俺の女戦士アキレスは道具屋でショッピングをする。
まずは、カンテラ・・・・・・ それから、
方位磁石。
次に・・・・・・ 水と食料だが、俺は星羅に尋ねる。
「地下100階までの最短ルートだと、水と食料は何日分必要なんだ?」
「ちょっと待って。」
星羅は、ノートパソコンで計算を始める。
「そうね、3日分で足りるわよ。」
「帰りの分を合わせると、最低でも6日分は必要になるわけか。」
「うふふふ、帰ってこられたらね。」
星羅はニタリと、邪悪な笑みを浮かべる。
俺は、それを無視してショッピングを続けた。
「水と食料は、そうだな。 一応、10日分購入しておこう。」
「ずいぶんと用心深いのね。」
「あと、これこれ。 テントと毛布、コンロ、火付け石、木炭も買っておこう。」
「何? ダンジョンの中でキャンプでもするつもり?」
「
備えあれば、
憂いなし、ってね。」
ショッピングを終えた、女戦士アキレスはダンジョンへ向かう。
地下へと続く、ダンジョンの入り口。
俺はつぶやく。
「この先は、地下100階の迷宮・・・・・・ 番人はミノタウロスか。」
星羅も楽しそうに話す。
「そうよ、早く入ってらっしゃい。」
「ミノタウロスといえば、神話で有名だな。 確か、迷宮に
生贄として送られた若い男女を食べてしまう怪物だったけ。」
「あら、よく知ってるじゃない。」
「きっと、俺の女戦士アキレスも食べるつもりなんだろうなあ・・・・・・ 」
「そうね、きっとお腹を空かして待ってるわ。」
俺は、『 ソード・アンド・ワールドRPG 』ルールブックのページをめくる。
ミノタウロスのモンスターデータが載っているページだ。
その1文を、俺は読み上げた。
「このルールブックを見ると、ミノタウロスは腹が減ると近隣の村を襲ったりもするらしい。」
星羅は、不思議そうな顔で返事をする。
「本来、牛は草食動物なのにねえ。 ミノタウロスは、肉食なのよね。」
今度は、ルールブックの別のページを俺は読む。
「水と食料無しに、20時間以上行動すると生命力は1時間ごとに減少する。」
星羅は、笑っている。
「あはは! アキレスちゃんは、1回それで餓死しちゃったもんね。」
俺は続けて読む。
「行動しなくても、3時間ごとに生命力は減少していく・・・・・・ 」
「山で遭難した場合、下手に動き回るより、じっとして体力を温存したほうがいいって聞くわね。」
これで、理論は成立した。
俺は、行動を宣言する。
「女戦士アキレス! ダンジョン入り口前にテントを設営する。」
星羅は驚愕の声を上げる。
「ちょっと! どういうこと? ダンジョンに入らないつもり!」
俺は、微笑みながら答える。
「そうだよ入らない! ここで待つんだ。」
「待つって? 何をよ?」
「ミノタウロスが出てくるのを・・・・・・ ね。」
星羅の顔が不気味にゆがむ。
どうやら、気付いたらしい。
俺は、とどめの言葉を星羅に浴びせる。
「そう、ミノタウロスは持っていない。 水も食料も。」
「ぐぐッ!」
ゲームマスター星羅は、苦悶の声を出す。
「それから、後でちゃんと見せてもらうぞ。 ダンジョンのマップをね。」
勝手に、抜け道をアドリブで作られたら困るからな。
「んぎッ!」
星羅は、悔しさで歯を鳴らす。
この、ダンジョンは最初から入る必要は無かった。
ミノタウロスを閉じ込めた、文字通りの牢獄だ。
「さあ、ゲームマスター! 計算してくれ、厳密にね。 ミノタウロスはダンジョンから出て来れるかな? それとも、出て来る前に飢えて死ぬのかな?」
俺の最後の言葉に、星羅は黙り込んでしまった。