「それじゃあ、さっそくケンちゃんのキャラクターを作成しましょう。」
星羅は、にっこりと笑いながら言う。
このゲームの世界で、俺の分身となるキャラクターの作成作業。
そう、キャラクター・メイキングだ。
「まずは、種族は何にするのかしら?」
星羅は俺に問いかける。
このゲーム、「ソード・アンド・ワールド」には人間以外にも様々な種族が住んでいる。
エルフ、ドワーフ、グラスランナー、半裸の美少年、全裸の(省略)
それぞれの種族には、それぞれの個性がある。
例えば、エルフは生命力・筋力が低いが、敏捷度・知力が高い。
反対に、ドワーフは生命力・筋力が高く、敏捷度・知力が低い。
種族によって、
能力値に
偏りが生じるわけだ。
本来なら、このゲームは5、6人くらいの人数でパーティーを組んでするのが理想のゲーム。
僕は人間、俺はエルフ、私はドワーフ・・・・・・ という具合に決める。
そして、それぞれの種族の長所を生かし、短所をおぎなうことで楽しみが増すゲームだ。
でも、
現在ここで行われているゲームは、俺と星羅の2人だけのゲーム。
ゲームマスターは星羅、プレイヤーは俺1人のソロプレイ。
ここは、長所も短所もない
人間を選ぶのが
妥当な選択だ。
「
人間にするよ。」
俺は、素っ気なく答える。
「そう、つまらないわね。 性別は?」
星羅は不満げにしゃべる。
せっかくのファンタジーなんだから、人間以外を選べばいいのに。
たぶん、そう思っているんだろう。
「女性でいいよ。」
俺は普通に答える、このゲームは男女平等。
男性は力が強いとか、そういう設定はない、どちらを選んでも一緒だ。
「じゃあ、
能力値の判定ね。 まずは、
生命力よ。」
星羅はそう言うと、俺に2つの赤色のダイス(サイコロ)を渡す。
このゲームでは、全ての判定を2つのダイスの合計値で決める。
ダイスっていうのは、誰でもよく目にする6面体のサイコロ。
だから、最低値は2で、最高値は12。
生命力は、このゲームにおける最も重要な
能力値。
普通のRPGでいう、
HPに該当する数値だ。
俺は左手に、2つのダイスを握りしめ、そして叫びながら振るッ!
「しがらぁーッ!(意味不明)」
ダイスの目は・・・・・・
6と6のゾロ目! こいつはラッキーだ。
6+6=12 最高の数字だ。
種族が人間の場合は、基本点数が5点なので、12+5=17
つまり生命力は、17点の最高値となる。
「ついてるじゃない。」
星羅はポソリとつぶやく。
「よしッ! 次は、
筋力だな。」
俺は左手にダイスを握ると、軽く振る。
「よっと!」
ダイスの目は・・・・・・
また、6と6のゾロ目! 超ラッキーだ。
生命力に続き、筋力も17点の最高値。
「やるじゃない。」
星羅は面白くなさそうにつぶやく。
俺はだんだん調子にのってきた、2度あることは3度あるって言うしね。
「お次は、
敏捷度! ほいさッ!」
俺は左手で、軽やかにダイスを振る。
またまた、6と6のゾロ目! めがラッキィィィィーッ! だ。
ここまで、人間として最高の
能力値!
次に、6と6のゾロ目を出せば、もはやパーフェクト超人だ。
「・・・・・・・・・・・・。」
星羅は、じっと黙っている。
「最後にッ!
知力ッ! いくぜーッ!」
俺は右手にダイスを握りしめ、渾身の力をふりしぼる!
そして、振った!
ダイスの目は・・・・・・
1と1のゾロ目・・・・・・
合わせて、2・・・・・・
基本点の5を足して、知力は7・・・・・・
人間として、最低の知力。
その直後、聞こえる大きな笑い声。
「アハハハハハハハハッ! バカッ! バカバカッ! 筋肉バカね!」
星羅が腹をかかえて、笑い転げている。
何が、そんなにおかしい?
この女、俺の知力をあざ笑うかのように笑っている。
数字を決めたのはダイスだ。
なのに、まるで俺自身をバカ呼ばわりしている。
賽の河原に、突き落としてやろうかッ!
俺は、目の前で笑い転げる女に、軽く殺意を抱く。