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第一話 魔王ですが、何か?
 昔はこういうコトに憧れていなかったか?
 例えば異世界に勇者として召喚される。そしてお姫様と結婚する。
 例えば神様に殺されてチート能力を携えてアニメやら漫画の世界に入る。そしてそこで幸せになる。
 例えば異能に目覚めて巨悪と戦う。そして英雄になる。
 例えば例えば例えば例えば……。
 今でも憧れている奴がいるんじゃないか?
 ……でもさ、甘ェよ。
 綿菓子にハチミツかけてガムシロかけてチョコ突っ込んで飴も突っ込んでコーラ、ソーダ……色んなモンに突っ込んだものを一回捨てて、もう一度同じ行程で作った物を食べたときに感じる甘さより甘ェな。
 異世界からの召喚?異世界への転生?異能に目覚める?厨二も大概にしておけってな。
 無敵だと?俺にゃ無理無理。
 最強だと?俺は身の程を弁えてる。
 天才神童?少なくとも俺のコトじゃねェな。

 そう思っていた時期が人生の大半でした。
 高校に入って、自己紹介で失敗して。孤立して、喧嘩ばっかりして。
 それでも親に稼いで貰った金で行ってんだから『辛い』『しんどい』やらの言葉を飲んで高校に嫌々通っていた訳なんだが、家の直ぐ前にあるファ○マに行って帰ろうとした瞬間浮遊感に襲われた。
 そう、俺が否定していた異世界への召喚という奴だ。
 正直なところ最初は意味が解らなかったが、非日常への期待はしていた。
 厨二な考えは捨てた筈だったんだがなァ……。

 で、今は魔王をしています。
 え?経緯はどうしたんだ?
 ンなものテンプレテンプレ、テンプレのバーゲンセールだったね、途中までは。
 召喚されて勇者になったは良いけど、面倒だからなんの称号も持ってない普通の人族として魔界に単身で乗り込んで、魔王をぶちのめして新たな魔王になった。
 異世界からの召喚補正で元々喧嘩がそれなりに強かったンで、二十倍補正ぐらいになってたからデコピンで瞬殺出来た訳だ。

 「お~い、葵♪」

 「あ?……おぉ、リアか」

 リア。
 フルネームはLia・demon・satan。
 サタンで解ると思うが、先代の魔王だ。
 俺に何というか間抜けとしか言いようのない負け方をした魔王だ。

 「暇かにゃ?」

 「暇だけど、どうした?」

 「いや、城下町で祭りあるらしいから一緒に行かないかな?なんて思ってた訳だよ」

 「なるほど、思ってたわけか」

 「で、返答としては?」

 「良いぜ、直ぐ用意すっから待ってろ」

 因みにリアは燈髪灼眼で比べられる物が殆ど無い程に美人である。
 戦闘力も異世界から来た奴らを除けば最強だ。
 そんな強靱無敵最強な魔王様ことリアは俺に負けたから俺に魔王の座を譲るとか言い出して。
 周りも反対しない訳で。
 勝手に婚約とかもさせられかけた訳で。
 でも何だかんだでリアのコトが好きになってしまった訳で。
 今は所謂彼氏と彼女な関係、つまりカップルな訳だ。

 「幸せなんだよなあ……」

 「ん?どったの?」

 「いや、昔のコト振り返ってただけだから気にしなくて良いぜ」

 「了解♪」

 既に城下町に来ている。
 地の文を進めているときは時間が進まないと何時から錯覚していた?
 ま、そんなメタな発言は心の奥底に詰め込んでおいて。

 「へぇ、結構活気づいてるじゃねェか」

 「葵が魔王になってから豊かになったんだよ?私たちの頭じゃ到底思いつかないような案がポンポン出てくるしさ」

 「ま、皆が笑顔で良かった良かった」

 此処は魔界の城下町であるランバラル。
 別にガン○ムの哀○士のラン○ラルとは関係がない。
 ランバラルは元々衰退していた。
 リアの前の魔王の所為である。
 重税、徴兵、規制、それを破った物には火炙り、溺死、引き摺り、絞殺、電気椅子。
 ンなコトしていたら、そりゃ衰退もするだろうに。
 リアはリアで復活させようと動いていたらしいが老害共の所為で上手く行かなかったらしい。
 で、俺なんだが、俺が魔王になって、直ぐ行ったのが大掃除って訳だ。
 俺からしたら老害共の威圧なんて俺の爺さんの10の15乗くらいマシなわけで。

 「おはよう御座います!魔王様!!」

 「うい、おはようさん」

 「視察ご苦労様です。よければ……」

 「お、アンガトな。最近どうだ?」

 「魔王様のお陰で何とか皆立ち直るコトが出来ました!ここも漸く完全に元に戻った様な気がします!」

 「そうかい、そら良かった」

 全てが良い方向に進んでいる。
 ただ、もうすぐ勇者召喚が行われるらしい。
 面倒なコトが起きそうなので、中ボス的な存在も最期の最期まで出さないけどな。
 今までヌルゲだった物がラスダンで鬼畜ゲに変貌する感じだ。
 簡単に言うと、中ボス級×12+大ボス級×6+ラスボス級×2という状態である。

 「コレは酷い」

 「どうかした?」

 「いや、どうやって勇者達を叩きのめそうかと考えていてだ」

 「うん」

 「最期の最期に魔界大集結させて勇者共に攻撃ってコトを考えてみたら、物凄い鬼畜ゲだったんだよ」

 「……鬼畜ゲってのの意味は解らないけど、酷いコトになるわけなんだね」

 「That`s right.そう言うことだ。非道で悲劇で惨くて残酷で、それでいてコチラからすると衝撃で笑劇で喜劇な最終バトルになるわけだよ、ワトソンくん」

 「……ワトソン?ワトソンって誰?」

 「……ま、それはおいておいて。今日から一日二十四時間三百六十五日勇者を傍観することになるな」

 「おいておかないでくれると嬉しいんだけどな……。ま、いいや」

 「良いんかいっ!」

 おっと関西弁が出てしまった。
 元は関西出身で、中三の夏に転校して東京の私立の高校に行った。
 そんなわけで関西弁を隠す癖をつけたのだが、一寸油断すると口から出てくる関西弁。

 「私は葵と居られるだけで幸せだからね」

 「……リア。俺も幸せだぜ」

 『ヒューヒュー♪流石魔王様!熱いねぇ!!』

 「……取り敢えず城に戻るか」

 「う、うん」

 なんでこんな思いをしなくちゃいけないんだろうか?
 顔のにやけが止まらなくなるじゃないかよぅ……。
 は、恥ずかし過ぎるぜ、全く……。

 取り敢えず、顔を冷ますために『対勇者戦』をどうするか考えてみる。
 一番良いのは戦闘経験をさせないこと。ま、コレは元の世界で喧嘩すらしたことのない相手に限るが。
 次にヌルゲを演出することで、最後に強靱無敵最強で粉砕玉砕代喝采な感じの軍隊vs勇者御一行ってコトで良いんじゃないだろうか?
 一番最悪のパターンは老害共が調子に乗って軍隊を動かすことなんだが……。
 兎に角『傍観鏡』を作って見ていこうか。

 「レイナールはいるか?」

 レイナール。
 この娘は研究者で、元の世界にあったラノベでいう篠○乃束みたいな感じだ。
 物凄い天才で天災な神童である。
 やっぱり、美少女な訳で。

 「はいは~い!何時も貴方に這い寄る混沌レイナール・ディスカオスでありんすよ!」

 「こういう風な物って作れるか?」

 モチロン詳しく説明している。
 大きさから何から何まで全部全部抜け目なく完全に説明している。

 「モチのロンでございますよ!じゃ、明日にで持ってきますよっ!」

 取り敢えずは準備は完了だ。
 さあて、娯楽になりうる人間なのかねェ?今度の勇者ってのはよォ。
 ま、どちらにしろ面白くなければ直ぐに直々にぶっ潰しに行くけどなァ。 

 「おっと、僕としたことが忘れてたぜぃ!」

 「ン?」

 「お代いただきま~す♪」

 「んぐ……」

 ……気を抜いてた。
 そう言えば何時もそうだったのに今回に限って気を抜いてしまったんだろうか?
 
 「……プハッ。甘くて美味しゅうごぜぇましたよ!旦那!!じゃ、行ってきますぜぃ!!」

 ま、これからの勇者御一行の旅は楽しみだな。
 取り敢えずスライム十体位送っておくかねェ。
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