俺はバスに乗った。
俺の彼女、
赤城 星羅の家の場所を、俺は知らない。
もちろん、遊びに行くのも初めてだ。
俺は星羅から指定されていたバス停で降りる。
たぶん、ここで待ち合わせするはずなのだが・・・・・・
周囲を見回しても、誰もいない。
携帯の着信音が鳴る。
俺は携帯を手に取った、星羅からメールが届いたようだ。
件名:ケンちゃんへ
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バス停を降りたら、目の前の信号交差点を渡って
北の方角へ、500メートル進んで。
何だ?このメールは・・・・・・
とりあえず、メールの指示にしたがって俺は歩く。
500メートルくらい歩いたのだろうか。
また、携帯の着信音が鳴る。
星羅からメールだ。
件名:Reケンちゃんへ
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次のコンビニの角を左へ曲がって。
300メートル進んで。
メールのとおり、目の前にコンビニエンスストアが見える。
ひょっとして、メールで俺を家まで誘導する気か。
何て女だ! 普通は近くまで迎えに来るのが常識だろう。
しかし、これはあの女からの挑戦かもしれない。
きっと、
試合はもう始まっているのだ。
先日、星羅から1冊の本を手渡された。
本のタイトルは、「ソード・アンド・ワールドRPG ルールブック」
テーブルトークRPGという、ゲームのルールが記載された本。
まるで教科書のように、ゲームのルールが詳細に書かれている。
よく分からない固有名詞が、いっぱい出てくる。
フォーセなんとか大陸とか、オラなんとかの街とか・・・・・・
まあ、要約すると・・・・・・中世のヨーロッパ風の世界を舞台にした世界。
剣と、魔法と、ドラゴンなどがでてくるオーソドックスなRPGだ。
コンピュータを使わずに、人間同士で会話してゲームする。
随分と、アナログなゲームだ。
星羅は、俺とこのゲームをやりたいらしい。
正直言って、めんどくさい。
こんな訳の分からないルールブックを読むより、参考書でも読んだほうがマシだ。
しかし、ゲームと聴いたからには負けるわけにはいかない。
これは、あの女に雪辱を果たす絶好の
機会。
俺は星羅の挑戦を受ける事にしたのだ。
携帯の着信が鳴る。
件名:Reケンちゃんへ
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次の郵便ポストの角を右へ曲がって。
200メートル進んで。
次々と星羅から、指示のメールが届く。
辺りは、いつの間にか高級住宅街となっていた。
何か、おかしい・・・・・・
何か、違和感を感じる・・・・・・
このメールの指示は、あまりにも的確だ。
まるで俺がどこにいるのか、分かってるかのごとくナビされている。
まるで、見られているかのように・・・・・・
俺は、はっと背後を振り向く。
誰もいない・・・・・・
気のせいか。
いや、何か見える。
電柱の影に、赤い服・・・・・・
彼女だ、星羅が電柱の影から俺を見つめていた。
顔は笑っているが、凍りつくような視線だ。
星羅は俺に近づくと、笑顔で声をかけた。
「もう、
健ちゃん気付くの遅いわよ。」
何て恐ろしい女だ、俺の後をずっとつけて来たのか。
俺は平静を装いながらも、返事をする。
「何だ、バス停からずっと尾行されたのか、やられたよ。」
星羅は、うふふと笑いながら話す。
「違うわよ、バス停からじゃないわ。」
「えッ!」
「健ちゃんが家を出たときから、ずっと見てたのよ。」
異常だ! 異常すぎるぞ!
額から汗が出る。
「さあ、行きましょ! 私の家、もうすぐそこだから。」
「あ、・・・・・・ああ。」
俺は動揺を隠しつつ、彼女と一緒に歩いていった。
何だか、すごく嫌な予感がするぜ。