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39 変えられない規則
 翌日、土曜日で何時もならほとんどの生徒は惰眠を貪るのだが、今日は違った。
朝早くから炎のゴブレットの近くをウロウロして誰か名前を入れないか見ている。
ゴブレットの周りには半径3メートル程の年齢線が描かれ、そこには誰も入ろうとしない。
話に聞く限りでは既にダームストラングが全員入れ、スリザリンのクィディッチチームのキャプテンのワリントン先輩が入れたらしい。無駄な事を。
そう思いながら朝食を食べに大広間に向かってると、フレッド、ジョージ、リーの3人が勢い良く走ってきた。
あぁ、確か老け薬を一滴飲んできたんだったな。これまた無駄な事を。
結果は分かりきっているからそのまま玄関ホールを去り、大広間に向かった。


大広間の飾り付けは昨日とはすっかり変わっていた。
例年通りハロウィーンなので生きたコウモリが群がり、何百という不気味な笑顔にくり抜かれたカボチャがあちこちに浮いている。
朝食を食べていると玄関ホールの方で歓声が上がった。何かと振り向くとグリフィンドールのクィディッチチームのチェイサーのアンジェリーナ・ジョンソンが少しハニカミながら走って大広間に入って来た。
あぁ、そう言えば彼女も入れたんだったな。またもや無駄になるけど。

他にも何度か玄関ホールに歓声が上がった。どうやら挑戦者が後を絶たないらしい。
そんなにやりたきゃ俺と変わって欲しいよ。マジで。



 原作ではハグリッドの小屋に向かうが行く意味は無いから行かない。何が悲しくてハグリッドの勝負服やファッションを見なくてはいけない。



 夜、ハロウィーンパーティーが始まったが例年と違って生徒達はご馳走に目を奪われてなかった。まぁメインイベントが控えているから仕方ない。

食事が終わり、ダンブルドアが立ち上がるとさっきまでわいわい騒いでいたのが嘘のように一瞬で静寂になった。
「さて、ゴブレットはほぼ決定したようじゃ。わしの見込みでは、後一分程じゃの。
さて、代表選手の名前が呼ばれたらその者達は大広間の一番前に来るがよい。そして、教職員テーブルに沿って進み、隣の部屋に入るよう。そこで最初の指示が与えられるであろう」
ダンブルドアは杖を大きく1振りした。するとくり抜きかぼちゃを残して後のロウソクは全て消え、部屋はほとんど真っ暗になった。
そのせいで炎のゴブレットの青白い炎が輝いて見える。
「来るぞ」
誰かが呟いた直後にゴブレットの青白い炎は突然赤くなり、火花を散らし始めた。次の瞬間、炎の中から焦げた羊皮紙が一枚ハラリと落ちてきた。
ダンブルドアがその羊皮紙を捕らえ、再び青白くなった炎の灯りで読み上げる。
「ダームストラングの代表選手は……ビクトール・クラム」
大広間中から拍手や歓声の嵐が巻き起こる。
クラムはスリザリンのテーブルから立ち上がり、指定された部屋に入って行った。
「ブラボー、ビクトール!」
カルカロフの声が響く。拍手の大音量に負けない大きさだ。

続いて数秒後に再びゴブレットの炎が赤くなり、二枚目の羊皮紙を吐き出す。
「ボーバトンの代表選手は……フラー・デラクール!」
シルバーブロンドの美少女が優雅に立ち上がり、クラム同様部屋に入って行った。

そして三度ゴブレットの炎が赤くなり、三枚目の羊皮紙を吐き出す。
「ホグワーツの代表選手は……セドリック・ディゴリー!」
ハッフルパフ生が総立ちになり、叫び、足を踏み鳴らした。
セドリックはニッコリ笑いながらその中を通り抜け、教職員テーブルの後ろの部屋に入って行った。
普段劣等生とバカにされがちなハッフルパフの快挙だからか、セドリックへの拍手や歓声がなかなか止まない。


しばらくしてようやく収まり、ダンブルドアが話し出す。
「結構、結構!
さて、これで三人の代表選手が決まった。選ばれなかったボーバトン生もダームストラング生も含め、みんな打ち揃って、あらんかぎりの力を振り絞り、代表選手達を応援してくれることと信じておる。
選手に声援を送ることで、皆が本当の意味で貢献でき――」
ダンブルドアの演説中に突然また炎のゴブレットが赤く燃え、また羊皮紙を吐き出した。
ダンブルドアがその羊皮紙を捉え、そこに書かれた名前をじっと見る。
両手でしっかり持ってしばらく眺めていたが、やがて咳払いをして読み上げた。
「ハリー・ポッター」
大広間中の全ての目が一斉に向けられた。
知っていたが驚かないのは変だから目を見開いて信じられない。と思っているかのような顔を作る。
先程までの和やかな雰囲気は無くなり、怒った蜂のように騒ぎが広まっていく。
そして振り向くとスリザリン生全員が唖然としている。
「ハリー・ポッター!
ハリー! ここへ、来なさい!」
ダンブルドアのご指名と命令にそろそろかと思い立ち上がる。
そしてとんでもない不機嫌であると分かるように眉間にシワを寄せ、怒りのオーラを出す。
暗いから他のテーブルには見えにくいが、直ぐ近くで俺の顔を見た奴や雰囲気を感じ取ったスリザリン生は顔色を青くする。
どこからか「やばい……ポッターがキレてる」という声が聞こえた。
テーブルの間を通り、ダンブルドアの前に行くとダンブルドアが口を開く前に
「辞退して良いですか? 俺、ゴブレットに名前を入れてないので」
今まで話し合っていた生徒達が黙る。
まさかの辞退要求、更にはゴブレットに名前を入れてないという釈明。
「……それは無理じゃよハリー。ゴブレットから名前が出た時点で参加せねばならぬ」
まぁ分かっていたから別に良いが、とりあえず演技のためにゴブレットを睨み付けた後に手を差し出して要求する。
「じゃあ、その紙を見せて貰えませんか?」
ダンブルドアは少し考えた後に羊皮紙を渡してくれた。
羊皮紙を見ると俺の筆跡に似せた字で俺の名と聞いたことの無い学校名が書かれていた。
やっぱりクラウチJr.は俺を第4の学校の代表選手にし、錯乱の呪文でゴブレットに4校の代表選手を選ばなくてはならない。と錯乱させたんだろう。
その学校の代表選手が一枚しか出してないなら俺になるのは当然だ。
羊皮紙とゴブレットを見た後に響くように少し大きめの声で言う。
「…成る程、錯乱の呪文か…」
そう言った後に羊皮紙を捨てて思いっきり踏みつける。
ダンッ!! と大きな音をさせながら羊皮紙を踏みつけ、大きな舌打ちをして代表選手の部屋に向かう。
原作では非難めいた顔をされるが、いきなりぶちギレて恐い雰囲気を出している俺にそんな事は出来ないのかただただ唖然としている。
ちなみにスリザリン生は真っ青な顔をしている。特に同学年の4年生は恐怖すら浮かべている。
今までキレた事は無かったが雰囲気から俺を怒らせないようにしていたのに、今の俺は見たことが無い程怒り狂っているんだからな。


控室は魔女や魔法使いの肖像画がずらりと並ぶ小さな部屋だった。
俺が入ると肖像画の目が一斉に来たので睨み返した。すると今度は何も見なかったかのように目を反らす。
フラーが俺に話しかけて来た。
「どうしまーしたか? わたーしたちに、広間に戻りなさーいということでーすか?」
原作通り俺を伝言役と思ったらしい。俺もそれが良かったよ。
「…だと良かったんですけどね」
俺の返答にフラーが意味が分からない。という顔をする。
その時、俺の背後からせかせかした足音がし、バグマンが部屋に入ってきた。
バグマンは俺の腕を掴むと3人の前に引き出し
「いや、全く凄い! 紳士諸君…淑女もお一人。
ご紹介しよう――信じ難いことかも知れんが――三校対抗代表選手だ。四人目の!」
3人共俺を見る。
クラムは俺を上から下まで見て暗い表情をし、セドリックは途方に暮れて俺とバグマンを何度も見て自分が聞き間違えたと思っている。
一方フラーはニッコリと笑いながら言う。
「おう、とてーも、おもしろーいジョークです。ミースター・バーグマン」
「ジョーク?
いやいや、とんでもない! ハリーの名前が、たったいま『炎のゴブレッド』から出てきたのだ!」
「でも、なにかーの間違いに違いありませーん。
このひとは、競技できませーん。このひと、若すぎまーす」
「さよう……驚くべき事だ」
バグマンは何を考えているのかヒゲも無い癖にアゴを撫でた後に俺を見下ろしてニッコリする。
「しかし、知っての通り、年齢制限は今年に限り特別措置として設けられたものだ。そしてゴブレットからハリーの名前が出た……つまり、この段階で逃げ隠れは出来ないだろう。……これは規則であり、従う義務がある……ハリーはとにかくベストを尽くすほかあるまいと――」
背後の扉が開き、ダンブルドアやクラウチ、カルカロフ、マクシーム、マクゴナガル、スネイプが入ってきた。
マクゴナガルが扉を閉める前に壁の向こう側から全校生徒が騒ぐ音が聞こえた。
「マダム・マクシーム!」
フラーがマクシームに近付き
「この小さーい男の子も競技に出ると、みんな言ってまーす!」
マクシームは背筋を伸ばして野生動物が威嚇するかのように自分を大きく見せる。実際デカイんだが。
「ダンブリー・ドール。これはどういうこーとですか?」
「私も是非知りたいモノですな、ダンブルドア」
マクシームに続いてカルカロフも冷たい笑顔を見せながら聞く。
「ホグワーツの代表選手が二人とは? 開催校は二人の代表選手を出してよいとは、誰からも伺っていないようですが――それとも、私の規則の読み方が浅かったのですかな?」
「ホグワーツが二人も代表選手を出す事は出来ませーん。そんなことは、とーても正しくなーいです」
「我々としては、あなたの『年齢線』が、年少の立候補者を締め出すだろうと思っていた訳ですがね。ダンブルドア。
そうでなければ当然ながら、我が校からももっと多くの候補者を連れてきても良かった」

原作ならここでスネイプが「ポッターのせいだ」と糾弾するがこの世界では関係は良好だし、特に規則破りもしてない(見つかっていない)からただ黙っている。
ダンブルドアは俺の目を見ようとしている。開心術の可能性があるから心の中に壁を築いた。
「ハリー、君は『炎のゴブレット』に名前を入れたかね?」
「先程も言いましたが俺は入れてませんし上級生にも頼んで入れてもらってもいません。
大体俺はこの大会に全く興味が無いので出来るなら今すぐ辞退したいのですが」
本当に嫌そうに言う俺に代表選手達は驚き、校長達は「良いぞ、そのまま辞退しろ」と言いたげだ。
「…残念ながらさっきも言ったがそれは無理じゃ。ゴブレットから名前が出た限り試合で競う義務がある」
原作ならまた少し言い争いをするが、規則で決められている事を再確認させられたから文句を言えない。
物凄い睨まれてるけど。


「さあ、それでは開始といきますかな?」
何故か笑顔でバグマンは揉み手をしながら言う。
「代表選手に指示を与えないといけませんな? バーティ、主催者としてのこの役目を務めてくれるか?」
「フム。指示ですな。よろしい……最初の課題は…」
クラウチが暖炉の前に一歩出た。
「最初の課題は、君達の勇気を試すものだ。
ここではどういう内容なのかは教えない事にする。未知のものに遭遇したときの勇気は、魔法使いにとって非常に重要な資質である……非常に重要だ。
最初の競技は十一月二十四日、全生徒、ならびに審査員の前で行われる。
選手は競技を完遂するにあたり、どのような形であれ先生方からの援助を頼むことも受ける事も許されない。選手は杖だけを武器として、最初の課題に立ち向かう。
第一の課題が終了した後、第二の課題についての情報が与えられる。
試合は過酷で、また時間のかかるものであるため、期末テストは免除される」
そこだけは唯一良いよな。全然釣り合って無いけど。
「アルバス。これで全部だと思うが?」
「わしもそう思う」
クラウチがダンブルドアに確認を取った。


その後は何やら大人同士の話し合いがあるらしいので俺とセドリックは解散になった。
お互い話したことも無いので無言で歩き、玄関ホールに出た辺りで
「これからお互い戦う事になるんだからよろしく!」
少し微笑みながらセドリックが言ってきた。
「まぁ…そうなるな。嫌でもやらなきゃいけないからな」
「君…本当に嫌そうだね。代表選手になれたのに嬉しくないのかい?」
「残念ながら俺は名誉や一千ガリオンのために命を賭けられる程の勇気はなくてね。さっきも言ったが出来るなら今すぐ出場を辞退したい」
原作ではハリーの言葉を信じてなかったけど俺の本当にやりたくないという態度を見たら信じたようだ。何せ演技じゃなくて本当にやりたくないからな。
「まぁ…お互い頑張ろう」
セドリックと別れてスリザリンの寮に向かった。


今まで築いたキャラと先程見せたぶちギレのせいか原作みたいな迷惑な歓迎は無かったが、とりあえず寮生のほとんどが談話室にはいた。
「や、やぁ、お帰りポッター…」
一応同室で比較的仲が良いと思われるドラコが生け贄役として先ず話しかける。
「あぁマルフォイ。…全く最悪だった」
そう言って俺は談話室のソファーに座る。
「で…どうなったんだい?」
「とりあえずゴブレットから名前が出たんだから規則で競技に参加するしかなくなった。
全く、良い迷惑だよ」
「そ、そうかい…」
明らかに不機嫌そうな俺にドラコはもうベッドに逃げ込みたいが、周りからせかされて仕方なく聞く。
「…ねぇポッター……確認なんだけどさ……どうやって入れたんだい?」
俺がドラコを睨み付けるとドラコは「ヒィッ」と悲鳴を上げて下がる。
「何度も聞かれたが答えは同じだ。俺は入れてないし上級生にも頼んでいない。
…間違いないですよね?」
上級生に若干ガンを飛ばしながら聞くと上級生達は全員黙って頷いた。
「じゃあ…何故ゴブレットから名前が出たんだい?」
「恐らくだがゴブレットに強力な錯乱の呪文をかけたんだろう。俺の名前が書かれた紙には別の学校名が書かれていた。
つまり俺は4校目の代表選手として登録され、錯乱の呪文によってゴブレットが代表選手を4人出さなくてはいけないと勘違いしたんだ」
俺の説明にほとんどのスリザリン生が成る程と納得した。1年生は未だによく分かっていないようだが。
「…でも、誰が?」
「さぁな、誰かは分からないがとりあえず俺を殺す気満々らしい」
いきなりの殺す発言に全員が驚愕した。
「こ、殺すって…大袈裟な…」
「年齢制限によって参加出来るのは6年生か7年生だけ。そんな中に4年生の俺が挑戦しても普通は出来る筈が無い。
それに元々三大魔法学校対抗試合はあまりにも死者の数が出過ぎたから中止されたんだ。幾ら時代が変わったとは言ってもその危険性は変わらない。間違いなく俺を殺しにいっている」
今までは単なる大きな大会としか思ってなかったけど、改めて言われると確かにかなり危険な大会だ。
上級生の中には軽はずみにゴブレットに名前を入れたのか顔を青ざめている奴もいる。


「まぁ、今更嘆いた所で何か変わる訳でも無いからとりあえず頑張るさ。
それに出るからには優勝を狙う。三校対抗試合の優勝杯をスリザリンにもたらしてやるよ」
するとさっきまでは暗かった雰囲気は無くなり、一気にお祝いムードになった。
先輩方は「お前なら出来るさ」などを言ってきたり、後輩からは「頑張ってください!」と応援を受ける。
ドラコも「僕も出来る限り君に協力してあげよう」と何時も通りふんぞり返って言ってくる。
本当、コイツら単純。
状況は何も変わってないのにただ一言言っただけなのに今では余裕みたいになっている。
まぁおかげでこれで原作みたいに弄られる事は無いだろう。何せスリザリンは結束力が他の寮に比べてかなり高い。
もし多寮生が何かしらをしてきても他のスリザリン生がきちんと対応なり報復なりをしてくれるだろう。
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