5 ダイアゴン横丁
1991年7月
小学校を卒業。
ついに原作の年だ。
つまりこれから苦難とトラブルの連続である魔法世界に行かなくてはならない。
出来るなら行きたくない。
別に魔法なんか使えなくても問題無いし、このまま平和を謳歌したい。
しかしそれでは何れヴォルデモートが肉体を復活させるために俺を拐い、殺すのは目に見えている。
クィレルがアルバニアの森に行かなければ多少時間は稼げただろうが、やはり何れは復活する。
分霊箱を全て破壊しない限りは完全には死なないからな。
7月になり、無意味だが来年入学予定の中学校の制服を試着。
どうせ着ることも無いのだから必要無いと言いたいが、今言った所でジョークとしか受け入れられないから仕方なく着とく。
サイズ合わせなどをして注文し、後日届いた。
後は入学まで待つばかり、という時に遂にあの手紙が届いた。
職員はかなり物珍しそうに手紙を渡してくれた。
それもそうだろう。
あの出来事以来、学校では完全に孤立し、友達など皆無。
クリスマスカードも貰った事も無い俺に手紙が届いたら珍しがっても不思議は無い。
手紙を受け取ったら自分の部屋に戻り、改めて手紙を見る。
今時見たことの無い羊皮紙の分厚い封筒で、宛名はエメラルド色のインクで書かれている。
なんと宛名には部屋番号すら書いてある。封筒を開けると数枚の羊皮紙の紙が入っていた。
『ホグワーツ魔法魔術学校
校長 アルバス・ダンブルドア
マーリン勲章、勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長、最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会員』
とんでもない長い肩書きだな。
まぁイギリス好みなのか?
『親愛なるポッター殿
このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに教材のリストを同封いたします。
新学期は九月一日に始まります。七月三十一日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。
敬具
副校長ミネルバ・マクゴナガル』
知らない人間が受け取ったらイタズラか新手の詐欺かと勘違いしそうだな。
「ふくろう便ってどうやって出すんだよ……。
そこらのふくろうを捕まえれば良いのか?」
現在魔法界のふくろうなんて所有してないからどうしようも無い。
原作みたいにハグリッドを待てば良いのか?
どうしようか悩んでいるとコツ、コツという何かが窓を叩く音が聞こえた。
窓を見ると一羽のふくろうが開いている窓に立っていた。
「……もしかしてお前に任せれば良いのか?」
と聞くと通常ならあり得ないが人間の言葉が理解出来るらしく頷く。
成る程、マグル育ちの魔法使いはふくろうなんて所有してないからこうやって手紙を出させるのか。
早速返信用の手紙を書いた。
残念ながら羊皮紙なんか無いからノートの切れ端だが「お手紙ありがとうございます。
是非入学させて頂きます」と書いたメモを封筒状に折ってノリで止めた封筒に入れてふくろうに差し出した。
するとふくろうはその封筒をくわえ、飛び立って行った。
これで入学は出来るが、後はどうすれば良いんだ?
封筒から教科書や教材のリストを広げる。
『ホグワーツ魔法魔術学校
制服
一年生は次の物が必要です。
一、普段着のローブ 三着(黒)
二、普段着の三角帽(黒) 一個 昼用
三、安全手袋(ドラゴンの革またはそれに類するもの) 一組
四、冬用マント 一着(黒。銀ボタン)
衣類にはすべて名前をつけておくこと』
にしても何でローブやマントが必要何だろう?
防御魔法とかが付与されてるなら分かるが、ただの布切れを羽織るなんて邪魔なだけ。
だったら普通の制服とかで良くね?
ローブやマントなんて動きにくいだけで機能性に欠ける。
まぁ伝統を守るために着させるんだろうな。
じゃなきゃ今時着る意味が無い。
こんなのを普段から着てるからマグル界で浮くんだ。
次は教科書のリストだ。
『教科書
全生徒は次の本を各一冊準備すること。
「基本呪文集(一学年用)」 ミランダ・コズホーク著
「魔法史」 バチルダ・バグショット著
「魔法論」 アドルバート・ワフリング著
「変身術入門」 エメリック・スィッチ著
「薬草ときのこ一〇〇〇種」 フィリダ・スポア著
「魔法薬調合法」 アージニス・ジガー著
「闇の力――護身術入門」 クエンティン・トリンブル著』
『その他学用品
杖(一)
大鍋(錫製、標準2型)(一)
ガラス製またはクリスタル製の薬瓶(一組)
望遠鏡(一)
真鍮製ものさし(一)
ふくろう、または猫、またはヒキガエルを持ってきてもよい
一年生は個人用箒の持参は許されていないことを、保護者はご確認ください』
これまたかなりの数だな。
でもなんで猫やふくろうを持ってきても良いのだろう?
ふくろうは郵便物を運ぶのに必要だから分かるが、猫やヒキガエルになんの意味が?
実験動物として使うのか?
それよりも、どうやって揃えれば良いんだ。
買える場所はダイアゴン横丁しか分からないけと、どうやって行けば良いか分からない。
ダイアゴン横丁に行くにはロンドンの漏れ鍋というパブに行く必要があるが、漏れ鍋が何処にあるのかが分からない。
まだネットも普及していない時代で名前だけで場所を探すのは難しい。
ていうかネットに情報が出るのもあり得ないだろうが。
翌日、どうやって漏れ鍋を探そうか悩んでいたら、孤児院にとんでもない訪問者が現れた。
身長が2mを軽く越え、体重も150kgを越えているだろう大柄なんていう言葉では足りない巨人。
ハグリッドが現れた。
原作みたいにドアを吹っ飛ばす事は無かったが、とんでもないノック音が孤児院中に鳴り響き、周囲の窓ガラスが割れた。
ハグリッドは怖がる職員に「ハリーポッターはいるか?」と聞いたので、職員は震えながら俺の部屋に案内した。
いきなりの轟音に「まさか…」と半ば予想出来ていたのでハグリッドを見ても驚かなかった。
「オーッ、ハリーだ!」
ハグリッドは嬉しそうに笑うが、後ろにいる職員は「お前の知り合いか?」と目で尋ねてきたので頷き、「案内ありがとうございます」と言ってドアを閉めた。
俺の部屋は個室なのでそれほど広くなく、ハグリッドが入っただけでとんでもなく狭く感じる。
「最後にお前さんを見た時にゃ、まだほんの赤ん坊だったなぁ。あんた父さんにそっくりだ。
でも目は母さんの目だなぁ」
ハグリッドは懐かしそうに俺を見ながら言う。
別に会ったことさえ無い親と似てるって言われてもなぁ。
「はぁ…そうですか。
…えぇっと、どなたなんでしょうか?」
まだ名前を聞いてないから聞かないとおかしいだろう。
「おぉ、まだ自己紹介をしとらんかった。
俺はルビウス・ハグリッド。ホグワーツの鍵と領地を守る番人だ」
「ホグワーツ……とはこの学校の事ですか?」
俺は手紙を封筒を持って聞く。
「さよう。
……お前さんホグワーツの事は知っとるか?」
ここら辺が原作とは違うな。
まぁこの世界の俺は孤児だからな。
ホグワーツや魔法の事を聞いてなくても不思議は無い。
「いえ、昨日初めてこの手紙で知りました。
……私の手紙は届きましたか?」
「もちろん、お前さんの手紙はちゃんとホグワーツに届いた。
今日俺が来たのは必要な物を買うためだ。
買う場所を知らんだろう?」
「はい、教科書や大鍋とかをどこで買えば良いのか分からなかったのでありがたいです。
えーーと、ハグリッドさんでしたよね?」
「ハグリッドって呼んでおくれ。みんなそう呼ぶんだ」
「はい、分かりました。
……それと、まだ聞きたい事があるんですが、良いでしょうか?」
「もちろん構わん。それより敬語なんか止めろ。子供らしく無い」
ハグリッドがそう言ってくれるので止める。
「じゃあ早速聞きたいんだけどこの手紙を読む限り、ホグワーツって魔法学校なのか?」
「そうだ」
「ふーん、にしても何で俺が魔法使いなんだ?
特に不思議な力なんて無いし。
それとももしかして両親が魔法使いだったとか?」
するとハグリッドは悲しげな目をしながら
「そうだ。ハリー、お前さんの両親は魔法使いだった。
それも飛びきり優秀な」
ハグリッドは原作通り両親やヴォルデモートの話をし出した。
しかし原作と何ら変わらない説明だから半分以上聞いてない。
ただたまに相づちして聞いてるフリをした。
「……そうだったんだ」
まるでショックを受けたかのような反応をしとく。
実際は長い話にうんざりしただけだが。
しかしそんな事は知らないハグリッドは哀れそうな顔をして
「ハリーが知らんかったのも無理は無い。
ダンブルドア先生がダーズリーにだいたいの事情を書いた手紙を渡しておいたが、ダーズリーはお前さんが3歳の時に事故で死んじまい、お前さんはその後この孤児院で暮らさなくてはならなかった。
ダーズリーから魔法の事について聞く前に孤児になっちまったから魔法界の事を知らなくても無理は無い」
いや、例え死んでなくても間違いなく黙ってただろう。
それどころか今より酷い生活を強いただろうし。
その後、ハグリッドを連れて院長に入学予定だった学校には行かず、ホグワーツに行くことにしたと伝えた。
普段ならふざけるなとでも言われて終わりだろうが、横にとんでもない大男のハグリッドが控え、そのハグリッドからも頼まれたらNOとは言えない。
代わりに「その学校に行くのなら学費やその他かかる費用は払えない」と経営者らしい事だけは言った。
まぁどこか分からない学校に勝手に入るならその学費なんか払えないよな。
それに聞く限り公立ではなく私立だから学費はかなり高いと思うし。
完全に退院すれば後腐れは無くなるが、一応保護者代わりは必要なので退院する訳ではなく、学校の寄宿舎に入るからほとんど使わないが部屋は残しておいてくれと頼んどいた。
孤児院を出て駅に向かって歩くが、道行く人々はこちらをジロジロ見る。
こんなバカデカイ人間? を見たら誰だって振り返る。
これが現代だったら写メされ放題だな。
幸いにもこの時代にはまだ写メどころか携帯自体があまり普及してないからそんなことは無い。
駅に着き、ロンドン行きの電車に乗りたいが、ハグリッドは切符の買い方が分からないので金を俺に渡して「買ってきてくれ」と頼んだ。
切符は無事二人分買えたが、改札の幅がハグリッドには狭すぎて途中で詰まった。
少し時間がかかったがなんとか改札を抜け、電車に乗れた。
ハグリッドは二人分の席を占領して、暇潰しなのかカナリア色の何かを編んでいる。
セーター? いや、サーカスのテントにしか見えない。
「ハリー、手紙は持っとるか?」
何かを編みながらハグリッドが聞いてきた。
「あぁ、ちゃんとね」
ハグリッドに手紙を見せる。
「それよりもさぁ、買わなきゃいけないのが一杯書いてあるけど、金はどうするの?
俺孤児だから金無いよ? 院長だって金は出さないって言ってたし」
これまた知ってるけど聞いとく。
「そんなことは心配いらん。
父さん母さんがお前さんになんにも残していかなかったと思うのか?」
「遺産があるの?」
「そうとも、ちゃんと銀行に預けてある」
「そう、なら良かった。
ここまで来て金が無いから無理とか言ったら笑えないし」
和やかな雰囲気のままロンドンに着いた。
ハグリッドは行き先を知っているので迷わず進むが、やはり障害はある。
またもや改札で詰まり、ハグリッドの体重のせいかエスカレーターは故障して止まった。
かといってエレベーターに乗るのは不安だから止まったエスカレーターを普通に上るしかない。
しばらく歩き、ハグリッドは立ち止まった。
「ここだ、『漏れ鍋』有名なところだ」
ちっぽけな薄汚れたこのパブが有名とはとても思えない。
ハグリッドの案内が無かったなら気付きもしなかっただろう。
マグル避けの魔法がかけられているから道行く人々は漏れ鍋に全く目もくれない。
中に入ると外見のイメージ通りの暗くてみすぼらしい雰囲気で、数人客がいた。
「大将、いつものやつかい?」
バーテンが親しげにハグリッドに声をかける。
「トム、だめなんだ。ホグワーツの仕事中でね」
ハグリッドが話しながら俺の背中を叩く。地味に痛い。
「なんと。こちらが……いやこの方が……」
バーテンが震えながら俺を見る。
すると店内の話し声が消えた。
「やれ嬉しや!」
バーテンがカウンターから出てきて俺の手を握る。
「お帰りなさい。ポッターさん。本当にようこそお帰りで」
涙を浮かべながら手を握られたので気持ち悪いが、そんな感情は見せずに「ありがとうございます」と握り返す。
するとバーテンは嬉しそうに何度も何度も握り返してくる。
しばらくは選挙のように何度も何度も握手をする。
ようやく全員と握手が終わったのでハグリッドが連れ出してくれた。
「ほら、言った通りだろ?
お前さんは有名だって」
ハグリッドが嬉しそうに言う。
原作と違ってクィレルがいなかったがな。
やっぱり日にちが違うからな。
俺の誕生日まだだし。
ハグリッドは漏れ鍋の中庭のゴミ箱がある壁の前に立ち
「三つ上がって……横に二つ……」
ブツブツ呟き
「よしと、ハリー下がってろよ」
ハグリッドは傘の先で壁を3回叩いた。
成る程、そこが開くスイッチか。
すると壁が映画みたいに動き、アーチ型の入口が出来た。
生で見たので驚いていたら
「ダイアゴン横丁にようこそ」
ハグリッドが笑いながら宣言する。
アーチをくぐり抜けるとアーチは見るみる内に縮み、ただの壁に戻った。
ダイアゴン横丁は商店街のように店が建ち並び、買い物客で溢れていた。
聞こえてくるのは「ドラゴンのきも、三十グラムが十七シックルですって。ばがばかしい……」という何処の国にもありそうな会話だ。
そばの店を見てみると、大鍋が積み上げられて山を形成していた。
セールじゃねぇんだからこの陳列はどうかと思うがな。
看板には「鍋屋―大小いろいろあります―銅、真鍮、錫、銀―自動かき混ぜ鍋―折り畳み式」と書いてある。
「一つ買わにゃならんが、まずは金を取ってこんとな」
ハグリッドは進む。
それについていくが、色々な物を見てコピーしていく。
非魔法界(マグル界)ではお目にかかれ無いのが沢山あるからコピーしとく。
鍋屋の他にも「イーロップふくろう百貨店―森ふくろう、このはずく、めんふくろう、茶ふくろう、白ふくろう」というふくろう屋やほうき屋、マント屋、望遠鏡屋、本屋、魔法薬屋など様々あった。
そして小さな店が建ち並ぶ中、一際大きくそびえ立つ真っ白な建物、グリンゴッツが現れた。
磨き上げられたブロンズの観音開きの扉の両脇に真紅と金色の制服を着た小さな生き物、ゴブリンがいた。
二人が入口に進むとゴブリンがお辞儀をし、中にはもう一つ扉があった。
今度は銀色で言葉が刻まれている。
『見知らぬ者よ 入るがよい
欲のむくいを 知るがよい
奪うばかりで 稼がぬものは
やがてはつけを 払うべし
おのれのものに あらざる宝
わが床下に 求める者よ
盗人よ 気をつけよ
宝のほかに 潜むものあり』
意味深な詞が書いてあった。
「ここから盗もうなんて狂気の沙汰だわい」
ハグリッドが詞を見ながら言う。
銀色の扉が自動ドアのように開き、左右に詰めるゴブリンがお辞儀をする。
グリンゴッツの中は広々とした大理石のホールで、百人は超えるゴブリンが細長いカウンターの向こう側で客の身長に合わせて高くした椅子に座って帳簿に書き込んだり、真鍮の秤でコインの重さを計ったり、片眼鏡で宝石を鑑定している。
ハグリッドが空いているカウンターに近付き
「おはよう、ハリーポッターさんの金庫から金を取りに来たんだが」
受付のゴブリンに話しかける。
ゴブリンは帳簿から顔を上げて
「鍵はお持ちでいらっしゃいますか?」
「どっかにあるはずだが」
ゴブリンの質問にハグリッドはポケットをひっくり返し、中身をカウンターに出し始めた。
嫌がらせのようにゴミとしか思えない物をゴブリンの帳簿の上に乗せていく。
それを見たゴブリンの鼻にシワが寄る。
そんな事は知らないハグリッドはポケットを探り、「あった」とゴブリンに黄金の鍵をを渡す。
ゴブリンは受け取り、慎重に調べてから「承知いたしました」と頷く。
「それと、ダンブルドア教授からの手紙を預かってきとる」
ハグリッドは恭しそうに手紙を出し
「七一三番金庫にある、例の物についてだが」
手紙を渡した。
ゴブリンは手紙を丁寧に読むと「了解しました」とハグリッドに返した。
「誰かに両方の金庫へ案内させましょう。グリップフック!」
カウンターのゴブリンはグリップフックという案内役のゴブリンを呼んだ。
呼ばれたグリップフックの案内で金庫に向かう。
「七一三番金庫の例の物って何?」
「それは言えん、ホグワーツの仕事で極秘なんでな。ダンブルドアは俺を信頼してくださる。お前さんにしゃべったりしたら俺がクビになるだけではすまんよ」
確かに賢者の石だもんな。
人間界でも有名な秘宝。不老不死を与える命の水を生み出す石。
欲しがる奴等はごまんといる。
映画でも有名だが、あの金庫に行くまでのトロッコを生で乗ってみた感想だが、思ったより楽しかった。
ジェットコースターが好きな奴なら爽快感を得られるだろう。
しかしハグリッドはジェットコースターはお気に召さないのか顔を真っ青にさせて今にも吐きそうだ。
小さな扉の前でトロッコはやっと止まり、全員降りた。
しかしハグリッドは膝を震わせ、よろよろとしながら壁にもたれ掛かった。
そんなのは見向きもせずにグリップフックは鍵で扉を開けた。
何かの罠なのか緑色の煙がモクモクと吹き出したがすぐに消え、金庫の中身が見えた。
中には金貨や銀貨、銅貨が山のように積まれていた。まるで映画の財宝発見だな。
「みーんなお前さんのだ」
ようやく復活したのかハグリッドは笑顔で俺に言う。
遺産を残してくれて助かったよ。どこぞの漫画の親と違ってちゃんと遺産を残してくれているからかなりマシだ。
出来るならこれで主人公じゃなかったら最高なんだがな。
それにしてもハリーの両親って何やってた人なんだろう? これだけの財産を築くにはかなりの地位か事業を興してなきゃ不可能だ。
それとも先祖代々からの財産とか?
とりあえず今必要な分だけバッグに詰める。
にしても何で紙幣にしないんだろう?
硬貨ではかさばるし重いから持ち運びがかなり不便だ。
魔法技術さえ用いれば偽造出来ない紙幣だって発行出来るだろうに。
「金貨はガリオンで銀貨がシックル、銅貨がクヌートだ。
十七シックルが一ガリオン、一シックルは二十九クヌートだ。簡単だろうが」
いや、かなり面倒くさい。
なんでガリオンとシックルの数が違うんだよ。十進法にすれば簡単なのに、何で更に十七と二十九に分けるんだよ。
疑問は尽きないが言っても不毛なので黙り、カバンに金を詰める。
そしてようやく詰め終わり
「よーしと、これで二、三学期分は大丈夫だろう。
残りはここにちゃーんとしまっといてやるからな」
金庫から出て、グリップフックが鍵を閉め直す。
ここでハグリッドが
「次は七一三番金庫を頼む。
ところでもうちーっとゆっくり行けんか?」
あの感覚をもう一同味わうのはキツイのかハグリッドは減速を要求するが
「速度は一定となっております」
無情にも却下された。
あの後賢者を石を取り、グリンゴッツを出た。
やはりハグリッドはかなり辛そうで、うめき声を上げていたが今は復活して元気に歩いている。
ちなみに硬貨が詰まったクソ重いバッグはハグリッドに持って貰った。
とてもじゃないが重くて疲れる。
「制服を買った方がいいな」
ハグリッドは「マダムマルキンの洋装店――普段着から式服まで」の看板をあごで指す。
「なぁハリー。漏れ鍋でちょっとだけ元気薬をひっかけて来てもいいかな?
グリンゴッツのトロッコにはまいった」
元気にはなったがまだ気持ち悪いのか、酒を飲みたいらしい。
別に制服の採寸にハグリッドはいらないので「いいよ」と答えてひとまず別れ、マダム・マルキンの店に入った。
店の主人であるマダム・マルキンはずんぐりとした体型でまさしくオバサンだ。
「坊っちゃんホグワーツなの?
全部ここで揃いますよ」
言い慣れているのか、まるでセリフを言うようにマダムは喋る。
原作ならここでドラコと遭遇するが、今は原作より前だから誰とも合わずに採寸を終えた。
ハグリッドは酒のせいか復活し、上機嫌でアイス(バニラ)を奢ってくれた。
その後は残りの買い物だ。
羽ペンや羊皮紙をダース単位で買った。
どう考えてもルーズリーフとシャーペンの方が書きやすいが、テストの際にカンニング防止の羽ペンを使わなくてはならないから慣れるしかない。
次は教科書だ。
「フローリシュ・アンド・ブロッツ書店」の棚は天井まで本がぎっしり積み上げられていた。
本好きには好ましく無い環境だな。
本を床の上に平積みにしたり、天井に当たる程に積み上げては本が痛む。
そこらへんは気にしないのか?
それとも本に保護魔法がかけられていて問題無いのか?
この期に一気にコピーしとこう。
本棚を端から端まで見回り、念のために背表紙を触りながら移動する。
それを見たハグリッドが「何をしとるんだ?」と聞いてきたので適当に「本の配置を覚えている」と答えた。
ハグリッドは「はぁ?」みたいな顔をするが、別に止める事は無く、必要な教科書を探しに行った。
とりあえず現時点で陳列されている本のコピーは完了した。
知識だけなら既に卒業生を越えた。
丁度終わった頃にハグリッドがリストに書いてあった教科書を買ってきてくれた。
もう全部コピーしたから必要無いんだが、受け取らないのも変だから「ありがとう」と受け取る。
その後も必要な道具を買うために様々な店にいった。
大鍋は既に指定されているから錫製の標準2型のを買うが、薬瓶一組はクリスタル製の最高級品。
望遠鏡も折り畳める真鍮製の最高級品(純金製のもあったが性能は変わらないので止めた)。
ものさしは指定通りの真鍮製で、目盛りが正確な高いのを。安全手袋はドラゴン革の最高級品。
薬問屋では何が良いのか分からないのでハグリッドに任せた。
ハグリッドが基本的な材料を注文している間に俺は他の商品をコピーしまくる。
一本二十一ガリオンもする銀色のユニコーンの角など通常なら高い物がタダで手に入る。
「あとは杖だけだな……おぉ、そうだ、もうすぐハリーの誕生日だな。
なら誕生祝いを買ってやらなきゃな」
別にいらないがくれるというなら貰っとく。
「ありがとう。誕生日プレゼントなんて孤児院以外で貰ったこと無いや」
これは本当。
学校で孤立している俺の誕生日を祝ってくれる奴はいない。
しかしハグリッドは同情する目をして
「そうか……まぁ俺達はマグル界じゃどうしても浮いちまうからな……」
いや、それはお前だけ。
それにお前は魔法界でも十分浮いてる。
「よしそうだ、動物をやろう。ヒキガエルはだめだ。だいぶ前から流行遅れになっちょる。笑われちまうからな。
猫……猫は俺は好かん。くしゃみが出るんでな。
ふくろうを買ってやろう。子供はみんなふくろうを欲しがるもんだ。
なんちゅったって役に立つ。郵便とかを運んでくれるし」
俺へのプレゼントを買うためにイーロップふくろう百貨店に入った。
中は鳥臭くてハッキリ言って不快。
原作同様白のメンフクロウにしようかと思ったが、俺には合わないので黒の大きなワシミミズクにした。
これなら大型の物も運べるし、長距離移動も可能だ。
性別はオスで、名前はリシュリュー。
大体揃ったので最後の買い物、杖だ。
高級杖メーカーであるオリバンダーの店に来たが、外観は小さくみすぼらしい。
とても高級メーカーには見えない。
魔法使いにとってはどうでも良いのか?
中に入るとどこかで来客を告げるベルが鳴る。
小さな店内に古くさい椅子が一脚だけあり、ハグリッドが座った。
俺は立ちながらオリバンダーを待つ。
「いらっしゃいませ」
突然現れた声にハグリッドは驚き、飛び上がった。
その時古い椅子の足がバキバキという音を立てた。
見た目問題無いが、座ったら壊れるかも。
とりあえずなんだから「こんにちは」と話しかける。
「おぉ、そうじゃ」
オリバンダーは頷き
「そうじゃとも、そうじゃとも。まもなくお目にかかれると思ってましたよ、ハリー・ポッターさん」
自己紹介は不要らしい。
「お母さんと同じ目をしていなさる。あの子がここに来て、最初の杖を買っていったのがほんの昨日のことのようじゃ。
あの杖は二十六センチの長さ。柳の木でできていて、振りやすい、妖精の呪文にはぴったりの杖じゃった」
オリバンダーは話しながら近付いてくる。
全く瞬きをしないので不気味だ。
まるで洗脳状態だな。
「お父さんの方はマホガニーの杖が気に入られてな。二十八センチのよくしなる杖じゃった。どれより力があって変身術には最高じゃ。
いや、父上が気に入ったと言うたが……実はもちろん、杖の方が持ち主の魔法使いを選ぶのじゃよ」
今ではほとんど鼻と鼻がくっつきそうな程に近付いている。
「それで、これが例の……」
オリバンダーは俺の額にある傷跡に触れる。
「悲しいことに、この傷をつけたのも、わしの店で売った杖じゃ。
三十四センチもあってな。イチイの木でできた強力な杖じゃ。とても強いが、間違った者の手に……そう、もしあの杖が世に出て、何をするかわしが知っておればのう……」
面倒だから省く。
どうせ原作と同じだし。
あの後原作同様に28センチ、柊の木に不死鳥の尾羽根の杖を7ガリオンで買った。
夕暮れ近くになった所で買い物が終了し、もと来た道を戻って駅に着いた。
変な形の荷物を沢山抱え、大きなフクロウが入ったカゴを持っているからかなり目立ち、周りが唖然とした目を向けてくる。
電車が来るまで時間があるからハグリッドがハンバーガーを奢ってくれた。
しかしその時にハグリッドが10個以上も注文するもんだからまた目立つ。
お前は普通にしてられないのか?
電車が来たので乗り、クソ重くて量がある荷物を乗せるために座席を3つ独占した。
しかし周りは誰も文句は言わず、ただ俺の荷物を見て驚いている。
「ホグワーツ行きの切符だ」
ドア越しにハグリッドが切符を渡してくれる。
「九月一日――キングス・クロス駅発――全部切符に書いてある。
じゃあなハリー。またすぐ会おう」
ハグリッドが言い終えると発車ベルが鳴ったので座席に座った。
発車の瞬間、荷物が倒れそうになったのでなんとか抑え、乗り切った。
しかし駅に着く毎に慣性の法則で荷物が揺れ、その都度抑えなければならない。
それに新しい客が入ってくる度に驚かれ、「何だこのガキ?」みたいな目で見られた。
かなり長く感じた電車移動もようやく終わり、電車から降りるが、荷物のせいでかなり苦労させられた。
カートに載せてるから移動は出来るが、重いから操作しにくい。
ようやく孤児院に着いた時には夜中だ。
更に孤児院にはエレベーターみたいな便利な物は無いから2階の自室に荷物を運ぶには階段を上らなくてはならない。
2年生以降なら自分の荷物は粗方寮に置いとけるが、1年生は全部を持っていかないといけないから非常に面倒だ。
全部コピーしたから捨てても良いが、中身が中身だから簡単には捨てられない。
何とも面倒な荷物なんだと愚痴りながら階段で運び、何とか全部運び終わった。
疲れたから今日はこのまま寝る。
夕飯はいらないと告げてベッドに直行した。
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