俺の女戦士アキレスは、ひたすら走るッ!
その後を追う、エンシェント・レッド・ドラゴン!
『 グゥオオオーーーーーッ!』
ドラゴンの怒りの叫び声が聞こえる。
アキレスは逃げ続ける。
そもそも、今回の冒険は依頼じゃない。
ドラゴンを倒す必要などない。
生き残る事が、ミッションなんだ。
ドラゴンの口から、放たれる灼熱の息吹。
無関係な、街の住民達を次々に巻き込んでゆく。
でも、別に俺のせいじゃない。
悪いのは、ゲームマスターだ。
女戦士アキレスは、人間としては非常に高い身体能力を持っている。
でも、鬼ごっこの相手が悪すぎた。
神に等しい力を持つ、エンシェント・レッド・ドラゴン。
パワー、スピード、知能をアキレスより完全に上回る。
おまけに、翼がついてて空が飛べる。
逃げ切ることはできなかった・・・・・・
袋小路に追い詰められた、アキレスを待っていたのは灼熱の息吹。
ドラゴンブレスッ!
またもや、一瞬にして灰になる、俺の女戦士アキレス。
ゲームマスター星羅は、狂喜に満ちた顔で笑う。
「うふふふ、2度目のゲームオーバー! 残念ねケンちゃーん。 うふふふ!」
俺は、呆然としながら左手を見つめて黙る。
星羅は俺に聞いてくる。
「どうするの? ギブアップする? それともリトライ? うふふふ!」
俺は静かに答える。
「リトライだ。」
星羅は、ニヤニヤ笑いながらポッキーの箱を取り出した。
「分かってるわよね? 次で、3度目! ポッキーの罰ゲーム!」
両端から、2人で同時に1本のポッキーを食べるという・・・・・・
恐ろしい罰ゲーム。
俺は、冷静に星羅に話す。
「星羅、君にはこのゲームの本質が分かっていない。」
星羅は、眉間にしわを寄せる。
「どういう意味かしら? 私が、テーブルトークRPGの事を分かっていないって言うの?」
「そうじゃない、それよりもっと基本的なことさ。」
「何よ? 基本的なことって?」
俺は、星羅に本を見せる。
そう、『 ソード・アンド・ワールドRPG ルールブック 』
星羅は、不機嫌な顔で喋る。
「そのゲームについては、私の方がケンちゃんより、ずっと詳しいわよ!」
明らかな、苛立ちを見せる。
でも、俺はひるまずに声をかける。
「ゲームマスターは、ゲームの中では神様だと思うかい?」
星羅は、ふッと笑う。
「当たり前じゃない! ゲームマスターは、ゲームの世界では神! プレイヤーは、逆らう事などできないわ。」
「本当にそう思っているのか?」
「ケンちゃん、神に逆らうつもりなの? 無駄よ。 うふふふ。」
「違うね、ゲームマスターは人間だ! 神じゃない。」
「現実の世界では人間だけど、ゲームの世界では神様よ。」
「でもゲームはここで起きている、現実の世界でね。」
「何が言いたいのか、さっぱりだわ。 とっとと始めましょう。」
「そうだね、始めようか。」
俺は、2つのダイスを左手に握りしめた。