作者:zero未読
とある昼下がり。机の上にずらりと並べられた試験管の中には色とりどりの薬品が揺れていた。彼──ウェイバー・ベルベットの手の中には一本のフラスコ。ウェイバーは慎重に慎重を期してフラスコへと順に薬品を注ぎ込んでいく。
目まぐるしく反応を変える成果にウェイバーは一人、くふふと笑いを漏らす。第三者が見ていればおぞましささえ感じかねない奇異な笑みを浮かべ、なお手を止めない。
ようやく、ようやくだ。コレが完成した暁には、あの憎きエリート講師の鼻を明かしてやれる。以前引き裂かれた論文とは比較にならない程の成果──少なくともウェイバーにとっての──が、もう間も無く完成を見ようとしていた。
そして。最後の薬品を注ぎ込む。
「や……」
目の前には望んだ反応を示すフラスコ。一切の間違いなどなく、ウェイバー・ベルベットは遂に秘薬の調合を成した。
「やったーーーーーーーーーーーーーーーー! おい、見ろよライダー! 今度は成功したんだ! ああ、ここまで長かった。オマエにも感謝してやるよ。珍しくここ数日静かにしていてくれたからな、そのお陰で────」
机からぐるりと振り返ったソコには、居る筈の大男の姿はなかった。部屋の一角に備え付けられたテレビも今は何も映していない。以前であればやれ対戦プレイだ、やれ我が覇道を活目せよと悉く実験の邪魔をしてくれたライダーの姿が、忽然となくなっていた。
「ライダー……?」
ふと、ウェイバーはここ数日間を回想する。実験にのめり込む余りロクに食事すら摂らなかった約一週間。そういえば、あの大男の姿を見たのは朝と夜くらいではなかったか。
今の今まで気にも掛けなかったが、中々おかしい。世界征服の足掛かりだとばかりに没頭していた大戦略を放り出して、あの男は一体何処に行ったのか?
「…………」
一瞬後にはウェイバーは頭を抱えていた。完成した研究成果もいまや眼中にない。彼の頭の中は、あの男が巻き起こすであろう騒動で一杯であった。
「……で、オマエ何してんだよ」
やおら街に繰り出したウェイバーは足早に商店街へと向かった。あの男が好みそうな場所など既に検討が付いており、そうして見つけたときにはまたウェイバーは頭を抱えた。
「おう坊主。久々に口を利いたかと思えば、何をしているとな。見れば判ろう?」
ガハハ、と大笑してライダーはむんずと掴み取った魚をウェイバーの目の前に掲げて見せた。
「バイトだ」
「そりゃ、見ればわかるけどさ……」
がっくりと肩を落としたウェイバー。いつか買い与えた私服の上からでかでかと魚の絵の描かれたエプロンなどを着こなしているライダーの姿を鑑みれば想像は易かった。
「つか、何でそんな事してるんだよ」
「うむ。欲しい物があってな。以前坊主が征服も略奪もするなと言ったであろう? ならば路銀を得る為にはこうして身を窶させねば得られんのだろう、この時代では」
「いや、まあそうだけどさ」
それでも世界の大半を手中に収めた彼の征服王が、こんな何処にでもありそうな魚屋でアルバイトに勤しんでいるなどと誰が思うか。というか、何か格好良くない。ブロードブリッジで交わした尊き忠誠を返せとウェイバーは思った。
だがまあいい。略奪やら征服やらを矢鱈滅多らに行われるよりは幾分健全だ。主にウェイバーの精神的に。どうやら魚屋の親仁も迷惑がっている様子もない事だし、これはこれで良い事なのだろうと呑み込んだ。
「で、オマエ何が欲しいんだ? わざわざバイトまでするって事はそれなりに高い物が欲しいんだろ」
「バイクだ」
「……は?」
「ほれ、以前セイバーに我が戦車が粉微塵にされただろう? 流石にそろそろ不便に感じてきてな。ならばと思い立ったのだ」
あれは良いものだ、などと嘯いて、ライダーは何処から取り出したのかバイクの専門誌などをウェイバーの眼前に嬉々として掲げていた。
「……別にオマエが自分で稼いだ金で何買おうが勝手だけどさ。ソレ、一体幾らすると思ってる? 一ヶ月やそこらバイトして手が届く値段じゃないぞ?」
「……え!?」
ライダーは驚きも露に、雑誌に記載されている値段と面接に当たり提示された金額とを照らし合わせる。それに何故か安堵するライダーを、不可解な心持ちでウェイバーは見つめていた。
「驚かすなよ坊主。全然足りるではないか」
「はぁ!? んなワケあるか!」
ライダーの手から引っ手繰った雑誌を一瞥するウェイバー。その金額は決して安くなどない。この店の時給が一体幾らなのかは定かではないが、恐らく千円にも届かないだろう。毎日朝から晩まで働き詰めても全く足りない。一体ライダーは何を勘違いしているのかと思っていると、
「それがな、坊主。この魚屋の御仁とくれば、時給八百五十万を提示してくれたのだ」
笑い声も高らかに、そんな事をのたまった。
「バイクを買った後は……そうさなぁ、征服への足掛かりの資金としようか。かれこれもう一週間近く経っているからな、賃金もそれなりの額になっておろう。早く来月にならないかなぁ、給料日が待ち遠しいわい」
「…………」
ウェイバーは知っていた。それが日本の古き良き時代のジャパニーズジョークであることを。
おそらくだが、この意外にも異国の文化に高い順応性を見せるライダーの態度が魚屋の親仁は気に入ったのだろう。そこで軽くジョークのつもりで提示した金額を、あろう事かライダーは額面通りに受け取ったに違いない。
ウェイバーの面持ちに何かを感じ取ったのか、ライダーは朗らかな笑顔で確認を試みた。
「なあ親仁。確かにそう言ったよな?」
だってほら、ちょっと離れたところで親仁が震えている。気のいい男であっても、それは身の丈二メートルを超える怪物だ。もし怒りに触れようものならどんな目に合わされるか判ったものではない。
「はぁ……たくっ」
ウェイバーは悪態と共に溜め息をついた。つかざるを得なかった。いや、この段階で事の顛末を知れただけでも良しとしよう。取り返しのつかない状況であったのならば、この大男は本気で征服しかねないのだから。
「そんなに気を落とすなよ。あの人に悪気があったわけじゃないし、そもそも常識で考えれば判る事だろ」
ウェイバーの前を歩くライダーの背からは哀愁が漂ってきている。顛末を説明した後のライダーは無気力化していた。余程バイクに憧れを抱いており、それが手の隙間から零れ落ちていったとあらばウェイバーにもその心情が判らなくもない。が、この男がこれほどまでに落ち込む姿は見ていて気分の良いものじゃないのも確かだった。
「つーか、そんなに欲しいのならバイト続ければいいだろ。汗水流して手に入れた物には代え難い価値があるって、オマエなら知ってるだろ」
「……そうさなぁ。余も与えられた征服などに価値は見出せん。それと同じく、労もなく手に入れた代物では大して愛着も沸かぬ。だけどなぁ……」
「あぁもう! そんなにくよくよするなよこのバカ! オマエは征服王だろう!? ボクの王なんだろう!? ならもうちょっとシャキっとしてろ!!」
バン、とライダーの背中を叩くウェイバー。であるが、ライダーは全く動じず、逆にウェイバーの掌が赤く腫れ上がった。
それでもライダーの心に響くものはあったらしい。うむ、と一つ頷いて、
「応とも。余は征服王イスカンダル。なればこそ、その覇道には征服こそが──」
「だぁぁぁあああぁぁあああああ!? だからどうしてオマエはすぐそっちの方へ行くンだよッ!」
「それこそが余の生き方だ。誰にも覆せぬ。覆させぬ」
「ああそんな事は知ってるよ。だけど時代の変遷ってヤツはあるんだよ。それにあれだ、マケドニアの礼儀作法ってヤツは何処にでも通じるんじゃなかったのか?」
数歩先行くライダーがぴたりと足を止める。肩越しに振り仰いだ瞳は半眼で、何かを訴えるかのようだ。
「……おい坊主」
「何だよ」
「貴様、なんだか余のあしらい方が巧くなってないか?」
ああ、そうとも。そうでなければやっていられない。どんなに強壮な駿馬よりも手綱を手繰りにくいこの大男を嗜める術の一つや二つ、ウェイバーの脳内には経験としてストックされているのだ。
ライダーのそんな言葉に気を良くしたのか、ウェイバーは足取りも軽やかにライダーを追い越す。
「おい、行くぞライダー。バイク欲しいんだろ? ボクがいい所を教えてやるよ」
「おお、これはやはり素晴らしい。なんと爽快か!」
なんのかんのと紆余曲折を経て、ライダーは自前のバイクを調達した。サイドカー付きの二輪自動機巧にライダーはいたくご満悦であった。
「なんでボクまで……」
「ガハハ、そう言うな。貴様も感じるであろう? この風を切る爽快感を。風となる一体感を」
サイドカーの上でしかめっ面を晒すウェイバーとは裏腹に、ライダーは喜色満面の様子だった。
確かにこの感覚はライダーの宝具であった戦車や、愛馬では得られない。ライダーにしてみても、自らがハンドルを繰り、地面を掴む感覚は目に新しい。戦車も愛馬も手綱は繰れども、結局先導するのは自らではないのだ。
それらに比べれば、この鋼鉄の騎馬は御しやすい。自らの思うようにコースを走り、自らの思うスピードでコーナーを躱す。喩えるのならば、自らの延長線。このバイクという乗り物は、ライダーにとって己から伸びたマシンの手足であった。
悠々自適に道路を走るライダー。ウェイバーに言いくるめられ、制限速度をきちんと守り通して走るライダーのすぐ傍を、ソレは走り抜けていった。
大きく開けられたアクセルは轟音を鳴り響かせ、制限速度などまるで無視して疾走していく黒い影。
危ないな、暴走運転もいいところだな。とウェイバーが嘯いた時、遥か前方を見つめるライダーの瞳が輝いた。
「──ふん。余に喧嘩を売るとは良い度胸だ」
ぐぉん、と唸るエンジン。ライダーの右ハンドルが急加速を告げるように捻られる。
「おいライ……ひぎゃっ!?」
「黙っとれよ、坊主。でないと舌を噛み切るぞ」
六十キロを維持していたスピードメーターが突如として振り切れる。フルスロットルで開けられたエンジン駆動に呼応するように、黒い排気ガスが勢いよく噴出した。
走り抜けていく車線の隙間。流れていく風景。鋼鉄の騎馬はライダーの意思を汲み取り加速する。遠く過ぎ去っていった筈の先程の影を、間も無く捉えた。
「オマ、ライダー! 一体なんだってんだ! 暴走運転はするなって言ってンだろッ!?」
「そうは言うけどな坊主。余はライダーのクラスだ。こと騎馬での戦いにおいて、挑まれて退くわけにはいかんだろうて。
それも相手が────彼奴であってはなぁ」
へ? とウェイバーが前方に視線を向ければ、ようやく捉えた先ほどの影。黒いライダースーツを身に着け、銀色に輝く鋼鉄の駿馬に騎乗する黄金色の髪の男。黄金……?
「フハハハハハ! ようやく追い縋ったかライダーよ!」
「あ、アーチャーっ!?」
その後姿は、第四次聖杯戦争においてアーチャーのクラスに招かれた一人の男。黄金の髪と、燃えるような紅蓮の双眸。この世全ての財は自分の物と豪語する世界最古の英雄王──彼こそがギルガメッシュであった。
「見るがいいライダー! この最高峰までフルチューンされた我が愛馬を! 至る所において、貴様のその鉄屑とは比べようもない一品だ! これこそ王たる我が所有するに相応しい至高の騎馬ぞ!」
子供のように目を輝かせるアーチャー。力説された内容に嘘偽りの類は一切ない。およそ現代工学で組める最高級のパーツをそこかしこに組み込んだ銀色の宝石。ネジの一つとって見てもライダーのバイクのそれとは桁が違うだろう。
駆動系においては言うに及ばず、滑らかなコーナーリングを体現するタイヤから、駆動機械の肝とも呼べるエンジンからして質が違う。環境への影響を考えて組み込まれた最新のエコシステムは地球に優しい。
故にその騎馬はこの世のありとあらゆるバイクの頂点に立つ至高の一騎。他を一切寄せ付けぬ、絶対無敵のモンスターマシーンであった。
言うまでもないが、ぜーんぶ英雄王の財力の賜物である。
「くっ! 見損なったぞ、英雄王! 金に物言わせたマシンに如何程の価値がある!」
「くはははは、負け犬の遠吠えにしか聴こえんなぁ」
アーチャーがぐおん、とハンドルを握る手を強めれば、それだけで距離を離される。己を見やるライダーの渋面が余程気に入ったのか、
「ではな、愚鈍なる征服王。貴様らは法定速度を守り、慎ましやかに道路を走る姿がお似合いだ」
高らかな哄笑を響かせて走り去る英雄王。全く以って貴様など眼中にないわ、ただ我は自慢したかっただけなのだウハハハー、と風の如く消えていった。
「……おい坊主」
「ああ……」
一度は落とされたエンジン音が高らかに響きを上げる。
「やれよ。オマエの好きなようにすればいい。だけど、必ず勝て」
ウェイバーの言葉に応と答えて、ライダーは双眸を輝かせる。挑むは絶対にして孤高の英雄王。跨るマシンは世界最強のモンスター。
「おおぅ、久々に胸が滾るわい」
ライダーの高揚に応えるように、跨ったマシンが唸りを上げる。
相手が最強のモンスターとなれば、心躍らない筈もない。これより行う征服に、ライダーは獰猛な笑みさえ浮かべていた。
人馬は一体にしてこそ意味がある。いかに高性能のマシンを手にしていようとも、騎手の技量がなければ宝の持ち腐れだ。アーチャーにそれほどの技量などある筈もない。ならばこそ──そのマシンは征服王にこそ相応しい。
「征くぞ坊主。これより我らの征服を始めるぞ」
「ああ。やっちまえ!」
握るハンドルが軋みを上げる。絶叫を重ねてマシンが駆動する。謳う言葉はただ一つ。これより始める戦が征服なれば。略奪なれば。共に高らかに謳い上げよう。
『AAAALaLaLaLaLaie!!』
それからの追走はウェイバーにとって見れば思い返したくもないものだった。コンクリートジャングルと化し始めている新都の街並みを限界速度ギリギリで駆け抜けて、行き交う他の車を躱して疾走する様は遊園地のジェットコースターどころではない。
加速する重力の風が頬を切り裂き、全くスピードを落とさないコーナーリングは振り落とされそうになる。ああ、なんでボクはあんな事言っちまったんだと嘆きが零れそうになったその時、標的を目視出来る範囲に捉えた。
「なっ──! 征服王、貴様、何故!? そんなガラクタでは我が愛機に追い縋れる筈もないというのに……! よもや貴様ら、信号を無視したわけではあるまいな!?」
「ふん。勝負を吹っかけて来ておいてその言い様はなかろう英雄王。勝てば官軍、歴史が証明しておるぞ」
「っ! たわけがっ!」
「ていうかアイツ、信号でわざわざ止まってたのか? ……律儀なのか、ただのバカなのか判んないヤツだな」
彼我の距離は目算で二十メートル弱。もはや射程圏内にある。ゴールなど決めていなかったが、どちらともなく理解した。目の前には冬木大橋。この橋を逸早く潜り抜けた者が勝者であると。
「良かろう、征服王! この勝負、我こそが勝つ!」
「是非もない。貴様を遥か後方に置き去りにして、そのマシン、余が貰い受ける!」
最後の疾走。留まる事無く振り切れるスピードメーター。アスファルトとの摩擦は火花を散らし、握るハンドルには汗さえも握り締める。
かたや最高のマシンを駆る英雄王。かたや最高の騎乗能力を有する征服王。だけど、届かない。マシンのスペック差はここにきて如実に現れ始めた。
いかに類稀な騎乗能力を有そうと、跨る騎馬がライダーの能力に追いついてこない。これがもし本物の馬で競い合いであったのなら話も違っただろうが、これは鋼鉄の騎馬、バイクでのチェイスだ。
元より技術をさほど要さない為の考案された機械の馬であり、乗り手の能力に左右されないが故の彼我の距離。それもラストスパートが一直線ともなれば、単純なスペック差こそが全てだった。
「ハハ、ハハハハハハハ! そんな鈍重なマシンでは、その程度がせいぜいだ! 去らば征服王。この勝負、我の勝ちだ────!」
このままでは負ける──そう悟った征服王が取るべき手段は、たった一つしか残されていなかった。
「時に坊主。貴様は余に忠誠を誓ったよな?」
「……そうだけど、それがなんだよ。今は関係ないだろ」
「いや、大いにある。ならば語らん。夢を示すのが王たる余の務め。そして王の示した夢を見極め、後生に語り継ぐのが、臣たる貴様の務めである」
「……? 何を……」
「生きろ、ウェイバー。すべてを見届け、そして生き存えて語るのだ。貴様の王の在り方を。このイスカンダルの疾走を────!」
厳かに抜かれたキュプリオトの剣。白刃の煌きは、バイク本体とサイドカーを繋ぎ止めていた接合部分を切り裂いた。
「へ────」
がこん、と音を立ててウェイバーの乗るサイドカーが路面と接地する。ギャギャギャと小気味の悪い音を響かせて、堅いアスファルトを削り取る。
「────オマ」
サイドカーを失ったバイクは加速する。それも当然、重荷が外れたのだ、これで速くならない筈がない。枷を解き放たれたイスカンダルの騎馬が、最後の咆哮を上げた。
「さあ、いざ征こうぞ!」
あの男を越えた先にこそ遠く夢見たものがある。アレの先こそ世界の果てだ。遥か郷愁に抱いた唯一つの夢──彼方にこそ栄え在り──届かぬと知ってなお挑む。届くまで、未来永劫、この手をその先へと伸ばすのだ。
覇道を謳い、覇道を示す。この背中を見守る、臣下の為に──
「ってただ置き去りにしてるだけじゃないかこのバカああああああああああああぁぁああぁあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
エコーを響かせたウェイバーの悲痛な叫びを背に、二騎のバイクは駆け抜けた。
「まったく! 貴方たちと来れば、一体どうしていつもいつもそうなのですか! 仮にも王を名乗るなら──私は決して認めませんが──民の導となるべきでしょう!
それがなんですか、信号無視にスピード違反。加えて追いかけて来る公僕を振り切るなど言語道断! 今の世には時代に適したルールがあります。それを蔑ろにして民の上に立つ王を名乗るなど……! 身の程を知りなさい!」
ぱぁん、と同情の床を打った竹刀が余りの衝撃に震えている。激怒するセイバーの眼前に正座させられたライダーとアーチャーは口撃に震えている素振りをしていた。
「……何故余がこの小娘に説教されねばならんのだ」
「ああ、全く以って同意する。が、これはこれで良い。怒ったセイバーもまたそそるものがある」
「そこっ! ちゃんと話を聞いているのですか!!」
憤怒も露にこれ幸いと二人の王を叱り付けるもう一人の王。決して仲間外れにされたのが悔しかったというわけではない。
「ねえキリツグ。なんであの二人はセイバーに怒られてるの?」
「それはね、イリヤ。彼らは悪いことをしたからだ。だからイリヤは、悪いことなんかしちゃダメだぞ」
「うん! イリヤいい子にしてるよ!」
縁側に腰掛けて、じゃれてくる愛娘の髪を撫で、切嗣は空を見上げた。
「ああ、今日も良い天気だなぁ」
◇
その頃のウェイバー・ベルベットといえば。
「あ、の、や、ロウ~~~……覚えとけ、よ…………」
啜り泣きながらマッケンジー邸を目指していた。
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