを何でも叶えてくれる魔法の「猿の手」。
偶然これを手に入れた老夫婦は、1つめに「金が欲しい。」と願う。
その日のうちに老夫婦の息子が交通事故で死んでしまった。
老夫婦には息子の生命保険金が、大金で手に入る。
しかし、老夫婦の婦人は息子を失った悲しみで2つめの願いを「猿の手」にした。
「息子を生き返らせて。」
すると、突然ドアをノックする音がする。ドン、ドン、ドンッと激しい音で。
老夫婦の夫は突然怖くなり3つめの願いを「猿の手」にする。
「息子を墓に戻してくれ。」
これで3つの願いは終わった。
結局、老夫婦は大金を得た代わりに息子を失ってしまった。
願いをかなえるには、代償を払う必要があるという。そういう話だ。
俺は、瓶の中の見えない妖精に訊ねた。
「もし僕を金持ちにしてくれるというなら、そのお金はどこから出してくれるんですか?」
妖精は嬉しそうに返事をする。
「それはもちろん魔法の力で、あっという間にですわ。」
「具体的にどうやって出すのですか?現金ですか?」
「そうですね、では魔法の力でこの部屋に札束の山を作りましょう。」
「・・・紙幣には日本銀行が発行した通し番号が入ってるんですよ。それは、どうするんですか?」
ここで、会話が止まる。奇妙な間があった。
妖精の声のテンションが少し変わった。
「じゃあ、魔法の力であなたの預金残高を増やしましょう。」
「それは犯罪じゃないですか。しかもすぐに警察にすぐばれそうだ。」
「・・・それでは、金塊や宝石などを魔法の力で出しましょう。」
「換金する時に身元をチェックされそうですね。日本の警察は甘くないですよ。」
またもや会話が止まった。
しかし、妖精は突然思いついたかのように声をだす。
「そうですわ!宝くじなんかどうでしょう。あなたが買った宝くじを魔法の力で1等にしてしまえば、合法的に大金が入ります。」
「確かに、それなら合法的に大金が入るけど。金額は限られてきますよね、年末ジャンボで最高3億円。大金だけど、大金持ちというには、ちょっと少ない気がします。それに何度も一等が当選したら不自然だ。」
妖精の声色がだんだん変わってくる、少しイラついているようだ。
「大丈夫ですよ。宝くじ以外にも競馬とかギャンブル、あと株取引とか。先物取引とか。いろいろ方法はありますわ。とりあえず、ここから出してください。」
俺は直感した。この妖精は嘘をついている、絶対に俺を金持ちをする気はないだろう。
だが、あえて質問を続ける。
「お金以外の願いは聞いてくれないんですか?」
妖精は嬉しそうに即答する。
「もちろんできますわ!意中の女性を簡単に虜にすることもできますよ。」
続けて質問する。
「例えば、人を殺す事もできるんですか?」
妖精はさらに嬉しそうに返事をする。
「もちろん!魔法の力であなたが指定する人間を簡単に殺せますよ!何人でも。」
「・・・つまり、瓶から出た途端に、僕を殺す事もできるんですね。」
ここで、会話が凍りついたように止まる。
しかし、再び瓶の中から声はする。
「そんなことする訳ないじゃないですか、この瓶の中から出してくれたらあなたは恩人です。恩人を殺すような妖精はいませんわ。」
話題を変えて聞いてみる。
「妖精さん。そもそも、あなたは何で瓶に閉じ込められているんですか?」
「そ、それは悪い人間に捕まって・・・。」
「人間を殺せるような魔法の力を持っているのに、そんなに簡単に捕まるんですか?」
「いや、相手も魔法を使える、悪い魔法使いだったんです。」
妖精の声が少しうわずっている。
「この紙によると、妖精さんはドイツの森の中で人間に捕まったとありますが。」
「ええ、ドイツの妖精の森で悪い魔法使いに突然襲われて。」
「ドイツの妖精なのに、さっきから日本語で僕と会話ができるのは何故ですか。」
少し間があって、妖精は返事をした。
「そ、それは妖精ですから。魔法の力でどこの国の言葉でも話せます。犬や猫とも会話できるんですよ。」
「では、妖精さんのお名前を教えてください。あと姿も見せてくれませんか?」
会話が止まる。何分か沈黙が訪れた。
そして瓶の中から声は聞こえてきた、今までと声色が全然違う。
「あなた、私のことを疑っていますね。瓶の中から出す気はないつもりですね。」
背筋が凍る、冷たい声だ。
だが、これがこの妖精の本性かもしれない。
確信した。この瓶の栓は絶対に開けてはならないと。
俺は勇気を出して瓶の中の妖精に話かけた。
「失礼だとは思いますが、あなたが善い妖精だという保証がありません。人間に捕まったというなら、人間に恨みがあるはず。もし瓶から出した場合、僕に危害を加える可能性が十分あります。」
瓶の中から返事が返ってくる。
「幸福になりたい、という広告を見てこの瓶を買った割には随分と慎重ですね。」
「ええ、本当に妖精が中に入っているとは思わなかったんで。」
俺は素直に答えた。
瓶の中からため息が聞こえた、その後、妖精は話し出した。
「なるほど、では信頼関係を築くためにあなたの質問に答えましょう。まず私の名前ですが、私には名前はありません。人間のように個人名を持つという概念自体が我々にはありません。だから妖精であるとしか回答できない。」
妖精は続けて話す。
「次に、姿は見せられません。というより姿そのものが存在しません。まあ霊体のようなものです。」
「姿がないのに声が出せるのは何故ですか。日本語が話せるのも不自然だ。」
俺は訊ねた。
妖精が返事をする。ただ、今までと口調が違ってきた。
「何故といわれても困るが、声はこの瓶を内側から振動させて音を出している。日本語が話せるのは、元々日本に住んでいるからだ。ドイツの森にいたというのは単なる嘘だ。」
俺の理解をだんだん超えてきた。しかし、妖精は話を続けてくる。
「私が善い妖精か、悪い妖精かと聞かれると、どちらでもないとしか回答できない。人間の善悪の価値観にはあてはまらないからな。だが、無意味に人間を殺すような事はしてないと思うよ。」
俺はこの妖精を信じていいのか、だんだん分からなくなってきた。
さらに妖精は淡々と話す。
「ちなみに、私をこの瓶に閉じ込めたのは、悪い魔法使いではない。君が私を呼んだんだよ。」
どういうことだ?俺は首を傾げる。
「すみません、僕は妖精さんをお呼びしたつもりはないのですが。」
「君にそのつもりがなくても、事実この瓶に私を呼び出したのは、君自身なんだよ。」
何を言われているのか、どんどん分からなくなってきた。
「だいたいは欲望とか強い思いによって呼び出されるんだが。とにかく現在、私は君に呼び出されてこの瓶の中にいる。そして詮を開けて貰わねば瓶から出る事ができなくなってしまったのだよ。」
「はぁ・・・、何かすみません。」
何故か俺のせいみたいになってるので、俺はとりあえず謝った。
「別に謝罪する必要はない、私は人間の欲望で呼び出されて存在するようなものだからな。君が私をここから出したくないと思うなら、それでも私はかまわない。いずれ君の寿命は尽きて死ぬ。そうなれば私の存在もなくなるからな。」
俺はいったい何と会話しているんだろう。今更そんな事をふと考えた。
瓶の中から声はまだ聞こえる。
「正直に言うと、私は君をだますつもりだった。君が金持ちになることを安易に望み詮を開ければ、大金とそれに伴う不幸や絶望を与えるつもりだった。」
「じゃあ悪い妖精じゃないですか。」
「人間の善悪の価値観で判断されても困るな、私からすれば何の代償もなしに大金を得ようとする人間の方が愚かだと思うぞ。」
何故か説得力がある言葉だ。
「まあいい、私は君が気に入ったよ。この詮を開ければ君の望みを1つ、必ず叶えると約束しよう。」
何故か、俺は妖精に気に入られたようだ。そこで質問してみる。
「本当にどんな望みでも叶えてくれるんですか?」
瓶の中から返事が返ってくる。
「私にもできる事と、できない事はある。望む事の内容よるな。」
俺は少し考えて、それから聞いてみた。
「願いを100個に増やしてくれとか、そういうのは。」
「無論、却下だ。1つだけにしろ。」
やっぱりダメか。続けて聞いてみる。
「例えば、永遠の命とか、不老不死の身体にしてくれというのはできますか?」
「永遠にというのは無理だな。形あるものはいずれ無くなる。だが、永遠や不死に近い身体にすることはできるぞ、例えば石にするとか、氷付けにするとかな。」
それは嫌だな。別の事を聞こう。
「死んだ人間を生き返らせる事はできますか?」
「この国は基本的に火葬だからな、肉体を再構築するのは難しいな。あと死んだ人間の記憶を復元する事はできない。だが、死んだ人間にそっくりな別の生き物を作り出すことはできるよ。」
それはそれで凄いことだが、別に生き返らせたい人はいない。
「では、世界を平和にしてください。というのはできますか?」
「結論から言うとできないね。そもそも世界が平和というのが、どういう事だか分からない。それに人間は生きている限り、争いをやめる事はできないだろう。どこかの戦争を止めても、またどこかで戦争は起こる。人間の世界とは昔からそういうものだ。」
これもダメか。でも、最後に1つだけ聞いてみよう。
「全ての人間を幸福にする。というのはできますか?」
少し間があった。
「それもできない。幸福な人間というのは不幸な人間がいるから存在する。全ての人間が幸福になるというのは、全ての人間が不幸になるのと同じ事で、幸福と不幸の意味がなくなる。」
その返事を聞いた後、俺は瓶の栓を開けた。
特に何も起こらなかった。
ただ、今まで瓶の中から聞こえた声が別の場所から聞こえる。
背後か?真上か?不思議なところで声が響く。
「開けたか・・・。では、君の望みを聞こうか。」
俺は答えた。
「あなたに叶えてもらいたい望みは無い。自分の望みは自分で叶える事にする。」
妖精の笑い声が聞こえた。
「そうか・・・。でも、なぜ詮を開ける気になったのだ?私は君を殺す妖精かもしれないと思っていたのだろう。」
俺は素直に答えた。
「何も望まなければ、何もされることはないと思ったんです。」
それっきり、もう妖精の声は聞こえなくなった。
結局、俺は 5,000円払って、ふたの開いたガラスの瓶を買っただけだ。
妖精の入った小瓶の話を友人にするのはやめることにした。
そして、俺はまたいつもどおり、そこそこの生活を続ける事にした。
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