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38 炎のゴブレット
 翌日、朝食のために大広間に来たが、やはりどこのテーブルも三校対抗試合の事で持ちきりだ。
グリフィンドールのフレッド、ジョージ、リーの3人はどんな魔法を使えば審査員を騙せるかを討議している。無駄な努力を。


その日の午後、数占い学でまたハーマイオニーと隣同士になり、授業後に何時も通り話をした。
「…まさか本当に三大魔法学校対抗試合が起こるとはな」
「えぇ、沢山亡くなった人が出たからもう開かれる事は無いと思ってなかったのに…。
……でもこれでアナタの勘は外れた事になるから良いじゃない。だって年齢制限があるから私達は参加出来ない」
「まぁな。…でもまだ嫌な予感が収まらないんだよなぁ。
何かとんでもない大どんでん返しが起きる予感が…」
俺の言葉にハーマイオニーは少し考えた後、不安そうな顔をして聞いてきた。
「…ねぇハリー…まさかアナタ…参加する気は無いわよね?」
「そりゃ勿論だ。
一千ガリオンのために命を賭ける程自信は無いし、そこまでの勇気も無い。間違っても自分から参加はあり得ない」
ハッキリと断ったからハーマイオニーは一安心という顔をする。
「なら心配無いわ。例え上級生がアナタの名前を使って参加申し込みをしたとしても、ダンブルドアがそんなのは許さないから弾かれるわよ」
ハーマイオニーが俺を安心させるためか笑顔で言ってくる。
確かに普通に考えればそうだが、普通に行かないから主人公なんだよ。残念な事に。



 日刊予言者新聞にアーサー・ウィーズリーの事をこき下ろすリータ・スキーターの記事が載った。
ドラコは何時もの取り巻きを連れてロンをからかう。
原作ならここでハリーが言い返すためにドラコの母親を侮辱するが、俺はそんなのに興味が無いから大広間を出る。
おかげでドラコが白ケナガイタチになる事も無かった。ロンとの掴み合いの喧嘩には発展したが。



 ムーディの初授業は原作通りだ。
許されざる呪文をやって見せてひらすら「油断大敵!」と叫んでいた。
皆は驚いていたけど既に使えるしある程度実験もした俺にとっては今更な呪文だ。
見本としてクモを死の呪文で殺した後は許されざる呪文のそれぞれについてノートに書いて終わった。
授業が終わると子供ながらの無邪気さからか磔の呪文をかけられてのたうち回ったクモを思い出して笑い、死の呪文であっという間に死んだ事を語り合う。
何時も思うが子供って残酷だよな。



 原作ではそろそろハーマイオニーが溢れんばかりの偽善心を発揮してS.P.E.W(しもべ妖精福祉振興協会)を設立するが、原作と違ってしもべ妖精を見たことが無いし、虐げられている様子を実際に見たことも無いから立ち上げなかった。



 数週間後、ムーディが授業で実際に許されざる呪文を体験させると発表。
それにはドラコが反論する。
「しかし先生、それは違法だとおっしゃっていましたよね?
確か――同類であるヒトに使うと……」
「ダンブルドアが、これがどういうものかを体験的にお前達に教えてほしいというのだ」
セリフの途中で切られたドラコは不服だったが、校長の許可があるのなら仕方ないと黙る。
そしてムーディが生徒1人1人を呼び出して服従の呪文をかける。
呪いのせいで流行りの歌を歌いながらダンスを踊ったり、新体操の選手のような見事なバクテンやバク中などをやってのけた。今のところ誰一人として抗えた者はいない。
「ポッター、次だ」
呼ばれたので机を片付けた事で開いたスペースに進み出る。
ムーディは杖を上げて唱える。
「インペリオ!(服従せよ)」
その瞬間、まるで麻薬を決めたかのように無意味な幸福感に襲われる。
(机に飛び乗れ…)
頭の中に命令が聞こえたが「嫌です」と拒絶出来た。
事前に知ってたから拒絶出来たけど何にも知らなかったら従ってたかも。
「よーし、それで良い! 素晴らしい!」
一度で命令に逆らったからかムーディが上機嫌で言う。
「お前達、見たか……ポッターが勝った! 戦って見事打ち負かした!
良いぞ、ポッター。まっこと、良いぞ! やつらはお前を支配するのにはかなりてこずるだろう!
スリザリンに二十点!」
一度で出来た事で嬉しかったのか二十点もくれた。
まぁ良い体験にはなった。実際に服従の呪文にかかるとどうなるか興味があったからな。



 4年生になってから明らかに宿題の量が増えていた。
先生方の説明によれば来年にO.W.L試験があるから十分に備えなければいけないらしい。
魔法史は18世紀の「小鬼の反乱」についてのレポートを毎週提出させるし、魔法薬学では解毒剤を研究課題にし、クリスマスが来るまでに誰か1人に毒を飲ませ、皆が研究した解毒剤が効くかどうか試すと仄めかした。
オマケに呪文学は「呼び寄せ呪文」の授業に備えて3冊も参考書を読むよう命じられた。
参考書はコピーすれば良いけど毎週のレポート提出はかなり面倒だ。

しかし俺はまだマシかな?
魔法生物飼育学では受講していない俺でさえ聞こえた悪名高き「尻尾爆発スクリュート」の観察日記を書かなくてはならない。
何が好物なのかは分からないがスクリュートは素晴らしいスピードで成長し、ハグリッドは大喜びでプロジェクトとして生徒が一晩おきにハグリッドの小屋に来てスクリュートを観察し、その特殊な生態を調査するらしい。
授業を受けたスリザリン生は談話室で「あんな汚ならしいもの、授業だけで沢山だ!」と愚痴をこぼしていた。
それを見て改めて魔法生物飼育学を受けなくて良かったと確信した。



 玄関ホールの掲示板に
『三大魔法学校対抗試合

ボーバトンとダームストラングの代表団が十月三十日、金曜日、午後六時に到着する。授業は三十分早く終了し、全校生徒はカバンと教科書を寮に置き、「歓迎会」の前に城の前に集合し、お客様を出迎えること』
と貼り出されていた。
それから歓迎会までの1週間はどこに行っても3校対抗試合の話で持ちきりだ。

ちなみに俺はその間必要の部屋で何時も通り魔法の練習だ。
現在は最終学年の7年生の魔法の練習をしている。
今年は面倒な代表にされるし、遂に待ちに待ったヴォルデモートとの対決があるんだから全てを会得しておかなくては。
試験対策は去年の内に終わったから後は細かい魔法を覚えれば良い。



 ボーバトンとダームストラングを迎えるために城では屋敷しもべ妖精が念入りな大掃除をしていたらしい。
煤けた肖像画は汚れが落ちている。しかし描かれた本人達は気に入らないのか額縁の中で背中を丸めて座り込んでいる。
甲冑達も突然ピカピカになり、動く時もギシギシ軋まなくなった。
他にも管理人のフィルチは靴の汚れを落とし忘れると凶暴極まりない態度で脅してくるので、耐性が弱い1年生が泣いていた。


十月三十日の朝、朝食に大広間に行くと既に飾り付けが済み、壁には各寮を示す巨大な絹の垂れ幕がかけられている。
更に教職員のテーブルの背後には一番大きな垂れ幕があり、ホグワーツ校の紋章が描かれている。

授業が終わり、指示通りにカバンと教科書を寮に置き、正装としてマントを着て帽子を被り、玄関ホールで整列した。
その日は非常に寒く日も落ちかけているせいか、正装用に厚着をしているのにかなり寒い。
予定時刻の6時になったがまだどちらの学校も訪れない。どうやら魔法使いには時間前に来るという概念が無いらしい。
寒さで震えているとダンブルドアが声を上げた。
「ほっほー! わしの目に狂いがなければ、ボーバトンの代表団が近付いてくるぞ!」
生徒達はどうやって来るのかが分からないのでバラバラな方向を見ながら探す。
「あそこだ!」
6年生の1人が森の上空を指差すと、何か大きな物が飛んでくる。
「ドラゴンだ!」
気が動転した1年生が金切り声を上げるが
「バカ言うなよ…あれは空飛ぶ家だ!」
グリフィンドールの誰かが反論する。
確かにまるで舘程の大きさがあるが、よくよく見れば大きな馬車だ。
12頭の象ぐらいの大きさの天馬に引かれ、とんでもない大きさの衝撃音を鳴らしながら無事着陸した。
馬車の戸には金色の杖が交差し、それぞれの杖から3個の星が飛んでいる紋章が描かれている。
大きな大きな戸が開き、淡い水色のローブを着た少年が馬車から飛び降り、金色の踏み台を引っ張り出し、恭しく飛び退いた。
すると中からとんでもない巨大な女が出てきた。
女の黒いハイヒールは子供用のソリ程も大きく、背も象ぐらい大きかった天馬が普通の馬に思える程にデカイ。
流石ハグリッドと同じ半巨人だな。
突然の巨人に生徒達は唖然としていたが、ダンブルドアの拍手につられて一斉に拍手した。
女性は優雅に微笑んだ後にダンブルドアに近付き、片手を差し出した。
ヨーロッパらしく手にキスらしい。本来なら男は体を曲げてキスするが、あまりにも女が巨大だからダンブルドアは顔を見上げて手にキスした。
「これはこれは、マダム・マクシーム。
ようこそホグワーツへ」
「ダンブリー・ドール」
フランス訛りがキツイ英語でマクシームは言う。
「おかわりーありませーんか?」
「お陰様で、上々じゃ」
「わたーしのせいとです」
マクシームの巨大さに目を奪われていたが、マクシームの背後には十数人の男女学生がいた。
全員17、8歳ぐらいで、寒そうに震えている。
ボーバトンの学生は厚手のマントを着ておらず、着ているのは薄物の絹のローブだけで何人かスカーフを被ったりショールを巻いている。

その後ボーバトンはまだ来ないダームストラングは待たずに先に城内に入る事になった。
その際、天馬達はシングルモルト・ウィスキーしか飲まないと言われた。何と贅沢な馬か。


ボーバトンが城に向かって少し経った後に湖から何かが浮かび上がってきた。
巨大な帆船がまるで難破船を引き上げるように浮上し、岸に向かってくる。
その帆船はまるで骸骨を思わせるような暗い雰囲気で丸い船窓からチラチラ見える灯りが目のように見える不気味な船だ。
浅瀬に錨を投げ入れて固定し、タラップが岸に下りた。
乗員が下船してきた。全員がモコモコとした分厚い毛皮を着ているせいか皆でかく見える。
「ダンブルドア!
やあやあ。しばらく。元気かね」
「元気いっぱいじゃよ。カルカロフ校長」
カルカロフはダンブルドアと同じぐらい背が高く、痩せている。
「懐かしのホグワーツ城」
城を見ながら微笑むカルカロフの歯は歯磨きを怠ったのか黄ばんでいた。
「ここに来れたのはうれしい。実にうれしい……ビクトール、こっちへ。暖かい所に来るがいい……ダンブルドア、構わないかね! ビクトールは風邪気味なので……」
カルカロフは生徒の1人を差し招く。
流石ブルガリアのプロチームのシーカーだからか扱いが違うな。
ダームストラング一行に続いてホグワーツの学生が整列して城に向かう。
しかし本物のクラムを見たせいかほとんどの生徒は興奮状態だ。


大広間に行くとボーバトンの生徒達はレイブンクローのテーブルに着いたが、ダームストラングの生徒はどこに座って良いのか分からず入口付近に立っていた。
グリフィンドールやハッフルパフ、スリザリンがなんとか自分達のテーブルに座らそうとし、結果ダームストラングはスリザリンのテーブルに座った。
ほとんどのスリザリン生はダームストラング、ていうかクラムとお近づきになろうと頑張るが、俺は興味無いので離れた席に座った。

全員が座ると教職員が一列になって上座のテーブルに着席する。
そして各校長が入場するとボーバトン生は起立し、マクシームが座ったら自分達も着席した。
ダンブルドアは立ったまま挨拶する。
「こんばんわ。紳士、淑女、そしてゴーストの皆さん。そしてまた――今夜はとくに――客人の皆さん。
ホグワーツへのおいでを心から歓迎いたしますぞ。本校での滞在が快適で楽しいものになることを、わしは希望し、また確信しておる。
三校対抗試合は、この宴が終わると正式に開始される。
さぁ、それでは、大いに飲み、食い、かつ寛いでくだされ!」
ダンブルドアが着席すると何時も通り料理が現れた。
今日は外国料理がふんだん取り揃えてある。
ブイヤベースがあるという事はボーバトンがあるのは南フランスらしいな。じゃなかったら適当にフランス料理を出しただけだが。

途中で「魔法ゲーム・スポーツ部部長」のルード・バクマンと「国際魔法協力部部長」のバーティ・クラウチが入ってきて席に着いた。
開会式を見に来たらしい。



 食事を終えるとダンブルドアが再び立ち上がり
「時は来た。
三大魔法学校対抗試合はまさに始まろうとしておる。『箱』を持ってこさせる前に、二言三言説明しておこうかの。
今年はどんな手順で進めるのかを明らかにしておくためじゃが。その前に、まだこちらのお二人を知らない者のためにご紹介しよう。
国際魔法協力部部長、バーテミス・クラウチ氏、そして、魔法ゲーム・スポーツ部部長、ルード・バクマン氏じゃ」
クラウチには儀礼的な拍手だがバクマンには溢れんばかりの大きな拍手がされた。
まぁバクマンは好印象を持たれる笑顔を浮かべて手を振るのに、クラウチはずっと無表情で何もしないから当たり前か。
「バクマン氏とクラウチ氏はこの数ヶ月というもの、三校対抗試合の準備に骨身を惜しまず尽力されてきた。
そして、おふた方はカルカロフ校長、マダム・マクシーム、それにこのわしとともに、代表選手の健闘ぶりを評価する審査委員会に加わってくださる」
代表選手の名前が出た途端に大広間が静かになった。
「それではフィルチさん。箱をこれへ」
宝石を散りばめた大きな木箱を捧げ、ダンブルドアに進み出た。
「代表選手たちが今年取り組むべき課題の内容は、既にクラウチ氏とバクマン氏が検討し終えておる」
フィルチが木箱を恭しくダンブルドアの前のテーブルに置いた。
「更に、おふた方は、それぞれの課題に必要な手配もしてくださった。
課題は三つあり、今学期一年間に渡って間に置いて行われ、代表選手はあらゆる角度から試される――魔力の卓越性――果敢な勇気――論理・推理力――そして、言うまでもなく、危険に対処する能力などじゃ」
最後の言葉で大広間が完全に沈黙した。まるで息する者さういないように。
「皆も知ってのとおり、試合を競うのは三人の代表選手じゃ。
参加三校から各一人ずつ。選手は課題の一つ一つをどのように巧みにこなすかで採点され、三つの課題の総合点が最も高い者が、優勝杯を獲得する。代表選手を選ぶのは、公正なる選者……『炎のゴブレット』じゃ」
ダンブルドアが杖で木箱の蓋を三度軽く叩くと蓋は軋みながらゆっくりと開いた。
ダンブルドアは木箱の中に手を入れ、中から大きな荒削りの木のゴブレットを取り出した。
一見何の価値も無さそうだが、縁から溢れんばかりに青白い炎が踊っている。
「代表選手に名乗りを上げたい者は、羊皮紙に名前と所属校名をはっきりと書き、このゴブレットの中に入れなければならぬ。立候補の志ある者は、これから二十四時間の内にその名を提出するよう。
明日、ハロウィーンの夜に、ゴブレットは各校を代表するに最も相応しいと判断した三人の名前を返してよこすであろう。このゴブレットは今夜玄関ホールに置かれる。我と思わん者は自由に近付くがよい」
「ただし、年齢に満たない生徒が誘惑に駆られることな無いよう。
『炎のゴブレット』が玄関ホールに置かれたなら、その周囲にわしが『年齢線』を引く事にする。十七歳に満たない者は、何人もその線を越えることはできぬ。
最後に、この試合で競おうとする者にはっきりと言うておこう。軽々しく名乗りを上げぬことじゃ。『炎のゴブレット』が一旦代表選手と選んだ者は、最後まで試合を戦い抜く義務がある。ゴブレットに名前を入れるということは、魔法契約によって拘束されることじゃ。代表選手になったからには途中で気が変わるということは許されぬ。じゃから、心底、競技する用意があるのかどうか確信を持った上で、ゴブレットに名前を入れるんじゃぞ。
さて、もう寝る時間じゃ。皆、おやすみ」


長い長い説明がようやく終わり、各々寮に戻った。
談話室では6、7年生が立候補しようか迷い、下級生達は出るように煽る。
無責任な。死の危険性が高いというのに自分達の娯楽のために死地へ行けと言っている。
まぁ所詮は対岸の火事に過ぎないからな。
俺にとっては隣家の火事だが。


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