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7 ホグワーツ特急
 1991年9月1日


 夏休みが終了し、新学期が始まるのでホグワーツに向かうべくキングス・クロス駅にやって来た。
ちなみに駅まではタクシーで来た。
デカイトランクと鳥籠持って駅まで歩くのは辛いからな。


駅に着いたらトランクと鳥籠をカートに乗せ、ホームに出て9番線を目指す。
汽車は11時発だが、念のために1時間前に着いたのに辺りには俺と同じようにカートにデカイトランクや鳥籠などを乗せてる奴等がいる。
周囲からは「何かのパレードか?」という風に見られている。
こんな視線にさらされるのは嫌だからやや早足で向かい、9番線と10番線の間の柵に着いた。
しかし本当に通れるのか不安だったから先ずは様子を見る。
丁度良い事に先輩と思わしき男性が接近してたので道を譲る。
すると先輩は「あぁ」と頷いて先にいった。
どうやら俺が新入生だと分かったらしい。
しかし先輩はその事について何も言わず、少し小走りをして柵に向かい、そのまま通りすぎた。
分かりやすいように見せてくれたようだ。
良い先輩だ。
とりあえず通れる事には間違い無いらしいので俺もカートを押しながら小走りで柵に突っ込む。
壁が接近して思わず止まりたくなるが、そのまま壁に突撃した。
すると何も抵抗が無いように壁をすり抜け、ホームに出た。
目の前には紅色の蒸気機関車が止まっていて、乗客がそこそこいた。
原作より早いからまだあんまり人はいないらしい。
ホームの案内板には『ホグワーツ特急11時発』と書いてあり、改札口には9と4分の3と書いてある。
映画と同じでちょっと感動物だが、そのまま突っ立っても無意味だから汽車に乗る。
先頭付近は混むだろうから後方のまだガラガラの車両に乗り込むために重いトランクを持ち上げた。
原作ではあまりの重さに1人では無理だったが、俺の荷物は必要最低限しか入ってないからそれほど重くなく、1人で問題無い。
後方はガラガラなので適当なコンパートメントに入り、トランクを押し込む。
後は出発まで待つだけだ。



 1時間後、発車時刻になると辺りは見送りの家族でホームは一杯だ。
周りのコンパートメントも一杯になってるが何故か俺のコンパートメントには誰も入ろうとしない。
何故だろうか……。
まぁ1人の方良いから別に良いがな。

汽車は時刻通り発車し、窓の風景がホームから田舎に変わった。
到着までどれぐらいかかるだろうか。
そう思っていたら初めてコンパートメントの扉が開き、赤毛の少年、ロンがオドオドとしながら
「ねぇ…、ここ…空いてる?」
俺の向かいの席を震える指で指す。
何をそんなに怖がってるんだ?
「他はどこもいっぱいなんだ」
涙目になりながら訴えてくる。
何かの罰ゲームのような雰囲気だがあえてそこは触れず
「あぁ、構わない」
と答えた。
俺の了解を取ったのでロンは席に腰掛けた、俺をチラ見したかと思うと直ぐに窓に目をやる。
そして互いに無言なので嫌な空気が蔓延する。


しばらくはそんな空気だったが、時期にロンが何か言いたげに口を開いたり閉じたりし、そして遂に
「僕…ロン。…ロン・ウィーズリーって言うんだ」
恐々とだが自己紹介をしてきた。
「俺はハリー。ハリー・ポッターだ」
俺が自己紹介に応えるとロンはビックリしたように目を見開き
「!?……じゃぁ、君、そうなの?」
「? 何が」
「だから、その……例の傷跡」
いきなり何かと思ったが、あぁそれ? と額を上げて傷跡を見せた。
「うわぁ……スゲェ」
ロンは純粋に驚いて見ていた。
俺が額を下げるとロンは気まずいように顔を伏せ、また窓の方に顔を向けた。



 またしばらく無言のまま12時半頃になると、通路からガチャガチャと大きな音がして、えくぼが特徴的なオバサンが笑顔でコンパートメントを開けた。
「車内販売よ。何かいりませんか?」
とりあえず時間潰しに何か買おうと俺はカートの中身を見るために立ち上がるが、ロンは耳元を赤らめて「僕はいい……自分のがあるから」とサンドイッチを見せた。
俺はカートを見るが、乗ってるのはお菓子ばかり。
飲み物はかぼちゃジュースしかない。
何ともバリエーションの無さだと思ったが昼飯代わりに大鍋ケーキと蛙チョコレート、かぼちゃジュース、ドルーブルの風船ガムを買った。
すると俺の買い物姿を見てロンが何とも羨ましいという様子で見てくる。
このままホグワーツに着くまで無言と更に羨望の眼差しの時間が過ぎるのはヤダから
「何か欲しいのか?」
ロンに尋ねる。
するとロンは慌てたように手を振り
「え…いや、いいよ!
それに……僕お金無いし」
落ち込んでしまった。
「なら奢ってやるよ。
何が欲しいんだ?」
「でも……」
「このまま嫌な雰囲気は耐えられん。
奢ってやると言ってるんだから奢られろ」
俺の言葉にロンは少しずつ顔を上げ
「じゃあ」
と色々注文しやがった。
かぼちゃパイにバーディ・ボッヅの百味ビーンズ、杖型甘草あめ、大鍋ケーキに蛙チョコレートを山ほど。
こいつ……買えとは言ったが、ここまで買うか?
俺のと合わせて合計銀貨13シックルという金額だ。
お菓子の値段じゃねぇよ。
しかし奢ると言ったから仕方なく13シックルを支払った。
「うわー、君ってお金持ちなんだね」
ロンがお菓子の山を持ちながら羨ましそうに言う。
「そういうお前は随分買ったな」
自分とロンの買った物を見比べて言う。
「う……ごめん。普段こんなに買う機会無いからつい……」
ロンは申し訳無さそうに項垂れる。
しかしお菓子の山は抱いたまま。
「まぁ…俺が奢ると言ったんだから別に良いが、そんなに沢山買って食えるのか?」
「うん大丈夫。それに食べきれなくても持ち帰るよ」
そう言ってロンはパイやらケーキを貪り始めた。
それを見て俺も食べ始める。
お菓子だけの昼食という不健康極まりないが、ロンのいる前でコピーは使えないので食べるしかない。


大鍋ケーキを食べ終わった後に蛙チョコレートの箱を手に取る。
映画ではチョコに魔法がかけられていて逃げるが、原作では無かった。
どっち何だろうか、と開けてみたら普通に蛙の形をしたチョコレートとカードが入っているだけだった。
原作と同じか、と蛙チョコを食いながらカードを見てみたらダンブルドアだった。
「ねぇ、何が出た?
僕アグリッパとプトレマイオスがまだ無いんだ」
「ダンブルドアだった」
カードを見せたらロンは「何だダンブルドアか」と残念そうにしながら自分の蛙チョコレートを開け始めた。
かなりの数を買ったから当たるかも知れないとロンは期待を込めて開け続けたが、出たのは全部ダブりだったのかガックリしていた。
ロンはダブりカードを指して「いる?」と聞いて来たが「いらない」と断る。
小中学生の時は俺もハマった事があるが、今更欲しいとは思わない。



 お菓子のせいかかなり和やかな雰囲気になり、互いの事を話した。
「ふーん、君ってマグルと暮らしてたんだ」
「あぁ、初めは親戚に預けられたけど俺以外みんな死んでしまったから後は孤児院暮らし」
「あ、ごめん……」
「いや別に良いよ。
親戚の家より孤児院の方が暮らしやすいし」
「そうなの?」
「親戚は俺が魔法使いだって分かってたから怖がって物置に閉じ込めてたし、ロクな食べ物も与えられなかった」
「…大変だったんだね」
「まぁな。でも孤児院に移ってからはかなり楽になったよ。
孤児院は俺が魔法使いなんて知らないから普通に扱ってくれたし、食い物は不味いけど自由があるから全然良い」
「そうなんだ…」
「お前はどうなんだ?」
「僕? 僕は七人兄弟の六番目。
いっつも僕にくれるのはお下がりだからなんにも新しい物が貰えないんだ。
僕の制服のローブはビルのお古だし、杖はチャーリーのだし、ペットだってパーシーのお下がりのねずみを貰ったんだよ」
ロンは上着のポケットに手を突っ込んで太ったネズミを引っ張り出した。
しかしネズミはそれでもグッスリ眠っている。
ピーター・ペティグリューだ。
何とも11年もネズミに化け続けているというのはスゲェな。
とっとと逃げれば良いのに。
まぁ人間に飼われてた方が餌の心配をしなくて済むから悪くは無いのか?
「スキャバーズって名前だけど、役立たずなんだ。寝てばっかりいるし。
パーシーは監督生になったからパパにふくろうを買ってもらった。だけど、僕んちはそれ以上の余裕が……だから僕にはお下がりのスキャバーズさ」
恥ずかしそうだが、俺の話を先に聞いたから原作程ではない。
少なくとも家族がいる分、孤児よりは上だからな。



 車窓から見える景色が田舎風景から森や曲がりくねった川など荒涼とした風景に変わった頃、コンパートメントをノックして丸顔のガキが泣きべそをかきながら入ってきた。
ネビル・ロングボトムだ。
「ごめんね。僕のヒキガエル見かけなかった?」
俺もロンも知らないので首を横に振ると、ネビルは泣き出した。
「いなくなっちゃった。僕から逃げてばっかりいるんだ!」
非常にウザいが絡むのも面倒なんで「そのうち見つかるさ」と適当に言っとく。
「うん。もし見かけたら……」
ネビルは最後まで言わずに出ていった。
「どうしてそんなこと気にするかなぁ。僕がヒキガエルなんか持ってたらなるべく早くなくしちゃいたいけどな。
もっとも、僕だってスキャバーズを持ってきたんだから人のことは言えないけどね」
ペティグリューは未だにロンの膝の上でグーグー眠り続けている。
「死んでたってきっと見分けがつかないよ」
うんざりした口調で言うが、ペティグリューは結構強い。
死の呪文を使えるからそれなりの戦力にはなる。
まぁネズミのままじゃ無意味だけど。
「昨日少しは面白くしてやろうと思って黄色に変えようとしたんだ。でも呪文が効かなかった。やって見せようか――見てて……」
リクエストしてないのにロンはトランクを引っ掻き回し、くたびれたような杖を取り出した。
あちこちボロボロと欠けていて、端から何やら白いキラキラする物がのぞいている。
「ユニコーンのたてがみがはみ出してるけど。まぁいいか」
いや、良くないと思う。
しかしロンは構わず杖を振り上げた。
しかしその時またコンパートメントの扉が開いた。
今度はノック無し。
ハーマイオニーだ。
「誰かヒキガエルを見なかった? ネビルのがいなくなったの」
何故か威張った言い方をする。
こりゃ確実に友達いないな。
「見なかったって、さっきそう言ったよ」

ロンが答えるが、ハーマイオニーは無視して
「あら、魔法かけるの? それじゃあ見せてもらうわ」
何故か席に座り込んだ。
ロンは少し唖然とした後「あー……いいよ」少し咳払いをして
「お日さま、雛菊、溶ろけたバター。デブで間抜けなねずみを黄色に変えよ」
杖を振ったが何も起こらず、ペティグリューは相変わらず眠っている。
「その呪文間違ってないの?」
ハーマイオニーが小馬鹿にしたように言う。
「まぁ、あんまりうまくいかなかったわね。私も練習のつもりで簡単か呪文を試してみたことがあるけど、みんなうまくいったわ。私の家族に魔法族はいないの。だから手紙をもらった時は驚いたわ。でももちろんうれしかったわ。だって最高の魔法学校だって聞いているもの……教科書はもちろん全部暗記したわ。それだけで足りるといいんだけど……私はハーマイオニー・グレンジャー。あなた方は」
よくそんなに噛まずに一気に言えるな。
ていうかよく信じたなあの手紙。
普通に暮らしてたなら間違いなくイタズラとしか考えない筈。
「僕、ロン・ウィーズリー」
「俺はハリー・ポッター」
唖然としながらロンは答えた。
ちなみに俺は途中から聞き流してた。
「ほんとに? 私、もちろんあなたのこと全部知ってるわ。
参考書を二、三冊読んだの。あなたのこと「近代魔法史」「黒魔術の栄枯盛衰」「二十世紀の魔法大事件」なんかに出てるわ」
「あぁ、知ってる」
コピーした知識の中に含まれてたからな。
ロンは驚いてるが、ハーマイオニーは当たり前のように頷き
「二人とも、どこの寮に入るかわかってる?私、いろんな人に聞いて調べたけど、グリフィンドールに入りたいわ。絶対一番いいみたい。ダンブルドアもそこ出身だって聞いたわ。でもレイブンクローも悪くないかもね。
……とにかく、もう行くわ。ネビルのヒキガエルを探さなきゃ。二人とも着替えた方がいいわ。もうすぐ着くはずだから」
言いたい事だけを言ってハーマイオニーは出ていった。
「どの寮でもいいけど、あの子のいないとこがいいな」
ロンのセリフに「そうだな」と同調した。
引っ張って欲しいタイプの男には良いだろうが、俺とはまず合わない。



 原作と違って寮やクィディッチの話はせず、ハーマイオニーの忠告通りに黒い長いローブに着替えた。
丁度着替え終わった時にまた来客が来た。
ドラコだ。
何時も通りクラッブとゴイルを引き連れて芝居がかったセリフを言う。
「ほんとかい? このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって、汽車の中じゃその話で持ちきりなんだけど。
それじゃ、君なのか?」
「確かに俺はハリー・ポッターだが」
お前等は? という感じに見る。
「あぁ、まずこいつはクラッブで、こっちがゴイル。
そして僕がマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」
悠々と自己紹介するが、ロンは何かがツボに入ったのかクスクス笑うが、誤魔化すように軽く咳払いする。
しかしドラコは気付いたのか
「僕の名前が変だとでも言うのかい?
君が誰だかは聞く必要もないね。パパが言ってたよ。ウィーズリー家はみんな赤毛で、そばかすで、育てきれないほどたくさん子供がいるってね」
確かにそれは言えてるな。
子供の数がせめて半分ぐらいだったらまだマシな生活が送れただろうに。
「ポッター君。そのうち家柄の良い魔法使いとそうでないのとが分かってくるよ。間違ったのとは付き合わないことだね。
そのへんは僕が教えてあげよう」
ドラコが手を差し出して来た。
原作同様に突っぱねても良いんだが、それはスリザリン以外の寮に入る場合だ。
俺の性格を考えるとまずグリフィンドールとハッフルパフは無理。
レイブンクローも怪しいからほぼ確実にスリザリンに決まる。
だったらスリザリンで大きな派閥を形成し、家の格も高いドラコと関係を悪くするメリットは無い。
「機会があったらよろしく」
握手を返した。
ロンは「信じられない」という顔をしているが、ドラコは満足気に笑い。
「では学校で」
上機嫌そうに子分を従えコンパートメントを出ていった。
クラッブとゴイルはロンのお菓子を物欲しそうに見ていたが、ボスのドラコが出ていくので一緒に出ていくしかない。


ドラコが出ていったので座席に座ると、正面からロンが睨んで来た。
「何だ?」
「何であんな奴と握手なんかするの?
パパに聞いたけど、マルフォイ家は『例のあの人』が消えた時、真っ先にこっち側に戻ってきた家族の一つなんだって。
魔法をかけられてたって言ったんだけどパパは信じないって言ってた。
マルフォイの父親なら闇の陣営に味方するのに特別な口実はいらなかったろうって」
非難するかのようにロンは言う。
いや、実際非難している。
まぁマルフォイ家はイメージ悪すぎるし、事実良い一族とは言い難いからな。
「ああいう奴等は適当に相手しとくのが一番だ。
下手に反論すると必ず足を引っ張って来たり面倒事を起こす。
嫌いだからと言って拒絶するのではなく、表面上は仲良くする。それが一番賢い付き合い方だ」
「……」
俺の言ってる事が正論だと理解出来るが、理解したくはない。という若者特有の潔癖症のせいでロンは納得出来ないでいる。
「ま、ロンも何時か自然に理解出来るようになる。
大人になったら嫌でも分からせられる」
「……そうかな?」
「あぁ、ロンの親父さんだって嫌いな奴を目の前にしてもとりあえず相手の前では露骨に嫌な顔はしないだろ?」
「…うん」
自分の父親がどうしてたかを思い出して肯定する。
「そんなもんだ。
それが一番自分も相手も傷付かずに済むから遅かれ早かれ必ず覚える。
だからあんまり気にするな」
そう言われても気にしてしまう年頃だからロンはイマイチ納得出来ない。
「それよりもうすぐホグワーツに着くけど、そのお菓子はどうするんだ?」
そう言われてロンは食べかけのお菓子の存在を思い出した。
蛙チョコレートなどは良いが、まだ食べかけのパイが残ってた。
徐々に汽車は減速してきた事からもうすぐ駅に着く事が分かる。
別に残しても良いんだが、貧乏性のせいかパイを無理矢理口に突っ込んでいく。
『あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いていってください』
アナウンスを聞いてロンは残ったお菓子を急いでポケットに詰め込む。
その光景を見ながら俺は予め準備出来ていたので悠々と通路にあふれる人の群れに加わった。
その直後になんとか食べ終わったロンも群れに加わった。


いよいよホグワーツか。
ここから俺の死亡フラグは乱立しまくる。
何としてでもフラグを折らなくては。
どんな犠牲が出ようとも。

汽車が完全に停止した。


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