高級な北欧系っぽいテーブルに向かい合って、俺と星羅は椅子に腰を掛けた。
「・・・・・・さあ、始めましょうか。 テーブルトークRPGを・・・・・・」
彼女は静かに話し出す。
今日は、やけにローテンションだな。
「オッケー! 始めようか。」
俺も返事をする。
テーブルの上には、このゲームのルールブック『 ソード・アンド・ワールドRPG ルールブック 』
そして、それぞれの筆記用具と、サイコロが2つずつ、星羅のノートパソコン。
さらに、尋常じゃない数のポッキーの箱が積んである。
ゲームマスター星羅は、淡々と語りだす。
「女戦士アキレスが現在いるのは、冒険者ギルドよ。」
ゲームという想像の世界に構築された、俺の女戦士アキレス。
アキレスが現在いるのは、冒険者ギルド・・・・・・
冒険はいつも、ここから始まる。
俺は、星羅に声をかける。
「今日の依頼はなんだい? ゲームマスター。」
ゲームマスター星羅は、静かに返事をする。
「残念だけど、今日は何の依頼もないわ。」
「えッ! 依頼がない?」
俺は、少し驚いて聞き返した。
依頼がないって、冒険自体が無いって事か?
星羅は、少し笑うと話を始めた。
「依頼はない。 でも、冒険者ギルドの建物の天井を突き破って、ドラゴンが現れる。」
「ド、ドド、ドラゴン・・・・・・?」
「そう、女戦士アキレスの前に現れたのは、エンシェント・レッド・ドラゴン!」
『 ソード・アンド・ワールドRPG 』の世界には、魔王はいない。
しかし、世界を
脅かしかねない、5匹の神竜がいる。
5色の、エンシェント・ドラゴン!
赤、青、緑、白、黒。
その中の、赤いヤツが出てきたわけだ。
何の前触れもなく!
レベル10以上の冒険者が、束になっても勝てるかどうか分からない。
レベル3の、女戦士アキレスが1人で勝てようはずもない。
星羅は、邪悪な笑顔で声を出す。
「うふふふ、ケンちゃん!
先制攻撃権は、アキレスにあげるわ。」
俺は苦笑いする。
「いきなり、ドラゴンと戦えって言うのかよ。」
この女、とうとうやりやがった!
もう、これはRPGじゃない!
テーブルトークすらしていない!
ゲームのシナリオも、
物語もへったくれもない!
星羅は、たぶんこう考えている。
『 何が何でも、絶対に今日は勝たせない! 』と・・・・・・
チッ! でも、やるしかねえ。
こっちは、レベル3だが、
拳銃持ってんだ。
俺は、勢いよく宣言する。
「女戦士アキレス!
CZ75で、ドラゴンを攻撃する!」
まずは、命中判定! 俺はダイスを振ろうとした・・・・・・
だが、ゲームマスター星羅はそれを制止する。
「ダイスを振る必要はないわ、ケンちゃん。」
「え? 何でだよ。」
「命中してもダメージは入らない、意味がないからよ。」
「どういうことだ?」
「エンシェント・ドラゴンは、全身が魔法のオーラで包まれているの。」
「何ッ!」
「銃も剣も、物理攻撃は
一切・・・・・・ 通用しないの! うふふふ!」
銃弾が通用しない! 魔法のオーラ?
そんなのアリかよッ!
星羅は、邪悪な顔で笑い出す。
「うふふふッ! 次は私のターンね、いくわよ! ドラゴンブレスッ!」
エンシェント・レッド・ドラゴンは、口を開けたッ!
そして、放たれるは灼熱の息吹・・・・・・
俺の女戦士アキレスは、一瞬で灰と化した。
「うふふふ! どうするの? ギブアップ? それとも、リトライ? うふふふ。」
星羅は、完全に勝ち誇った顔で俺に尋ねる。
さすがに、今度ばかりはマズイな・・・・・・
アレを使うしかないか。
・・・・・・いや、待てよ。
星羅の兄、星士郎さんの言葉を思い出す。
熊と友達になった男・・・・・・
竜とも、友達になれるのかな。
ルールブックを見る、エンシェント・ドラゴンは人間より知能が高い。
つまり、会話ができるってことだ。
俺は、星羅に返事をする。
「よしッ! リトライだッ!」